傷だらけな多重人格の青年は泥臭くもVtuberとして呼吸をする   作:村上トオル

124 / 179
B級映画は程々に……。

 ウチは今紀帆から聞いた楽器屋『月見里』という名前の楽器屋を目指していて歩いていた。

 紀帆から情報を聞いたときはなんや旅館みたいな名前やなと思っていたけど、実際に楽器屋の前に来て分かったことは本当にちゃんとした楽器屋だったということ。名前だけの印象なら本当に和菓子屋とか旅館とかみたいな名前やけど、なんでも此処の楽器屋は如何にも頑固そうなお婆さんが店主と言う話も紀帆からは聞いている。因みにその理由についてはウチも詳しくあらへん。

 

「おーほんまに此処で働いていたんか」

 

 楽器屋の中に入ると、まず目に入ったのがアンプを手に持とうとしている男性の姿。

 その男性は紛れもなく竜弥だということが分かったウチ。声を掛けようとしたその前に竜弥に先に声を掛けられてしまい、先を越されてるしまう始末やった。竜弥を驚かせるという作戦においては成功はしたんやけどな。

 

「ふふっ、かなり驚いてるなー。まあそれも無理ないはずや」

 

 竜弥の反応を見ながらもウチは軽く笑う。

 お手本のような驚きようにウチが満足していると竜弥はウチのほうへと駆け寄ってくる。その歩き方を最後に見た竜弥とは全く違い、はっきりとしたものだった。迷いを断ち切った、そんな感じやったな……。

 

「どうして俺が此処で働いているって知ってたんだ?」

 

「紀帆の奴から聞いたんや、竜弥が此処で働いているっていうのをなぁ……」

 

「そういうことか……」

 

 正確に言えば、紀帆は渚という女性から竜弥が此処で働いている情報を聞いて「どうせ東京に行くなら寄って行けばええやん!」といつものような感じのノリで言っていた。紀帆も本当は此処に来る予定やったんやけど、ちょっとした諸事情で此処に来ることは叶わなかったみたいやけどな。

 

「理解したいみたいやな、それに理由があってな」

 

「理由?」

 

「ああ、今の竜弥をこの目で見て見たかったんや」

 

「今の俺をか……」

 

 ウチが竜弥と会うのはあの診療所以来……。

 しかも、最後に見たのが倒れた竜弥というなんとも後味の悪いものや。竜弥がその後目覚めたことは勿論、知っているし配信もしていたのは知っていたんやけど、ぶっちゃけウチは竜弥のことはかなり心配やった。恵梨や竜弥の彼女さんのように支えてくれる仲間がいるとはいえ、もしかしたら竜弥は悪い方向に進んでしまうような気がしていたからや。

 

 実際のところはどうだったのか分からんやけど、後ろの三人を見るに憑き物ははっきりと落ちたようやな竜弥……。ウチが一安心しながら息を吐いていると、竜弥の後ろにいる恵梨がウチの存在を思い出すようにして名前を呼んでいた。

 

「亜都沙……さん?」

 

 手に持とうとしていたアンプを床に置きながらも恵梨はウチの方を確認する。

 あんな重たそうなもんを一人で持つっていうのは流石に厳しいんやないかと心の中でも思いながらも恵梨に声を掛ける。

 

「あのとき以来やな、恵梨」

 

「本当に久しぶりですね……。あのときは……本当にお世話になりました……」

 

「その様子を見るに自分の気持ちに正直になれたんやな?」

 

「……はい」

 

 恵梨はあのとき、竜弥のことを「親友だった」と言っていた。

 それを「嘘」と言い切った。言い切られた恵梨は混乱しながらも困惑していた様子だったけど、自分では明らかに気づいていたのは間違いなかった。恵梨にとって竜弥は大切な親友だということに……。

 

 それが今、こうして竜弥と一緒にいるということは迷いの霧は晴れたということやな。

 それにその後ろにいる茶髪のポニーテールの女性はあのときウチが励ました女性……。

 

「そっちの人も久しぶりやな!」

 

「は、はい……!あ、あの、あのときは本当にありがとうございました……!おかげで竜弥の前で怖がることもなかったでした……!!」

 

「ええよええよ、何にもしとらんからな」

 

「それでも本当にありがとうございます亜都沙さん……!!」

 

 目の前にいる子の名前は知らない。

 知らないけどウチは竜弥にとって彼女がどういう存在なのかはなんとなく把握しているつもりやった。彼女の声が久龍アンナというVtuberに似ていたのが一番の理由やけど、それ以外にも彼女は病室の扉を開けようとしていたときかなり不安そうにしていた。

 

 本当は開けるのが怖くて恐ろしくて仕方ない。

 後悔という罪悪感が彼女には降り注いでるようにも見えていたんや。あのときウチが彼女に声を掛けるには充分な理由やった。彼女はその後、勇気を振り絞って落ち着きを取り戻して病室の中へと入って行った。彼女の勇姿を背中から見送りながらも気づいていたんや。恐らく竜弥にとっても彼女にとっても……二人は大事な存在っていうことを……。それがまさかあんなにもイチャイチャカップルとは想像してもいなかったやけどな……。あのカップリング配信のことを思い出しながらも心の中で笑みを浮かべていた。

 

「そういや名前あのとき聞いておらんかったな?」

 

「そうでしたね、アタシは綾川千里です」

 

「神崎亜都沙や、よろしゅうな」

 

 お互いに自己紹介を済ませていると、レジの方にいる女性の方が眠そうにしている。

 なんやあの子、レジにおるっていうのに偉く眠そうやな。いつも寝てなかったりするんかな。

 

「そっちの人は名前なんて言うんや?」

 

「月見里琉藍……よろしくねぇ」

 

 琉藍と名乗る女性は手を振りながらも自己紹介をした後に、また眠そうにしていた。

 

「ところで亜都沙、本当に顔合わせだけで此処に来たのか?」

 

「あーそれならもう一つ理由があるんや、ウチの3Dお披露目のことでちょっと頼んでおきたいことがあってなー。ええか?」

 

「頼みたいこと……?」

 

 

 

 

 

 

 

 竜弥と再会してから三日ほどが経った。ウチは今回の3Dお披露目配信にかなりの自信があった。自分が好きなものであるB級映画のような映画をこうして作り上げることが出来るなんて夢に思ってもいなかったんや……!ウチは今感激しているし、最高な気分なんや……!!ただ脚本を紀帆に見せたとき絶句されたやけど、ウチは全く気にしてないんや。だって、こんなにも馬鹿げている脚本を作り上げてくれた彼女には感謝しかないんや……!!

 

「そろそろやな……!!」

 

 劇場にあるような暗幕が上がるのと同時に、暗い暗い海の底、静寂が支配する深海が映る。

 そこには忘れられた巨大な深海の研究施設が横たわっている。朽ちた配管からは泡が漏れ、如何にも不気味なこの場所からは光が漏れ出している。その中心、巨大なサメが眠るように横たわっていた。体の一部は既に機械と融合しており、青白く光る目が薄く開いている。そう、これこそが冒頭や……!!

 

 『もしかしてこれは……』

 『サメ映画きちゃー!!』

 『B級映画で草』

 

 何千年ものの間、眠り続けていたこのサメは……。人間達に憎悪という怒りを向けていたんや。自分達魚は人間に食べられるだけの存在であり、虐げられてきたことを許せないでいたんやな。その怒りが今まさに目覚めようとしていたんや。

 

 サイボーグシャークの目が開いたのと同時に眠るように横たわっていた。体の一部は既に機械と融合しており、青白く光る目が薄く開いたんや。そして、サイボーグシャークはこう言い出したんや。

 

 

 

 

「この新しい体を手に入れた俺が、魚たちを解放し、人類に裁きを下す!」

 

 施設を破壊しながらも海底を泳ぎ去るサメ。その背中には、「オーシャン・フロンティア研究所」のロゴが付いた破片が引きずられていたのと同時にこうタイトルが表示される。

 

 

 『サイボーグシャーク&スシ・ウォーズ』

 

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 正直、俺はこの脚本を亜都沙から渡されたとき俺は頭がおかしくなりそうになっていた。理由は追々分かることになるだろうが、俺は普段あまりツッコミ等を入れるようなことはしないのだが亜都沙から渡された脚本を見たとき、どうしてもツッコミを入れずにいられなかった。

 

『これサメでやる必要あるのか……?』

 

 と困惑していた。

 俺が読んでいた脚本を恵梨や千里達もチラッと読んでいたが、恵梨は「訳が分からない」と一蹴して千里は本気で困惑していた。琉藍だけが「えー?これ滅茶苦茶面白そうじゃんー」と笑っていたが、あれは恐らく冷笑の意味だった可能性が高い。

 

 困惑しながらも聞いていた俺だったが、亜都沙はこう返して来ていた。

 

『サメだからやで?』

 

 と返されていた。

 更にそこから付け足すようにしてこうも言われた。

 

『サメ映画っていうのはなぁ、ハチャメチャがないと意味がないんや!!そうはならんやろ!!となってやろうがい!!みたいな感じのノリがないと駄目なんや!大体サメ映画のサメっていうのは飛んだり雪山にいたり、幽霊になったりするんや!!』

 

『え……?あ、ああ……?そ、そうなのか……?そうなら……まあ、仕方ないの……か?』

 

 亜都沙の言葉に納得されそうになっていると、千里が「竜弥呑まれてるよ……」と言っているのが聞こえていた。恵梨は頭を抱えながらも「まあ、そうだけどさ」と言っているのが聞こえて来ていたし、琉藍はずっと笑っていた。

 

 渋々了承していた俺だったが、この脚本を恭平や紀帆が読んでいたとき紀帆は「頭おかしいとちゃうんか?」と直球で言ったらしい。恭平は無言でいたらしい。

 

 此処まで混沌としたような話ばかりしていたが、実際どんな内容かと言われたら一緒に音声を収録しに来ていた真波の発言を思い出した方がかなり早い。

 

 

 

 

 

 

 

「どんな面白い脚本かと思ったらなんなのよこれ!!?なんでサメが喋ってるのよ!?サメが自分たちの住処を荒らす人類への復讐を誓うために、他の魚たちの協力を得てサイボーグ化していざサイボーグシャークが暴れ出したと思ったら他の魚たちも人類への復讐を開始し始めて、そこから更に刺身だとか寿司までも自分達を食べようとする人間のエゴへの復讐心を燃やして人間を殺戮してるし、サイボーグシャークのCGはなんか普通にカッコいいし、題材自体も魚たちからすれば真っ当な怒りにも見えるけども……!!」

 

「サイボーグシャークがミサイルを発射したり、ゴジラ顔負けのビームを放ったり意味分からないんだけど!!その上、人類が危機的状況に追い詰められてもうこれまでかと思ったら先祖代々に渡る友情寿司なんて人類の味方をする寿司まで現れるし、その友情寿司と亜都沙の友情とかもう滅茶苦茶なのよ!!王道展開なのもムカつくし、最後はワカメとか海藻とかその辺が不穏に登場して終わってなんか色々ともムカつくのよ!!というか私最初の寿司屋で寿司食べてたら殺されたんだけど!!!誰よ!!?この脚本考えたの!!出て来なさいよ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「私ですよ、水野真波」

 

 

 

 

 

 

 

 

「楓ぇ!!?アンタねぇ、バッカじゃないの!!?」

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。