傷だらけな多重人格の青年は泥臭くもVtuberとして呼吸をする   作:村上トオル

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楽しくないもの

 かなり戸惑っていた。

 まさか自分の妹の口からVとしての俺の名前が上がるとは全く想定していなかった。サユの名前が挙がるのは全然確かに……ってなるけど、その後に俺の名前が出るとか想定なんて全くしていなかった。仮に他に名前が出るてしても恭平というか奏多とかが名前に出ると勝手に思っていた。此処で自分の名前が出るというのは本当にお化けに遭遇したときぐらい仰天するほどの内容でしかなかった。

 

 とりあえず俺が神奈月ロウガだということをバレないようにしなければならない。別にバレたって構わないが今この場で俺が神奈月ロウガだと発覚してしまうことは色々とまずい。

 

「結衣ちゃん、神奈月ロウガを尊敬してるの!?」

 

「そうなんです!!駄目ですかね?」

 

「いや、駄目ではないし寧ろあいつは全然いいと思うけどなぁ……」

 

 香織が俺を横目でチラッと見ながらも「やばい」と言っている。俺は全く落ち着けるような状況じゃなかった。自分の妹に尊敬していると言われるのは悪い話どころか良い話なのだが、本当にこの場でバレるのはマズイしなによりも俺が神奈月ロウガだとバレたりしたら色々と結衣が反応をするに決まっている。結衣のことだからいい意味での反応を示してくれるのは間違い無いんだがどうにも先ほどの俺みたいに声が大きくなるのには間違いない。

 

 どうにか普通に話そうにも俺は自分という人間を尊敬しているなんてあまりにも突然過ぎること、意表を突かれたのもあって俺はまともな思考回路なんて出来る状態ではなかった。そんな状態に先ほど俺の声を遮って止めてくれていた亜都沙が事態をなんとかしようとしてくれていたのが耳に入って来た。

 

「な、なぁ結衣ちゃんはなんしてサユのことを尊敬しとるんや?やっぱゲームが上手やからか?」

 

 これだ、こうやって俺の話題から逸らしていくことでなんとか難を逃れることが出来る。

 この方法なら確かに俺の話題が出てくることもないはずだ。俺は言葉を発することはなかったが、亜都沙に「ありがとう」と唱えていた。

 

「勿論、それもあるんですけどやっぱりゲームへの反応がピカイチなんです。大阪の人ということもあるのかもしれませんが、ゲームの展開や台詞に突っ込みを入れて笑ったり感動したりするところが本当にゲームが好きなんだというのが伝わって来るんです。楽しそうにゲームをやってくれるというのも一つの理由ですね。後、神無月ロウガさんもサユさんと同じで楽しそうにゲームをやってくれるのは勿論なんですけど、あんまり過激な発言をしたり人を不快にさせる言動をしたりしないのが強みだと思うんですよねぇ、それこそゲーム実況者さんの坦々さんを彷彿とさせるんです」

 

 黙り込んでしまう亜都沙。

 本人的には俺に助け舟を出したかったつもりだったが、まさかそのまま俺の話に流れてしまったようでそのまま俺に「すまん!!」と言う視線を送ってきている。

 

「良かったじゃないか、竜弥」

 

「この状況で良かったなんて言えるのは秀治だけだろ」

 

「そうかい?キミの妹はしっかりとキミのことを尊敬してくれているし、思い入れもありそうじゃないか。あのぐらいの歳の妹なら普通は兄のことを敬ったり、慕ってくれるのは中々にないからね」

 

「まあ、それもそうかもしれないが……」

 

 言いたいことは全然分かる。

 結衣ぐらいの歳の子なら反抗期となって俺のことを邪険に扱うことは多いはずだが、結衣にはそれはない。それは中学生の頃からそうだったし、今も特に変わることがないんだろう。そういうところは素直に嬉しいんだが、やはり自分の妹に褒められるというのはどうにも気恥ずかしいいものがあると結衣の方からそっぽを向いていると、恭平が塞ぎ込んでいる。

 

「きょ、恭平どうしたんだ?」

 

「竜弥さん、自惚れるつもりはないんですけど僕もゲーム上手いのに名前が挙がってないんです……」

 

「あーまあ、それは確かにそうかもしれないが単に結衣が見てなかったりするかもしれないだけからあんまり気にする必要はないだろ?」

 

「そ、そうなんですかね……。僕最近はかなり名が知られていると思ってたんですけど……」

 

 自分の言葉で自分を落ち込ませてしまう恭平。

 彼のことをなんとか宥めようとしながらも俺は結衣に確認する。

 

「青空奏多……のことはどう思ってるんだ結衣?」

 

「奏多は確かにゲームが上手いけどその下ネタとかすぐに言うところはちょっとなぁ……」

 

「ほら~!!やっぱり……」

 

 結衣は完全に濁していたが実は下ネタがあんまり好きじゃない。

 奏多との相性が悪いのはそういうことなのかもしれない……。

 

「お、おい……そんな落ち込むことちゃうやろ……。割と事実やろ」

 

「擁護してくれるのかと思ったら、追い打ちかけてくるのやめてくれません!!?」

 

「ま、まあ……あの子(恵梨)にも苦言呈されるぐらいだし……」

 

「誰のこと言っているのか分かるんで勘弁してください香織さん……」

 

 全く知らなかったが、恵梨は恭平にそういうところを治せと言っているのを俺は後に知ることになる。香織はそれを知っていたようだ。一応恭平の名誉のために言っておくが、最近は言う回数も減って来ているが、それでも偶に言ってしまう為切り抜かれたりしていることが多々ある。それもあって、結衣はあまり得意じゃないんだろう青空奏多のことが……。

 

「い、いやあの……本当にゲームは上手だしゲームに対する情熱も人一倍あると思うんですけど、やっぱり私はその……はい」

 

「余計に刺さる!!」

 

「……?」

 

 恭平の反応に困惑している結衣。

 香織はそれを「気にしないでいいよ」と言いながらも、恭平のことを慰めながらも注意していた。これ以上反応したりしたら恭平が青空奏多だということがバレるからだ。というか、この状態でバレてないのは少し面白いが……結衣はあんまりこういうのすぐ勘づくタイプでもないしな……。そこは本当に不幸中の幸いか。

 

「じゃあお兄ちゃん、私はゲーム続けてるけどどうする?もう一戦する?」

 

「いや、俺はそろそろゲーセンから出るよ。今は此処にいる関西弁の女性とそこで項垂れている子と一緒に秋葉を満喫しに来ていたからな」

 

「ん?そうだったんだ?なんかごめんねお兄ちゃん、邪魔しちゃって」

 

 気を遣ってくれているのか、俺に対して謝って来る結衣。

 こういうところは本当に俺以上にしっかりしている子だ。

 

「あー全然気にすんなよ結衣、俺も久々に一戦出来て楽しかったからな」

 

「なら良かった!!じゃあねお兄ちゃん!!」

 

「ああ、じゃあな!!帰り道迷うなよ」

 

「もうそんなことしてないってば!!!」

 

 俺達は結衣と別れた。

 恭平以外を除いて香織達もまた結衣と挨拶を済ませて俺達と一緒に下の階へと降りて行った。

 

「それじゃあ私も行くね、竜弥!!あんまり千里ほっぽり出して他の女性と遊んでると密告しちゃうからねー!!」

 

「お、おい。それはマジで勘弁してくれ。というか亜都沙はただの友人だ」

 

「はいはい、分かってるって!!亜都沙もぬいぐるみ大事にしてねー!!ガチファン君は……がんば!!秀治だっけ?そっちもじゃあねー!!」

 

 彼女らしく俺達に大きく手を振りながらも別れを告げて行く香織。

 亜都沙は「おおきに!!」と言っている声が聞こえるなか、俺の隣にいた恭平は小さく反応を示しているなか、秀治は全く何も言わずにただ固まっていた。去って行く香織の姿を見送りながらも俺は秀治の方へ目を向ける。

 

「秀治、どうしたんだ?」

 

「……いや、なんでもないよ。それじゃあ、俺も帰らせてもらうね」

 

「……?ああ、じゃあな」

 

「ああ、またね竜弥。そして二人もまた何処かで」

 

 挨拶を済ませて秀治は歩き出していた。

 

「悪い二人共……ちょっと秀治を追いかけてきていいか?」

 

「ん?ウチはかまへんけど?」

 

「僕も全然構わないですけど……どうかしたんですか竜弥さん?」

 

「ちょっと気になることがあってな……」

 

 昔の俺だったら此処で気のせいだとか今は聞くべきじゃないとか言っていたかもしれないが、どうしても秀治が先ほど固まっていた理由が気になって仕方なかった俺は二人の許可を取って秀治のことを追いかけだした。

 

 

 

 

 

 

 

「秀治……!!」

 

「竜弥……?どうして此処に?さっきの二人はどうしたんだい?」

 

「二人には断りを入れて秀治を追いかけて来たんだ、ちょっと聞きたい事があるんだけどいいか秀治?」

 

「……キミには敵わないな」

 

 俺は秀治のことを秋葉原駅前まで追いかけていた。

 何度も名前を呼んでいたが、秀治が反応することはなかった。魂が抜けたように歩き続けている秀治が気になってしまった俺は彼の肩を掴んでようやく秀治が気が付いていたんだ。

 

「竜弥、さっきのキミの妹や紀帆、恭平。そしてキミを見て思ったんだ。俺はなにをしているんだろうと……」

 

「秀治……?」

 

「今まで色んなゲームをしてきたし、手に汗握るような体験だってしてきた。忘れられない思い出だって幾らでもあるけど、俺には情熱というものが無くなっているとみんなの対決で実感した」

 

 俺は秀治の言っていることの答えが見つからなかった。

 ひたすらに遠回りしようとして言葉を出そうとしていない秀治に俺は痺れを切らすようにして今の言葉を言ってしまっていた。

 

 

「竜弥、俺は最近……ゲームが楽しくないと感じることの方が圧倒的に少なかったんだ。でも、今回キミ達がゲームをしているところを見て分かった気がするんだ。俺は……まだゲームというもの自体が好きだということを……」

 

「秀治……」

 

「変な話だね、ゲーム実況を始めた頃はそういう大事なものを背負っていたはずなのに今となっては忘れてしまっていた。楽しいという感覚よりやらなくちゃいけないという感覚の方が強かったんだ」

 

 秀治の言っていることはある意味宿命なのかもしれない。

 ゲームが好きなだけだった人間がゲーム実況を純粋な気持ちで初めて見ていつの間にか使命感という鎖に囚われ続けている自分に移り変わってしまうときがあるのは無くはない話ではないのだから。

 

「キミ達の熱いゲームプレイを見れて本当に良かった。僕はまた純粋な気持ちでやれそうだよ。それじゃあ、竜弥……。恭平や亜都沙だったかな?二人によろしく伝えておいてくれ」

 

 改札の方を通ろうとしていく秀治の背中を見ながらも呼び止める。

 

 

「秀治……!!」

 

 呼び止められた秀治は足を止める。

 

「俺と一緒にいつかゲームしようぜ!!そんで勝った奴が……」

 

 

 

 

 

「ラーメン奢るってのはどうだ!!?」

 

 

 

 

 

「変わらないなキミは……。いいよ、その勝負……」

 

 

 

 

 

 

 

「受けて立つよ」

 

 

 

 

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