傷だらけな多重人格の青年は泥臭くもVtuberとして呼吸をする 作:村上トオル
「なんで此処にアンタが居る訳!?」
「それはこっちの台詞なんだけど!?というか、その着物まるで此処の従業員の証明みたいになってるけど、そのまさかじゃないよね?」
「ええ、そのまさかよ。親友の手伝いをする為に此処に来てるって訳」
「マジかー」
一番最悪な立場で出会ってしまった。
単なる客として来ていたのなら水野真波なんて軽くあしらうこともできるけど、従業員ともなればそう言う訳にもいかない。立場的に僕の方が低い訳だし。なんでこうもタイミング悪く、こいつと出会ってしまってこういう事態になってしまったんだろう……。
「それでアンタはなんで此処に来てるの?」
「客が日頃の疲れを癒すために温泉に来ちゃダメなの?」
「あーまあそうわね、こればかりは私が悪かったわ。後、それと……」
「プロおめでとう、まあアンタなりに頑張ってみることね」
偉く素直なものに、偉く素直なぐらいの自分を否している言葉が耳に聞こえて来ていた。
「ああ、僕は僕なりにやってやるよ。プロになってもそれは変わらない」
意外だったけど、僕は真波の祝福を受け入れていた。
初めて態度が悪い訳じゃないというのを察することが出来て、そういう一面を触れることが出来て安心している自分も居たし、なにより自分が誰と来たのか触れられなくてよかったとなりながらも、真波とは別方向へと歩き出そうとしていた。恵梨さんが何処にいるのか目星すらないけど、とりあえず部屋の前で待とう。スマホを持ってきていないのだから、と首の裏のちょうど骨の部分を触りながらも歩いていると、後ろから僕を追いかけて来る足音がしていた。
「で誰と来たのよ?」
「プライバシーってのがあるよねぇ!!?」
と思わず叫ばずにはいられなかった……。
◆
「それで……琉藍はなんで此処に居たの?」
琉藍に無理矢理部屋まで案内されて私は今琉藍が泊っている部屋に来ていた。
すぐにでも恭平のことを探そうとしていたけど、琉藍が「まあ、連絡でもしなよ」と言われて私は連絡しようとしていたけど、恭平がスマホを持っていないことはこのとき知らなかった。
「え?あーそれはね、此処の温泉街ってさ実は結構廃墟とかあるんだよね。それで次の配信とかに使えそうな題材とかインスピレーションとかそういうのがないのかなって思って現地に足を運んだって訳なんだよねー」
「そういうこと……」
「そうそう、そういうこと」
とても琉藍がやりそうなことだった。
廃墟目当てで温泉街に来るというのはあんまり褒められてたもんじゃないけど、琉藍の場合ちゃんと現地にお金とか落としたりしているだろうし、中に入ったりとかそういうことはしないだろうからそこは安心……。本当に廃墟目的なのはどうかなと首は傾げるけど、実際に建物の外装を確認するという行為は強く惹きつけられるものがあるのは確か。
「それでエリーはなんでこっちまで来たのさ?いつも通り、一人旅?」
「そんなところ」
琉藍に自分の子供と来ているなんて教えたら変な笑み浮かべそうだし、そこは触れない方がいいと判断していた私だったけど、琉藍は何かを察したのか「ふーん」と口にしていた。
「エリーもしかして誰かと来た?」
「……いや、本当に一人だけど」
「じゃあ一つ質問するね?なんというか地味に男の汗の匂い?そういうのがするんだよねー。私は別にヒメみたいにイカれた反応とかしないから教えて欲しいんだけどなー」
どうやら完全に勘付いてしまっていたみたいだった。
確かに香織とかに比べたら琉藍は意味ありげに笑うだけだからまだ全然いいのかもしれないとなった私は素直に白状することにした。後で、騒がれるのも面倒だから……。琉藍はあんまそういうことしないだろうけど。
「本条恭平……って言っても琉藍はあんまりピンと来ないでしょ?」
「あーいやピンと来るよ、あれでしょ?エリーの息子みたいな立ち位置の子でしょ?」
「まあ、そうだね……。その子と一緒に今日は此処に来てたの。プロになった記念でこういう場所に連れて行ってあげるのも悪くないかなって」
「高校生連れ出すなんてやるねエリー」
やっぱり、こうやって揶揄われるなら何も話をしない方が良かったかも……。
後悔させられることになっていると部屋の扉の前から足音のようなものがしていた。誰かが前を通っていたのかもしれない。
「そんでその本条恭平って奴は何処行っ……あーもしかして私のせい?」
「うん、まあそうはなるね」
「あーマジか、ごめんねぇエリー」
恭平を迷子にさせてしまった原因が自分にあることに気づいた琉藍は申し訳なさそうにしていた。
「別にいい、私はそろそろ恭平のこと探して来るから……。それじゃあね、琉藍」
「うん、それじゃあねぇエリー……。あーそうそう、此処の温泉街って実はお化けが出るってことで有「はいはい、そういう迷信は私信じている側の人間だけど、お化けに無礼なことをしなければ普通は悪い霊に会うこととかないから、寧ろ琉藍の方がヤバいんじゃない?」」
「……気を付けるよ~エリー」
怒涛の正論をぶん投げると流石の琉藍も黙り込んでしまってそれ以上何も得意げに喋ることはしていなかった。別にお化けが怖いから話を遮ったとかそういうわけじゃない。寧ろ、私はお化けとか心霊とかを信じているタチだから。この世にはどうも心霊現象でしか証明できないこととか割とある……から。一人旅しているとそういうことが稀に遭遇する。
琉藍の部屋を出たのと同時に、走って行く二人組の姿が目の前を通過していった。
旅館の廊下を走るなんて……。と呆れながらも、背丈が子供ぐらいだったことを思い出して私は少しばかり追いかけることにする。もし、間違っていたりすれば何事もなく戻ってくればいいだけ……。
「ふふん!本条恭平、追いつめたわよ!!さあ、大人しく誰と来たのか白状することね!!」
「あのさぁ!?真波って此処の手伝いとして従業員なんだよね!?普通客の個人的な話には割り込まないってのが当たり前じゃないのかな!?真波のせいで僕今この旅館に星1付けそうだけど!?」
「ふーん?そうなんだ?じゃあ、付けさせる前に大人しく降伏することを勧め……ぐふぇっ!!?」
「え?なんで真波倒れてるの……?ぐっ……!!?」
……本当にアホだな、恭平。
「なにやってんだろう、この馬鹿二人……」
騒がしかった二人共をどちらも拳一撃だけで気絶させた。
恭平の方はごめんとしか言いようがない。迷子にさせたのは私のせいだし……。こっちの子は恭平の知り合いの子なんだろうか?話していた内容的に二人共知り合いなのは確かだろうけど……。とりあえず、二人を部屋に連れて行こうとしようとしていたとき、声を掛けられたような気がしていた。
「あの……申し訳ありません。従業員の馬鹿が一人……」
「あーいえいえ、気にしないでください」
私に声を掛けていたのは先ほど受付に居た女子校生ぐらいの子だった。
その隣には同じぐらいの男子高校生と大人びた女性も居た……。あれ?あの子何処かで見たことがあるような気がする……。あの凛とした綺麗な長髪を何処かで会ったような……。
「おや、誰かと思えば……八十科恵梨ではありませんか?」
「……重松楓」
彼女の気品を感じさせるような声で思い出した。
あの子は間違いない、重松楓……。
「知っている人なんですか?楓さん……」
「ええ、少々」
楓とは何度か仕事で一緒になったことがある。彼女が提供しているV舞台劇のビジュアルを任されたこともあって、彼女の作品に対する熱意は本当なのも私は知っている。後、多分琉藍とはかなり気が合うと思う。
「このような場所で貴方と会うとは思ってもいませんでしたよ?」
「私も……。その恰好を見るに楓も手伝い?」
「ええ、その通りです。此処に居る與那城静音の」
「與那城……静音?」
その名前を何度か耳にしたことがあった。
それは多分千里からだった気がする。竜弥からはなんというか遠回しの情報を何度か渡されたような気がしていたけど……。なんだったのか、思い出せない……。
『竜弥以外にも與那城静音って言う同期の子がいるの、凄く明るくて竜弥のことを竜弥兄って呼ぶんだ』
まだ私が千里に対して苛々していて落ち着きがなかった頃……。
ああ、そうかあのときかとなりながらも私は尋ねることにする。
「静音だっけ?もしかしてだけど竜弥や千里のこと知ってる?」
「え?は、はい……あーえっと此処で言ってもいいのかな……。えっと、千里と竜弥とは仕事仲間みたいなもので……。あーえっと、私與那城静音って言います……」
先ほどまできっちりとした彼女の様子から一転して何処か子供っぽい彼女の声がしていた。
不意に笑みを浮かべていると、私が抱えている恭平が目を覚ましたようで何か寝言を喋っているようだった……。
「へぇ、竜弥さんの同期なんですね……」
そして、それは徐々に聞き取ることが出来るようになっていたのと同時に私の鼓膜が破壊されそうになっていた。
「え!?この子が竜弥さんの同期!!?」