傷だらけな多重人格の青年は泥臭くもVtuberとして呼吸をする 作:村上トオル
「恭平、声」
「あっ、ご、ごめんなさい……!!」
背負われている私と同じぐらいの奴の体を床に戻してそのまま、背中を軽く叩いた後にそれを指摘された彼は謝っている。なんというか、保護者とその息子って感じがするな、これ……。というか、私若女将なのに砕けた口調だったのは良かったんだろうか。いや、よくないよな、後で苦情入れられたら母さんに怒られそうだな……。と不安になっていると背の高めの女性が私に声を掛ける。
「ごめんね、此処にいる恭平が迷惑を掛けて……」
「あーいえ、お気になさらないでください」
褒められて悪い気はしていなかったけど、先ほどから楓に揺さぶられまくっている真波先輩が気になって仕方ない……。大丈夫かな、先輩……。
「あの……そちらのお客様は竜弥のことも知ってるんですか?」
「あーえっと……うん。僕はあの人のことが大好きなんだ」
「大好きかぁ……私も好きだけどね」
「大が付いてないから僕の勝ちだね」
「はいはい、そこ喧嘩しない」
いきなり始まったマウント取り合戦の結果は恵梨さんに遮られて終わりを迎える。私自身もなにこれとなっていたけど、アキラの方も渇いた笑みを浮かべていたから、多分私と同じような気持ちだったんだろうな……。
「……なぁ、そっちの恭平って奴も竜弥のこと知ってるのか?」
「え?ああ、うん。知ってるよ?」
さっきの私へのマウント取り方からしてかなり竜弥のことが大好きな人間だと思えたから、私は話を聞いてみたかったけどどうするべきか悩んでいた。そもそも私は今仕事中なんだよなとなっていると……私達の目の前を通過しようとしている影があった。この年を老いているけど、足取りがしっかりとしているのは間違いない……。
「静音……知り合いか?」
「え?う、うん……そうだよ父さん」
「そうか、じゃあなら少し休憩時間を早めていいぞ」
「え!?あ、ありがとう……!!」
私達の前を通過したのは父さんだった……。
こうして私は父さんから休憩時間を得て恭平から根掘り葉掘り竜弥のことを聞き出すことに成功する。マジか、こんな軽いノリで休憩獲得出来ていいんだ……。
「それで静音はどうして此処に居るんだ?もしかしてGWだから家の手伝いをしてるとかそういう奴なの?」
恭平と私は恭平の泊まっている部屋で二人で会話をしていた。
恵梨さんは一人で温泉に入りに行ったようで他の三人、真波先輩達は手伝いに戻っていた。他の三人が仕事をしているのに私が休んでいるのは気が引けていたけど、アキラから「休めるときに休んで」と言われてしまった以上、休むことに決めた。本当は不本意だけど、あそこで食い下がろうとしなかったら真波先輩に何か言われただろうな……。
「あー実はそうなんだ、私此処の将来の跡取りになるから。その為にGW期間中は手伝いに来たのと、勉強させて貰いに来たんだ」
「勉強……?女将としての勉強みたいなってこと?」
旅館の勉強と話をされてもよく思いつかなかったのか、恭平が疑問風に話を投げかけて来ていた。よく考えれば、旅館での勉強と言われても私も旅館に携わる人間じゃなかったらよく分からなかったかもしれない……かも。女将とかって裏で仕切ってるとかそういう印象になりそうだし、なんて恭平に共感を示しながらも私は説明を始める。
「そういうことになるんじゃないかな……よく想像されがちなのはおもてなしの心とかそういうものだろうけど、本当はもっと奥深くて経営者としての腕も必要とされるから、収益とか人件費とかそういうものを必要になってくるだろうし、人材育成とかそういうのも大事になってくる。旅館の歴史が古ければ古いほど、温泉地の歴史も古ければ古いほど観光名所だとかそういうものを何気ない会話に混ぜる必要もあるんだよ。まあ、結局はおもてなしの心が必要になるんだろうけどさ」
旅館の女将の勉強は何も接客やマナー、料理のことばかりなんかじゃない。私も荒れてた頃まではそういうものばかり重視する必要があったんだろうとなっていたけど、今にしてみればお客様との心、経営者としての心、その双方が合わさなければダメだと理解できる。これも母さんや父さんのおかげだな……。
「あー長々と話してたけど大丈夫か?恭平?」
「……いや、静音って凄いしっかりとしてるんだな」
「え?ああ、そうなの……か?これ女将としてなるなら当たり前なんじゃないのか?」
普通に困惑していた。
私としてはこれがちゃんとしているだとか褒められても、それが当たり前だとしかなれていなかったからなのかもしれない……。
「いやいや、それが凄いんだって……僕なんてプロゲーマーになるなんて大それたことを言ってなったのはいいけど、これからどんなことが待ち受けているかなんて分からない。期待もあるけど、不安もあるんだ」
「いやいや、そっちこそ凄いじゃん!?ちゃんと夢叶えたんだろ?だったら、そんな自分を低くするつもりないだろ?」
「そうなのかもしれないけど、僕はただプロゲーマーになるなんてのは夢の第一歩でしかないんだ」
「復唱するようで悪いけど……その先の不安があるってことなんだよな?」
私が念の為、恭平にもう一度確認すると彼は首を縦に振っている。
その反応があって数秒経った後、私は椅子から立ち上がりこう彼に告げていた。
「じゃあ、本当すげえじゃん!!私は先のことなんて分からないのにただ女将になりたい、女将になりたい。とか親には将来の夢として語っているけど、正直明確の将来像がある訳じゃねえんだ。そりゃあ、この宿を日本一有名な旅館にしてやりたいとかこの温泉街を復興させたいとかそういうものはあるんだ……なによりこれは旅館とは関係ねえけど……」
「私は竜弥や千里のことを全力でサポートしたい。そう人間になりたいんだよ」
自分で口にして一つだけ分かったことがあった。
それは私は自分が自分で思っているより不鮮明な人間じゃなかったということだった。自暴自棄になって、両親に迷惑を掛けて竜弥や千里に迷惑を掛けて、竜弥に手を差し伸べられて進みだそうとしていた。
「ああ、そうか……そうだったんだな」
自然と笑みを浮かべてしまっていた。
あの頃と比べて成長出来ている自分が果たしているんだろうかとなっていた自分が居たけど、それは確信へと変わっていた。
「どうしたのさ?静音」
「いや、やっぱ私達お互いすげえなってなれたんだ。私は夢に向かって、恭平は夢の場所に入って今から進みだそうとしている。それが本当にすげえなってなれたんだ……!」
変に自分を下げるのはやめようとしていたつもりだった。
でも、それは中々抜けなかったけどお互いが知り得るものについて語り合う、それがすげえいいことで楽しいことなのは知っていた。そして、何かに向けて頑張っているなら、するべきことは……。
「お互い頑張ろうぜ、恭平……!!」
「ああ、お互い頑張ろう静音……!!」
そうこんなふうに、健闘で称えるべきなんだ……。
「じゃあ、私は恵梨さんに用事あるからそろそろ行くぜ?」
「ああ、じゃあな静音……!!」
部屋を出て、私は恵梨さんを探し始める。
本条恭平……。まさか竜弥さんに弟子みたいな奴が居たのは驚いたけど、あの人が好かれるのはなんとなく分かるんだよな。私や恭平みたいな年下とか後輩みたいな奴らから好かれやすそうっていうのが……。
「確か恵梨さんは……あっ居た……!」
温泉から上がって来ていた恵梨さんを発見して、私は恵梨さんに声を掛けると隣にはもう一人、女性が居た。誰だろう?となっていたけど、すぐに思い出す。あの特徴的なダルそうな声を出す人だ、と……。確か名前は月見里琉藍だったっけ……か。
「エリーこの子知り合い?」
恵梨さんが琉藍さんの耳元で多分「竜弥たちとの同期」みたいなことを説明してくれていると、納得してくれているようだった。
「どうしたの静音?」
「あーえっと実はその……私今色々と悩んでて……」
「悩んでる?旅館のこと?それはちょっと力になれるか分からないかな」
「あーいや、そうじゃなくて実はその……」
「竜弥や千里に感謝してるって意志を示したいんです。贈り物とかそういうのを考えたんですけど、あんまり何がいいとか思いつかなくて……。こういうのって他人に相談に乗ってもらうのってのはあんまり良くないかもしれないとなっていたんですけど、やっぱり参考になる心強い話があればいいかと思ったんですけど……」
二人には今まで感謝の印として何かを贈りたい、届けたいということがあってもそういう時期をずっと逃していた。でも、ようやく落ち着いてきたこの時期になら渡せるかもしれないとなっていたんだ。私はGWの最終日には東京に戻るからその日にやろうとしていたんだ。
「そういうのだったら適任なのは私じゃなくて琉藍だと思う」
「え?そ、そうなんですか?」
琉藍さんの見た目はなんというか本当にいつもダルそうにしているんだろうなという人の印象しかなさそうだから、あんまりそういう贈り物に関して詳しく相談に乗れるような人ではないんじゃ?と半信半疑になっていた。
「うーん?えー?そこで私に切り出す?」
「あ、あの……無理なら別に構わないんですけど……」
「いやぁ、別に無理じゃないよー。ただ一つだけ気になるんだけどさぁ、感謝してるんだよねー?」
「え?は、はい……!!」
怯んでしまっていた自分がいる。
別に威圧感とかそういうものがある訳じゃないんだけど、なんだかつかみどころがない人っていう印象が拭えない。のほほんとした感じからして悪い人じゃないんだろうけど、何を考えているんだろうとなるから余計そうなっていた……。
「だったら、思うのままに感謝を述べたらいいんじゃないのかな?贈り物も大事だけどさぁ、一番大事なのは何かを吐き出すことじゃないー?」
「何かを吐き出すこと……?」
「っそ……魂からのものを口角を広げて二人に伝える。まずは、そこからでもいいんじゃないのかなぁって……。まあ、静音だっけ?静音のこと知らないから何とも言えないけどさぁ、そういう贈り物よりまずは何かを示すというのが大事なんじゃないのかなぁ?」
「何かを示す……魂からのものを……」
確かにそうかもしれない……。
贈り物も大事だけど、今私が二人に教えてたいのは……届けたいのは贈り物もそうだけど、感謝しているということなんだ。だったら、まず私がするべきことなのは二人への気持ちが込められて二人に響く言霊って奴なんじゃないのかな……。
だとすれば……。
「ありがとうございました琉藍さん!!貴方のおかげで私は悩みが解決できました!!」
「あー?解決できたの?じゃあさ、教えてあげた代わりとは言ってはなんだけどさぁ……肩もみしてよ?温泉入って来たんだけど、まだ肩凝ったまんまでさぁ……揉んでくれると助かるんだよねぇ」
「は、はい……!揉ませていただきます!!お、お部屋で待ってますね!!」
「うん、待っててねぇ静音」
大事なことを知れた。
私は私なりの言葉を通して届けられるものを渡したい。そういうもので竜弥や千里にあの頃のことはごめんだとかそういうことをちゃんと話をしておきたい。なにより、これからも一緒に……。
進んで行こうって……。
◆
「琉藍、静音追いかけないの?」
「……追いかけるよエリー」
静音……いや、シズはどうやら間違えたけど戻って来れたんだねぇ。
私は戻って来れなかったから、ああいう子には頑張ってほしいとなれる。
「それにしても珍しいね琉藍があそこまで協力的だったの」
「先に協力して欲しくて話しかけたのエリーじゃん」
「そうだったね」と小さく反応しているエリー。
「……でもまぁ、そうだと思うよ。あの子にあそこまで協力的だったのは……自分なりの罪滅ぼしでもあるからさぁ……」
そう、これはあくまで罪滅ぼし……。
私は今まで竜弥が苦しんでいる状況の中で自分がどうすればいいのか悩んで迷ってそれだけで終わっていた。後悔だらけの日々を面倒なことは考えないようにしようと逃げようとしていたけど、今は違う。竜弥や千里、恵梨達が苦しいなら私はそれを見過ごすことはできない。
だから、あの子のことも助けてあげたんだろうねぇ……。
私は……。