傷だらけな多重人格の青年は泥臭くもVtuberとして呼吸をする 作:村上トオル
紀帆の噂は高校時代から聞いたことがあった。
俺がよくゲームをするようになってからゲーマーの間でこういう噂をよく耳にするようになっていた。大阪には天才的にゲームが上手いと名高い女子がいるということを……。俺はその話をSNSで噂程度で聞いたことがあったが、そのときは「へぇ」としか感じることがなかった。ただ、俺は秀治からある情報を聞いたとき、本当に驚かされた。
「……その話、本当か?秀治」
「知らなかったのかい?大阪の神、ライカンと呼ばれている女性はなんでも17歳という噂があるんだ」
自分と同じぐらいの歳の人間がSNSで噂が流れるレべル女子が自分達と同じぐらいの子だという事実に触れていたはずのコントローラーから手を放してしまっていた。それと同時に俺はこうも思っていた。そのライカンという女子にもし会えることがあるならば、本気で対戦してみたいと……。自分の実力がどれぐらい通じるのか、試してみたいと……。
ゲーマーとしての魂を賭けて……。
『ええに決まってるやろ?そこに楽しいという感情があるなら思う存分に楽しめばええんや!熱中することは悪いことやないからな!!』
実際に紀帆に会った俺は……彼女の強さというものを思い知らされたのと同時に彼女にとってゲームというものが本当に楽しくて仕方なかった。彼女の目や口元を見ればそれは証明していた。イキイキとした目に、楽しそうに笑っている口元。情熱を持ってゲームをしている彼女のゲーマーとしての魂を強く感じさせていたんだ。
「ノリノリやな、竜弥。その意気やで……!じゃあ早速始めようやないか!!」
「ああ……!!」
◆
子供の頃からゲームが好きだった。
初めて親からゲームを買って貰ったとき、ウチはよく分からずに遊んでいたけど、勝てないことの方が圧倒的に多かった。周りからはゲームが下手くそだとか弱いとか言われていた。まあ、ゲームが下手だとか弱いだとか言われてもあんまり傷つかない方が普通なんだけどウチは全く違った。
弱いだとか下手くそとか言われたことが腹の底からムカついてしょうがなくてウチの実力は「こんなもんやない!!」と言わせる為にウチは夜な夜なよくゲームをやっていた。それが見つかって親にドヤされることもあったけど、ウチは全く悪びれることもなかった。勉強はまあそこそこ出来てたし文句言われる筋合いもないしな……。
それから数年ぐらい経った出来事。
ウチはゲームの腕をかなりつけていた。練習や研究を積み重ねてスキルを向上させていった。攻略動画や他のプレイヤーのプレイスタイルを徹底的に研究したり、それを自分のプレイに吸収させていった。ゲーム内での状況を把握したり、適切に対応る力も見に付けた。ウチは割とせっかちの方やからそういうのは正直苦手なほうだったけど、観察力や分析力を上達をさせるっていうのは早い段階で捨てた。瞬発力や直感を活かしたプレイスタイルを活かしてアクションやシューティングゲームのような速いテンポのゲームじゃ、状況を深く考えずに素早く反応することで寧ろ有利に働かせる場合も圧倒的に多かった。こういう直感的な行動や短期的集中型の努力をつみきのように重ねて行ったウチはどんどんゲームの腕前が上がっていた。なによりもウチにとってこのゲームをするときに心がけていたのは……。
───楽しむこと。
これが出来ないようじゃゲームなんてものは上達しない。寧ろ、もっとド下手になってしまうかもしれへんな。ゲームで負け続けたりすると人っていうのは苛々したりするのが当たり前だけど、ウチは全く違った。自分より強い人間を見て昂って仕方なかったんや。この操作している人間を、このNPCをどうやって喰らってやろうかと……。勝てなくてもどうやって爪痕を残したやろうかと、そういう気分になることが多かったんや。苛々しているようなじゃゲーマーとしては二流もいいところや、相手をどうやって喰らう。勝てないなら勝てなりに相手の記憶に残るような行動をすればいい。ウチはそうやってゲームをしてきたし、これからだって自分がゲームを楽しむということを忘れるつもりはない。
たかがゲームなんて言われるかもしれんやけど、意外なことにこういうのを活かせたのは案外ゲームだけやなかった。ぶっちゃけ自分でもほんまに意外やったけど勉強や運動に活かせることがあったんや。
例えば、勉強は数学だとかだと型というか公式や解き方を「パターン」としてちゃんと覚えていれば、それを応用する問題にも挑戦できていたし、勉強というものを楽しいと考えるようになればほんまに意外やけど頭に授業が入るようになったんや……。親からは凄い褒められたのを覚えているし、体育や運動だってそうや。ゲーム、FPSとかは連携とか協力が大事になってくる。体育も同じことや、個人競技じゃないものは協力とかそういう競争とかモチベに繋がって積極的になれたし、瞬発力や直感を活かして球技や短距離走じゃ、力を発揮することがかなり出来ていた。ほんまに意外やったけどな……。
「面倒なことになってしもうたな……」
17歳のときだった。
ウチは音ゲーやFPSや格ゲー界隈でよく目立つようになってしまっていた。その内、異名として『ライカン』だの『大阪の神』だと言われていることが増えていた。目立つというのは嫌いじゃないし、異名が付くのも悪い気分やないけど、ストリーマーやプロの目にも止まりだして本当に面倒なことになり始めてきた始末やった。いや、元はと言えば、FPSでウチがストリーマーとかの視点で大暴れしているところを見られたの原因やけど……。
「まあ、なんとかなるやろ……」
考えるだけでクソ面倒なことやし、ウチはこれ以上『ライカン』と呼ばれていることとかどうでも良くなっていた。ウチのことを知ろうとしている気色悪い奴もおるみたいやけど、ウチにとってはそれはどうでもいいとしか言えなかった。というか、ゲーセンに出入りしているから女っていうのも容姿もバレてるんやけどな……。
「にしても東京ってほんまデカいところやなぁ……」
このときのウチは18歳やった……。
V-Nextの事務所に『ライカン』としての実力を買われてウチは今日面接を済ませたところやった。あの様子なら普通に受かるやろうと思いながらも、ウチは秋葉のゲーセンの中へと入りながらもアーケードゲームがある方へと入って行って百円を入れようとしたときだった。
「あ、あの……対戦いいですか?」
「ああ、ええよ」
一人でやるというのも悪くはないけど、誰かと対戦して更なる研究や動きを経験値にするのも悪くないと判断したウチは彼女の対戦の申し込みを了承した。「ありがとうございます!」と礼儀正しく頭を下げる彼女を見ながらも到底アーケードゲームをやるような子じゃないと感じながらも、ウチは百円を今度こそ入れていた。アーケードゲームってやってる奴って大体変人やからな、ああいう光属性っぽい子がやってると虐められてないか心配になるわと少しばかり思っていると、その認識は改めさせられることになる。
「あの子マジか……」
実力差はかなりあった。いや……話にならないということを言うのかもしれへん。
こういう言い方はあんまりよくないんやけど、反則レベルに彼女は強すぎた。動きに完璧に合わせて次々とコンボを決めていく。こちらが攻撃を仕掛ける前に先読みして対策を打つのが常で、まるで相手の手の内を既に読んでいるかのよう。例えば、ウチが攻撃をしてきた瞬間、もう次の反撃の準備が出来ているから、全く無駄な時間がない。
一つの戦法にも、固執せず、その場に応じて戦術を変えるのが得意でキャラクターの使いこなしも抜群と言ったもの。はっきりと言って本当に反則レベルや。勝っても負けても喜びも悔しそうにもせぇへんからそういう面も強すぎるんや……。
「いやぁ、あかんわ。アンタ思ってたより数百倍強いなぁ……」
「え?は、はい……ありがとうございます……」
彼女はウチに話しかけられて少し戸惑っている様子だった。
「それにしても、なんでそんなに強いん? 反応早すぎやろ。どんな練習したん?」
完膚なきまでの敗北やった。ゲームに関して結構自信があった。ウチが何も出来ないままやられるというのは少し恥ずかしかったけど自分の敗北を素直に認めながらも、レバーに触れていた手を放してから悔しさを沁み込ませた笑顔をしているのが自分でも気づいていた。
「お兄ちゃんがゲームしてるところよく見てた……」
「お兄ちゃん?ほーん?まあ、そのお兄ちゃんっていうのがアンタを強くしてくれたってことやな」
負けたというの意外とすっきりとした気分やった。
新鮮な気持ちでもいたし、なんというか朝からシャワーを浴びたようなそんなもんやった。それはウチの性格が関係しているものなのかもしれないやけどなぁ……。
「まぁ、でも、ウチもあんたみたいに上手くなりたいなぁ。でも、今日は本当に勉強になったわ。次、リベンジしていいか?今度はちょっとだけ、本気でやらせてもらうで?」
「もちろん、楽しみにしてる」
そして、ウチは今竜弥と格ゲーで対戦していてあることに目をつけていた。
それはあのときの彼女と動きが奇しくも似ていることや……。反応速度、戦術の幅広さ、キャラクターの使いこなし、メンタルの強さ……。それら全てがあのとき対戦した彼女と似ていたんや。
「竜弥、妹っておるんか?」
「え?ああ、いるけどどうした?」
「なるほどなぁ……。そういうことなら……」
「絶対に負けられへぇんなぁ!!!」