傷だらけな多重人格の青年は泥臭くもVtuberとして呼吸をする   作:村上トオル

129 / 179
とんでもない偶然

「確かに言われてみれば……」

 

「どうする紀帆?もう一戦してそれで決めるか?」

 

「ああ、そうやな……!!それで……決め……」

 

 紀帆との最終戦を挑もうとしていた、そのときだった。

 紀帆のスマホから着信音が流れていた。この流れで前にもあったような……。

 

「風夏?どないしたんや?え……?」

 

「竜弥さん、もしかしてこの流れって……」

 

「ああ、凄い見覚えがあるな……」

 

 俺という人間が高校生時代の俺として動いていたときも紀帆との対決中にこうして電話が掛かって来ていたことを思い出す。そのときは亜都沙だったが、今回はどうやら風夏からの電話のようだ。まあ、亜都沙は俺達の後ろでずっと俺達がやっていることを眺めていたからこの至近距離で電話してくることなんてない……。

 

 隣にいる恭平は頭を抱えていた。

 また勝負を持ち越されると言う心配をしていたんだろう。とはいえ、それは俺も同じ気持ちだ。此処まで来て勝負は引き分け、持ち越しなんていうことになったりしたら興ざめもいいところ。

 

「すまん!!竜弥、恭平!!!!今日実はV-Nextの打ち合わせがこの後あったんや!!」

 

「あー!!聞こえない!!聞こえない!!!」

 

 耳を押さえながらも恭平は一生懸命に聞こえないふりをしている。

 

「ほんまにすまん!!また勝負が持ち越しになるのはウチとしても不本意なんやがこればかりはどうしても外せん用事なんや!!」

 

「そもそも僕より年上のくせに打ち合わせとか忘れてゲーセンにいるのってどうなんですか」

 

「うっさいわ!!っちゅーわけで悪いけどウチは帰らせてもらうで!!ほな!!」

 

 急ぐようにして紀帆は下の階へと降りて行くのを俺は目で追っていた。帰る際、後ろにいた三人に挨拶を済ませていた。

 

「持ち越しか……」

 

「竜弥、残念やったな」

 

 後ろで俺達のやっているところを見ていた亜都沙が俺にそう言う。香織は「次週に持ち越しか~!!」と言っているのが聞こえている横で秀治は苦笑いをしていた。

 

「まあ、仕方ないからな」

 

 勝負をまた持ち越されたことに対して溜め息をついている恭平。次の勝負で完全に決まるという段階で逃げられたのが納得できなかったんだろう。俺も納得こそは出来ていなかったが、事情があることを呑み込んで大人になっていた。恭平が言っていたように打ち合わせを忘れてゲーセンで遊んでいたことは擁護できないが……。

 

「どうする?恭平、二人だけで一戦してみるか?」

 

「それも悪くないんですけど、やっぱり紀帆がいるときに三人で戦ってみたいんですよね」

 

「まあそうだよな……」

 

 俺は恭平の意志を尊重した後に、俺は亜都沙達の方へと戻ろうとしたときだった。

 俺の目の前を高校生ぐらいの少女が過ぎ去って行ったんだ。俺はその少女に見覚えがあって声を掛ける。

 

 

「結衣……?結衣!?」

 

 俺がゲームの前から移動して歩き出したときだった。

 ちょうど俺の横ぐらいを通るようにして歩いていたのが結衣だった。目が合った瞬間、俺は結衣の名前を呼んでいた。

 

「お兄ちゃん、どうしたの?お化けに遭遇したみたいな顔して」

 

 結衣の方はきょとんとしていて首を傾げている。

 まるでそんなに驚からなくてもいいじゃんと言いたそうにしているようだった。

 

「いや、お前どうして此処に……」

 

「どうしてってゲームやりに来たんだよ?」

 

「ああ、まあそうなんだが……」

 

 言われてみればそうだ。

 となったのと同時に結衣はよくゲーセンでゲームをしに来ていたのを今になって思い出していた。この三年間、碌な会話どころか会話すらもしていなかった為結衣が今でもゲームが好きなのかとゲーセンに行っているなんてことは知らなかったんだ。

 

「え?竜弥さんって妹いたんですか?」

 

 恭平の言葉に頷いていると、俺達の後ろに居た香織の存在に結衣が気づいたのか挨拶をしていた。

 

「久しぶり結衣ちゃん!!元気にしてた!!?」

 

「は、はい!!香織さんもお元気そうで!!」

 

「私はいつだって元気だよ!!昨日なんてアニメ見て号泣してたところだからね!!」

 

「そうだったんですね!!いやぁ、実は私もつい最近ゲームをしてて号泣しちゃって!!凄いストーリーがいいゲームだったんですよ!!!」

 

「それ本当!!?今度どんなゲームか教えてよ!!?」

 

 香織と結衣は楽しそうに話している。

 

「二人共、仲良いいんやな」

 

「……ああ」

 

 そう言えば、そうだった。

 香織と結衣はいつもこんな感じだった。結衣が一番懐いていたのは琉藍だったけど、その次によく話が合うのは香織だった。琉藍にはよく揶揄われたりして香織とはこうしてゲームの話でお互いに盛り上がっていることが圧倒的に多かったんだ。香織も結衣もゲームが好きだからな……。

 

 

 

 

「あっ、初めまして!!樫川結衣って言います!!お兄ちゃんがいつもお世話になっております!!」

 

 香織との会話を終えた後、元気よくハキハキとした態度でお辞儀を何度もしながらも自己紹介をする結衣。その自己紹介に真っ先に反応を示していたのは亜都沙だった。二人は楽しそうに話をしている。

 

「竜弥に妹が居たのは聞いたことがあったけど本当に居たんだね」

 

「なんかそれだと竜弥さん変な奴じゃないですか……」

 

「いや、そのつもりはなかったんだけどね……すまないね」

 

 何故だが知らないが人を空想の妹の話をしているように言われている。

 秀治は知らないかもしれないが、一度だけ結衣の声がゲーム実況に載りそうになったことがある。ノックもせず俺の部屋に入ろうとしてきて俺は慌てて収録を止めたことでなんとか難を逃れることが出来たが……。結衣は俺のゲーム実況に出せ出せと何度も言っていたが、俺としては妹をゲーム実況に出すのはあんまりという感じだった。

 

「どう?お兄ちゃん、久々にゲームで対決しない?」

 

「対戦か……」

 

「覚えてるでしょ?お兄ちゃん、私に一度も勝てたことなかったの。百九十九連敗してるお兄ちゃん?」

 

「竜弥さんが……!?」

 

 恭平の驚いている声が聞こえてくる。

 その隣にいる亜都沙や秀治も「本当なんだろうか?」と言いたそうにしているが、結衣の嘘でもなんでもなく俺は一回も結衣にゲームで勝てた試しがない。結衣の方が後からゲームを始めたのに全く勝てなかったと思っていた時期もあったが、どうやらゲーセンで遊んでいたこともあって始めたのは俺よりかなり前だったらしい。

 

 それもあってというより、結衣は本当にゲームに対する呑み込みがかなり早い。

 どんなゲームでもチュートリアルや説明書があるゲームを読み込んでしまえば、すぐにでも適応できてしまう。俺のようにホラゲーが苦手と言う事もない為、本当に万能型であり才がある人間と言っても過言ではない。

 

 だからこそだ。

 俺は結衣に全く勝てた試しがない。俺が百九十九連敗しているということは誰も知らなかったからか、香織ですらも驚愕していたほどだった。

 

「どうするお兄ちゃん、久々のゲーム対決する?」

 

「……ああ、二百戦目の今回で結衣に一泡吹かせてやるよ」

 

「ふーん?負けて赤っ恥掻くことになっても知らないよ、お兄ちゃん?」

 

 紀帆の対決とはお預けになってしまったが結衣とあのとき以来の勝負を出来るというのは悪くはない。俺と結衣は音ゲーの筐体の前に立ち、結衣が指定する曲を選ぶ。指定された曲はボカロ曲であった。結衣は確かこの曲をかなり好きだと言っていたのを俺は思い出しながらも譜面が始まり出していたが、俺は隣から発されているプレッシャーに押しつぶされそうになっていた。

 

 格ゲーやレースゲームでこういうことってのは偶にあったりするが、音ゲーをしていて隣から尋常じゃないほどのレベルの魂を感じさせる相手というのは本当に初めてだった。俺はこのとき本能で理解した。

 

 

 

 樫川結衣は本当(ガチ)のゲーマーだということを……。

 

 自分の妹が此処まで強くなっているということを喜ばしいと思う反面、冗談じゃねえという気持ちしかなかった。隣にいる結衣は無邪気な笑みを浮かべながらも、その目はキラキラと輝かせている。それはゲームの内容を越えて、何か純粋な喜びそのものを体現しているように思えたが俺はそれで思い出したことがあった。

 

 結衣のことをゲーマーだと思ったのはこれが初めてではないということを……。

 結衣は昔からゲームというのを一瞬の本能的な幸福として楽しむ特別な力が宿っていたことを……。俺はそれをいつも隣で感じていたことを……。そして、一緒にゲームをしていて俺の方まで気持ちが軽くなることを……。

 

 

 

 

 結果だけ伝えるのなら俺は結衣に全く勝つことが出来なかった。

 二曲目の時点で結衣のスコアを全く抜かせなかった。結衣のスコアはどれも最高記録とほぼ同列なものばかりで手が届く次元とかそういうものでは全くなかった。

 

「これは流石に凄いな、此処まで竜弥が惨敗するなんて……」

 

 こうなるということがかなり想定外だったのか、秀治はこの結果に唖然としていた。

 亜都沙も恭平、この事実に目を疑っていたが香織は結衣の実力を知っていた為、特に反応はしめしていないどころか「流石結衣ちゃん」と拍手をしていた。

 

「それにしても凄いなぁ、まさか此処まで強いとは思わなかったで」

 

「俺もそれについては同意だね、結衣と名乗っていたね。強くなるために誰か参考にしていた人でもいるのかい?」

 

「えっと、参考というよりは実は凄く尊敬しているVtuberさんが居るんです!!」

 

「へぇ……じゃあその人のおかげで強くなったっていうことなのかな?」

 

 強くなれた理由を知ろうとしている秀治に対して、恭平は尊敬しているという言葉に耳を傾けていた。自分と似たような人間がいるというのが嬉しかったんだろう。

 

「はい!!名前は……浜羽サユさんです!!」

 

「へぇ……あいつが……あいつがねぇ……あいつかぁ……あいつなんだ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁぁ!!?浜羽サユ!!!?嘘でしょ!!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「後は神無月ロウガさんとかですかね……?」

 

 

 

 

 

「は!!!!?お、おr「馬鹿、声がデカいで!!!」」

 

 やばい、俺は……言ってない。

 妹に……。

 

 

 

 Vtuberをやっていることもそうだが……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 神無月ロウガだということも……。

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。