傷だらけな多重人格の青年は泥臭くもVtuberとして呼吸をする 作:村上トオル
「さて第五戦目のゲームの準備の方が出来たようですね」
五戦目のゲーム、この五本勝負を盛り上げるのにはとても重要な一戦目になるというのは重々承知だった。この最後の一戦が面白くなかったりしたらきっとリスナーからは非難の雨が豪雨のように降り注ぐことになるだろう。アンチと戦えるなんて絶好の機会、私からすれば逃す訳にはいかないけど今回はマナも居るからそういうことを言っている場合じゃない。というか、この子のアンチとか全然見たことないけど。性格も滅茶苦茶いいからそういうの湧かないだろうなきっと……。ってマジでこんなこと言っている場合じゃない、ゲームの紹介しないといけないけどこのゲーム知らない人とか人類にいる……?いや、いないでしょ。
「最早説明不要なゲームかもしれませんが、今回の五本勝負を盛り上げるために選ばれた最初のゲームはこちらスーパーカート!!」
「私もこのゲームはやったことがなくて誰かがやっていることを見たことがあるっていうのは多いんじゃないかと思いますね」
「そうだよねー、私も正直このゲームにおいては説明なんていらないでしょと思ってたけど一応念のため、マナ説明の方頼める?」
実際このぐらい有名なゲームなら紹介なんてものは要らない気がするけど案外この手のゲームでも知らないっていう人は幾らでもいるし、改めてちゃんと説明するっていうのも大事だったりするからね。
「はい、このゲームはコースは大体三週というルールで決められています。また、レース中に落ちているアイテムボックスを拾うことで抽選で選ばれたアイテムを相手に投げたり、道にアイテムを設置したりすることが出来ます」
「雷とか大砲みたいなのになって一気に加速したりとかも出来るよねー、特に大砲なんてのは相手に体当たり出来たりしたら爽快感抜群だから本当に最高だよね」
最も最高なのは青甲羅だというのは胸に閉まっておく。
これを言ったら性格が悪いと一度恵梨に言われたことがあったから本当に言わないけど、このまま一位で走り抜けられると思い込んでいる奴のことを下位に引き摺り落とすという芸当が出来るのは最高でしかない。というか、私の説明なんか横道にずらしていないかな?大丈夫だよね……?不安になりながらもマナが解説を続ける。
「そうですね、それでは次に今回のゲームにおいてのルールを説明致しますね」
長々と解説することはなく、はっきりとした口調で尚且つ明るく笑顔で解説してくれるマナ。
本当に女神じゃないこの子……!?
「今回のこの五本勝負の一戦目において、明確に決められているルールはこのレースにおいて一位になった参加者がまず1ptを獲得できるという仕組みになってますね」
「そうそう、あー説明してなかったけどこの五本勝負は一番ポイントが多かった人が最強ということになるからね」
危ない、この説明を全くしてなかった。
言わなくてもみんな勝敗の付け方なんてのは知っていただろうけど一応言っておかないとね。
「はい、その通りですね。説明しておいて良かったですね」
渇いた笑みをしながらも話を続けていた。
今回のゲーム、スーパーカートのルールは簡単だ。さっきも言ったけど、この勝負は一発勝負でもあり純粋な参加者の実力を計るためと言いたいところだけど、こういう最強を決める大会においてはアクシデントは付きもの。だから今回はCPUはアリの設定で尚且つアイテムもありの設定にしている。
「これについてはまあ色々あるかもしれないけど、この程度の条件が無くてもあっても一位になれる実力がないと意味はないよね」
「そうですね、因みにもしもCPUが一位になってしまった場合、順位の結果一番高い人が1pt獲得となります」
「まあCPUに負けるようなら、この最強決定戦負けもいいところだと思うけどね」
マジでCPUに負けるような参加者が居るようだったらその時点でもう失格でいいと思うんだよね。だって、所詮はCPUに負ける程度の実力なんだしこの決定戦に出るには荷が重すぎるでしょ。
「それは確かに分からないでもないですね、という訳で最終戦の準備が出来たようですね……!!」
一戦目の準備が出来たというお知らせをスタッフから届いて来た私達。
その映像が流れ始めると、思わず私は吹き出しそうになる。
「おっと……これは浜羽サユと青空奏多がバチバチで煽り合っているね!!青空奏多は今後のプロになるのにこういうことをしてていいのかぁ!?」
「揚げ足取るのは……やめてあげましょう。とはいえ、お互い煽り合うほど仲が良いですからねぇ、この二人は……」
マナは私の言い方を咎めていた。リスナー側も私の言い方に『草』だのなんだの言っている奴が多かった。どんな風に二人が煽り合っているのかと言うと、感情や行動を表すようなショートメッセージのようなもので奏多が「よろしくお願いします!」と言っているなか、サユは「対戦ありがとうございました」とお互いに言い合っている状態が続いている。因みに後になって知ったけどロウガはそれを自分の配信で実況していたらしい。
「本当この二人は喧嘩するほど仲が良いという関係だよね」
私としてはこういう関係は尊くて好きだということを主張したいけど今は他のリスナー達も見ているから自重しないと流石にやばい……。
「はい、二人のこの喧嘩するほど仲が良い関係が何処まで勝負というものに火をつけるのか、気になりますね……!!そしてロウガ君がどれぐらいの実力が発揮できるのかも……!!という訳で……!!」
「はい、という訳で最終戦のコースが決まったようです……!!コースは……おっとこれは意外と短期決戦になりそうか!?」
選ばれたコースは正直意外という訳でもなかった。
ただ、このコース……アルティメットバイクのコースが選ばれたということは本当に短期決戦になることは明白。マナが解説している内容を聞いていたがどれもその通りだと私は頷いていた。このコースは特に難しい要素はないと思っていたけど、どうやらマナが言うには違うらしい。単純明快で走りやすいではあるものの、高低差が続くから低空のバイクアクションなどを入れたりするというものもあるらしい。
奥が深いんだなぁ、やっぱりこういうゲームでも……と流石は
◆
青空奏多はこの試合に全てを賭けていた。
現状、奏多は1ptという状況。此処で勝つことが出来ればサユと同列ということになり、もう一戦試合が行われること間違いなかった。此処で一勝してもう一試合で勝てば自分が最強ということを此処に刻み込むことができる。
「勝ちたい、本気でそう言えるんだ……!!」
リスナーからは多くの応援コメントや頑張れというコメントが流れている。彼はそれを目視で確認しながらも自分への活力へと変えようとしていた。この一戦は奏多にとってどんな大会よりもどんな戦いよりも困難なものになるだろうが、奏多はその重圧に押し潰されるほどやわな人間ではなかった。その重さを自分自身の力に変えて最大限の力を発揮しようとしていたのだから。
「ウチはこの勝負、絶対に勝ったるで……!!」
浜羽サユも勝ちたいという欲望においては同じだったが、彼女の根源にあるものはやはりこのゲームを楽しみたいというものがあった。楽しんだ上でこのゲームに勝利して最強となりたい。そして、次は樫川結衣やマナに勝負を挑んで自分が本当に最強だということを証明したいという気持ちがより強くなっていた。
「はぁ……」
神無月ロウガは不思議と落ち着いていた。勝負の前に落ち着くという行為はこの勝負に余裕があるという意思表示なのかもしれないが、彼の場合は違った。自分の心を清流のように清らかなものにして綺麗にする。濁ったままではこの勝負に勝ちあがることは出来ない。彼も奏多同様、今回の勝負に勝つことが出来れば次の試合でサユと戦うことが出来るからこそ彼は自分の心を決して汚させることはなく、落ち着かせていた。雑念なんていうものは当に消えていたのだ。
それぞれが思い思いに勝利というものを創造しようとしている。
その先にあるのが最強という称号。この名を欲するのは勿論この三人だったが、その称号に少しだけ興味深そうにしていたのはマナだった。彼女は今回の最強を決める戦いは自分は出ることなく解説役で出たいと言っていたが、今この場で最強が決まるという戦いが最終戦に入って込み上げてくるものが抑えられそうになかったのだ。自分も参加したかったという……。
「サユ、私の分もちゃんと勝って来てよ……!!」
その想いは今こうしてサユへと託されることになっていた。
それを隣で聞いていたハクはニンマリと笑いながらもこう高らかに宣言をする……。
「さぁ、最終戦スーパーカート!!場所はアルティメットバイク!!開始されました!!」