傷だらけな多重人格の青年は泥臭くもVtuberとして呼吸をする   作:村上トオル

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その想いを

 あいつらの近くにいて分かったことがあった。

 それは自分も成長しているということだ。あのとき、ライブ会場であの二人の様子をまるで背中を追いかけ続けるようにしていたが、私は千里や風夏という刺激を受けることで自分の中でも何かが成長し始めるということに気づき始めていた。いつもの私であれば、きっとこれに触れることすら気づくことすら出来なかっただろうが、違ったんだ。あいつらの真剣の強さ、闘志をこの目でしかと見届けたことで私は勇気を貰ったような気になっていたのだ。

 

 たったそれだけで勇気を貰ったような感覚になるなど、はっきり言って短絡的なのかもしれないが私にとってあの二人は唯一の弟子とも言っていいほど過言ではない二人だ。あの二人から得れるものがあったとしたのなら、それは間違ってなどいないはず。それを確信したのは千里達の二度目の合否を含めてのスタジオでのあの出来事だ。師という立場でありながらも、弟子から何かを得るとはな……。だが、こういうのも悪くない……。不思議と強くなる高揚感を頼りに私はこの場に立っていた。そう、それは……。

 

 

 

 

 【餅月セイナ3Dライブ】

 

 

 

 私達の3D自体はかなり前から活用されていた。

 恐らく、最も3Dを活用しているのはハクだろう。何故なら、あいつはshot動画で死ぬほど3Dを使って体を張りまくっているからだ。最近だと、確かペットボトルロケットを全身で受けてみたりとか、シュールストレミングを食べたりとか……していた。変なことばっかやってんな、あいつ……。

 

「ねぇねぇセイナ!!見て見てこれ!!二刀流……!!」

 

「はぁ……遊んでないでやるぞ……。って……カオルまでなにをしているんだ……」

 

「なにをって奇しくも同じ構えだって奴の……」

 

 そう、この変な同期二人と今はコラボしている状態。

 気配斬りをすることになったのはいいものの、スタッフ側の悪ふざけで二人が二刀流になって構えがどうのではしゃいでいるのだ。私はこういうネタを全く拾えないから、完全に二人の世界になってしまっていたが、どうにか二人のこの流れを解決しようとするもののそういう策を持ち合わせていなかった。

 

「はーい!と言う訳で……じゃあ気配斬りやって行きますか!!」

 

 いつもは司会役兼仕切り役がハクだったが、今回は悪ふざけをしていたということもあったが、暫く二人だけの劇場が続いていたこの状況で痺れを切らしたスタッフからの指示を受けたハクは…ようやく仕切り始めてくれていたのと同時に気配斬りのルールを解説され始めていた。因みに、その間カオルは大人しくしていたが、「さっきの構えどうだったセイナ」と私に振られて困惑することになっていた。

 

 

 

 

 

「勝負あり、勝者……カオル」

 

 気配斬りのルールは簡単だ。

 参加者が全員目隠しをすることになり、お互いに少し距離を離れた状態から動き始めることによって持っている剣で相手を斬ることが出来た方の勝ちというシンプルなルールだ。因みに、剣というのはマジの剣ではなく棒のようなものだ。

 

「よしっ!!」

 

「クソー負けたぁぁぁ!!」

 

 そして、この気配斬りは一本で終わるガチの勝負な為、この試合に負けたハクはこのまま観戦ということになる。そして、今から私はカオルと気配斬りをすることになった。

 

 

 

 

「……セイナ、この勝負俺が勝つと言ったらどうなる?」

 

「そういうのは負けたときに恥ずかしくなるからやめておくことだな……」

 

 冷静そうに言うと、ハクが「死亡フラグ死亡フラグ!!」と騒いでいる声が聞こえてくる。

 確かにああいうのは死亡フラグに繋がることが多いな……となりながらも手に持っている棒を構えながらも目隠しされている状態になっていた。本当に何も見えないな……。

 

 

「始め!!」

 

 の合図と共に私は動き始める。

 出来る限り、足音を立てずにカオルを倒すことに専念しようとしていた。たかがゲームとは言え、カオルに敗れるつもりはない。それにあいつはこの勝負負ければハクにある漫画の全巻を交わされて読まされることになっているらしいからな。そっちの方が圧倒的に面白いと色々と心の中で面白がっていると、何かを踏んづけたような感覚があった。何を踏んづけたのか分からないが、戸惑っていると近くから足音のようなものが聞こえて来て、私はすかさず棒を振り落とすが何かに当たったような感覚はなく……。

 

 

 

 

「勝者!カオル!!」

 

 訳も分からず棒が当たり、何が落ちていたのか確認すると私が自分でペットボトルを踏んづけていたようだった。まさか、こんなしょうもない理由が敗因になってしまうとはなっていると、ハクがカオルと話している。

 

「おい!!何勝ってんのさカオル!!フラグへし折ってるし漫画布教させてよ!!?」

 

「いや、お前俺に買わせようとしただろ!?」

 

「いやいや、自分で買わなきゃ漫画は意味ないじゃん!!」

 

 といつも通りのイチャイチャっぷりを披露している二人。

 全く、こんな感じの奴らが同期になるという話を聞いたときは本当に驚かされたが、今では悪くないと思っている自分がいる。

 

「ん?どうったのさセイナ?」

 

「いや……悪くないなと思っただけだ」

 

 私がほくそ笑んでいることに気づいた、ハクが私に聞いて来ていたが、それに更に笑うようにして答えていた。本当にこの二人といるのは退屈しないな……と心の中で楽しげに笑い続けている自分がいたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、やるか……」

 

 そして、この3Dライブにはゲストがもう一人がいた。

 それが……アマンダと呼ばれている少女が私の目の前にいた。そして、彼女の現実の名を愛……。こうしてコラボして隣に立つということ自体かなり珍しいことではあった。コラボをしたことがあっても3Dで一緒に何かをするということをしたことがなかった。ある意味、ようやく実現したこのコラボですることというのは決まっていた。

 

 

 それは勿論、私の音とアマンダの音を重ね合わせることで音楽というものを作り上げること。私が歌うということをしたのはかなり久々だった。基本私の配信というのは雑談だったからだ。配信中、歌枠したりしないの?と聞かれたこともあったが、いつも私はやんわりと断っていた。何故、断っていたのかと言われればハーモニークローバーが解散して以来、自分の歌声というものを受け入れるのが怖くなってしまったからだ。

 

 歌う事を自分を解放できるというのは知っていた。

 知っているつもりだった、私はその気持ちに従うことが出来なかった。綾川千里に忠告していたくせに自分が歌えないというのは本当に滑稽でしかなかったが、あの二人のおかげでもう一度自分というものを曝け出していいとなれた。だからこそ、私は……。

 

 

 

 

 

 

 此処で歌うことを選んだ。

 歌という感情を使って私はこれから先戦うことを選んだ。そして、恐らくアマンダも戦うことを選んでくれた。だからこそ、私は歌という武器を持って勇気を背負って此処に立って歌うことが出来ている。言われたことがあった私の武器は……人々の感情を大きく揺さぶることができる力があると……。当時の力があるのかは知らない。それでも私は歌い切るだけだ。

 

 

 

 

 

 

『京花、もうやめよう』

 

 歌い続ける、歌う事で自分自身に証明させる。

 あの日、私は全てを諦めるという選択肢を選ぶことしか出来なかった。でも、今は違う。隣であいつがギターを弾き続けてくれる限り、私はこれからは立ち向かい続ける。もうハーモニークローバーが戻って来ることはない。それ自体を完全に受け入れることが出来ているかと言われれば、それは違う。でも、今の私には隣に立ってくれる奴らがいる。私の背中を見て成長し続けて来てくれた奴らがいるからこそ、私は頑張ろうとすることが出来る。

 

 

『京花……!!最高のステージ期待してるよ!!』

 

『京花、お前ならやれるはずだ』

 

 同期の二人の声がそう言ってくれる声が聞こえてくる。

 そして……。

 

 

 

『やろう……京花』

 

 隣に立ってくれている、アマンダの声が聞こえてくる。一瞬、隣を見ると彼女が笑ってくれている表情が見れて私はようやく理解できた。ああ、これがきっと……。

 

 

 

 

 

 

 私が望んでいたことなんだろうな……。

 

 

 

 

 

 

 

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