傷だらけな多重人格の青年は泥臭くもVtuberとして呼吸をする 作:村上トオル
「竜弥さん……僕は貴方にご迷惑をお掛けしてしまったようですね……すみませんでした」
ベッドから起き上がろうとしたときに自分の眼先には点滴があるのに気づいた。
僕はどうやら度重なる寝不足が原因で倒れてしまったということをこのとき把握していた。
「謝るなら俺じゃなくて恵梨に謝ってやれ。あいつが居なければ俺はお前の部屋に入ることすら出来なかったんだからな」
「恵梨さ「馬鹿……」」
入口付近に立っていた恵梨さんがどんどん近づいてきてベッドの上を叩いている。
いきなりベッドを叩かれた僕はビックリしていると、恵梨さんの頬から涙が溢れていた。
「恭平、私はプロを目指すことは応援するって言ったけど。倒れるまでやっていいなんて一言も言ってない……。それはちゃんと分かってた……?」
「恵梨さん……」
恵梨さんが怒るの無理はない。
僕は今回プロを目指す為に大会でプロチームから実力を測られることを聞いていた。今回参加する大会に優秀な成績を修めることが出来ればプロチームに入ることを確約されていたから。それを知っていた恵梨さんは僕が無理をしないかがか心配だったようでよく家には食材を宅配で送り込んでくれていた……。
「食材送ってたけど、それだってどうせ適当に煮込んで栄養偏るような食べ方してたんでしょ?」
「うっ……そ、それはですね……」
「本当にしてたんだ……」
隠し通しておきたかったことは恵梨さんに言われてしまう。
食材は貰っていたけど料理なんて全くしたことがなかったから、僕は適当に煮込んだら食べられるだろうと思ってカレーにしたり、シチューにしたりして食べてていたことは本当に否定ができなかった……。
「ど、どうしてそれが分かるんですか……」
「なんとなくだろうけど、そうだろうとは思ってた……はぁ……」
恵梨さんは溜め息をつきながらも「仕方ない奴」と言いながらも、腕を組みながらも僕の方を向くのをやめてそっぽを向いているのを見てから竜弥さんが話を始めていた。
「恭平、お前が俺に誓ったこともあってプロをどうしても目指したいという気持ちはよく分かるが、それでも倒れるまで配信をやり続けたりゲームをするっていうのは危険すぎる行為でしかない。お前の頑張りは認めるけど、それでも今回のは流石にダメだ。最悪、お前の生命に関わる問題だったんだからな……」
「本当にすいません……竜弥さん……恵梨さん……」
竜弥さんの口調は優しかったけど、僕のことをかなり心配してくれていたのが伝わってくる。
申し訳ないという感情が僕の中で駆け巡るなか、気づけばシーツを強く掴んでいる自分がいた。 僕はこの二人のことを心配させてしまった。大事な二人のことを……。いや、二人だけじゃない。此処最近の僕は様子がおかしかったからきっと視聴者のみんなやチームのみんなにも迷惑をかけてしまっていたはずだ……。
「それと、亜都沙が恭平のこと心配してたぞ」
「亜都沙さんがですか……?」
「ああ、恭平のこと心配してたぞ。お披露目のことで電話したかったらしいけど、何度か掛けても恭平が出ることがなかったからかなり心配していたぞ」
「そう、だったんですね……」
やっぱりそうだ……。
僕はこの二人だけじゃない、色んな人に迷惑をかけてしまったんだ……。自分がしたことの責任の重さに押しつぶされそうになりながらも僕はどうしてもプロというものを諦めきることが出来ないでいた。
「恭平、一つだけ言ってもいい?」
「は、はい……なんでしょうか?恵梨さん……」
「プロになることを諦めないで追いかけるのは悪いことじゃないけど、今そうやって倒れているようじゃ私は……」
「やめた方がいいと思う」
恵梨さんは真剣な瞳で僕のことを見ていた。
竜弥さんは恵梨さんが何を言おうとしているのかは分かっていたのか途中で止めようとしていたが、恵梨さんが「止めないで竜弥」と言っている声が聞こえていた。
「夢を追いかけるのは悪いことじゃないよ、なにかをするときに夢や目標、生き方があれば自分の人生に色彩が付く、それは凄く素敵なことだと思う……。けどね、人っていうのは出来る範囲のことは限られている。自分が頑張ればどうにかなるって言っててもそれで倒れたり、心が疲弊しているようじゃその先を乗り越えるなんて到底難しい」
「勿論、乗り越えられる人達だっている。でも、それは一部の乗り越えられるだけの力がある人だけだよ」
「……じゃあ、その乗り越えられなかった人はどうなるんですか?」
「簡単だよ」
「心が折れてどうしようもない現状に立ち向かうことが出来なくなる。こんなはずじゃなかった、もっと道があったとか言い訳で自分のことを取り繕って道が閉ざされるんだよ。だから聞くけど……」
「恭平には覚悟がある?乗り越えられると本気で言える?」
言っている言葉はとても厳しいものだったけど分からない訳じゃなかった。
よく聞く話があるものとしてプロゲーマーというものは全くと言っていいほどのものじゃないということ。これは耳がたんこぶになるぐらい僕は聞いてきた。今の時代プロゲーマーがなりたい職業ランキングっていうのに必ずしも入ることが多くて、その理由がゲームと言う個性を活かしてお金を稼ぎたいとか、そういうのが圧倒的に多い。
じゃあ僕はどうのかと言われたら、僕はこう答える。
僕にとってプロゲーマーになりたい理由っていうのは……比較的簡単なもの。一つのゲームというもの箱庭に対して熱狂的に盛り上がり、相手のことを超人的なプレイでねじ伏せることで世界中の観客から喝采を浴びる。僕はその刺激を初めて直で見たとき、全身が痺れそうだった。これが僕の求めていたものなんだって……。そこに人種なんてものは関係ない。全員が全員がゲームというものに夢中になり、競い合うそんな姿に僕はある種のゲームとしての完成形を感じていた。
分かっている。喝采だけじゃなくて時には罵声を浴びされることだってあるということを……。どれだけ頑張ったって世間から見れば「たかがゲーム」だと言われるようなことは……。でも、僕はそこに熱を感じた人間だったからこそ僕は諦めたくなかった。これを誰かに言ったことは一度たりともなかった。僕がプロになったとき、誰かにこの感情を発信できればという気持ちでいたんだ。
「恵梨、流石に……」
「いえ、竜弥さん……。恵梨さんが言っていることはどれも正論です」
「なら……」
「それでも僕はプロになるっていう道を諦める訳にはいきません……。僕はプロの大会を直でこの目で見たとき、全身が熱くなって僕はあの興奮を今でも覚えています。あの熱狂的な会場で観客が沸き上がっているのを見ていてからこそ、あの日僕はプロになりたいと思えたんです。それを今更変えるつもりはありません……」
あの日の情熱をこの瞳で見たからこそ僕は諦めたくなんてなかった。
真っ直ぐに恵梨さんの方を見ながらもハキハキとした態度で応えていた。
「……諦めるつもりはないってこと?」
「恵梨さんには悪いですけど……例え、プロになってどんなことが待ち受けて言おうとも僕はそれをちゃんと受け入れるつもりです……!!それに……僕は諦めるつもりなんて全くないですから……!!!」
「……そう、じゃあもう私からは何も言わないけど……次倒れたら無理矢理でも諦めて貰おうから」
「は、はい……!!」
恵梨さんは僕にそれ以上言うことはなかったけど、病室を出ようとしているときにはにかむようにして笑っているのが見えていたのはきっと僕の気のせいなんかじゃなかったんだと思う。
「あそこまで厳しいこと言うつもりはなかったけど、言いたかったことのほとんどは恵梨に言われたな……」
恵梨さんが過ぎ去っていたのを確認してから竜弥さんは頬を掻きながらもそう言う。
「恭平、何度も言っているかもしれないがプロになりたいっていう道は自分自身が決めたことだ。出来れば俺はそれを成し遂げるところを見てみたいっていう気持ちは俺にはあるが、また今回のように倒れたら俺は恵梨と同じ選択を取るかもしれない、それに……そのの道っていうのはプロになってからようやくがスタートのはずだ」
「分かってます、プロになってそれで終わりじゃないっていうのは……僕が見せたいのはその先にある熱狂を僕自身の手で作り上げたいんです。こういう場には生まれも育ちも人種も関係ないって……!僕自身のプレイで……!!」
「ふっ……そうか」
竜弥さんは僕に対して笑顔を向けながらも頭に手をしっかりと置いていた。
「やっぱり……俺のことなんて完全に越してるよ恭平……」
「な、なにを言っているんですか!?僕なんて全然まだ竜弥さんのことを越してないですよ!!?」
「じゃあ、今はそういうことにしとくよ恭平……!お前ならきっとプロになれるって俺は信じてるから……!!後で亜都沙に連絡入れておいてやれよ……!!」
「は、はい……!!」
竜弥さんが病室を去って行くのを見送りながらも僕は少し心が軽くなったような気分になりながらも僕は病室のベッドに再び眠りについていた。これからきっと忙しくなる、そう予感をしながらも……。