傷だらけな多重人格の青年は泥臭くもVtuberとして呼吸をする   作:村上トオル

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覚醒し始める狼人

 俺は今物凄く頭を悩ませていた。

 このゲームが第二戦目だということはこの大会を承知したときから、知っていたけどそれでもいざこのゲームがというよりこのジャンルが第二戦目に選ばれるという事態がかなり危機的状況を生み出すことになっていることには違いない。

 

 きっと今頃俺の視聴者やNoAさんも同じことを思っているだろうけど、今一番どうにもならないとなっているのは俺自身だった。

 

『はぁ!!?あのさ、もっと伝わるように言ってよ!?』

 

 俺は謎解きゲームや頭を使うゲームは昔から苦手だった。

 昔のゲームで伝わるように言うなら、水位を上げたり下げたりするとかそういう単純作業でもう頭が熱を放って固まってしまう事態が多かったのだ。その度に視聴者にネタバレコメントだったり指示コメをされることが多かったけど、こればかりは仕方なかった。何故ならそれをして貰わないと全く進めないから。

 

「このテトラというゲームなんですけど……」

 

 マナの解説が耳に入って来る。

 はっきり言って、このゲームに解説とか必要なのだろうか。簡単に言ってしまえば、落ちて来たブロックを同じ色で揃えつつ消して行くという作業でしかないというのに……。他人事みたいに聞こえるし、言っている場合じゃないんだけど俺そういうゲームがまず苦手なんだけどね……。

 

 

 

 

「どうすればいいんだよ……!!」

 

 そして、ゲームが始まっている。

 ぶっちゃけこの戦い、俺に勝ち目なんてあるわけがない。此処で勝てたりしたらはそれはもう奇跡と言ってもいいかもしれないけど、そんなものは神社に毎日参拝してお願いごとをしようともきっと起こるわけがない。

 

 言っておくけど、俺だってやり方が知らない訳じゃない。

 このテトラというゲームにおいての基本戦術というか基本的なことを言うとしたら、決して隙間を作ってはならないということと平坦を意識するということだ。隙間に関しては後で消すのが難しくなるし、平坦はフィールドをできるだけ平らに保つことが重要だったりするからだ。

 

「あっやばい……」

 

 基本的な戦術な話をTスピンを覚えたり、4ライン消しを狙ったりすることがいいらしい。

 ぶっちゃけこの辺は普通に知っているけど、そんなことを意識しながらもゲームなんて出来る訳ないだろと物申したい。世の中のゲーマー達は、そんなことを計算しながらもパズルゲームをしているの?俺には無理……のままでいいんだろうか。

 

 

 

 

 

 

 僕は壁に飾られているあのサインを一瞬目で見る。

 自分が今こうしてプロを目指したい、なってみせると誓ってどれだけの年月が経っただろうか。三年という月日は自分の中でどれだけ消化できるものだっただろうか。きっと数年なんていうのは割とあっという間という感覚があるかもしれない。両手を広げている状態にして握り締めながらも俺は自分に実感させる。

 

 この三年間、サユやマナ……。

 メアやロウガさんといった人達。今まで戦ってきた人達、仲間達が俺のことを強くしてくれていた。それはお互い強くなるという向上心があったからこそ強くなれたと僕は強く言うことが出来る。そして、この最強決定戦だってそうだ。この戦いで俺は更なる成長を成し遂げてみせたい。自分が強くなったという認識させたい。それなら、俺がやることなんて一つだ。

 

 

 

 この大会に勝ち上がってみせる。

 ただそれだけだ……。だったら、こんなところでパズルゲームに思考をおかしくされている場合じゃない。頭が霧の中だというのにその霧を晴らして見せればいい。背伸びして届くなら背伸びしてでもこの二人に追いついてみせる。俺はやってみせる、苦手を克服してこそのゲーマーだから……!!

 

 

 

 目を見開き、俺は目の前にあるモニターをしかと焼き付ける。

 先ほど自分が言っていたことをもう一度頭の中に叩きこむ。このゲームは至って簡単。同じ色のブロックを揃えて消失させていく。そして、その大会の第二戦においてはそのスコアが高い奴が勝利となる。五本勝負であるこの決定戦は一つの勝利が勝ちに確実に繋がる。

 

「負ける気はない……!!」

 

 勝利への渇望を終わらせることはなく、適格な判断の下で俺はブロックを置かせていた。隙間もなく、凸凹もなく自分が言っていた通りの戦略を実践している。そこにはもうかつて自分が頭を使うゲームに対して悩ませている姿はなかった。今の自分はただ勝利という欲望に対して欲求を得ようとしているだけだった。強欲に得ようとしているその姿は少し滑稽だったかもしれないけど、俺は負けるつもりはなかった。

 

 相手はロウガさんやサユ。

 手を抜くなんてくだらないことをするのは普通に失礼だし、俺はゲームで手を抜くのは絶対に嫌だ。だからこのゲームは……。

 

 

 

 

 

「俺の勝ちだ……!!」

 

 勝負の決め手になるものがあるとしたらとか言われたら……正直俺にはなんて言えばいいのか知らない。実際、この後俺はハクさんにインタビューをされたけどまともな回答が出来なかったけどそれでもこう答えることは出来た。

 

「俺が勝てたのはロウガさんやサユのおかげです……。二人のゲーマーとしての強さを見て更に強くなろうと成長しようとしたんです」

 

 なんともパッとしない答えだったかもしれないが。コメント欄が湧いてくれるのを期待するしかなかった。本当にこの第二戦目は勝つことしか頭になかったけど、この試合に勝つことが出来たのは本当に良かった。でも、もう暫くはパズルゲームはいいかなって思えてしまえている自分がいる……。普通に頭使うの疲れたんだよね……。

 

 息抜きがてら、今日この大会が始まる前に買って来ていたスイカのフラペチーノを飲みながら集中力を再び高めようとしている。期間限定だったはずなのにいつの間にか恒常メニューになってるし……。って、そんなことより次の第三戦目だ……。

 

 

 

 

 

 

 次に選ばれた第三戦目のゲームも至って簡単なシンプルなゲーム。

 FPS系統のゲームでデスマッチ戦を行い、誰が一番キル数を稼げるかという内容だった。今回の味噌はスコアではなくキル数というところ。純粋な実力だけで測るためにどれだけ敵を倒せたということを測りたいんだろうというのは伝わっていた。

 

 FPSならなんとかなる。

 今は充分に気合も集中力もある。この第三戦目も必ず勝つことが出来るはずだ、俺は勝利を確信しながらも自分の気を引き締めてこの第三戦目に挑もうとしていた。この第三戦目はデスマッチ……。そして、試合時間は大体三分間。今運は僕に回っている。あのサユだって倒すことだって出来るはずだ。このゲームでは武器を途中で変更することも出来るけど、得意の武器であるアサルトライフルを構えて、撃ち続けて敵との撃ちあいに勝つことが出来れば行けるはずだ。この第三戦目、僕に分があるそう信じていた俺だったけど、歯車が大きく動いていたことに予想できなかった。

 

 

 

 第三戦目の戦いが始まり、このゲームのマップの構造は充分に熟知している。

 敵のリスポーチ地点、遮蔽物の位置、見通しの良い場所……。その全てを把握している。FPSのデスマッチに限らないことかもしれないが、こういうゲームで重要なのは音を活用すること。耳でよく音を聴き分けて足音や銃声で敵の位置を把握する。無駄には知らず、状況に応じて歩くことで、自分の音を減らしつつ敵の動きを察知する。立ち回りについてはこれを守っていれば大丈夫なはずだ。後は、撃ちあいの問題だけどそこに関しては全く今気にしていなかった。それもそのはずだ、俺はサユやロウガに差をつけて一位になっていたのだから。このまま行けば、俺はこの第三戦目も勝つことが出来ると信じていたが、現実は変わろうとしていた。

 

「なっ!!?」

 

 それはたった一つの撃ちあいの出来事だった。

 俺は自分の実力を過信し過ぎていた訳じゃない。ただ、目の前で起きていたことを整理するのに時間が掛かっていた。それは偶々だったと捉える事も出来ていたかもしれないが、俺にはどうも偶々では済まされないという現実が目に見えていた。俺は武装をアサルトライフルだけで行くと決めていた自分の判断を変更して、スナイパーライフルに変更する。はっきりとした確信があった訳じゃないが、俺には確信に変わりそうな疑念があったからだ。此処は廃工場。遮蔽物は幾らでもある。

 

 俺が居るこの場所は、監視塔のような場所でロウガやサユが何処にいるのかすぐに認識できる。つまり、下は全てスナイパーの恰好の餌食ということになる。先ほどは自分がロウガの猛攻を受けて工場内でのレーンでの遮蔽物の対決は負けていたが今回は負けると言う可能性は低いはずだ。

 

「見つけた……!!」

 

 高台からロウガを見つけると、サユと戦闘状態に入っていた。

 この状況で俺は撃つことはしなかった。此処でどちらかを勝たせてその後の休息の状態で撃ち抜いてやろうとか発想になっていたからだ。遠くから眺めていた二人の撃ち合いに勝ったのはロウガだった。待っていましたと言わんばかりに俺はスナイパーの弾を撃ち込もうとしていたが、その攻撃を回避されてしまう。すぐ近くで恐らくサユがリスポーンがしていることを恐れて一旦高台から降りようとしたときだった。降りた先に爆撃が降り注いで来ていた。体力を最後まで削られ、俺はロウガによって倒される。今やられた爆撃は敵を倒す事によってポイントのような物が溜まり、それが5ポイント溜まると爆撃が可能になる。その爆撃を俺に向けて放っていたんだ。

 

 俺はすぐに復活をすることはしなかった。

 ロウガの戦い方を試合から観戦しようとしていたんだ。戦闘の舞台は今二人だけになっているということもあり、ロウガとサユはすぐにかち合うことになったが俺は撃ち合いの状況で確信へと変わっていた。

 

「間違いない……!!」

 

 俺はずっと一つだけ全く警戒していなかったことがある。それは……神無月ロウガのことだった。あの人のファンでありながらもこういうことを言いたくはないがあの人はかつての実力を出せていない。今はあの当時以下の実力になっている、そのことを知っていたけど俺は言及することは今までしなかったが……。

 

 

 

 あの人は遂に……覚醒のときが訪れていたんだ。

 俺は……僕はヘッドセットを外して画面に映るロウガの姿に目を凝らしていた。廃工場の遮蔽物に身を隠している姿はまるでサユの射線を把握するかのように視点を小刻みに動かしている。サユもまた、臆することなく遮蔽物に隠れているロウガに対して射撃を行おうとしていたが、ロウガはわずかな隙を見逃さず、正確なエイムで一発ヘッドショットを決める。

 

「……ロウガさん、やっぱり貴方は最高の推しですよ」

 

 今までのロウガさんならきっとここぞというときに焦りを見せるときもあったけど、今は違う。

 観戦画面を確認しながらも、スコアボードを確認するとそこにはロウガさんがキル数一位となっていることに気づいていた。自分の推しの眠っていた才能がようやく此処に来て目覚めたことが本当に嬉しくて仕方ない。きっと配信をしていなければ画面の前で「ロウガさん最高!!」と叫んでいたことだろうけど、今の俺は違った。今の俺にとってロウガさんは倒すべき……強敵でもあるのだから……。

 

 

 

 

「ロウガさん、俺は……本気でアンタのことを倒させて貰いますよ……!!」

 

 

 

 

 

 

 

「越えるべき人として……!!」

 

 

 

 

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