傷だらけな多重人格の青年は泥臭くもVtuberとして呼吸をする 作:村上トオル
はっきり言う。
竜弥はあの子に比べたら実力は劣る。確かに実力は申し分ない。竜弥がどれだけゲームが上手いのかはウチもあいつの配信を見たことがあるから知っとる。なによりも、どんなに強いプレイヤーでも弱点はあるもんや。竜弥の場合の弱点は間合いの詰め方が多少甘い。攻めるときに少しばかり躊躇いのようなものがあってそれが動作によって出てしまってるんや。
自分自身でもその弱点は把握しているのだろうか、竜弥は少しばかり焦っているんやけどそれが弱点そのものや。ゲームをする上で焦るということは僅かな隙を作るのと一緒なことや。その隙を見せてしまうということは命取りにも繋がるんや……。
ほら、こんなふうに……な。
ラウンド3を制したのはウチの方やった。
本当に危うかった。ラウンド2を竜弥に取られたときはまだ一戦残ってるからなんとか巻き返せるという思考をしていたが、それは思いっきり甘い考えでしかなかった。竜弥は喰らい付いてきたんや。飢えた狼が肉を欲するようにしてウチのことを狙ってきたんや。おっかなくてビックリさせてもらったところやけどなんとか倒すことには成功したんや……。竜弥のキャラは近距離特化型のキャラだからほんまにやり辛くて仕方なかったわ……。
「さて次はどないしよか竜弥?」
「ああ、それだった「紀帆!!僕との勝負忘れてないよね!!?」』
仁王立ちをしている恭平をウチは後ろから眺める。
ほんまにガキっぽい奴やな、まあこいつも決着はつけるつもりやったからええ機会や。
「ええで、勝負する相手が一人増えることはええことやからな。竜弥もそれでええか?」
「ああ、俺も構わないぞ」
「そうこなくっちゃ!!それで次のゲームは!!?どうするの!!?」
「ああ、それなら次はガンシューティングで勝負や!!」
ガンシューティングの筐体を指差しながらもウチら三人は一番高いスコアが取れた奴が勝利ということにした。恭平は得意な分野ということもあってかなり気合の方が入ってるみたいやったな……。
「さて、やったるか……!!」
気合十分と言った感じ、ウチは銃を手に取りながらも筐体を見つめている。
◆
神木坂紀帆……。
彼女のことは噂程度だが知っていた。異名『ライカン』、『大阪の神』と呼ばれている彼女は天才的なレベルまでの実力で相手を倒してきた。それは競い合うことができるゲームでもそうだし、一人で遊ぶようなゲームでも彼女はそうだった。常に才ある力で彼女は噂を立たせていた。
先ほどの格ゲー。
彼女は圧倒的なまでの力で竜弥を倒してみせたけど、竜弥のプレイを見ていて思ったのは決して倒せない相手ではないということ。竜弥は喰らい付いて見せた。そして、次なるゲームはゾンビをひたすら倒していくガンシューティングのゲーム。この手のゲームは竜弥もまたかなりの実力……。
「さて竜弥、見せてもらうよ」
一番最初に竜弥がこのゲームをやっていた。このゲームはとても簡単。次々と出てくるゾンビを銃で倒しつつ、ステージを勧めていく探索型のガンシューティング。ステージごとにはボスが用意されていてそのボスを倒すことが出来ればかなりのスコアが稼ぐことが出来るが、初心者はかなり倒すのが難しかったりする。例を挙げるとすれば、最初のボスのステージは炎の中で戦うことになるため、常時体力が減って行くことになる。ボスの方は重そうな鉄パイプを持って攻撃する単純ではあるがステージのギミックがややきつかったりするのがこのゲームの特徴なんだ。
「この勝負どう転ぶか分からんな」
隣で三人の様子を見ている関西弁を使う彼女が言う。
「どういう意味だい、それは?」
「言葉通りの意味やで」
確かに勝負というものはどうなるかは終わるまで分かったもんじゃない。それはその通りだけど、彼女が言っているのはそういう意味じゃない気がする。
もしかしてだが……。
竜弥の隣にいる彼がそれほどまでの実力を持っているんだと言いたいのだろうか。彼のことは一緒に竜弥のことを運んだということぐらいしか僕は知らない。
「まあガチファン君も普通に強いからねぇ」
もう一人の方の彼女も恭平のことを知っているようだ。
竜弥の番が終わり、中々の記録が出たことを確認してからは流石は竜弥だと頷いていた。その後に紀帆もやっていたが、彼女は竜弥のを軽々と抜かして見せていた。やはり、最強はライカンと思っていると最後は恭平……。
「さてあの少年は……いったい……」
あの少年、二人が言っていたようにそれほどまでに強いのだろうかと眺めていると彼の出番がやってきたのと同時に二人が言っていた言葉の意味を瞬時に頭で理解することになる。
彼は天才的だった。
ライカンとは違い、竜弥とも違う。生まれついての実力が彼には備わっているんだということが目に見えていた。それを立証するものとして彼は凄まじい反応速度でゾンビを倒し続けている。それだけじゃない、適切なときに必ず再装填を入れている。なによりも集中力を一切乱すことなく撃ち続けている。彼はこの手のゲームをやりこんでいる。間違いなく……。
「彼はいったい何者なんだい?」
思わず腕を組みながらも恭平のことを後ろから眺めている二人に聞いた。彼という人間が気になり始めていたんだ。
「まあ竜弥のガチファンってところだよ。それも熱烈のね」
「竜弥の……」
彼がゲーム実況者時代幾つもの子供達の間でファンが居たということは僕も知っている。彼もその一人なのだろうが、彼は恐らくその中で飛び抜けた実力者だというの本当に判断できていた。それは結果に表れるようにしてスコアの方を見ると……。
「よしっ!!」
彼は大声を上げるとそこには此処のお店の最高記録を抜かすほどだったのだ。その実力には流石に目を見開いて驚くしか出来なかった。
「流石は恭平やな……」
隣にいる関西弁の彼女が最高記録を叩き出している彼に納得の頷きをしていた。
本当に彼はいったい何者なんだろうか、その謎が深まるばかりでいると竜弥が恭平の頭を撫でているのが目に入っていた。彼は負けたというのに勝者である恭平のことを讃えていたのだ。
「もしかして……彼は……」
一度だけ竜弥から聞いたことがある。
彼の熱烈なファンに関することだ。困っているだとか厄介だとかそういうことではなく、真剣な眼差しを送るようにして自分のことを慕ってくれている少年がいるという話をきいたことがあった……。彼がその少年だという確証はないが、あの様子を見る限り、もしかした本当に彼がその人物なのかもしれない……と俺は確信をしていた。
なるほど、道理で彼は強いわけだ……。
「紀帆、積年の恨み此処で晴らさせてもらったよ」
「やるやないか……まさか此処までやるとは思わなかったで」
「本当に驚いたぞ恭平……」
その後、竜弥がプレイしていたがその記録を抜かすことは出来ないで終わっていた。
◆
「次はこれだ紀帆」
俺はこの前紀帆たちと一緒に競い合った音ゲーの筐体の前に立った。
勝負を決めると言うのならこれが相応しいだろう。
「このゲームはなるほどなぁ、構わんで」
「あのときのリベンジマッチですね」
第三戦目、音ゲー。
この音ゲーの筐体をやってる人が大体強い人の印象がかなりある。ゲーセンに来た頃、後ろからやってる人達のを目で見ていて俺はそう感じていた。実際のところはどうなのかは分からないけど、今回ばかりは自信が少しばかりあった。
「なんや竜弥、自信に満ち溢れた顔しとるやないか」
「そうか?なら期待してもらって構わないぜ」
自信満々なのが顔に出ていたのか俺はそれを隠そうとする。
歯茎を出して負けるなんて事態になったら悲惨でしかないし、恥もいいところでしかないからな……。俺は気を引き締めて目の前にある筐体の前に立ってから百円を入れ始める。
百円を入れたのと同時にやりたい楽曲をそれぞれで決める。
こういうのは大体決まらないで時間が経過することが多いんだが、意外とすんなり決まっていた。選ばれたのは最近流行りのアニメの曲で若干映像が後ろからでも見える為、香織が「おっ」と反応を示していた。
曲が始まり出すと、それと同時にリングが現れ始める。俺はそれを正確に指先で捉えると、軽快な音が響いていた。タップ音と曲が重なっていくと、まるで自分がリズムを作っているような錯覚に陥っていた。
こういうゲームにおいて最も重要なこと、それは速度やタイミングが重要になってくることだ。こんなのは初歩も初歩だろと思われるかもしれないが、こういったゲームで焦りやムキになることは禁物だ。さっき俺は格ゲーで何度か焦っていたがそれは明らかに俺の格ゲーの熟練度不足でしかなかったというのは事実でしかないが、この音ゲーは違うと俺は断言できる。俺はこの音ゲーの曲を熟知しているからだ。最近追加されたばかりの曲となると、流石に難しいがある程度は把握している。
それもあってか、俺はこの勝負はっきりとしたことを言える。
「俺が勝ったんだよな……」
実感が湧かなかった。三曲合わせてやって、この試合勝ったのは俺だったのだ。
まさかあの紀帆を相手にして音ゲーで勝てるなんて夢にも思わなかったからだ。俺が今回勝てた要因があるとしたらそれは間違いなく積み重ねたものがあったからなのかもしれない。
自分という人間に対して一区切りがついた俺は琉藍のおばあさんの店で働いたりすることがあったりしていたがそのバイトを終えた後によくゲーセンに来ては一人で練習をしていた。紀帆に勝つために、上達する為に俺は練習を一人でしていた。その結果がこうして功を期したというなら俺は自分が勝ったという勝利を喜びたい。
自分が勝ったという勝利を噛み締めながらも俺は無言でガッツポーズを決めた後に後ろに立っている三人に俺は手を合わせていた。秀治は俺が勝ったことに少しばかり驚いている様子だったが、他の二人は俺が勝つことを確信してくれていたようだ。
「流石ですね竜弥さん!!」
「ああ……!!」
格ゲーのときとは違って今回は焦ることはなかった。
それが良い結果を生み出したのかもしれない。
「やるやないか、竜弥……。にしても……」
「これだと引き分けやんけ!!?」