傷だらけな多重人格の青年は泥臭くもVtuberとして呼吸をする   作:村上トオル

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いざ旅先へ

 温泉のPR動画……。

 そういう類のものは前にも静音が案件として引き受けていた。あの案件は見事大成功を収めることには成功した。そして、次がやって来たということはあの配信の様子を見て頼みたいという温泉地が現れたということ。

 

 これは静音にとっても悪い話ではないが、静音が言うには今回の温泉地は有名所も有名所らしい。俺は正直、温泉地とかはあんまり詳しくない。恵梨だったらそういうのに詳しいし知っているかもしれない。恵梨はよく旅に出たりしているから。ただ、俺はそういうものをあまりしたことはない。自分に対して辛辣な言い方をすれば物を知らないという言葉が相応しいかもしれない。いや、これは流石に言い過ぎたかもしれない。

 

 色々頭の中で考えながらも静音のことを落ち着かせた後に、俺は一旦俺の家の中へと静音を招き入れる。流石に女子高校生の家にそう何度も足を踏み入れるほど俺も馬鹿じゃない……。こういうい方は誤解を生みそうだが……。

 

「それで静音、その有名温泉地の案件は受けるのか?」

 

「あーまああんなに驚いたけど後だけどそりゃあ受けるに決まってるよ。だって有名な温泉地だし、またとない機会だからな」

 

「それはそうだな……」

 

 静音の言う通りだ。

 今回の案件は有名な場所から案件。この話を怖気づいて怖がるほど軟な静音でもないはずだ。静音はそういう奴だと改めて再認識しながらも俺は質問を続ける。

 

「じゃあ、静音はどうしたんだ?この案件を決めて有名な温泉地を更に活気づけたいのか?」

 

「そりゃあ、もちろん!!」

 

 明るく元気で俺の質問に即答する静音。

 静音の中に迷いなんて二文字は存在していなかった。俺はその覚悟を受け止めてこう言うのだった。

 

「じゃあ、この案件……引き受けてやろうぜ!!」

 

「……ああ、竜弥!!」

 

 静音がやると決めたからにはこの案件、俺はやらないという訳にはいかなかった。

 静音とこうして遠出するのはあの案件以来久々だったのもあり楽しみだったのもあるが、自分が大型案件というものに対して何処までやりきれるのか楽しみでしょうがなかったのだ。その後、俺は静音からこの案件についての詳細を聞かされることになった。

 

 

 

 

 

 

 それから一日後……。

 

「竜弥、静音から聞いた?案件のこと」

 

「ああ、俺も聞いたよ。まさか有名なところからの案件とはな……」

 

 楽器屋『月見里』のバイトの休憩中、俺達二人は引き受けた案件のことについて話をしていた。

 店の方では現在、琉藍が祖母の睨みに口笛を吹きながらも挑発している光景が目に浮かびながらも俺は千里が作って来た弁当を口にしながらも案件のこと以外に弁当のことを考えながらも思考が停止していると千里が首を傾げながらも不思議そうにしていた。

 

「どうしたの竜弥?」

 

「いや……俺本当に千里の弁当また食ってるんだなって……」

 

「もう随分前に言ったことだから竜弥はもう覚えてないかも知れないけど……竜弥の舌を肥えさせてあげるって……」

 

「千里……」

 

 それをもう覚えてないと彼女は認識していたのかもしれないが、俺はそれをちゃんと覚えていた。彼女が料理を作ってその料理を食べていたときのことをしっかりと記憶にある。なにより、俺のことを応援してくれていたのもちゃんと……。

 

「覚えてるよ、俺がどうして千里の料理はこんな美味いんだって聞いて愛情って答えてたことも」

 

「そ、それは忘れて……」

 

「俺は嬉しかったからな、ああ言われて……」

 

 そういう意味じゃないと理解させようとしても結局頭では残念な発想になってしまうのが俺だということには変わりなかったし、嬉しかったのも事実だ。千里に愛情という言葉を使ってくれたことが……。

 

 あの頃の俺は千里に嫌われていて当然だとなっていたし、千里のことを突き放したくて仕方なかった。その事実は変わらない。

 

「そ、そうなんだ……」

 

 満更でもない様子でご飯を食べ進めている千里。

 俺もまたご飯を口の中に入れながらも千里の飯が美味いという実感を久々に味わえていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ行こうぜ竜弥……!!」

 

 静音の合図と共に俺たちは新たなる旅路を迎えようとしていた。旅路なんて言葉は大袈裟なのかもしれないがそれでもこの案件はとても大きなものに繋がるのは間違いない。

 

 車を走らせながらも俺は運転をしていた。

 こうして車を運転するのもかなり久々だ。都内に居たら車で運転することなんて滅多にないけど取っておいても損はないだろうし車というものは自分を証明するものの一つだから持っているのも悪くない。最も俺はスポーツカーだとか外車とかそういうのに乗ってる訳じゃないから誇れる訳じゃないけど。でもああいうのっての結構憧れるよな。でも、俺の車だって立派な相棒だ。今日も頼むぜ。友情を確かめ合うようにして俺はハンドルを握りながらも運転していた。

 

「千里、そういえばバンドの件どうなったんだ?今後もやってくんだよな?」

 

「うん、やっていくよ。今度京花さんと一緒に打ち合わせするつもりなんだ」

 

「へぇ……京花さんってあの変わってる人だろ?あの人も昔音楽やってたりするのか?」

 

「京花さんは昔、バンドをやってたの」

 

「へぇ……バンド……バンド……!!?」

 

 京花さんの話を静音が聞いていたが俺もあの人がバンドをやっていたことは全く知らなかった。そもそも俺はあの人のことを全く知らないし少し話をしたことがある程度だったから……。

 

「じゃあ、つまり千里にとっては先輩みたいな立ち位置になるのか?」

 

「まあ、そうなるかな……。凄い情熱がある人だったんだ。バンドの熱意にも人一倍あってこのバンドで自分達は成し遂げてみせるってそんな意識すらあったの」

 

 千里はその後も続けるようにして京花さんの話をしていた。

 ただあの人がどうしてバンドを辞めたのかについては全く触れていなかった。単に知らないだけなのか知っていてもあまり話したくないようなのかもしれない。バンドというものは方向性の違いというものがよくある話だと聞く……。そういう理由なのかもしれないが実際はどうかなんて分からないよな……。

 

 信号で止まった俺はペットボトルに入ったお茶を飲みながらも運転を続けていた。

 

 

 

 

 

「さて、此処だな……」

 

 運転すること二時間……。

 着いたのは山奥にある温泉地だった。山奥にある温泉で有名なところなんてあるのかと想像を掻き立てていたが俺は此処に入る前にあるものを発見していた。

 

 それはもう長らく使われていないような廃墟のホテルや旅館だった。その宿泊施設群が並ぶようにして立たられており、少し異様な光景が漂っていたのを覚えていた。

 

「行くぞ静音、千里……」

 

 二人の声が聞こえながらも俺たちはとりあえずホテルの中へと入っていくことにした。

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

「ようやく終わりそうだな……」

 

 今は事務所、私は此処で今しているのはある新しいバンドのことを調べていた。そのバンドは一度解散はしたものの形を変えて今は新しいものとして作り変わろうとしている。その姿はまるで自分が成せなかったものを見せられている気分だった。

 

「京花……終わったのか?」

 

「もうすぐだ」

 

 事務所の中でもう一人ただパソコンと睨めっこをしていたのは瑛太だった。いつも通り仕事に囚われているあいつの姿は本当にあいつらしい。そして今は仕事を終えて私を冷やかししている。

 

「どうして今になって彼女たちのことを調べてるんだ」

 

「まだ千里や香織以外直接会ったことないからな……。だからこうして、奴らがどれぐらいのレベルだったのかを調べているってところだ」

 

「で……お前なりの点数は?」

 

 

 

 

 

 

「70点だな」

 

 

 

 

 

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