傷だらけな多重人格の青年は泥臭くもVtuberとして呼吸をする 作:村上トオル
いつからだろうか……。
俺がゲームを楽しめなくなってしまっていたのは……。竜弥と出会った頃は俺はいつも楽しくゲームをしていた。ゲームセンターに二人で一緒に行ってはよく格闘ゲームのところで二人で楽しく喋りながらも話をしていた。
学校のこととか、新作ゲームとかの話で二人で盛り上がっていた。歳も同じだし、好きなものも大体似ていた竜弥とは一緒にゲームをやるという時間が楽しくて仕方なかった。
『キミがゲーム実況者の……あーいやこういうリアルの場ではあんまり名前を出すのは良くないね。名前を教えてくれないかい?』
『樫川竜弥……そっちは?』
『杉森秀治、よろしく頼むよ』
竜弥との出会いはSNSのDMでのやりとりからだった。
ゲーム実況者だった頃の竜弥はあまり他のゲーム実況者との縁というものが無かった為、唯一があったのは俺ぐらいだったと思う。そんななか、俺と秀治はいつもSNSで周りから見れる場所でお喋りしているときもあった。それを見られていつかこの二人コラボするんじゃないか!?とか言われたりすることもあった。それ俺達は微笑ましく思いながらも眺めながらも、一緒にラーメンを食べて替え玉早食い競争をしていた。
大体いつも竜弥が先に限界に到達してしまうこともあったけど、何度かだけ竜弥が完食することもあった。負けた方が全額支払うと言う悪魔的なものだったが、竜弥が払うことが圧倒的に多かった為、彼は渋々払っているのを見ながらも「いつも悪いね」と言っているのが俺だった。二人で喋りながらもこうしてラーメンを食べたりゲームをしたりすると言う時間は本当に楽しくて仕方なかったけど、その時間は長くは続かなかった。
『そうか、竜弥は……辞めるんだね』
事後報告で竜弥からゲーム実況者を引退するということを聞かされた。
竜弥がゲーム実況者を辞めてしまった件は俺は仕方のないことだと認識していたし、寧ろ大変喜ばしいことだとすら賞賛していた。彼はしっかりと社会という未来に向かって真剣に向かおうとしていたのだから。
ただ……。
本当のところは……彼と一度ぐらいコラボしてみたかったという気持ちはあったし、お互いに「それが出来ればいいな」と言っていた時期もあった為、少し残念だったがそれもあのとき叶うことが出来た。ただ俺は本当にあのときのことをずっと悔やんでいる。竜弥は俺に気にする必要はないと言ってくれていたけど、俺がちゃんとゲームの運営をしていなかったから竜弥が炎上する事態になってしまった。
あの事態があったからこそ俺は……ゲームというものが楽しいと思えるようになったのかもしれない。友人だと思っていた竜弥のことを炎上させてしまい、彼の周りにいた者達は鎮火を図ろうとしていたけど俺にはそこに加わることが出来なかった。自分の立場があるからのもあったが、怖かったから。
「いや、違うな……」
竜弥の炎上じゃない。
俺がゲームを楽しくないとなり始めていたのはこれは紛れもなくゲーム実況者なら誰もが感じることの特徴なのかもしれない。俺はゲームというものを義務感や使命感の下でやっていたのかもしれない。それをするのが当たり前だから、それをするのが日課だから。そんなふうだけならまだマシだったかもしれないが、俺はそういう使命感や義務感という檻に囚われて楽しくなくなっていた。
一人でゲームセンターに行っても、ただ自分が勝ったり負けたりするだけの繰り返し。そこに喜びも楽しさも浮かばない。意味のないただ惰性だけでやっていることにどれだけの意味があるのだろうか。意味ならない、そんなことは俺にも気づける。だからこそ、だろう。
紀帆や竜弥、結衣、恭平がゲームをしているところを見たとき俺は自分という人間がゲームというものに再び虜にされていた。紀帆に負けたときは何も悔しいとか感情が湧かなかったのに後ろから竜弥のことを応援してしまって浮き足立っている自分がいた。周りから見れば大の大人が人がゲームをしているところに対して熱狂的になっているなんて異常者なのかもしれないけど、竜弥がゲーム実況者時代に言っていた言葉を引用するなら……。
『ゲームをするのに、楽しさを味わうのに年齢なんて関係ない』
あの言葉は俺は聞いたときはいい言葉だと頷いていたが、まさか自分がその適応される人間になるなんて思いもしなかった。竜弥、本当にキミは凄い奴だ……。実力は確かに紀帆達には及ばないがキミの人間としての在り方は本当に素晴らしいと俺は思う。
だから、キミとの約束は必ず果たす……。
二人で美味いラーメンでも食べに行こう。そして、勝つのは……。
俺だよ竜弥……。
「悪い恭平、亜都沙……!!」
「全然構わんで?話せたんか?」
「ああ……!!」
恭平が横で「僕も構いませんよ」と言っているのが耳に入っていた。
二人は俺が秀治を追いかけていたことを特に気にしていなかった。勝手に飛び出してしまったことは本当に悪いと思っていたけど秀治を追いかけて正解だった。秀治は改札の前を通ろうとしていた際、いつものように爽やかな笑顔を見せていたから……。
「それじゃあ、竜弥さん達の一件も終わりましたし次は向こうへ行きませんか?」
「おお、それはええな!!案内してくれや!!」
恭平の案内の下、亜都沙と恭平が歩き出していた。
俺は二人の後ろ姿。特に恭平の後ろ姿を光のように感じながらも俺は二人の後を追いかけていた。
あのとき俺は亜都沙に約束したように俺は亜都沙に秋葉原というものを案内していた。まあ、大体案内してくれていたのは恭平だったような気もしていた。どうやら恭平は近頃の秋葉原事情には割と詳しかったようなので俺も助かったりしていた。
嬉々として秋葉原を案内してくれていた恭平。
あのとき、恵梨に叱咤されて俺に越えていると言われていた彼の姿は本当に眩しく光り輝いていた気がしていた。それほどまでに俺にとって恭平と言う人物が大きな存在だったんだ。最初は本当に小さなものだったかもしれないが、大きな実へと成長していったように……。
そして、亜都沙……。
亜都沙は俺に今一度仲間というものを教えてくれていた。そういうものは高校生のときに卒業していたつもりだったのに俺にまた仲間というものが悪くないと再確認させてくれていた。亜都沙は本当に俺の一つ歳上だというのに精神的にも大人だというのを少し羨ましく感じながらも俺は二人と居る時間が短い時間のように感じてしまっていた。良いことというのはどうしてこうも短く感じてしまうんだろうか。悪いことは長く感じるというのに……。
「じゃあなやで竜弥……恭平……!!次はああいう店行ったりするのも良さそうやな!!」
「いや、俺は行かないぞ……」
悪戯に笑いながらも亜都沙が言うと、俺は困惑していた。
「冗談やで!!今度は神社巡りでも手伝ってくれや!!それじゃあ竜弥、恭平!!また!!」
「ああ、じゃあな亜都沙……!!」
「はい、亜都沙さん!!」
秋葉原散策も終えた俺達は駅の改札の前で恭平と一緒に亜都沙へと別れを告げる。
あのときよりも短めな別れの挨拶だったが、今の俺達にはこれ以上の言葉は不要なのかもしれない。亜都沙が見えなくなるまで俺は見送った後に俺達も改札を通ろうとした際だった恭平がこんなことを言い出していた。
「竜弥さんって、コンカフェ興味あったんですね」
「……ないぞ、本当にないぞ」
恭平にまでコンカフェが好きという疑惑を押し付けられながらも、俺は改札の中へと入って行った。本当、どうしてこうも俺は勘違いされることが多いんだろうか。いや、煩悩まみれの俺が悪いんだろうが……。
次の日……。
俺は事務所に呼ばれていた。
「竜弥……!!lこっちこっち!!」
「香織……今日はコラボって聞いていたんだがどんな内容なんだ?詳細あんまり聞かされてなかったんだが?」
事務所に呼び出されたのはどうやら俺だけだったようだ。
元々、今日は香織……ハクとのコラボ予定があったのだがコラボの詳細をあまり聞かされていなかったのだ。コラボ詳細を教えられていないというどうにも嫌な予感が拭えない状況のなか、俺は香織の次の言葉でそれが確信へと変わる。
「よく聞いてくれたね竜弥!!今回のコラボはなんとね……!!」
「オタクがオススメするゲーム紹介配信だよ!!!あれ?竜弥、どうしたん?なんで顔青ざめてるの?」
「あーいや、なんでもないぞ……」
この時点で嫌な予感が的中していたことに頭を抱えそうになっていた。
それは何故かと言うと……。
絶対に面倒なことが起きると手に取るように分かるからだ……。
「このキャラとキャラの関係性が凄いてぇてぇなの!!?ねぇロウガ!!?この良さ分かるよね!!?」
「……あーはい」
「え!?本当に分かってる!!?ほら、よく考えてみてこの二人って何十年も会っていなかったのにお互いのことを思い続けていたんだよ!!?でも、それをお互いがお互いの知るところで知らないままに誰かが知ってるけど本人達は知らないんだよ!?エモくね!!?」
こうなるって分かってた……!!!