傷だらけな多重人格の青年は泥臭くもVtuberとして呼吸をする   作:村上トオル

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感謝の言葉

「やばいやばい、本当にこの大会優勝しちゃった……!!」

 

 自分が今大会を優勝したという実感はあっても、受け止めきれない高揚感があった。

 それにこの大会は元々優勝するつもりでしかなかったから、勝つのは当たり前だったけど……。それでも、いざ優勝するとマジで優勝しちゃったよ俺!?という興奮が止まらなくなっている。そろそろ大会優勝のインタビューだというのに手元にあるスマホで誰に電話しようか、迷っているとまず一人目から連絡が来る。

 

 

 

 それは紀帆からだった……。

 簡単な内容で「流石ライバルやな!」と誇らしげに送って来ていた。ったく、優勝したのは俺だっての……。「ありがとう」と連絡は返していると、亜都沙さんから連絡が届いて、それを確認するとグーサインを突き付けつつ「おめでとうやで!」と送って来てくれていた。亜都沙さんらしい文面に俺はほっこりしていると、自分の優勝のインタビューのときが来ていた……。チームが何故優勝出来たのかと問われ、俺はそれに対してありきたりではあるもののこう答えていた。支えてくれていた仲間が居てくれたからと……。そして、もう一つ……。この大会の優勝を誰かに伝えたい人が居るかと質問された俺はこうこう答えることにしていた。

 

 

 

 

「尊敬している人に感謝を届けたいです……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 大会インタビューを終えて、一息つくようにしてパソコンの目の前から離れようとしたのと同時に僕のスマホから着信音が鳴り響いていた。それは最近よく流れている重めに感じるものではなくて、少し軽快な音が流れていたような気がしていた。確認をすると、その相手は恵梨さんからだった。電話に出てすぐに……。

 

「おめでとう恭平……」

 

「ありがとうございます、恵梨さん」

 

 お礼を言ったのと同時に拳を握り締める。

 その拳はこれまでへの恵梨さんへの感謝を噛み締めさせる為のものだった。

 

「恵梨さん、本当に……ありがとうございました!!」

 

 電話越しだというのに頭を下げるという謎の行動をしていたけど、気持ちというものが込められているような気がしてられなかった。

 

「僕は恵梨さんのおかげでこうしてVとしてデビュー出来て、支えてくれたから此処まで来れたんだと思います。自分の夢を実現させてくれたのは……本当に恵梨さんのおかげなんです!!だから、本当に……ありがとうございました……!!」

 

 自分の思っていることを誰かにぶちまけるという行為はとても難しいことなのかもしれないけど、僕はそういうことを特に難しく考えることもなく恥ずかしいともならずそれを切り出すことが出来ていた。すっきりとした空気感が体の中に流れている……。

 

「なに、終わりみたいなこと言ってるの?恭平も自分でよく言ってたけど、これはまだほんの序章に過ぎない。そうでしょ?」

 

「……はい!これからもよろしくお願いします!恵梨さん!!」

 

 元気よく明るく返すと、時間が流れて行く音だけがしていたけどその間にも恵梨さんは何かを考えている様子だった。何か話題を振ろうとしたとき、こう僕に提案してくれていた。

 

「プロになったことだし……何処か出かけたりする恭平?」

 

「え!!?いいんですか恵梨さん!!?」

 

「いいよ、お祝いみたいなものだから……。でも他の人には言っちゃダメだから。私と出掛けたって言ったらしつこく聞いてくる奴とかいるでしょ?」

 

「た、確かに……。そこは気を付けます」

 

 紀帆はもれなくそうだし、僕のことをガチファンとか呼んでた香織さんとかもこういうのには過激反応しそうな気がする。案外、亜都沙さんとかは「ほーん?良かったやん」って済ませそうだけど……。

 

「それじゃあ……私は電話切るね。改めておめでとう、恭平」

 

「はい恵梨さん!!いつも支えてくれて本当にありがとうございます!!」

 

「分かったから……」

 

「旅行楽しみにしてますから!!

 

「うん……」

 

 言うだけ色々ぶつけて僕が喋り倒していると、押され気味になりながらも恵梨さんが電話を切っていた。恵梨さんとの旅行楽しみだな、色々と準備とかしておかないと、まるで次の日遠足だと言わんばかりにウキウキな気分で僕はスマホの連絡先から今度は竜弥さんに電話することにしていた……。

 

 

 

 

 

 一週間後……。

 僕は改めてプロになれることが決定することになった。プロチーム『JACKS』に……。大会に優勝して、好成績を収めたのだから当たり前のことなのに何処か実感が沸かない自分自身が居てしまっている。

 

「竜弥さん……」

 

 竜弥さんがやって来ていたのは僕の家だった。

 これから一旦焼肉屋に行くことになっていたけど、その前に集合場所を此処にしていた……。というか、二人だけで話をしたかったから……。

 

「恭平、おめでとう」

 

「あーえっと、ありがとうございます……」

 

 一週間前、僕は竜弥さんにも電話で自分が大会で優勝したということを知らせた。

 どうやら竜弥さんは僕の配信を見届けてくれていたらしい。尊敬している推しがこうして自分の大事な配信をチェックしてくれているというのは嬉しい気持ちでいっぱいいっぱいになっている自分がいたけど、僕はこれからちゃんと伝えたいことがあってそれを言う為に気をしっかりとしていた。そうじゃないと、すぐに泣きだしたりしそうだからだ。

 

「あの竜弥さん……!本当にありがとうございました!!」

 

「俺は何もしてないだろう?」

 

 謙遜してくる竜弥さん…‥。 

 これは読めていたけど……。

 

「いやいや、そんなことないですよ!!僕は竜弥さんのおかげでこうしてプロという狭き門をくぐることが出来たんです。勿論、これからだというのも分かっています。それでも、竜弥さんという尊敬できる推しの姿があったからこうして此処まで来れたんです!!背中を見て育っていなければ僕はきっと此処まで成し遂げることは出来ませんでしたから!!後、それだけじゃなくて……」

 

「カスタム中とか大会中とかも弱音吐きそうになったけど、竜弥さんがくれたサインや言葉でなんとか頑張ろうとなれたんです!!本当は大会中ゲロが吐きそうなぐらい迷いに迷って竜弥さんに電話していい子いい子して貰おうかとすら考えていました。でも、それは甘えだと悟れたんです。僕が今登ろうとしているのは険しき森の中なのに尊敬できる人の力を借りているようじゃ一人前にはなれないって……!でも、やっぱり推しのおかげで此処まで来れたのは間違いないんです!!あーえっと色々と矛盾したこと言ってるんだと思うのですけど、だからその……」

 

 

 

 

 

「本当にありがとうございました!竜弥さん!!」

 

 溢れんばかりの想いのあまり、僕は竜弥さんに抱きついていた。

 竜弥さんの体は凄く暖かかった。一時のような冷たさはもうなくなっていたんだ……。それに安心している自分が居ながらも僕は瞼から徐々に涙を流れていた……。

 

「ごめんなさい、ごめんなさい竜弥さんの前で泣かないって決めてたのに僕……というか、馬鹿みたいですよね僕……」

 

「いいんだよ恭平、此処まで頑張って来たんだろ?これまでよく頑張って来たんだ。今日ぐらい目いっぱい泣いていいんだ……。それと、恭平に話しておきたいことがあるんだ」

 

 

 

 

「恭平のこれまでの配信やカスタムを見て俺は思った……。的確な判断力、チームをまとめる指揮力、ゲームへの適合率、コメント欄の統率力、どれも取っても凄いよ。ああいうゲームって普通負けたりしたらみんな苛立ち始めて戦犯探しとか始めるのに恭平のところは出来る限り、熱くなり過ぎないように徹していた。本当に凄いよ恭平……。だから言わせて欲しい」

 

 

 

 

 

「俺は恭平みたいなファンを求めてて良かったし……。なにより……やっぱり恭平は……」

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺のことを越してるよ」

 

 その言葉はかつて僕が謙遜していたものだった。

 僕が竜弥さんを越えているなんてそんな事実ある訳がないとなっていた時期もあったけど、いあはただその言葉が沁み込んで来て仕方なかった。何故なら、それはきっと……僕がこの大会で優勝するまでにプロになるまでに詰め込んできた努力が証明してくれていたのかもしれなかった……。

 

 

 

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