傷だらけな多重人格の青年は泥臭くもVtuberとして呼吸をする   作:村上トオル

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旅先の出会い

「なんで東京に住もうと思ったの?」

 

 ファミレス内でグラスに入っているジンジャーエールを飲んでいる紀帆。

 美味しそうに飲んでいる……。そして、私達の横を配膳猫ロボが通っている。可愛い……。

 

「事務所が東京にあるやろ?わざわざ大阪から移動して此処まで来るのも大変なんや」

 

「あれだけ大阪愛に満ち溢れてたのに?」

 

 紀帆の大阪愛は正直異常かな……。

 関西じゃなくて本当に大阪だけが好きだし、しかもその愛の量は尋常じゃない。割と知名度が高い大阪の話から、本当にローカルの話までしてくるから偶に何の話をしているのか分からなくなってくる。

 

「まあ、そうなんやけどな……ほんまは風夏達と居たかったと言ったらどないする?」

 

「……私頼み終わったよ」

 

「ちゃんと聞けや!!?そういえば、これ風夏の奢りでええんやろ?」

 

「いいよ」

 

 若干そう言われて嬉しかったというのは内緒にしておいた。

 すぐに引っ越し祝いを用意出来なかったからとりあえず紀帆のことをファミレスに連れて来ていた。タブレットからメニューを凝視している、紀帆の姿が面白くて苦笑いを浮かべていると紀帆が喋り出していた。

 

「実を言うとなぁ……本当は愛は知ってたねん」

 

「紀帆が東京に引っ越して来ること?」

 

「せやせや、あいつには一応伝えておったんやけどな、多分誰にも伝えておかなかったんやろうな……。あの感じを見るに渚も知らなかったやろ」

 

 なんとなく愛が何も言及しなかったのにはイメージが付く。

 あの子は抜けているところもあるけど、紀帆の引っ越しに関しては恐らく私をどっきりさせる為に近い。愛ってそういうところがあるし、隣が私の部屋だと知っているなら尚更そういうことをしてくるはず……。

 

 渚の方は泣いてたから、本当に知らなかったと思う……。

 

「というか、ウチが大阪から東京に引っ越してきたは伝えたんか?」

 

「渚には伝えた。事務所には前から伝えてあったでしょ?」

 

「それは勿論伝えてあるで、そこはちゃんとしておかんと後でどやされるのウチやからな」

 

 私達の事務所はなんだかんだのほほんとした雰囲気の場所だけど、そういう書類事みたいなものはちゃんとしないと首の根っこを掴まれるような感覚で怒られることになる。今のはただの比喩表現だけど、それでも一人の人間としてちゃんとしなさいと言いたいのは全然分かる。

 

「でな、次は誰に連絡しようか迷っていてな……あのガキはかなりおもろそうな反応を示してくれそうだから後回しとして」

 

「竜弥君とか、千里は?」

 

「その辺も割とおもろそうな反応してくれそうなんよな……。よしっ、決めたで!!」

 

 メニューを頼んだ後に紀帆が自分のスマホを弄り始めていた。

 多分頼んだ物的にハンバーグとスパゲッティとピザ。……え?普通に量多くない?というツッコミを入れるのはやめておいた……。意味のないツッコミだから……。

 

「もしもし、恵梨ー!!ウチや!紀帆!!実は……東京に引っ越してきたんや!え?今、それどころじゃない?……なんか近くで悲痛な声聞こえて来たけど大丈夫なんか?」

 

 電話の相手は恵梨かな、これは……。

 何処か電話どころじゃないみたいなそんな感じだけど、大丈夫だろうかとなっていると徐々に紀帆がニヤけ始めている。あー悪いことを考えているときの紀帆だとなっていると……。

 

 

 

 

 

 

「恵梨!今、男とおるやろ!?しかもその相手は恭平やな!!?」

 

 ほら、やっぱりこうなった……。

 恵梨にとって恭平君は息子同然みたいなもんだからそうやって出かけているときもあるだろうに……。

 

「ひひひっ、良いことを知れたで!そんじゃあ、ウチは切るで!恭平によろしくな!!」

 

 通話を切った紀帆は変な笑いをしながらもソファーに座り直していた。

 本当、こういうところ紀帆って紀帆って気がする。嫌いじゃないけど……。 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

「絶対紀帆に変な勘違いされてる……」

 

 電話を切った後にも聞こえている恭平の痛そうな声……。

 いや、やったのは私なんだけど……。……でも、先に喧嘩吹っかけて来たのは恭平なんだから恭平が悪い。触るなって言ったのに触って来たし……。悶えている恭平のことを無視しつつ、私はSAの中へと入って行くことにしていた。

 

 こういう場所に来るといつも思うのは、お土産だとか食事とかそういうものが気になったりするけど、やっぱり一番気になるのはパン屋だったりする。こういう場所でしか売られてない地域のパンだとか亀の甲羅パンだとかそういうものが売られていたりすることもあるから結構毎度毎度楽しみにしている自分がいる。

 

「え、恵梨さん……すみませんでした……」

 

「……パン食べる?」

 

「は、はい……」

 

 特に恭平の謝罪に触れることもなかった。

 恭平がトングをカチカチと音を立てながらも、ちぎれパンを取っていた。そういうの好きなんだとなりながらも、私は此処だけで買えるようなカスタードのパンを買うことにしていた。どうやら、ただのカスタードのパンではないようで此処の地元で作ったものをそのままパンにして提供しているようだ。そういう地元でしか食べられないパンというのは本当に有難いとなりながらも、私達は他にパンを買う事にして会計を済ませることにしていた。

 

 

 

 

 

 こういうSAで食べる食事というものは何処か不思議と特別感があるような気がしてならない。何処にでもあるようなラーメンとか海鮮、うどんそばなのかもしれないけどこういう場所で食べるものというのはまた格別な気がしてならない。そう思っているだけと言われたらそれまでかもしれないけど、やっぱりこういう旅の途中で何かを食べるというのは醍醐味でもある。私はうどんを、恭平はカレーを食べている。朝からカレーを食べられる、男の子ってやっぱ凄いなとなりながらも私はうどんを食べ続けていた……。

 

 

 

 

 

 

「ほら行くよ恭平」

 

「は、はい……」

 

 食べ終えた私と恭平はバイクに乗って目的地へと向かうことにしていた。

 さっきのこともあって恭平は怯えているけど、悪いのは恭平だから私は絶対に何も言わない。反省しているから許してあげてもいい気はするけど、やっぱり許せない。

 

 

 

 

 

「……やっぱいいな」

 

 高速の中を通って行く度に、背中を押すような加速感とともに、自分とバイクだけが確かに存在しているような気分になってくる。この重みと自由が、胸の奥に染みて行くのが私は好きでたまらない。好きと好きの要素だけで旅が楽しくなるというのを見つけたときは、より一層旅が良いものになっていた。

 

 今回の旅は……恭平のお祝いを兼ねての旅。ちょうどGW中だったし、恭平もまとまった休みが取れていた。プロへの道を目指すことが出来て、ようやく一歩を踏み出した恭平。今日という日ばかりは打一歩なんだからとかそういうのを言うのはやめて、楽しませてあげようとなっていた。そのためにはまず、宿を目的地へと向かっていた……。

 

 

 

 

 

「着いたよ、恭平」

 

「はい……!」

 

 いい返事と共に恭平が反応をする。

 軽めのキャリーケースを下ろして貰っていた。キャリーケースを乗せることになるから後ろの乗り心地が悪くなることになるけど、そこは恭平に犠牲になってもらうことになった。そのまま、荷物を持って中へ入って行くと、恭平と同じぐらいの少女が私達のことを出迎えてくれていた。

 

「いらっしゃいませ、ようこそお越しくださいました」

 

 年相応の子にも見えていたけど、その立派なハキハキとした挨拶の仕方はまるでこの旅館の跡取りのような素振りもあったように見えていた。

 

「この子、なんか僕よりしっかりしてそうじゃないですか?」

 

「歳、同じそうなのにね」

 

「それは余計じゃないですか……」

 

 とわざと突っかかるような言い方をすると、恭平は苦笑いをしつつ反応してくれている。

 うん、それでこそ恭平となりながらも受付を済ませることにしていた。そこでも綺麗な顔立ちをした女性の方が私達の受付・案内・説明をしてくれていた。なにからなにまで説明してくれて凄く分かりやすい説明に私達は「ありがとうございます」となりながらも、部屋を向かおうとしたとき先ほどの女の子が私達の荷物を持つと言ってくれてキャリーケースを軽々と持ち上げてくれていた。こういう仕事にもなれているんだろうとなりながらも、私は関心しながらも部屋へと案内してもらっていた。再び彼女にお礼をすると、最後に「どうぞごゆっくり」と言っていた。

 

 

 

 

「でどうする恭平?先に温泉入る?」

 

「そうですね、僕はその方がいいですかね」

 

「じゃあ、そうしようか」

 

 部屋を出て、すぐに私たちは温泉へと向かうことにしていた。

 此処の温泉は肌にいいらしいから、そういうのも期待したいかなとなっていると恭平が……。

 

 

「お、お手洗い行って来てもいいですか?」

 

「道中あるし、そこでして行けばいいんじゃない?」

 

「そ、そうですね」

 

 納得してくれたようで歩き始める私達……。

 道中、お手洗いを見つけた恭平はその中へと入って行った間、私は待つことにしていた。

 

 

 

 

「こうして旅に出るのも久々だっけ……」

 

 最近は恭平が倒れたり、大会に出たり、バンドで忙しかったりしていたから気楽に旅をしている暇なんてなかった。それこそプチ旅行なんてことが出来ればよかったけど、そういうことをしている暇もなかったし、一人でのんびりというのも悪くないけどこうやって誰かと一緒に旅をするというのも悪くない。目の前にオーバーサイズのパーカーを着た女性が通ったとき、一瞬ん?となってもう一度目を向けるとその女性はこっちを向いていた。

 

 

 

 

 

 

 

「琉藍……!?」 

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

「恵梨さん、お待たせしましたよ……っていない!?」

 

 お手洗いから出ると廊下には恵梨さんが居なかった。

 え?まさか俺取り残された……!?スマホを部屋に置いてきちゃったけど、部屋の前に戻ってれば、なんとかなるよな……。はぁ、なんでこんなことになっちゃうんだろう……。慌てて歩いていると、俺の隣を従業員さんと思われる人を通過しようとしていたけど、その人は足を止めている。ん?なんで足を止めたりしているんだ?僕なんか変なことしたかな……。でも、なんか見たことがあるような……。

 

 

 

 

「げぇっ!!?本条恭平!!?」

 

 

 

 

 

 

「……水野真波!!?」

 

 

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