傷だらけな多重人格の青年は泥臭くもVtuberとして呼吸をする 作:村上トオル
「いやぁ、ロウガ君……!!こうして直接コラボするのは初めてだよね」
「あー言われてみれば確かにそうですね」
今までお互いに話をすることもあっても単独コラボというのはこれが初めてだった。
直接絡みがあったのはあの何でもできるゲームのときと次に色々と波紋を呼んだカップリングの奴とかぐらいだったから本当に二人だけでコラボするというのは初めてだ。
「城崎先輩……と呼んでもいいですか?」
「先輩?良い響きだねぇ、あーでも呼ぶならハク先輩でいいよ。苗字呼びだと少し堅苦しいからさ」
「分かりました、よろしくお願いします。ハク先輩」
「うん、よろしくねー!先輩呼びって本当にいいなぁ!!」
俺の「先輩」呼びにハクは来るものがあるようで喜んでいるようだった。
そんなハクの様子を見ながらも彼女が良い意味で変わっていないと実感していた。同時に不安もあった。それは……今回の題材を読ませてもらったときに俺は「やばい」と予感していた。何故やばいのかはハクは興奮しやすいからだ。
あのカップリング配信ではどちらかと言うと振り回されまくって不憫なところが多かったハクだったが俺は彼女と言う人間を知っている。ハクというか……香織は常識人ではあるのだが自分が好きなものに対しては興奮しやすい体質だということを……。
興奮するだけならまだマシだけど、それ以上に琉藍に「五月蠅い」と言われていたことがある。
それは彼女は興奮し過ぎると物凄く早口になって情熱的にそのことについて語り出してしまう癖がある。好きなものに対して熱くなってしまうというのはとても良いことなんだが、香織のは全く止まらなくなってしまう。
俺はいつもその語りが止まらない香織に対して頷いたり、質問をしたりしてしまう為余計に香織が止まらくなってしまう。今回は配信ということもあって視聴者も見ている為、ハクの視聴者は慣れているだろうが俺の視聴者が何処までついて来れるかが本当に不安でしかない。
一応もう一度だけ念のため、言っておくが俺は香織の好きなものについて語るところは好きだし、作品に対する理解度の高さも高くて俺は意気投合したことも多々あったが、本当に話が長くなってしまう。それだけが本当に懸念点だった。
「ねぇロウガ君聞いてる!?この二人の関係がね、凄くてぇてぇでねぇ!!」
案の定、ハクは暴走を始めてしまった。
正直に言うが俺はこの暴走を止め方を全く知らない。琉藍がよく「聞いてないから」と言って辛辣な言葉を投げかけていたことがあったが、俺はそんなことを言える訳がなくどうすればいいのかと悩んでいる訳でもなかった。と言うのも……。
俺とハクは意気投合していたのだ。
自分が好きな作品だからこそ同じような意見を述べたり感想を言ったりしていたんだ。その為、ハクの独り言だらけになることはなくお互い会話が成立していたんだ。
「ご、ごめん竜弥……!!」
配信を終えた後、香織は手を合わせながらも俺に謝罪をしていた。
「私凄い一人で喋ってたような気がして……本当にごめん!!」
「気にしなくていいぞ香織、俺の視聴者側は少し困惑してたみたいだけどエゴサしても楽しかったって言ってる人達が多いからな。それに俺は香織のゲームに対する熱意は好きだし、全然構わないぞ」
「ほ、本当!!?竜弥ー!!ほんとにありがとう!!」
この世の喜びを手に入れたかのようにして香織は大はしゃぎする。
香織の中であの配信は自分でやり過ぎてしまっていたという自覚があったようだ。何度も言うようだが、俺のところの視聴者が困惑していたと言うのは事実だ。具体的にどんなふうに困惑をしていたのかと言うと、香織の軽やかな早口口調で喋るというところ、彼女が作品の内容やキャラのことについて語る際情緒があっちこっちに行ったりする為、困惑する視聴者が続出したという状況になっていた。
ただ熱量と勢いの凄まじさ、なによりも作品の奥深さをちゃんと把握している彼女に感激している視聴者も多く見受けられていたが……。俺の視聴者は本当にゲームをこよなく愛している奴らが多いからそういうVがいると嬉しいんだろうな……。だから、香織が困惑されていたのも最初の方だけだった。
それを香織に伝えると、香織は更に大はしゃぎながらも喜んでいる。
此処が事務所だということを忘れながらも……。
◆
「ふふっ……私は今世紀最大の企画を立ち上げているかもしれない……!」
姫咲香織は今、とんでもないことを計画していた。
これまで私は色んな企画を立ち上げて実行してきた。そのどれもが成功してきたかと言われたら頷くのは難しいかもしれないけど、今回の企画は一味も二味も違う。
「ゲーム大会か、悪くないな」
「うぇぇぇっ!?瑛太!!?」
竜弥を事務所が入っているビルの前で別れた後、私は事務所の中に戻ってパソコンを勝手に借りて企画書を書き上げていた。勝手に会社のパソコンを使って企画を立ち上げていたなんてバレたら瑛太に締めあげられるかもしれないと思って、急いで隠そうとするが瑛太が「おい、なんで隠す」と言われてしまう。
「い、いやぁ……。だってさ、私事務所のパソコンを勝手に使って企画を立ち上げてた訳じゃん?それって怒られない?」
「怒られたいのか?」
「いや、絶対怒られたくないよ!!?それに今回の企画は滅茶苦茶自信あるし!!?」
こんなにも豪語できるほどの企画なのかと言われたら、ちょっと黙り込んでしまうかもしれないけどこの企画の内容は誰もが気になるものだろうと私は個人的に思う。何故なら、この企画に載せられている三名のVの名前は突出している部分があるからだ。
「確かに此処に名前を載せられている三名全員が対峙したとき誰が一番強いかと言うのはかなり気になる話だろう。しかし、よく企画を立てようと思ったな」
「まあ、色々あったからさ……」
あのとき私はあの三人……いや正確には四人だけどあの四人がゲームをしているところをこの目で噛み締めて私は確信したことがある。あの四人の実力をこの手で確かめたいと……。もう一人の子の実力も試してみたいけど、あの子は流石にVじゃないし一般人を巻き込む訳にもいかないだろうし……。
「それでこの立ち上げた企画……。何時頃、実行する予定なんだ?」
「ん?そりゃあ、五日後だよ?」
「……ちゃんと他の連中にも連絡は取りつけたのか?」
「それなら全然大丈夫だったよ、他の三人に聞いたら速攻了承してくれたしさ」
「なるほどな……。なら、俺から言うことはもうない。俺も個人的にはこの企画、かなり興味があるからな……」
瑛太ですら気になるこの企画、いやきっと誰もが気になるこの企画……。
その中身に触れるとするならば、少し長くなってしまうけど教えてあげることは出来るよ。この企画書の名前は……。
『最強決定戦!!勝つのは誰だ!!?』
簡潔でありながらも、内容はゲームによる対決でそれぞれが競い合う内容となっている。
五本勝負で多く勝った者が最強の称号を手に入れることが出来る。この話を言ったとき、三人はすぐに了承してくれたしこれから起きる勝負に燃えているとも言ってくれていたよ。
「さてと……」
此処まで勿体ぶっていたけど、参加者の三名について名前を教えよう。
まず一人目は浜羽サユ。同期の神代マナ以上のゲームの実力を持っていてそれでいてプロ顔負けレベルの実力を持つ彼女がこの最強決定戦にどれだけ爪痕を残すのかは本当に見物だよね。
そして、二人目は青空奏多……。
もうじきプロになれるかもしれない!?と言われている彼がこの勝負でどんなふうな神業を見せてくれるのかもうこれは期待をするっきゃないよね!!?
最後に三人目は……神無月ロウガ……!!
私が最強に知っている後輩であり、盟友。ゲームの知識に関してはズバ抜けていて最強レベル。幾多のゲームをしてきた人間だからこそ判断できるものもきっと多いはず……!!
役者は全員揃った。
これが参加者の三名。あのとき、次週に持ち越されたけど今回の配信ではもうそれをさせる訳にはいかない。これで本気の実力を見ることが出来るんだから……。
「さぁ、私を……視聴者を……楽しませてよ……!!」