傷だらけな多重人格の青年は泥臭くもVtuberとして呼吸をする   作:村上トオル

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それぞれの乗り越えるもの

「クソ……!クソ……!!」

 

 逃げても意味がないことは知っていた、言い返しても意味のないことは知っているつもりだった。でも私は言い返したくて仕方なかった。『パッチワーク』という新しいバンド名の下に始めることになったこのバンドは……私にとって古いものを修復させてくれたものでもあったから。

 

 このバンドを始めた理由は竜弥を取り戻す為だった。

 それに対して私は絶対に無理だという認識があった。何故なら、あの狂った竜弥がいるのを知っていたからこそ私には竜弥を取り戻すことなんて出来ないと言い切ることしか出来なかった。人の心は脆いし、すぐに修復できるものじゃないから。

 

 でも竜弥に音楽を届くことが出来た。

 届かないという不安は此処で一気に消えて、私たちのバンドは人を惹きつけて感動させられるのかもしれないと言い切れるほどになっていたけど実際は違った。偶々、あのときは上手くいっただけでこれからも上手く行くなんて保証はない。悪い意味でその証明になったのが今回の出来事だったけど、私は認めたくなかった。あの愛だとか言う奴の言っていた言葉を肯定したくなかった。私は竜弥に届いたのなら色んな人に響くと信じていたかったから。

 

「はぁ……はぁ……どうすればいいのかなんて知る訳ないじゃん……」

 

 実力不足?連携不足?それとも別の何か……?

 もしかしたらその全部なのかもしれない、だとしたらどうすればいいのかなんて解答を出せる訳がない。全部が足りないなら全部を見直さなくちゃいけないんだから……。自分という人間を苛まれそうになりながらも私は偶々あったベンチに座り込んで、汗を手で拭っていた。

 

「一人だな……私……」

 

 ベンチに座っているだけなのに疎外感があった。

 こういう変な気分になるのはいつぶりだったかな。嫌な話だけど、中学のとき以来かな。高校生の頃はなんだかんだ話してくれる人居たから……。本当に一人でいつも孤独だった中学時代に戻ったんだな……でも、仕方ないよね。私にとって……あのバンドは今度こそ上手く行くかもしれないとなっていたんだから。

 

「どうしよう、本当に……」

 

 ヤケクソ状態でスタジオを飛び出して出て来た私はこの後どうするか、全く頭で整理整頓出来ていなかった。勝手にキレて勝手に飛び出したことを千里達に謝るのは全然構わないけど、あの人()に謝るのだけは嫌だと駄々を捏ねていると誰かが私の前で立ち止まっていた。

 

「なんで此処に居るの瑛太……」

 

「京花の奴がお前が何処かに消えたと言われて探してたんだよ」

 

「そうなんだ」

 

 今は少し同期の京花の名前すら聞きたくなくなっていた私は軽くだけ反応して目を瞑ろうとしたとき、頬に冷たいものが当たったような気がしてすぐ起きるとどうやら瑛太が缶ジュースを差し出してくれていたようだったが、私は受け取ろうとしなかった。

 

「バンド、結構色々言われたんだろ?」

 

「……全然ダメだって言われたけど」

 

「まあ、京花や愛にも考えがあってそう言ったんだろう。お前らが本気でバンドをやれるのか、確かめる為に敢えて厳しく「なに?ヒーロー気取りにでもなりに来たの?」」

 

 飲み物を受け取ろうとしなかったどころか、私は瑛太に対して嫌味を投げていた。

 それほどまで自分という人間に余裕が無くなっていたのかもしれないけど、到底仲間に投げる言葉では無かったと反省した私は……。

 

「ごめん……言い過ぎた」

 

「別に気にするなよ、今そういうことを言われても納得できないのに言った俺が悪いんだからな」

 

 違う、私は瑛太にそういうことを言われたかったんじゃない。

 でも、それを言えるだけの気力も勇気もなかった。いつもならニヤニヤした顔で言うことが出来ていたはずなのに、そんな体力すらなかった。

 

「ただ……竜弥以外にお前のベースを楽しみにしている奴がいるって言うのは忘れないで欲しいのと……。後は、お前は一人じゃないってことだけ忘れるなよ」

 

「……瑛太」

 

「それじゃあな、俺はもう行くぞ」

 

 飲み物をベンチの上に置いて瑛太は去って行った。

 ベンチに寄りかかりながらも瑛太の後ろ姿を凝視していながらも、あいつが言っていた言葉の微かな影響力というものに引き付けられている自分がいた。そっか、瑛太って……。私のベースの音気に入ってくれたんだ……。あんまりそういうこと聞いたことないから、なんか聞けて嬉しかったな……。

 

 小さく「ありがとう」と言いながらも私は缶ジュースを開けて一口飲んでいると、口の中に変な味が染み始めていた。

 

「え?なにこれ……」

 

 困惑と混乱のあまり、一口飲んだだけで一旦缶を確認すると、そこにはしじみの味噌汁と書かれている缶ジュースだった。

 

「瑛太のバーカ!!私、酔っ払いじゃないんだけど!!!」

 

 もう後ろ姿も蜃気楼のように見えなくなっていたけど、私は瑛太が居る方向へと叫んでいた。

 

「ったく……そりゃあ休日はいつもビール飲んだりしてるけど肝臓に悪影響しない程度だし……つーか合わせするのに酒飲んでからやらねーっての!!酒飲んだからって言い訳することになるじゃん!!このバカ悪役!!お前の何処かが正義の味方だよ!!本当に最……千里!!?」

 

「お酒飲むんだね香織」

 

「え?ああ、えっと……うん。偶にだけどね?」

 

 本当は毎日飲んでいるなんてことを千里の前で言える訳がない。

 千里のことだから絶対に心配してくるから……。というか、いつから千里が私の目の前にいたの?そっちの方が衝撃の事実なんだけど……。

 

「い、いつからいたの千里……?」

 

「あーえっと……酔っ払いじゃないんだけどって言ってた辺りから」

 

「結構前だね!!?」

 

 じゃあ千里にほとんど全部私が瑛太に対して叫んでいた内容聞かれてたってことじゃん!?すげえ、生き恥晒したことになるんだけど!!?もう最悪なんだけど、あの馬鹿のせいで……!!ってそうじゃない、今こんなこと言っている場合じゃない。一旦落ち着かないと。

 

「あーえっと……さっきはごめんね千里」

 

「気にしなくていいよって言うよりは……アタシの方こそごめん香織」

 

「え!?なんで千里が謝るの!!?」

 

 千里に謝られた私はベンチから立ち上がって、戸惑ってしまう。

 今回の件、非があるとしたら私の方だというのになんで彼女が謝るのか不思議で仕方なかった。

 

「アタシがちゃんと歌えてればきっと上手く行ったからさ」

 

「いやいや……そんなことないよ!!?千里はやれるだけやったじゃん!!?それであんな評価だったのは私が悪いんだから千里は気にしないでよ!!?」

 

 勢いよく首を横に振ってから私は「違う違う」と言い切る。

 

「違うの……歌う時自分で制御掛けてそれでちゃんと歌えなかったから……。だから、悪いのはアタシだから……」

 

「千里……いや……だとしてもそうだとしても……。私は千里だけが悪いなんて言いたくないよ……!!」

 

 本当のところは自分の何処が駄目だったのかなんてまるで全然気づけていない馬鹿だけど、それでも私は千里一人のせいなんかにしたくなかった。一人で背負わせるなんてことは絶対にしたくなかった。

 

「私は正直何処が悪かったとかよく分かんないけど!!それでも足りないなら私は私達なりにやってみたい!!今までだってそうしてきたんだから!!それじゃあダメかな千里!!?それに……あの竜弥を取り戻すことが出来たんだからこれぐらいの山場!!私たちなら乗り越えられるよ!!」

 

 勢い任せに口から出まかせみたいになったけど、それでもいいとなっていた。

 あの竜弥を取り戻すことが出来たんだったらこの程度のことで怯んでいる時間なんて今更惜しいとすらなっている自分がいて、さっきまで悩んでいた自分が馬鹿らしくなっていた。そして、その想いは千里にも伝わったのか……。

 

「そうだね……じゃあさ……やってやろうよ香織?」

 

「うん……!!千里……!!」

 

 お互いに拳を突き出して拳を合わせながらも私達は誓い合う。

 自分自身の魂に……。私は一人じゃない、私には千里達がいるからもう寂しくなんかない……。あのころと一緒じゃないから……。

 

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 私はこれから先安藤みのりとしてドラムを叩く。

 その覚悟は出来ているか、出来ていないかと言われたら出来ていた。折角やろうと決めたことなんだから私はやり遂げたいという気持ちがあった。実際、安藤みのりとしての私は割と順調な滑り出しを迎えているのは本当のことだったから。まあ、やる内容が凝りに凝りまくらないとすぐ飽きられそうなことだからちゃんと練っている。

 

 それに私みたいなジャンルはあんまり居ないから伸びやすいというのもあった。

 そもそも廃墟というジャンルがVに居たとしてもそれは心霊スポット紹介とか廃墟紹介とかそういうのは居るんだけど、流石に空想の廃墟とか怖い話を作ったりするVとなるとかなり限られてくるからそう言うのを期待して見に来てくれる層はいるし、その別の顔としてドラムを叩くことができるという点は割と注目されていたから、まあかなり運が良かったかもしれないけどバンドを組むって言う意味では現実は違う。

 

 何故、そう言うのかと問われれば私は今お祖母ちゃんの自分の実力を確かめて貰っていた。元バンドマンのお祖母ちゃんだったら見抜けるかもしれないと踏んでいたから。そして、待っていた言葉は割とキツいものだった。

 

 

 

 

「琉藍……この際だからはっきり言うけど……。アンタ、前より自分勝手にドラム叩くようになったね」

 

「……なんで?」

 

 一瞬だけ握っていたドラムスティックを強く握り締めながらも私はいつも通り気だるそうにしていたけど、指には力が入っていたままだったのは変わらなかった。

 

「アンタが言う心臓が喜ぶっていう特徴的なものは確かに感じさせていることは出来ているけど……それのせいもあって自分勝手にドラムを叩くようになってるのさ。この前の配信では誤魔化せていたようだけど、次に合わせの練習とかでやったとき……アンタはそれに気づかされることになるよ」

 

「……お祖母ちゃんってさ、本当に手厳しいよね」

 

 言いたいことは伝わっていたよ。

 お祖母ちゃんの言う通り、私は久宮愛や九石京花の前でドラムを叩いたとき、圧倒的に自分が千里達に合わせられていないということに気づかされていた。自分でも正直驚きだったんだけどさー、意外とはならなかったんだよね。多分さ、こうなることを予感していたからさ。

 

「どうするんだい?いつもみたいにのほほんとしているつもりかい?越えるべきものに気づきながらも」

 

「うっさいなぁ……言われなくてもちゃんとやるよ……。やるって決めたんだからさ……」

 

 しつこく言われたような気分になって、なんと嫌な気分になっていた私は珍しくお祖母ちゃんに対して悪態をついてしまっていた。「うっさないなぁ……」と言った後に、手に持っていたドラムスティックを投げるように置いて一瞬床を睨むようにして見ながらも私は立ち上がり言葉を続けていた。

 

「何処に行くんだい?」

 

「ちょっと休憩、此処に居たら息が詰まりそうだからさー」

 

 私はお祖母ちゃんの目の前から逃げるようにして、一旦楽器屋を出る。

 楽器屋を出てすぐ私は楽器屋の中に展示として置かれてあるドラムが目に入った後に溜め息をついていた。お祖母ちゃんに言われたことが図星のあまり、少し傷ついていた私はその心の傷をいやすためにひたすら歩いていた。

 

 

 

 

 歩いていると見えていたのは人が人と一緒に歩いている姿やビルやお店と言うものだった。そんなものが見えてくるのは当たり前でしかないし、私にとってそんなものが心を癒してくれるものでもないというのを知っていた。私の心を癒してくれるのドラムだけだから……。

 

「はぁ……」

 

 店でドラムで叩いていれば良かった。

 後悔しながらも横断歩道を歩いていると、「琉藍」と呼ぶ声が聞こえて来ていた。聞き覚えのある声だったけど、私は無視して歩き出そうとしたときだった。呼んだと思われる人が私の腕を掴んでいた。

 

「エリー……」

 

 振り返るとそこにはエリーがいた。

 名前を呼ぶ声に反応しなかったからなのか、それとも私に逃げられると判断したのかエリーは若干強めに腕を掴んでいた。

 

「琉藍、大丈夫?」

 

 偶々を横断歩道で見つけてくれたエリーは私のことを心配してくれていた。

 あのときもそういえば……私のことを心配してくれていたのはエリーだったっけ……。そういえば、そんなこともあったなーと懐かしくなっている自分がいた。

 

「……逃げないから手離してよ、エリー。普通に痛いからさ」

 

「……分かった、ごめん」

 

「別にいいけどさ……」

 

 横断歩道で人間が立ち止まっている光景、どっからどう見ても邪魔でしかないけどさ。私と恵梨の絶妙な距離感を表すようにして信号が点滅していた。

 

「何処か行く琉藍?」

 

「……まあいいよ」

 

 此処で突っ立ってもただのデク坊になっているだけでしかないから私はエリーの後ろを歩いていた。エリーの後ろを歩くという光景はなんか凄く不思議な光景だった。私はいつもエリーの前を歩いて、「先行き過ぎないでね」といつも言われていた側の人間だから今の私にはその元気すらないというのが自分に跳ね返っていると、少し経った場所に見つけたチェーン店のバーガーショップを二人で入ることにした。

 

 特に食欲が湧いている訳でもなかった私は適当にコーヒーだけを頼むことにしていた。エリーもそれに合わせてなのか、シェイク系のものしか頼んでいなかった。……合わせなくていいのにさ。それから少し経った後に私とエリーは向かい合って席に座った後に、私はストロー越しにコーヒーを飲んでた後に……エリーがこう言い始めていた。

 

「香織と三人での合わせ練習の最後の日のこと覚えてる?」

 

「ん?あーえっと覚えてるけどどうしたのさー?」

 

「こうやってさ、バーガーショップで三人食べてたよねって。香織が今月漫画買い過ぎてお金ないって言い出して琉藍が利子付きだったら貸してあげるよって言ったら香織はどうしてもお腹空いたからお金借りる!!って言い出してたよね」

 

「あーそんなこともあったね」

 

 詳細の内容を言われるまで思い出すことが出来なかったけど内容を言われて私は思い出していた。あれは最初のライブの日の前日、前祝いに私が何処か食べに行こうよって言い出して今日みたいに軽く食べられるバーガーショップに来たんだっけ。それでヒメが今月もうお金ないから私に課して欲しいと言い出したけど、私が利子つきだったら貸してあげるってそれを香織が了承しようとしたら、エリーが何も言わずに私達の分を払ってくれたんだよねー。そういや、そんなこともあったし、あれのおかげでヒメがエリーに対する警戒心が薄れた気もするんだよね。エリー、お金返さなくていいと言っていたし。

 

「エリー、私はさ……。あのときのこと今でも感謝してるんだよねー」

 

「あのときのことって……スタジオでのこと?」

 

 合わせの練習の話をしていて私はあの日のことをエリーに感謝していることをようやく伝えられた。ちょっと木っ端恥かしくて今まで言うことが出来なかったけど、こうしてちゃんと言うってのも案外悪くないもんだねー。心が楽になるしさー。

 

「っそ、エリーが手伝ってくれたから私は私の心臓を取り戻すことが出来た。まあ、お祖母ちゃんに今度は自分勝手にドラムを叩いてるだけだって言われちゃったんだけどさー」

 

 勿論、それがなんでもなのかは自分でもう答えている。

 この三年間、ドラムを叩かなかった日々なんて一度もないからブランクなんてことは絶対にあり得ない。あるとすれば、それは……私自身の問題。個人練習ばっかりに夢中になっていたから、バンドという形での演奏を完全に忘れてしまっていた。

 

 こうなるとブランクのようにも聞こえるけど、実際は違う。

 実際のところは私自身の心の問題だから。自分一人で演奏してそれで心臓が喜ぶということが多くなってしまったり、私はそれが楽しいと認識してしまうようになったから。他人と合わせるのが不可能になってしまった。このままだと私は自分というものにこだわり始めて、バンドというものに染まることが出来なくなる。リューのときはリューの為だったから、なんとかそれがバレないように乗り切れたけどこれからはそれが通用しなくなる。

 

「琉藍は自分に何が足りないのかが分かってるんでしょ?」

 

「痛い所突かれまくったけどねー」

 

 お祖母ちゃんの容赦のない言葉を浴びさせられまくって流石に今はメンタルがやられてるけど……。

 

「なら、琉藍は大丈夫」

 

「……なんで大丈夫って言えるのさー?」

 

 

 

 

「だって琉藍は私との特訓乗り切れたでしょ?」

 

 言っていることは正直意味分からなかったけどさー、なんとなく根拠のある答えに聞こえたんだよね。恵梨の特訓って本当に根を上げたくなるぐらい凄いきつかったのは事実だけど、それ以上に本当に伸びたし自分の心臓を喜ばされるようになったから……。いや、休憩とかはちゃんと入れてくれたけどさー、本当に恵梨の特訓って有無を言わさずぶっ続けでやろうとしてくるから体力との勝負になるんだよねー。そりゃあ、あのときに比べたら、お祖母ちゃんに言われた言葉とか愛とか言われた言葉とかどうでもよくなるのは本当のところだったから……。

 

 

 

「……だね」

 

「だったら、もう一度するあの特訓?」

 

「……お手柔らかにしてくれるならいいよー」

 

「それは琉藍次第」

 

「相変わらずきついなエリーはさー。まあ……いいけどね」

 

 エリーとの特訓はそんな悪いもんでもないし……。

 まあ本当にきついから地獄を見ることになるのは変わりないけどさー。実感できるんだよね、自分が成長してるって……。だから、そういう意味では本当にエリーは頭上がんないよ。

 

「なら、一旦楽器屋戻ろ琉藍」

 

「え?ああ……行くけどちょっと待てよエリー」

 

 エリーはシェイクが入っていた容器を手で握りながらも立ち上がろうとしていた。私も急いで苦いコーヒーを飲み終えて、立ち上がって片付けを済ませて楽器屋に戻ることにした。

 

「本当、琉藍って善は急げって感じだね」

 

「時間も余裕、ないから」

 

「それもそうだね……それじゃあ頑張りますかー」

 

 ヒメがどうしているのかも気になるけど、きっと乗り越えられると私は信じてる。

 だって、ヒメはメンタル弱いように見えて滅茶苦茶強いからさー。私たちのことを天才だとなっていたようだけど、それでも追いつこうとしてくれていたヒメがあんなところで本気で凹む訳ないって……。

 

 

 

 

 

 お店に戻って来てすぐに死ぬほど聞き飽きた入店の音が鳴ったのと同時に私たちは店内に入ると、そこには……おじいちゃんっぽい人がピアノを弾いていた。そのおじいちゃんのことは知らないけど。それを眺めている一人の女性には見覚えがあった。

 

 

 

 

「渚……?」

 

 

 

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