傷だらけな多重人格の青年は泥臭くもVtuberとして呼吸をする 作:村上トオル
「配信、か……」
瑛太との話を終えた後、俺は瑛太にコラボを持ちかけられてコラボすることになっていた。
そして、今言った配信、か……。という言葉に含みがあったのには理由がある。俺が今の俺として……。そして自分を受け入れてからの配信は何気に初めてだった。三日ほど休みを貰って俺は配信をしていなかった。因みに俺はあの舞台劇を終わった後はあのときの俺が代わりに配信に関してはずっとやっていたらしい。本人は割と楽しそうに配信をしていたらしいが……。
「まあ、ウダウダ言ってても仕方ないよな」
三日ほど休みを貰っていたから視聴者の中では心配している奴もいるかもしれないけど、俺がちゃんと元気だというところを見せればきっとみんなも一安心するはずだ。
後は俺の方を問題だがこればっかりは別に気にすることはない。
自惚れるつもりはないが二年ほど配信やゲーム実況をやっていなかったブランクがあっても俺は普通に配信をやり遂げることが出来たんだからな……。
「やってみるか……」
とはいえ、三日振りの配信が瑛太。
先輩との初コラボというのはなんとも緊張するものだ。静音も謝罪配信後のちゃんとした形での香織との初コラボはこんな気持ちだったんだろうか。……いや、静音のことだ。緊張はしていても元気にやっていたんだろう。あいつが羨ましく感じながらも俺は自分の配信の準備をしていると瑛太から通話が来ていた。
「竜弥、大丈夫か?緊張していないか?」
「……緊張していないとは言い難いですね。先輩ですから」
「俺は事務所としてはお前の先輩ではあるが、そう気負いするな。俺のリスナーもそう気難しい奴らばっかりじゃないから肩の力を抜いて配信に挑んでくれればいい。失敗しても俺のリスナーは笑ってくれるからな」
「……そうですね、少し気が楽になりました」
瑛太のリスナーが失敗しても笑って許してくれるというのは彼の配信のをある程度触れていたからこそ知っていた。あまり瑛太自身が配信で失敗したりすることはないが、コラボ配信だと周りが遅れてきたとしても笑いに変えたりすることが出来る。あのツィートの投稿は実は遅刻の伏線だった!?とか、ヒーローは遅れてきてやってくる。つまり、○○さんはヒーローだったんです!!と彼らしいを感じるものが多くあった。
「竜弥、敬語抜けてないぞ」
「えっ、あっ……悪い瑛太」
「まあ、すぐに抜くなんてことは出来ないだろうからゆっくりでいいからな」
「分かった……」
瑛太の言い方は物腰柔らかいものだ。
実際彼は配信前によくコラボ相手の緊張を和らぐために話をするらしい。それからコラボ配信に入ってお互い初のコラボ、緊張ばかりの話ではなく話が弾むことが多いらしい。面接のときやミーティングの厳しい感じはないからこそ少しギャップを感じていたけどこれが本当の瑛太なんだろうな。
「じゃあ、俺は切るからまた後でな竜弥……。あーいや、そうだった?随分前に言ってたこと覚えてるか?」
瑛太に随分前に言われた言葉……?
いったいなんだっただろうか、と俺は思い出せないでいると瑛太が「ふっ」と鼻で笑いながらも話をする。
「前に言っていただろ?一緒にブレイドを見に行こうって話だ。実は明後日、仕事が休みでな。無理なら無理でいいし、興味がないなら興味ないならいいがどうする?」
「俺は構いませんよ」
そういうものに興味を持てるときに俺は興味を持つことが出来なかった……。名前は知っていたけど、みんながやっていたのは知っていたけど見ていることしかできなかったけど、今度は違う。誰かと一緒に遊びに触れることができる。それが俺にとって喜ばしいことだった。
高校時代の俺がやっていたあのかくれんぼを俺があいつの中で見ているときだってそうだった。正直ああやって遊びというものに触れあうことがなかった俺にとって刺激そのものだった。秀治と一緒に作戦を立てたり、あの少年とより多くの人数を見つけられるかの競争……。本当に楽しいものだった。亜実が最後公園の遊具から落ちそうになってしまうというアクシデントが起きてしまったけど、助けることが出来て本当に良かったからこそ俺はまたああいう遊びをするということに憧れがあったんだ。
これもまた俺がやりたいことの一つなのかもしれない……。
こうして自分がこれからやりたいことが増えて行くと自分が生きているんだと実感させてくれているような気がして自分の中で肯定感というものが生まれていた。恐らく今までの俺にはなかったものだろう。
「そうか、じゃあ今度こそ電話を切るからな……。時間はまた連絡する」
「ああ、楽しみにしてる」
奥底から俺は瑛太に対して「楽しみにしている」という言葉が出すことができて、俺は内心瑛太と遊ぶことが楽しみになっていた。
「どうしたどうしたロウガ!!そんな貧弱なロボットでは俺のアームズロボットは倒せないぞ!!」
「くっ……なんてパワーなんだ!!」
「さぁ……次のロボットを出してみろ!!お前の魂を込めたロボットを見せてくれ!!」
俺は今苦戦を強いられていた。
今やっているゲームは『カスタム・ウォーズ』と呼ばれている自分だけのオリジナルロボットを作成して相手と戦うことが出来るゲームだ。基本的には一人用のモードが豊富なゲームであり、複数人でも遊べるようになっている。また、一時代を作り上げたとも言えるゲームでもあったのは間違いないだろう。
俺が今苦戦していられているのには理由があった。
それは谷崎カオルが作成していたロボットは近距離特化型のロボットだということだったからだ。俺が使っているのはミサイルポッドと呼ばれている武装で大体中距離特化の武器である。更にそこに光剣が装備されている。カオルの武装はドリルパンチと拳のみという少々狂ったような装備編成だが、それでもかなり間合いを詰めるのが上手く俺は翻弄されてしまっていたんだ。
「どうしたロウガ!!それじゃあいつまで経っても俺には勝つことなんてできはしないぞ!!諦めて遠距離武器に変えたらどうだ!!」
此処で俺が遠距離武器に変えるのは確かに悪くない策。
トオルに勝てるかどうかの見込みがあるのかはどうかはともかく、近距離対遠距離ならばこちらの方がやりやすくはなるが、それではたしていいのだろうかと俺のプライドが許すことが出来なかった。確かにそれなら勝率が高くなるがそれで勝ったところで嬉しいんだろうかと今ある武装だけで勝った方が面白味があるんじゃないのかと……。
なんなら、光剣で勝ってみたらもっと面白いんじゃないのか、と……。
舐めてるとも捉えることが出来るこの発言だが、俺はそんなつもりはない。一人の配信者として、Vとしてやはり此処で良い所は見せたいというのは抑えることが出来ないのは性としかいいようがない。なら、此処で勝って見せてこそ本当の配信者ではないだろうかと……。
「カオル……勝利予告してもいいか?」
「勝利予告?」
「ああ、次の試合……俺は光剣で勝って見せますよ」
「……言ってくれるな?もしそれで負けたら、赤っ恥を掻くことになるのはお前のほうだぞ?」
「ああ、そうなるだろうな!!」
実際、高らかに勝利予告をしておいて此処で負けたりしたら『無様』という二文字が相応しいだろうが、俺はもう既に五戦もして五戦とも敗北している。一方的な試合なんて言い方は良くないかもしれないが、俺の視聴者からすればそういう試合に見られても仕方ないはずだ。だったら、此処らでカオルのロボットの首を掻っ切る程度に痛めつければ俺の勝利は目前だ。
「まあ、やれるだけやってみればいいがなぁ!!」
「ああ、やらせてもらう!!」
それにしても……カオル。
これじゃあ立派な悪役だな。本人はどちらかと言うと、ヒーローになりたいって言う人なのになんか逆に悪役の方が似合っているという悪循環を抱えてないか心配になってくるが、あの人はあの人なりにこういうのも楽しんでいるんだろうな……。実際、テンション高めなおかげで俺の緊張は吹き飛んでいるし、俺の視聴者も喜んで反応しているしな……。
『ロウガ、次こそは……!!』
『カオル先輩をぶっ飛ばせ!!』
『ロマン武器により完全勝利宣言きちゃああ!』
とこんな感じに実際盛り上がっているしな。
こういう悪役がいるということは俺の視聴者の年齢層的にも楽しいんだろうな、俺はスタートボタンを押しながらも対戦が再び始まろうとする。
対戦ステージは何もないただの宇宙空間。障害物も何もないただの空間だ。この何もないステージがより一層一対一感を出しているのを感じていると、早速、牽制用にドリルパンチを放たれるが俺は回避することで当たることがなかった。牽制用だっただろうか、当てる気はなかったがその隙に俺に近づいて来ようとする、ミサイルポットを数発撃ちこむことで体力を削ろうとするが、それらは軽々しく回避されてしまい、至近距離まで近づいて来たロボットがジャンプしながら拳での攻撃を当てようとしてくる。
俺の体力が削れていくなかでドリルパンチの補充が完了したようで、高所からのジャンプ攻撃の後にそのドリルパンチを放とうとする。その一撃を喰らえば、俺の体力はかなり減ってしまうだろう。俺のロボットがロマンの塊であるように、カオルのロボットもまたロマンの塊でしかない。ドリルパンチは一撃に込めれらたものが詰めれられたものであるからだ。
ロマン対ロマンというかなり熱い組み合わせにきっと視聴者も熱くなっているはずだ。プレイしている側の俺も体が芯から暑くなってきていて今に服を脱ぎ棄てようとしてしまうほどだったからだ。
「外れたか……!!」
「外れた?違うな、外したの間違いだろ!!」
俺は大声で言う。
カオルはあることを恐れて俺へのドリルパンチ攻撃は控えめになってしまっていた。カオルが一番恐れていたのは間違いない、それは俺のスキルゲージが最大になっていたことだ。俺の装備している光剣は試合中に二度だけ光剣が分解されてそれぞれのパーツが左右上下へと移動しながらも敵へと突進するという攻撃が可能になる。
これがかなり強く、俺はこれを起点として攻撃をすることが多かったからカオルは最後まで攻撃しきることが出来なかったが、それは最大の間違いでしかなかったのいうのは今分かることだ。何故なら俺が狙っていたのは……。
「それを待っていたんだ!!」
俺が待っていたのはもう一つの方のゲージ、必殺技ゲージだ。
この戦い、俺が勝ち目にあるとすればこれだけだ。元々かなり勝ち目が薄い戦いだ。だがその勝率を少しでも上げるとしたらこのゲージを使って相手を倒す為の必殺技を使うということだ。相手が一撃必殺の技を使うというのなら、俺もまた一撃必殺の技を使わせてもらうとしよう。
ドリルパンチを放った瞬間に出来る僅かな隙と共に俺は発動し、ロボットは白い光に包まれる。それは必殺技を使っているという分かりやすい演出だろうが、俺にとってその光は好機と捉えることが出来るものでしかなかった。だからこそ、俺は一撃必殺に全てを賭けてこの技を放つ。
「此処だぁぁぁぁ!!」
大声で吠えながらも俺は必殺技を放つ。
技名『ライトニングストライク』。光剣にエネルギーをチャージし、一閃で敵を切り裂く単体特化型の強攻撃。剣を地面に突き刺しながらチャージする。剣に電光のようなエネルギーを宿し、その後、高速のダッシュ攻撃で敵を切り裂く大技。高威力の一撃を与え、装甲を貫通。技発動時に衝撃波が発生し、敵の動きを一時的に鈍らせる。攻撃後のスロー演出で、剣の美しさと威力を強調させているこの演出はまさしく一撃必殺の技とも言える大技だ。
「馬鹿な、俺が負けただと……!!?」
放たれた重たい一撃の技はカオルのロボットに大きなダメージを与えて、体力を最大限まで削り取り倒すことに成功していたのだ。大迫力で尚且つ、シンプルなカッコ良さを誇るこの技で勝つことが出来たのは本当に良かったとしか言いようがない。
「ああ、俺の勝ちだ……!」
「もう一戦しようぜカオル……!!」