傷だらけな多重人格の青年は泥臭くもVtuberとして呼吸をする   作:村上トオル

139 / 179
最弱は這い上がって来る

 

 

 

 青空奏多はこの試合に全てを賭けていた。

 現状、奏多は1ptという状況。此処で勝つことが出来ればサユと同列ということになり、もう一戦試合が行われること間違いなかった。此処で一勝してもう一試合で勝てば自分が最強ということを此処に刻み込むことができる。

 

「勝ちたい、本気でそう言えるんだ……!!」

 

 リスナーからは多くの応援コメントや頑張れというコメントが流れている。彼はそれを目視で確認しながらも自分への活力へと変えようとしていた。この一戦は奏多にとってどんな大会よりもどんな戦いよりも困難なものになるだろうが、奏多はその重圧に押し潰されるほどやわな人間ではなかった。その重さを自分自身の力に変えて最大限の力を発揮しようとしていたのだから。

 

 

 

 

 

 

「ウチはこの勝負、絶対に勝ったるで……!!」

 

 浜羽サユも勝ちたいという欲望においては同じだったが、彼女の根源にあるものはやはりこのゲームを楽しみたいというものがあった。楽しんだ上でこのゲームに勝利して最強となりたい。そして、次は樫川結衣やマナに勝負を挑んで自分が本当に最強だということを証明したいという気持ちがより強くなっていた。

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……」

 

 神無月ロウガは不思議と落ち着いていた。勝負の前に落ち着くという行為はこの勝負に余裕があるという意思表示なのかもしれないが、彼の場合は違った。自分の心を清流のように清らかなものにして綺麗にする。濁ったままではこの勝負に勝ちあがることは出来ない。彼も奏多同様、今回の勝負に勝つことが出来れば次の試合でサユと戦うことが出来るからこそ彼は自分の心を決して汚させることはなく、落ち着かせていた。雑念なんていうものは当に消えていたのだ。

 

 

 

 

 それぞれが思い思いに勝利というものを創造しようとしている。

 その先にあるのが最強という称号。この名を欲するのは勿論この三人だったが、その称号に少しだけ興味深そうにしていたのはマナだった。彼女は今回の最強を決める戦いは自分は出ることなく解説役で出たいと言っていたが、今この場で最強が決まるという戦いが最終戦に入って込み上げてくるものが抑えられそうになかったのだ。自分も参加したかったという……。

 

 

 

「サユ、私の分もちゃんと勝って来てよ……!!」

 

 その想いは今こうしてサユへと託されることになっていた。

 それを隣で聞いていたハクはニンマリと笑いながらもこう高らかに宣言をする……。

 

 

 

 

「さぁ、最終戦スーパーカート!!場所はアルティメットバイク!!開始されました!!」

 

 レースが開始されたのと同時にCPUも含めて全員が走り出す。

 

「キャラクターを見た限りではどうやらサユと奏多は同キャラのようですね」

 

「そうですね、二人が使っているのはこのゲームにおいて最も強いキャラクターですからね……!!そして二人が使っている中量級のバイクとも組み合わせが最高なんですよね!!」

 

 マナの解説の通り、二人が使っているキャラクター『ロキ』。

 ロキはこのゲームにおいて最強級のキャラクターとして認知されており、上級者はよく使っている人が多いのだ。そして、二人が乗っているバイクもまたこのキャラとの組み合わさがベストな組み合わせなのである。

 

「対するロウガは……おっとこのキャラクターは……!!?」

 

 『此処で最弱キャラ!?』

 『最終戦で!!?』

 『嘘だろ!!?』

 

 ロウガが操作しているキャラを見たとき、ハクは口を大きく開けながらもこう頭の中で思っていた。「正気か……?」と……。

 

「ロウガ君はこれは凄いですね、使っているのはこのゲームにおいて最も最弱とも言われているキャラクターですよ」

 

「そ、そうだね……。え?マジでそのキャラで最終戦乗り切るつもりなの……」

 

 ハクが素になってしまう反応を見せていたのも無理はなかった。

 ロウガが使っているのは『ビビンバ』というキャラクターだった。彼の知名度なら恐らく抜群なほどなのだが、彼が使っているキャラは重量級。それはこのゲームにおいて死をもたらすことになるに繋がるのだ。

 

「重量級の子のキャラはターボ速度も弱いですし、曲がりやすさと滑りにくさにおいて圧倒的なまでに弱いんですよね……」

 

 補足しておくが、重さに関してはこのキャラは最も優秀であり接近してきた他のキャラを多少跳ね返すことが出来るほどの実力を備えてはいるもののそれだけであり、更にこのゲームは中量級が強いということもあってどう考えても不利でしかなかったがマナが解説している間にも燃え上がっている人物がいた。それは……城崎ハクだ。

 

「ふふっ、いいじゃんいいじゃん。そういうのだよロウガ君……!!最弱キャラが最強キャラを打ち倒すっていう最高の物語を私達やリスナーのみんなに見せてくれようとしてるんでしょ……?だったら、それを見せてみてよ……!!」

 

 彼女はこういう誰もが一見馬鹿にするようなキャラを使って戦うというプレイスタイルは嫌いじゃなかった。勿論、それには彼が勝たなければいけない話ではあるが元よりハクはこの試合、ロウガがタダでは負けないということはもう察していたのだ。そして、ロウガの使用キャラに燃え上がっているのはハクだけではなかった。

 

 

 

 

「やりおった……やりおったなロウガ……!!」

 

 浜羽サユは自分がするべきだったかもしれないことをロウガにやられたということを賞賛の意味で讃えながらも少しばかり悔しがっていた。確かにこの場で最終戦で最弱キャラを選んで勝ち上がるということが出来ればそれは最高のものへと昇華できる。彼なりのエンターテイメントに本当に拍手を送ることしか出来なかった彼女だが、この試合の勝ちを譲るつもりは毛頭なかった。例え、どんなキャラだろうとどんな方針だろうと彼女は全員打ち倒すということには変わらなかったのだから。

 

 

 

 

「さて残りは一周となってきたよ……!!現在一位はサユ……!!二位は奏多君!!三位はロウガ君!!」

 

 とは言え、現実はドラマのように熱い展開になるようなことはなかった。

 マナが懸念していたようにロウガが使用している『ビビンバ』には圧倒的に力不足だったということを否めなかったのだ。どれだけ土台作りをしてドラマをしようとも実力が違い過ぎるということがこのゲームによって定められているのだ。なによりもこのコースはアイテム以外は実力で勝敗が左右と言っても過言ではない。最初からロウガは負け犬だったことには変わりなかったのだ。そう誰もがロウガの負けを確信していた頃……。

 

 

 

 

「ようやくだな……」

 

 まるで温まって来たと言わんばかりにロウガは動き始めようとしていた。

 現在の順位は三位。勿論、此処からの挽回することは出来ない訳ではないが、サユと奏多を抜かすのには少々骨が折れるという状況なことには変わりなかったが、ロウガにとってそんなことは些細なことでしかなかった。何故なら、彼の目には勝利、一位しか見えていなかったからだ。

 

「このゲームにおいて最も必要不可欠なのは運を味方につけるということ……!!そして、その運は今俺にやって来た……!!」

 

 彼はアイテムを一つ消費する。

 それは加速アイテムのキノコであったが、それが逆転の要になるということはなく今設定されているアイテムこそが重要だったのだ……。

 

「行け……!!」

 

 アイテムを発動したのと同時にロウガが使用しているキャラが大砲のようなものに変化を遂げる。そして、そのまま一気に加速し始めている。そう、これこそが彼の逆転への一手。

 

「おっと!!ロウガ君!!これはとんでもないものを忍ばせていた!!」

 

 ハクの白熱とした実況が入り混じる中、ロウガはただ二位と一位へと目指していた。

 本来であればこの順位でこの大砲のアイテムが出ることはないのだが、ロウガは先ほど雷の攻撃を受けたことによって一度下位まで落ちていたのだ。そのとき、キノコと大砲のアイテムを手に入れており自分の自力だけで三位まで上がり詰めていたのだ。

 

 この逆転のアイテムでどれだけ上と差を縮められるのかはロウガすらも分からないことだった。それは視聴者側にもだ……。ただ彼らは祈ることしか出来なかった自分が推している神無月ロウガという人間がどれだけやれるのか、このゲームにおいて神なるものを見せてくれるのか。そして、それは今左右されることとなる。

 

 

 

 

「見えた……!!」

 

 二人が見えたのと同時に大砲のアイテムは消滅し、元のキャラクターへと戻る。

 そして、それに連動するようにして奏多が赤甲羅を投げていたが、緑甲羅で防御をされてその攻撃が通ることはなかった。暫くの間三人少し距離を置いた状態でレースが進んで行ったが奏多はこのコースのことを熟知していたのか、見事なものまでのバイクアクションを入れていたのだ。無駄のない低空のバイクアクションをすることによってサユとの距離を詰めているこの状況。このまま行けばきっと恐らく……いや絶対に奏多が前に出ると踏んでいたその瞬間だった。

 

 

 

 

「チッ……!!」

「なっ……!!?」

 

 事態は大きく動き出していた。

 何が起きたのかと言うと、偶々CPUが青甲羅を投げてそれが一位となっていたサユをロックオンしていたのだ。サユは二位になり、一位となった奏多を巻き込んで道連れにすることを選んだのが、これが災いのもとへとなる。そう、三位には……。

 

 

 

 

 ロウガがいたのだ。

 

 

 

 

 

「な、なんと神無月ロウガ此処に来て一位に上がり出る!!最弱キャラで名高いビビンバで此処まで這い上がって来るのは流石としか言いようがない!!というかこれはもう……!!」

 

「ええ、これはそうですね……!!」

 

 

 

「ええ!!その通り!一位は……!!」

 

 

 

 

 

 

「神無月ロウガだ……!!!」

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。