傷だらけな多重人格の青年は泥臭くもVtuberとして呼吸をする 作:村上トオル
配信が始まろうとしていた……。
これから始まろうとしていたのは同期三人とのコラボ配信……。
『アンタの想い、ちゃんと伝えてやりなさいよ』
今になって……真波先輩の言葉が身に染みている。
震えている、なんてことはなかった。私にとって……これから行う行動は自分がしたかったこと。琉藍さんの「全部ぶちまけてやればいい」という言葉を胸の奥に潜ませながらも、私は自分の配信机の上に証となる手紙を軽く置いていた……。二人が揃っているのを確認してから、私は配信の合図を送ると、自分の一人称を……。
俺へと変えていた……。
「そういえば、この三人でコラボするのもかなり久しぶりだね」
「そういえば、そうだな」
配信が始まってすぐにアンナとロウガの話から始まっていた。
それぞれの自己紹介はもう済ませている状態だった為、唐突感はなかった。
それにしても……言われてみればこの三人でコラボをするのは確かに久しぶりな気がする。あれ?そもそもあの温泉二期生同期コラボ以外もしかして全くなかった?とすら錯覚していたけど、コメント欄を確認すると……。
「マジで温泉配信以来だったらしいよ」
「え?本当にそうだったんだ」
地味に衝撃を受けている俺達三人……。
本当に俺達ってあのコラボ以来、コラボしていなかったんだとなってしまっている……。絶妙な空気感が流れるなか、ロウガが話題を振って来る。
「そういえば、獅童……今日はどういう理由で俺達は集められたんだ?」
「確かに気になるよね」
おっ、いい切り返しとなりながらも私はスライドを用意する。
「よくぞ聞いてくれたな、ロウガ……!!今日集まって貰ったのは……!!」
「一致するまで終われません第二弾……!!」
と始まっていたのは俺達がデビューして間もない頃にやっていた同期コラボの内容の第二弾。まさかこういう形で第二弾をやることになるなんて思ってもいなかったけど、今なら俺もこういう企画で変な空気にさせたりしないだろうし、互いの絆があるからこそ一致するとも自信満々になっていた。温泉街で深めた絆もあるし、なによりあの頃衝突し合ったからこそ繋ぎ合わせたものがある。そう信じながらも私は説明をしていた。
ルールはこの前と一緒。
出された問題の解答が三人一致するまで終われないという企画。非常に簡単な内容なので俺も噛まずに……いやちょっと噛んでしまっていたけどそこはアンナに撫で撫でされつつ褒められる。良い気分になりながらも、私は早速第一問を出す。
「それでは第一問……主食はご飯派?パン派?」
「……ラーメンはないのか?」
「ある訳ないだろ!?ロウガぐらいだよ、主食ラーメンなの!!?」
鋭いツッコミを入れていると、アンナが笑ってくれていた。
本当にいっつも思うけど、ロウガは幾らなんでもラーメンが好き過ぎると思う。いや、ダメとは警告しないけどそれのせいでアンナから衛生管理に入っているというコメントが流れて来て、「この二人やっぱ羨ましいな!?」と心の中で更にツッコミを入れていた。
「ロウガ、因みに今日はラーメン食べた?」
「いや、今日は……食べたな」
「今週はもう駄目だからね」
「え?いや……」
「ダメだよ?」
夫婦らしい会話を見せられている気分。
いや、もうカップルだから夫婦みたいなもんかこの二人……。配信ではカップルって公言していないけど、視聴者からはカップル同然だと思われているし。
『ロウガ、衛生管理されてて草』
『普通にもう夫婦じゃん』
『これで結婚してないってマ?』
と二人の夫婦漫才を最早堪能している訓練された視聴者たち。
普通はこうは上手く行かないんだろうけど、この二人の尊い?って奴の関係に打ちのめされる他なかったのかもしれない。因みに、ダメ出しされたロウガは何も発することもなく一問目を書いているようだった。そして、アンナも書き上げたことによって全員の問題が提示されることになる。
「パン!」
「ご飯!!」
「ラーメン」
ロウガがボケたような回答をすると、アンナの視線が思いっきりロウガの方へ向かれている。そもそも、二択だと言われているのに何故か全く違う解答を用意しているロウガのブレなさにある意味呆れているとも言えそうなんだが……。つーか……。
「せめて、問題の趣旨は理解してくれねえかな!!?ロウガ!!」
「いや、待ってくれ。此処は俺としてはやはりラーメンと答えるのが当たり前であってな……視聴者の皆もそれを求めているだろ?」
「いやぁ、それでも趣旨は理解して欲しかったんだけどなぁ……。後、アンナ凄いガン見してるよロウガ……」
本気でガン見しているアンナに私は笑うのが堪えられくなってしまっている。
この二人やっぱりこういうところあるよなぁと眺めているとロウガが観念して「ごめん」と小さく発していた。降参の合図だ。
「そ、それじゃあ第二問と行きますか!第二問は……ラーメンは醤油?豚骨?味噌?」
「……獅童、塩は何処行った?」
「ああ、いや流石に三択が限界かなって」
ラーメンオタク、神無月ロウガが心の火を燃やしてしそうなぐらい俺に今抗議をしようとしている。こりゃあ、火遊びをしてしまったかとなっていたが、唸りながらも我慢という選択を選んでくれたみたいで良かったとなっていた。
「ロウガはやっぱりアレでしょ?」
「そういう、アンナだってアレだろ?」
二連続食べ物系になってしまったけど、こういう話題が会話が盛り上がったりすることが多い。最初の一問目は思っていたより盛り上がることになったけど、この二問目も色んな意味で期待できそう……。期待感を得ながらも俺が二人の回答を待っていると、出揃ったようだった。
「醤油」
「味噌」
「醤油」
……あれ?
なんか想定していた展開と全然違うぞ。なんか二人の会話的に一致していると思っていたんだけど……。なんでアンナが選んでるのが味噌なんだ……?
「え?ちょっと待ってくれ、醤油じゃないのかアンナ……?」
「あー私も直前までそうしようかな?ってなっていたんだけど……。やっぱ更新されたから違うかなって思ったんだ」
「更新……?」
「ほら、城崎先輩の企画でも言ってたでしょ?思い出の更新だって……。こうやってロウガが外の世界に慣れて来たときに一緒に食べたラーメン屋さんで食べた味噌ラーメンが結構美味しかったから。それが醤油から更新されたの」
「そういうことか……」
納得するロウガ……。
思い出の更新……。俺も城崎先輩の企画の配信はあの配信は確か色々とハチャメチャだったから滅茶苦茶覚えている。出演者による罵倒合戦やてぇてぇワールドの展開とか色々あったけど、それでも怒涛の展開だったのははっきりと覚えている。
いい感じに尊い、そういうものに触れあうことが出来た俺は次の第三問目へと移ろうとしていたが、こればかりは自信しかなかった。
「地球最後の日に大切な人に贈りたい言葉は……!!ありがとう、さようなら……どっち?」
これは捉えよう次第なのかもしれない。
地球最後の日にこの二択を迫られてどう答えるのかなんてそのとき次第なのかもしれないけど、それでも私が選ぶとしたら……答えは決まっていた。
「「「ありがとう」」」
三者三様の反応ではなく、一致していた。
やっぱり、此処にいる三人は少なくともお別れの言葉で終わらせるのは嫌だという認識があってくれたというのは嬉しくなっているとアンナが語り始めていた。
「輪廻転生って本当にあるのか分からないけどさ、もしお互いに来世とかで会えるなら此処ではありがとうでお別れしたい。そう思うんだよね」
「来世って奴があるのかは知らないけど、俺もそれと似たようなものだな。最後の台詞がお別れで終わるなんていうのは悲しくて辛いものになるからな……」
二人が話している内容には何処か寂しさと降り注ぐ雨のような冷たさがある。
重みがある言葉というものはこういうことがあるのかもしれないとなりながらも、俺は改めてこの二人が同期で良かったとなりながらも、手元に置いてある手紙をチラ見しながらも二人の響きの余韻に浸っていた。
「実は今日はアンナとロウガに手紙を書いて来たんだ」
一致企画が終わった後、俺は二人に手紙を送るべく配信画面を切り替えていた。
「手紙……?」
アンナが俺の話に食いついてくれている。
配信中に机の上に置いてあった手紙に一旦目を通す。その手紙は涙で字が滲んでしまっている箇所もあってボロボロな手紙になってしまっていたけど、確かな証だけがそこに残っているのは間違いなんかじゃなかった……。
「すげえ大事なことを書いて来たんだ……。だから、読んでもいいかな?」
「ああ、じゃあ頼めるか?レイ」
「任せてくれ」
と素直に応じつつも、俺は手元に置いてあった手紙を手で握り締めていた瞬間と同時に、手紙に再度目を通しているとそれだけで涙が浮かんできそうになってしまう。ただ手紙を黙読しただけでこうなるなんてどうかしてるなんて自虐しながらも読み始めることにする。
「神無月ロウガさん、久龍アンナさんへ私は二人にとても感謝していることがあります。まず、アンナの方は優しくて何処か私のお姉ちゃんのようなそんな気配すらある人で私が困っているときいつも優しく声を掛けてくれたりしていました。歌のことで分からないことがあれば、なんでも教えてくれて歌のなんでも屋さんという印象が強かったでした」
口に出して読み進めている内に徐々に情緒というものが崩れて行き音がしていた。
こんなところで崩れていたら幸先が不安になるというのに……。
「そういう風に私が配信初心者だから色々と教えてくれるアンナの姿がとてもかっこよく見えて、凄く頼りになるお姉ちゃんのような存在に見えていました。サバンナからこんな都会まで引っ越してきた私に都会のことを色々と教えてくれたりしたこともあったよな。いつも本当にありがとう、アンナ」
こうやって綴ったものを読むということは凄く恥ずかしかったけど、悪いものじゃなかった。寧ろ、心が晴れやかな気分になっている。
「うん、また買い物とか一緒に食事したりしよ?それでいっぱい、ご飯食べたり激辛食べたりしよ?後、歌のことなら任せて」
「激辛はちょっといいかな……」
なんて緩急がつくような話題もしながらも私は苦笑いを浮かべていた。
こういう小さな会話も悪くない。そんな気がしてならなかった自分に浸りながらも、俺は今度はロウガへの感謝の言葉を読み始める。
「最後に神無月ロウガさん、私は二人にとても感謝していることがあります。一番とても感謝していることは勿論、ロウガが身を挺して私を炎上から庇ってくれたことでした。守る価値もない私のことを助けてくれて、火の粉を自分の方へと向けてくれたロウガの姿には罪悪感がありながらも、何処か自分を納得させようとしている情けない自分がいました」
やっぱりだな……。
俺はロウガへの感謝が凄く大きすぎる。俺はロウガにあのとき、凄く迷惑を掛けて喧嘩までして仲違いまでしてしまった。だから、ロウガへの想いが強すぎてしまっていて俺はもう泣くのを止められなかった……。
「だから……本当に……ごめんなさい……!!あのとき、私は自分の弱さを認めたくなかったから……。だから、ロウガに全部をおっ被せてしまったんだ……。あの日のことはずっと後悔してる。きっとこれからも私はこの業を背負い続けることになるけど、これだけは言わせて欲しいんだ……」
「こんな私に優しくしてくれてありがとう……!!」
画面越しに映し出されているロウガのアバターは笑顔になってくれている。
「当たり前だろ、獅童は俺達の同期なんだから」
「そうだよな、そうだよな……!!」
同期って言葉を耳に入ったのと同時に俺は嬉しさのあまり、泣き出してしまう。
「これからもよろしくな獅童……」
「ああ……!!」
思えば、いい思い出と言えるほどのものはそんなに無かったのかもしれない。
ロウガと喧嘩して、突き放して関わらせないようにして炎上の罪を拾い上げて貰った……。その上、俺からロウガへ叱咤することもあった。なんというか、ロウガとの思い出は本当にいい思い出ばかりじゃないけど、決して悪いものでもなかった。
だって、私の糧となっているんだから……。
あの日の私はもう居ない。本当のお母さんに固執し過ぎていた私も、今の両親のことを恨んでいた自分も居ない。ただ、今目の前にいるのは獅童レイ、いや……與那城静音として自分が望んでいることをこれからもしていきたい。それは何度も願ってきた……。
「二人共、本当にありがとう……!!これからも私は二人の後ろを歩きながらも全力で二人の背中を押して行きたい……!!二人の最高の……」
「同期として……!!」
琉藍さん……。
俺は自分の素直な感謝を二人に発することが出来ました。感謝って伝えるのが凄く恥ずかしいものだとか、難しいものだとか思っていましたけど全然違いました。だって俺は今こうして二人に温かく認めて貰えて……。
『二期生最高!!』
『二期生てぇてぇ』
『やっぱ、この三人だよな』
視聴者の皆も私達のことを祝福してくれているんだから……。もうそれが、嬉しくて仕方なかったんだ……。
「本当に二人共、ありがとう……」
今だから言えることがあった……。
私はこの二人に出会えて良かった。竜弥と千里が傍に居てくれたから私っていう人間は強く居られることも弱く居られることも出来た……。だから、本当にありがとう千里……。本当にありがとう竜弥……。
二人から渡された想い、強さ、意志とかそういうものを私は教授してこれからも一歩ずつ階段を上がって行こう。それが果てしない道だとしても……この二人が傍に居てくれるから……。
私は強くなろうってなれる……。