傷だらけな多重人格の青年は泥臭くもVtuberとして呼吸をする   作:村上トオル

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己自身の限界

「ああ、そうだった竜弥……」

 

 俺達は居酒屋を出て瑛太が勝田さんを担いで居酒屋の前で少し話をしようとしていた。

 

「お前、俺達と相談なしに色々と関係を深めていたそうだな」

 

「あっ……」

 

 俺はそれに対して思わず「あっ……」と言ってしまう。

 色々起こり過ぎてて忘れていたけど、俺はあのベストカップリングの件以来結構俺と千里の関係を騒がれていることをかなり忘れてしまっていたんだ。ぶっちゃけ、それを考えてる時間もなかったというのが正しいんだが、言われてみれば俺達が勝手に参加してしまった企画ものだ。と言うか、千里も特に話をしていなかったんだな……。

 

「まあ、あの企画は元はと言えば香織が俺達の許可なく企画を勝手に立ち上げたものだ……。それにあの企画自体、かなりいい方向に進んでいるようだからな。決して俺はお前達のことを責めたかった訳じゃない……」

 

 あの企画、やっぱり香織の独断な下で動かされていたものだったんだな……。

 香織というかハク自体は最近周りと馴染むために司会役とかまとめ役というものを任されることが多いが、それでもあの企画だけ他の企画とは常軌を逸している企画ではあった。趣味だからやりたかったというのもあるんだろうけど……。

 

「応援しているぞ、竜弥……」

 

 にこやな笑顔で瑛太は俺にそう言っていた。

 その表情は俺達の関係を純粋に応援してくれているというのが充分に伝わっていた。初めて会った俺は瑛太があった頃、凄く怖い人だという印象を抱いていた人だったが、俺の中での印象は今日大きく変わっていた。瑛太の背中を見送りながらも、俺は小声でこう言った。

 

 

 

 

「ああ、ありがとうな瑛太……」

 

 

 

 

 

 

「俺も帰るか……」

 

 ポケットに手を突っ込みながらも俺は一休憩するかのようにして息を吐いていた。

 それから程なくしてポケットから手を突っ込むのをやめて歩き出そうとしたときだった。俺のスマホから着信音が鳴り響ているのが聞こえて来た。俺はポケットの中からスマホを取り出して確認すると、亜都沙からの連絡だった。俺はそのまま亜都沙の電話を取ると、彼女が元気な声でこう言って来ていた。

 

「久しぶりやな~竜弥」

 

「ああ、久しぶりだな……。こうして話すのは診療所の後以来か?」

 

 彼女の声を聞くのは紀帆との電話越し以来だったが、彼女とこうして直接話をするのはあのとき以来だ。あのとき彼女は「気にせんといてなー」と言っていた。あれが最後の会話だったのは俺的には意外だったが、きっと彼女は俺の配信や活動をあの後も知っていたんだろう。

 

「せやなー、あの後ウチも3Dの準備とかで忙しかったから中々連絡出来なかったやけど、ようやく電話出来る時間が取れてなー。聞いたで?彼女はんとは結構上手く行ってるって」

 

「まあな……」

 

 どうやら本当に彼女は俺がどんな活動をしていたのか知っていたようだ。とはいえ、知らなくても風の噂で俺が今どんな状況なのか聞いたりはしていたんだろう。

 

「急にどうしたんだ亜都沙?俺に電話だなんて」

 

「ーん?まあちょっとなぁ……随分前に3Dお披露目の話しとったやろ?」

 

「あーしてたな」

 

「実はもうそろそろウチの3D配信が決まることになったんや。それで竜弥や恭平に連絡しようと思っていたんやけどな……。竜弥って恭平が何処に住んどるか知っとるか?」

 

「恭平か?あーいや……」

 

 あいつのことはよく知っているつもりではいるけど、流石にあいつが何処に住んでいるのかはまでは俺は全く知らない。前に俺がサインをあげたときは、埼玉の方に住んでいるかもしれなかったけど、今はあいつきっと一人暮らしだろうし何処に住んでいるかなんて全く知らなった。

 

「そうかぁ、ちょっと気になることがあってなー」

 

「気になること?」

 

「恭平、電話に掛けてもでぇへんのよ。昼休み中とかに掛けたから多分出れるかと思ったんやけど、全然でぇへんでな。それで夜にも掛けてみたんだけどそれでも全然掛からなかったんや」

 

「恭平が……?」

 

 昼休みに電話に出なかったというのはもしかしたら、あいつが何か用事があって出れなかったという可能性もあるのかもしれない。でも、夜もまた電話が繋がらないことなんてあり得るのだろうか。普通に考えれば、夜もまた用事で電話に出れないなんてことはあり得るのかもしれないが、俺には何か一抹の不安が過っていた。

 

「悪い、亜都沙……。ちょっと電話切ってもいいか?話ならまた後で聞く、少し嫌な予感がするんだ」

 

「ああ、分かったで……!!」

 

 亜都沙は何かを感じ取ったのか俺が電話を切る前にすぐに電話を切っていた。

 それをすぐに確認してから俺は恭平の住んでいる家を知って居そうな恵梨に電話を掛けると、恵梨がすぐに俺の電話に出て「どうしたの?」と言いながらも電話に出ていた。

 

「悪い恵梨、恭平の家って何処だが知っているか!?」

 

「え?恭平の家……。あーえっと確か……」

 

 恵梨は俺に恭平の住所を教えてくれていた。

 その住所は今俺がいる場所から駅から数駅程度の場所であり、そこから少し歩く場所にあるマンションらしい。恵梨もまた恭平のことが心配ということで一緒に来ることになっていたが、そのとき恵梨は不穏なことを言っていた。あいつは今日の配信を朝までやっていそうだが、その配信がぶつ切りになっているらしい。それが余計に俺を不安にさせていた。

 

 電車に乗り、数駅待つというのが地獄のような時間に感じながらも何も無ければ恭平と恵梨と一緒に美味いラーメンでも食って帰ってくればいいと考えていると、目指していた駅に辿り着き俺はその駅のホームに降りて改札を下りる。その時間は僅か数分程度だったようなのを感じていた。とにかく、俺は急いで恭平が住んでいるマンションへと辿り着こうとしてたが、此処で問題が発生する。

 

 

 恭平が住んでいるマンションはオートロック式だったということ。

 まずい、此処まで来て立ち往生は全く考えていなかった。恵梨のときはやらなかったけど、誰かと一緒に入るのを狙ってみるか?いや、それだとしてもいつその誰かが来るか分かったもんじゃねえし……。

 

「竜弥、これで入れるよ!!」

 

 と悩んでいると、恵梨がオートロックを鍵で解除していた。

 俺が考えている間に恵梨もやって来ていたようだったが、俺の中で一つの疑問が生まれる。どうして恵梨が恭平の家の鍵を持っているのかというとことだったが、俺は今はそんなことよりも恭平のことを優先しようとしていたが……恵梨がそれに気づいたのか……。

 

「恭平に渡されてただけだから!!別に変なことしてないから!!」

 

「え?あ、ああ……」

 

 何も全く聞いていないのに恵梨の言葉に圧倒されつつも、俺と恵梨はマンションの中へと入って行く。恭平が住んでいるマンションは至ってシンプルと言った感じのマンションだった。恵梨は俺のことを恭平の部屋まで案内してくれて、そのまま部屋の鍵を開けてくれていた。

 

「恭平いる!?」

 

 恵梨の大きな声が部屋内に響いていたが、恭平に届いている様子が全くない。

 そもそもこの部屋自体に誰かがいるとはとてもじゃないが、思えないが恭平の靴と思われるものは置かれてある。裸足で部屋を出たりしていないことを考えなければ、この部屋にいる事を考えてた方がいいはずだが、恭平が何処にいるのかも分からず、とりあえず部屋の方に行くとパソコンがまずつけっぱなしの状態になっていた。テーブルの方には宅配で頼んだラーメンだろうか、既にもう伸びきっている。これらを見る限り、恭平がこの部屋周辺に居たのは数時間前と考えた方がいいだろう。

 

 

「竜弥……!!竜弥来て……!!!」

 

「どうした恵梨!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「恭平が倒れてる……!!」

 

 俺は恵梨に呼ばれたその場所に行くと、そこは浴室だった。

 恭平は湯舟に浸かった状態でそのまま気絶してしまっていたんだ。顔色が、明らかに悪い。俺は思わず、浴室の中へと駆け寄り、恭平の肩を揺すぶるが起きる気配がない。恭平の名前を何度も呼ぶが、起きる気配がない。

 

 

 

 

「恭平、恭平……!!おい、しっかりしろ!!」

 

 俺はこのとき頭の中でどうして恭平が浴槽の中で倒れたのかを瞬時に分かった。

 蛇口は捻られた状態、出ているのはお湯。そして先ほどの部屋の状況、そして配信画面ソフトを起動しっぱなしの状態。配信のぶつ切り、亜都沙の電話に何度も出なかったことを頭の中で整理した結果、俺は見えて来たその答えが……。

 

 

 

 

『絶対にプロゲーマーになって大会優勝してきますんでそんときは賞金でいっぱいご馳走させてください』

 

 恭平はきっと……プロになりたいというプレッシャーの意識の強さのあまり、限界が来てしまったんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 己自身の限界が……。

 

 

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