傷だらけな多重人格の青年は泥臭くもVtuberとして呼吸をする 作:村上トオル
『ああ……任せろ』
俺はああ恵梨に宣言した。
千里に告白するという話もした。そこに至るまで勇気やら決意やらそういうものが必要だったかもしれないが、俺にはもうそういう段階はとっくの前に超えていた。前からそうしようと決めていたんだ。でも、ちゃんとしたいという意志はあったから俺はちゃんと出来るようになるまではそれを選ぶのを少し待っていた。
「そんでさぁリュー、決めたんでしょ就職先?」
「ああ、決めたよ。楽器屋で世話になり続けるのも悪くないと思ってたいたけど、やっぱりちゃんと社員にはなっておきたいからな」
「リューなら此処の社員にしてあげてもいいのになぁ」
「それは有難いけど、何もかも琉藍や琉藍のおばあさんにお世話になる訳には行かないからな……」
とはいえ、何もしていなかった時期もあるからそれを突っ込まれることもあった。
馬鹿正直にVtuberをやっていましたなんて言える訳もないから、直球で楽器屋でバイトをしていたことを話していた。流石に身バレに繋がるような事は言えないからな……。
「というか、意外だよねぇ竜弥が出版社に入るなんてさー」
「まあ、色々あるはあると思っていたんだけど俺はこういうの方が向いているかなと思ったんだ。こういう仕事に携われば、ゲームのこともそうだし音楽のことも自然と詳しくなる。まあ、取材とかするならもっと音楽に関してはもっと詳しくならなくちゃいけないんだけどな」
「そりゃあ、そうでしょー」
頷きながらもお茶を飲んでいる琉藍……。
俺が就職したのは出版社……。最初このことを話したら、琉藍に意外そうな顔をされていたけど事情を話したら、意外と納得してくれていた。
「俺はもっとゲームのことを音楽のことを知りたいし、広めて行きたい。だからこうやって出版社に入る。琉藍は応援してくれるんだろ?」
「それも当たり前でしょー?後、それと……」
「チサとの関係も応援してるからさー」
「……ああ」
多分、琉藍は俺が千里にどういう選択をするのかは気づいている。
こういうことには勘付きやすい性格……だから。でも、琉藍は何も言わない。ただ単に俺達の背中を押してくれる。そういうところが本当に琉藍らしいと俺は思う。
「あれ?リュー、スマホ通知来てるよ?」
「ん?ああ、そうだな……」
バイト中でも琉藍はスマホオッケーなんて凄く甘いことを言っていたが、俺はあまり弄らないようにしている。それでも、今弄っているのは俺も琉藍も休憩時間だからだ。スマホを開いて、通知を確認するとそこには静音からの連絡だった。親指を立てて、応援しているという絵文字を送ってくれている。
『二人のこと絶対応援してるから!!』
そう一番最初に後押しをしてくれた静音……。
最初に話したのが静音で本当に良かった。色々と苦節もあったりはした、それでも俺達は互いに仲間と言える立場になりこうやって静音は俺の背中を押してくれる存在になった。
『人のことを分かったふうに言うんじゃねえ!!』
あの頃のように荒々しい静音はもう居ない。
それでも、あの頃のことを忘れずにただ俺達の背中を見守りながらも、援護してくれる静音の姿には助けられていた。そして、それは俺が告白すると宣言したときもそうだった。
『二人のこと私が絶対祝福するから……!!』
笑顔でそう答えてくれていた。
本当に人生の後輩としても同期としても静音が仲間で良かったと心からなっていると、琉藍が笑顔で俺のスマホを眺めていた。
「どうしたんだ琉藍?」
「いや、頑張りなよリュー」
「……当たり前だろ」
色んな意味合いが含まれていそうなものに俺は了承しながらも次に来ていたスマホの通知を確認する。
◆
告白するというのはなんとなく気付いていた。
まあ、私的にはこの言葉絶対に使いたくないものだけど、盟友って奴でもあるリューが今何を考えて何をしようとしているのなんて分かっていた。親友だからってのもあるだろうけどさー。だからこそ、あの通知がしてそこに與那城静音という名が記されていたとき、あの子も上手く行ったんだとなっていた。
そりゃあ、勿論配信は見てたよ。
泣きながらもあの子がリューとチサに自分の想いをちゃんとぶつけていたのは知っていたし、私も何処か感情深かった。私は二人にちゃんと自分の想いをぶつけらなかったから、あのとき離れ離れにしてしまったけど、あの子はきっとこれからもあの二人を繋ぎ止めてくれるに違いない。だからこそ、私は期待を込めていた。あの子にも……。
リューとチサにも……。
だからこそ、あのとき私は……。
『頑張りなよリュー』
と言っていたんだろうねぇ……。
◆
「悪いな、千里……来てくれて」
「アタシは特に気にしてないよ」
「そうか、ありがとうな」
ほぼ唐突だったが、俺は千里を今公園に呼んでいた。
夜の公園というのは静まり返っていて、何処か寂しさがあるというものを俺は知っていたけど、今は隣に千里が居てくれている。あの頃とは違うんだと実感できている。
「此処さ、竜弥と再会した場所だよね」
「ああ、そうだな」
だから、選んだんだよな……。
付き合うかもしれないというのに選んだ場所が公園というのはちょっと変な話かもしれないけど、俺にとって此処は思い出がある場所だった同時に悲しい場所でもあった。
「千里と此処で会ったとき、俺は出会いたくなかったって思ってたの千里は知ってたのか?」
「なんとなく、だけどね……。でも、アタシはそれに触れないようにしてた」
「ああ、やっぱり気づいてたんだな……」
千里はやっぱり俺が出来れば会いたくなかったと思っているのに気づいていたようだった。
その前に恵梨が俺が働いている喫茶店に来ていたけど、俺は気づいていながらも敢えて恵梨のことを無視していた。過去の亡霊に縋られたくないから……という自分勝手な考えもあって……。
「お互い、再会したせいで苦しんだこともあったと思う。それでも、こうして竜弥とまた話を出来ていること自体奇跡みたいなものかもしれないけど、アタシはこう思うの」
「アタシは再会出来て良かったって……」
俺も同じだった……。
千里と再会したことによって千里が苦しむことになるかもしれないと思い込んだこともあったけど、俺はこうして千里の音楽をまた聴けたことが、千里と話を出来ていることが本当に嬉しくてしょうがなかった。三年前の俺に言ったらきっと信じてくれないだろうし、怒りだすだろう。
「なあ、
消えてしまった俺達の人格にそう問い掛けるようにして、俺は自分の手を確かめる。
もうあいつらは居ない。それでも俺の中にはVとしての俺が残っている。これからはアイツと共にあり続けて進み続けるんだと誓いながらも、俺は自分の拳を握り締めていると……。
「そういえば、どうして此処を選んだの?」
「え?あーそれはえっとな」
「此処を選んだってことは重要な話でもあるんじゃないの?」
図星を突かれて何も言えなくなってしまいながらも、俺はバイトを終わってすぐのことを思い出す。それは香織からの電話のことだ……。
『……プロポーズを3D配信で?』
楽器屋をすぐに出て、香織からの電話が掛かって来ていた。
ハイテンションのまま、提案してきたのは「プロポーズを3D配信で」ということだった。
『そうそう、どう?悪くない話だと思うんだけど……!!』
食い気味で提案してくる香織……。
『あーいや、それは分かったんだが……』
そういうことになるとどうにも顔を覆い隠したくなる。
まさかそういうことになるなんて想像もしていなかったしな……。というか、何処から香織に漏れたんだ?恵梨はこういうの漏らすような奴ではないし、静音もそういうのじゃないだろう。……もしかして、本当に何処かで聞いてたりしていたのか……。
『なに?もしかして恥ずかしいの?いやいや、こういうことは大大的にやるべきだって!』
『そうか……』
とはいえ、3D初お披露目でプロポーズ配信をするというのは確かに人の目に惹かれること。
ただ、前例が無さ過ぎて最早意味が分からない事態にならないのか?という不安が拭えない訳でもなかった。俺達の場合、祝福してくれる視聴者の方が多いだろうからそこは全く気にしてないが……。
『リアクション薄くない!?もっと喜びなよ!!?』
『いや……なんていうか有難いんだが……』
『だから恥ずかしがらなくっていいって!』
いや、どう考えてもこれを恥ずかしがらないで済む方法なんてないだろうと心の中で思ってしまう。ただ、本当に香織の言うその3Dプロポーズというものは悪いものではなかったから、俺は結局了承してしまっていた。
『オッケー!!それじゃあ、よろしくね!!』
『あ、ああ……』
香織の通話口に後ろに居た瑛太だと思われる声で「本当に大丈夫なのか?」という声がしていたけど、俺は「大丈夫です」とだけ伝えていた。本当にこういう機会でない限りこういう配信ってのは出来ないだろうからな……。色々反響はあるだろうけど……。
「とんでもないことになったな……」
溜め息も一つでも付きたくなっていたが、それを千里に悟られないようにしていた。
あんまり暗くなっているところを千里に見せたくないというよりは3Dプロポーズのことは内密にしておきたかったからだ……。
「どうしたの竜弥?」
「いや、なんでもない……。ただ……」
「千里が俺を守ると言ってくれたように……」
「俺も千里を守るから」
胸に秘めていたその想いはきっと……あのときの千里以上のもの……。
だからこそ、俺はこの言葉が出ていたんだ……。