傷だらけな多重人格の青年は泥臭くもVtuberとして呼吸をする 作:村上トオル
『最終戦はロウガ対サユになります!!』
俺はその話を聞いたとき、自分があの二人より弱いんだと自覚させられることになっていた。
推し一人が最強のVと対決するという最高のシチュなのに自分が負けたという事実が頭から離れることが出来なかった。本当に悔して仕方なかったんだ。超える背として見て来た人、絶対に勝ちたいと意気込んでいた奴に俺は負けてしまった。
いつもなら此処から反省会をしていたけど、それをする力すらもなくなっていた。
「こんなんじゃプロとかそれ以前だな……」
珍しく弱気になりながらも俺はベッドに倒れていた。
映し出されているモニターを視界にすら入れないでいると、スマホに通知音が鳴っているのが聞こえるとそこには二人からの連絡が来ていた。
「恵梨さんと亜都沙さん……」
亜都沙さんは「お疲れ様」と連絡が来ていた。
ただ、いつものように少しばかり茶化したような言い方で「カッコ良かったで」と書いてあった。それに対して恵梨さんは「お疲れ様」と書いてあったのに「暇なとき、ご飯誘ってあげるから」と連絡来ていた。
二人の気遣いに俺は嬉しくなりながらもこう言っていた。
「あの二人を……絶対に越してみせてやる……!!」
◆
「やばいやばい、本当の最終戦の内容なんて全く考えていなかったよ」
私は今混乱していた。
先ほどの第五戦目の最終戦で全てが決まると信じていた私はこの試合で決まらなかったということもあり、次の試合をどうすればよいのか困り果てていた。今配信画面は一旦準備中という形になっているけど、早く元に戻さないといけない。
マナちゃんはスタッフと話し合ってくれているけど、どうすればいいのか分かんねえ。とりあえず、今決まっていることと言えば同じ2ptのロウガ対サユの試合をするっていうのは決定事項なんだけどそのゲームの内容が……。
「おい、香織」
「……!!?瑛太ァ!!助けてよ!!!」
スタジオの様子を見に来てくれた瑛太。
どうして様子を見に来てくれたのか知らないけど多分私がちゃんとやれているのか心配だったのかもしれない。もう瑛太ってそういうところ凄い優しいよね。
「マイクを切っているとは言え、大声を出すな……。そもそもお前はこういうことになる事態を想定して……ってこれは今いいか。そうだな、最初のゲームで決めるというのはどうだ?」
「最初のゲームってチャンバラ?というか瑛太も配信見てたんだ?」
「事務所の人間が配信をチェックしてない訳ないだろ……。ってそれはともかくあの最初の一戦目はロウガとしても苦いものがあるはずだ。此処でサユに対してリベンジマッチという形式を取らせるというのはどうだ?」
「おっ!!いいじゃん!!それ!!流石瑛太!!あんがとね!!」
「……一応俺事務所人間なんだがな。まあ、いい。俺は行くぞ」
「うん、じゃあねー!!」
瑛太がスタジオを去って行く姿を見送りながらも、私はスタッフとマナに瑛太から提案されたことを話をすると了承してくれていた。また、その後ロウガとサユにも連絡を送ったところ、ロウガは全力でやる気だということが判明して私はワクワクしていた。この最終決戦でロウガがどんなふうなものを見せてくれるのか楽しみでしょうがなかったのだ。
「さて、これが本当の最終決戦!!チャンバラ対決!!」
大会配信に戻って来た私達は一気に最終戦の話をし始めていた。
「ルールは第一戦目と変わりません。一戦にて勝負に勝った者ののみがこの勝負に勝ち、最強を名乗ることが出来ます」
「……いやぁ、マナ凄い楽しみじゃない!!?」
「そうですねぇ、奏多君が敗退してしまったのは残念ですがこうしてサユとロウガ君の勝負が見れるのは本当に嬉しく思います」
「おっ、此処でサユの名前が出るということはやっぱりマナサ「ありませんからねー」」
手厳しい。
と言っても彼女自体かなりサユには割とクソ重感情を抱えているのはこちらで確認済みなんだけどね。覚醒前のサユを見ているときだって彼女はサユならまだやれるって信じているような表情をしていたしねぇ……。本当仲が良くて結構だよ。割と扱い雑だけどさ。
「という訳で準備が出来たようです!!それでは最終決戦神無月ロウガ対浜羽サユ開始!!」
◆
最終戦がチャンバラという話を聞いたとき、俺は俄然燃えて来ていた。
俺はこのゲーム、サユには太刀打ちすることも出来ずに何も出来ないまま倒されてしまっていた。言い訳なんてするつもりはないが、俺はあのとき自分が弱かった。自分がどのような動きをして予測をして立ち向かうかをちゃんと頭で考えることが出来なかったんだ。だけど、今は違う。
今は違うと言い切りたかった。
何故なら画面に今映っているのは俺が防戦一方の姿だったからだ。
「やっぱそうだよな……!!」
楽に勝たせてくれるほどサユは甘くはないなんてことは知っていた。
それでも一抹の望みに縋りついてしまうのは人間の悪いくせとしか言いようがない。今俺が置かれている状況は最悪もいいところだ。こういう状況を見て少年誌の漫画の主人公はこういうようなことを言うんだろう。
『諦めたくない』
と……。
俺もそんなタフな言葉を吐いてみたいが今目の前にいる修羅のような女に俺は勝てる見込みはあるのだろうか。最初の一戦目俺は為す術もなくサユに負けていた。そして、この試合でもやはり防戦一方な事態は変わらなかった。
どれだけ自分が今まで以上の力を手に入れようとも……。
眠っている力を呼び覚ますことが出来ても俺は漫画の主人公のようには……。
いや、違う。
思っていたはずだ、俺はもう負けた時の言い訳を作るのは御免だと……。この一戦で全てが決まると言うのにまた俺は負けた時の言い訳作りをしようとしている自分がいることに本当に許せなかった。こういう腑抜けた感情があるからこそ俺は本気になることが出来ない。そうだ、こうすればいい。
「俺は……サユを倒す……!!」
倒してみせるじゃない、決定的に言う。
倒すと……。そう言うことで俺は自分の中で闘志という名のを勇気を沸かせようとすることが実現出来ていたんだ。そう、俺はこの試合に勝って最強と言う称号を頂戴することで自分が最強だということを証明してみせる。
「やるぞ……!!」
先ほどまで白黒に見えていた視界は自然と色を取り戻していた。
まるで俺の心の霧が晴れたのを表すかのようだったが、俺はそれすら気にすることはなくコントローラーを握っていた。泣いても笑ってもこの試合で全てが決まる。俺はサユに勝つ。勝って最強になる。握っているコントローラーに力を入れながらも俺は心に火を灯していた。
ひたすら刀を打ちつけてくるサユに対して俺は今防御をしながらも必死に作戦を模索していた。これでは先ほどと変わらないと指摘されるかもしれないが、全然ちげえ。俺は今勝利への方程式を作り上げようとしている。サユのことだ、一発強烈な奴を入れても喰らいついて来ようとするだろう。そうなれば、俺が敗北するという可能性は大いにあり得る。サユは並大抵なゲーマーじゃない。だからこそ今考える必要があったのだ。サユを圧倒するための作戦を……。だが、それも長くは持たないということを俺は承知していた。
自分が今暗い洞窟の中で必死に考えていた。
考えている最中に一滴の雫がまるで正答率0.1%の問題の解答を教えるようだった。そして、俺は目を開きながらも気づいたことがあった。画面を見れば、サユの猛攻が止まらない。俺が防戦一方だということには変わらなかった。
「どうしたん?もう降参なんかロウガァ!!」
サユは余裕たっぷりで俺のことを煽って来ている。
俺のスタミナと持久力を減らす作戦だろうが、今の俺に効くことはなかったが俺が今操作しているキャラは次に連続攻撃を当て続けられたら、スタミナが尽きてガードが崩れることがはっきりと確定していた。完全なる隙というものは致命的なものになることが多いきっとコメント欄でもそれは指摘されていただろうが、俺は全く焦ることはなかった。
「どうした!!どうしたんか!!」
最初の攻撃が入る。
次の連撃が入れば俺の防御は完全に崩されてしまう。このまま行けば、俺は敗北することになる。誰の目から見てもそうとしか言いようがなかったかもしれなかったが……。
「此処だ……!!」
サユの連撃を受けようとしたときだった。
俺は僅かな隙の穴を見つけ出すことに成功する。
「……なっ!?」
サユの攻撃が振り下ろされる──。
が俺はその一瞬前に、ガードを解いて踏み込んでいた。次の瞬間、サユの攻撃が空を切る。
「まずい……!!」
サユの攻撃が空を切った後、俺は背後に回っていた。
そして、今リング外付近にいるのはサユという圧倒的な状況が出来上がっている。そう、これが意味することは……。
「っ……!!?」
渾身の一撃ということをこういうことを言うのかもしれない。
俺がコントローラーを突くのようにして向けたにより、サユのキャラは大きく吹き飛んでいたのだ。そしてそのまま……。
『Winner:ロウガ』
最強決定戦……。
最後に勝利したのは俺だった……。正直この賭けはどうなるか俺にも分からなかった。と言うのも、俺は自分を信じ込ませることしか出来なかったのだ。つまりは精神力の強さがこの戦いを勝利に導いたとしか言いようがない。覚醒したとはいえサユにも弱点はあった。
「ロウガ……なんでウチは負けたんや」
「賭けと言いたいところだけど、俺は信じてみたんだよ」
「信じてみた……?」
勝敗を終えてハイライトが大会画面で映し出されている頃、サユは俺に話しかけていた。
「サユは次の攻撃に移るまでの間に一瞬だけ間合いを詰める癖があったんだよ。そうすることで攻撃を通しやすくるという作戦もあったんだろうが、俺は今回その作戦を利用させてもらったんだ。その間合いを詰めようとしている間に後ろに回り込めれば形勢逆転できるってな」
「なるほどなぁ……なるほどなぁ……」
「やるやないかロウガ……!!いい勝負やったで!!」
勝負に負けたというのに此処まで彼女は清々しいほど笑っているのは本当に浜羽サユという女性らしい。いや、勝負に負けたことはきっと誰もが悔しいはず。悔しいはずだが彼女の場合は少し違うんだろう。彼女は全てのゲーマーを心から尊敬しているからこそ彼女は自分が負けても悔しくても相手を褒められるんだろう。
「奏多もやで!!聞いとるんか?」
「……二人共」
「なんや?」
「次は俺が絶対勝つから……!!」
「ああ……!!挑んで来い奏多!!」
奏多……。
お前はこれからもこの先もずっと強くなれるだろう。ゲームに対する真剣な姿勢を貫くことが出来れば、お前は誰よりも最強のゲーマーになれるはずだ。俺のように折れるな、成し遂げて見せろよ……。
「来たか紀帆……」
「おう、来たで竜弥……。そんで話ってのはなんや?」
「ああ……一つ聞いてみたいことがある」
「紀帆にとってゲームってなんなんだ?」