傷だらけな多重人格の青年は泥臭くもVtuberとして呼吸をする 作:村上トオル
自分の中で流れている世界の時間というものが遅くなり過ぎているという実感。
そういうものが今あったのは確かだけど、今無性に喜びたい、二人のことを祝福したいという感情に駆られていた。
「竜弥、もう一度言って?」
「あんまりこういうことを何度も言いたくはないんだけどな……。一度だけじゃダメか?」
「ちゃんと言って、大事なことだから……!!」
声を張り上げて言うと、竜弥は頬を軽くなぞってから恥ずかしそうにしている。
自分が凄く重要な話をしているのと同時に、羞恥心に苛まれているという表情。だけど、私はそれを恥ずかしとかそういうものには全く思えなかった。何故ならそれはとても大事なことだから。
「それ絶対聞こえてたよな……」
「いいから」
改めて竜弥の意志を確かめる為に私はもう一度、竜弥に聞き出そうとする。
同じ答えを……。
「俺は……綾川千里に告白する」
求めていた答えが返って来た瞬間、何も言わずにソファーから立ち上がって私はもう一杯のコーヒーを頼んでそれを飲むことにする。そして、空のコーヒーカップだけが残される。それからして、前髪を軽く弄った後に無性に叫びたいという気持ちになっていたけど、それをなんとか抑える。
「……」
竜弥の意志をもう一度確認する。
それは態度ではなく、瞳の中に映るものに……。ただ、それは意味のない行為でしかなかった。竜弥の瞳の奥底にあるものは覚悟そのものでしかなかったから。これ以上、自分からも逃げない為にも千里からも逃げない為にも……。ただあの頃の罪滅ぼしをしたいからじゃない、本当に竜弥は千里のことが好きだからこそその選択を選ぼうとしている。
そんなことは当の昔に知っていたことだけど、やっぱり自分の目で確かめたかった。なにより、もう竜弥が決めたことならもう私が口出すことがないとなった以上、何かを聞き出すということはしなかった。
「ど、どうした?急に……?」
いきなり立ち上がって飲み物を頼んで一気飲みしていたせいか、竜弥は私のことを心配してくれている。心の中でその優しさを少しでも千里に分けてあげてと叫びたくなっていたけど、本当に我慢していた。
「ちょっと、ちょっとね……告白するんだよね。そっかぁ、本当に……」
「よかった」
感情を口に出した瞬間、体が緩やかに縮みそうになりながらもホッと出来ている自分がいる。
私はやっぱり竜弥と千里には幸せに居て欲しいから……。
「ああ、俺はする」
一旦、自分を落ち着かせる為にもコーヒーを口の中に含むと竜弥の直球過ぎる発言に私はコーヒーカップの取っ手から手を離しそうになる。動揺がかなり酷くなっていた。
「この話はもう私以外にはしたの?」
「一人だけだな。俺と同じ同期の」
「あー、あの子にも話したんだ」
きっとそれは……與那城静音。
あの子にはもう話したということなんだろう。
「知ってるのか?」
「ちょっとね、あの子にはおめでとうって言っておいてあげて」
含みのある言い方をしていたけど、私自身はちょっとだけ手伝いをしてあげただけ。
本当に色々と助言をしてあげたのは琉藍の方だから。その助言は彼女にとってかなり助けになっていたようで、自分のことのように嬉しかったという気持ちがあった。
「ん?ああ」
竜弥は何のことか分からなさそうにしている。
「ああ、ありがとうなら……なんだが。恭平のこと、本当にありがとうな……。恵梨のおかげであいつはプロになれて夢の第一歩を掴むことが出来た。早速大会の方も決まっているんだろ?」
「よく知ってる、流石は師匠。でも、あの子を成長させたのは竜弥のおかげ。私は特に何もしていない」
「いや、そんなことはないだろ?あいつにとって恵梨は母親代わりみたいなもんなんだしさ……。だからもっと自信を持ってもいいと思う。恭平も恵梨の存在があったからこそ、此処まで来れたのもあったのはそうだろうから」
声に出して「ふっ」と笑ってしまう。
自分の報告をしに来ていたのに、竜弥が今しているのは私への感謝だから。そこが竜弥らしいと思えば、竜弥らしいけど私は悪くはない気がしていた。こういうのが竜弥だって知っているから。
「俺、なんか変なこと言ってたか?」
私の笑みに気づいたのか、それに反応を示す竜弥。
それに私は首を横に振りながらも、こうやって答える。
「いや……竜弥らしいなと思っただけ。それとこれだけは言っておく」
「絶対、千里のこと幸せにして」
私から投げかけられるものなんてのはこれだけしかなかった。
本当にこれ以上竜弥と千里には苦しんで欲しくないからこそ私はこれしか言い出すことが出来なかった。エゴだというのは分かっている。千里に、竜弥に手を伸ばせた時期が私にもあったのも確か。こんなことを言うのは違うのかもしれない。
「ああ……任せろ」
それでも、私はこの二人には幸せになって欲しかった。
今までが地獄過ぎたから……。
「それで、いつまでそこに隠れてるの?香織」
喫茶店を出てすぐにずっとお店の中で私達を見ていた香織に私は話しかけることにする。
竜弥には「先に帰っていい」とだけ伝えて、後ろを振り返っていた。
「……いやいやいやいや、待ってよ恵梨!!さっきの話、聞いていた!!?」
建物から顔を出すようにしてずっと私のことを追い掛けていた香織が五月蠅い自己主張をし始める。
「聞いてた、後声が大きいし自己主張が強い」
香織は大きな声で手を大きく振っている。
思いっきり動揺しているのが伝わっていたけど、そうなるの無理もない……。私も香織みたいな性格だったら、同じことをしていたかもしれな……いや、此処まではしてないかも……。
「あーごめんごめん、それでさ竜弥は千里に告白するって訳だよね?ゼクシーするって訳だよね!?」
「……最後の方で意味分かんない単語使わないで、言わんとしていることは分かるけど」
冷静さを完全に失っている香織がゼクシーするという謎単語を使ってる。
多分どういう意味で使ってきたのかは想像は本当に出来るけど、香織の言語を理解したような感覚になってしまっていたので脳が拒みそうになっていた。
「あー本当にごめん!!でもさぁ、これっていいよね!?エモエモだよね!?」
「……そうだね」
私も竜弥と千里がようやくそういう関係になってくれるというのは本当に嬉しいことだけど、目の前で此処まではしゃがれるとそういう気持ちも薄れそうになってきているというか、此処まで騒がなくてよかったとなっている自分がいる。もし、香織が隠れていなかったら自分も同じような反応をしていたかもしれないから……。かなり恥ずかしいことだけど……。
「じゃあ、私早速準備にかかるね……!!」
「そう……」
「え?なにを準備するの……?」
去って行った後に私は香織に困惑させられる。
え?準備って本当になにをするの?本当に何をさせるつもりなの香織……?
◆
「あのさぁ瑛太!!実は竜弥がさぁ……!!」
やばい、やばい本当にこれはやばいって……!!
あの二人がとうとうてぇてぇの領域のその先に行くんだよ。そりゃあ、私だって日頃リア充爆発とかそういうことを豪語しているけど、盟友の祝福は祝わざる負えないでしょう!!?こりゃあ、一大ニュースだから早速瑛太に電話を掛けている。ダッシュで事務所に向かいながらねぇ……!!
「千里にゼクシーするんだって!!それでさ!!
「ああ、それは分かったんだが……」
「一旦、落ち着てくれないか……」