傷だらけな多重人格の青年は泥臭くもVtuberとして呼吸をする 作:村上トオル
「行けそうか、竜弥?」
「ああ、俺の方は大丈夫だ」
と言っても、正直自分の中で完全に覚悟が完了した訳じゃなかった……。
それはこの場から逃げたいとかそういうものではなく、俺が告白してこれから先も千里のことを幸せにし続けることが出来るかという不安があり、それを拭うことが出来なかったからだ。
「竜弥、一世一代の告白期待してるぜ!」
隣で俺に親指でグーサインを送ってきている静音がいる。
いつものようなにこやかな笑顔を俺に送りつけながらも、背中をそっと押してくれているような気分になっていた。そうだな、俺は一人じゃない。昔から俺だったら、こういうときずっと一人で居るような気分になっていたかもしれないが、今は違う。俺には支えてくれる奴がいる。
「静音、ありがとうな」
「え?え?ああ、それはどうも……。だけど急にどうしたんだよ?」
いきなり俺がお礼を言うもんだから、静音は戸惑っているようだった。
それも無理はないだろう。本当にいきなりだったのは間違いないのだから……。
「いや、そう言いたくなったんだよ。これから先、俺は多分静音に背中を押してもらう気があると思う。前に進むのが不安になって、あのとき俺が千里達のライブを見に行くのを躊躇っていたときに俺の背中を押してくれたように……。だから、先にありがとうって言いたくなったんだ」
「へ、変な奴だな!!そういうのは……そんときになってからでいいんだよ竜弥!!」
「……だな」
静音の言う通りだ。
こういうことは実際に助けられたときにちゃんと素直に感謝の気持ちを伝えればいい。そういうものだと分かっていても尚、俺は静音に前もって感謝を伝えておきたかった。これからのことを考えて……。
「竜弥、その言い方だとまるでこれが最後みたいな言い方になるぞ」
「それもそうだな瑛太、俺はさっきのお礼を最後にするつもりなんてこれっぽちもない……。未来を大事にしたいという気持ちもある、今を大事にしたいという気持ちある。過去と向き合っていきたいという気持ちある。全部が今の俺にとって大事なことなんです。だから、俺はその全部を背負って今行ってきます……!」
本当にもうあいつらは居ない。
それでも、俺はあいつらのことを背負ってでも生きて行くと決めた。そして、これから先はVとしての神無月ロウガと共に……。それがいつか途絶えることになったとしても、俺は神無月ロウガも背負って自分という人間を生き続ける。
もう何かを投げやりにするのを止めだ。
もう自分と向き合わないで生きて行くことになるのを止める。これから先は俺は未来と今を生き続ける。そして、過去を背負って生き続ける。それが今の俺だ。
「行ってきます」
その視線を二人に送りながらも、奥で待っている京花さんにも送りつけていると小さく頷いてくれている姿があった。
「京花さんも来ていたのか……」
「そうそう、京花も竜弥の告白気になってるんだって」
「香織……」
香織は満足げに笑いながらも俺に近づいて来ていた。
何処からしらには香織の姿はあるだろうとなっていたが、どうやら本当に香織もこの会場には来ていたようだった。
「恵梨達は来なかったのか?」
「あの三人は家でじっくりと見てるって。恵梨はまあこういうの水を差したくないとか言って来なそうじゃん?琉藍もそういうタイプだし、渚はこういうの理解あるタイプだし」
「あの三人は確かにそういうタイプだな」
「っそ、そういうこと……!!というか、ちゃんとしなよ竜弥?」
「ああ、分かってる。此処からが本番だからな……。それじゃあ、今度こそ行ってくる」
お互いに最後に軽く首を縦に振りながらも、「行ってくる」という合図を送ろうとしたときほぼ同じタイミングで琉藍と恵梨から「頑張って」と言う連絡が来ていた。本当、俺は誰かに支えられてばかりだとなりながらも、俺は準備に取り掛かりながらも悪い気分じゃなかった……。
「みんな……!待たせて悪かったな!!」
『ロウガ来ちゃ!!』
『この日を待ち侘びていたよ!!』
『青空奏多:ロウガ、おめでとう!! ¥50000』
まだ、会場には俺の声だけが響いていた……。
姿は見えないが、それでも視聴者のコメント欄はかなり早い速度で流れているというのを実感できる。果たして、どれだけの人がこの後の展開を納得してくれるだろうかとなりながらも俺は声を吹き込んでいた。
「今日は俺の3D初のお披露目配信ということで、来てくれてありがとうな!!」
『クローバー:おめでとございます、ロウガ殿 ¥10000』
『メア・ミーネス:本当に待ってたよ!! ¥10000』
『浜羽サユ:ウチも祝わせて貰うで!! ¥10000』
俺の様子を見に来てくれていたのか、メアと奏多もこの配信を来てくれていたようだった。
今回の3Dお披露目配信で俺はゲストはアンナ以外呼んでない。それ以外のゲストを呼んだりしたら、ノイズになると瑛太と話合って決めていたからだ。それでも、会場に風夏と渚が居たのは本当に俺と千里のことを気になって観に来ていたんだろう。まさか、あの二人にもバレているなんて知らなかったけど、多分香織が教えたんだろうとなっていた……。
「それじゃあ、一気に俺の姿見せようか!!」
指パッチンで音を鳴らしながらも、視点が徐々に俺の体を映して行くと、そこに映し出されているまず特徴的なのは狼特有の灰色の耳と灰色の尻尾。
「どうだ、この尻尾揺れるんだぞ?ほらほら、どうよ?」
『尻尾が揺れてる!?』
『フサフサそう……!!』
『夏川玲菜:その尻尾触らせなさいよ』
『夕闇ヒミカ:モフりたくなりますね』
まるで尻尾が自立しているかのようにして揺れ動いている。
正直、自分でも可愛いという意識がありながらも、そこに今日目を向けている訳にはいかないとなっている自分がいた。何故なら、この後本題が待ち構えているのだから。というか、玲菜は俺の配信来てくれたのかちょっと意外だな……。後、ヒミカはどういう心境でそれを言っているんだ……。
「なんか不穏な二人もいるが、これは俺の尻尾だからな!触らせないからな……!というか、俺の3Dどうよ?最高だろ?正直?」
自分でも若干テンションが高くなっていた。
黒のパーカーにダメージ系のジーンズ。ワイルドという感じの狼人間の形を表せているだろうと俺も嬉しくなりながらも、見せつけるようにして何度も周りながらも俺の体を見せつける。かっこいいというコメント欄に悪くないとなりながらも、俺は一旦咳払いをする。
「さて、今日は俺の3Dお披露目配信でもあるんだが実は一人だけゲストを呼んでいるんだ!それじゃあ、そのゲストに早速来てもらおうかな!!」
再び俺が指パッチンをすると、そこには……。
そこには高身長の金髪の女性が立っていた。それもただの女性ではない、俺に翼が生えていて尻尾が生えている。そう、その相手というのは……。
「はーい!こんドラー!みんなに届け、私の音楽!久龍アンナだよ!!」
笑顔で挨拶をしながらも拍手をしていたのはアンナ……。
それと同時に俺も拍手をしながらもアンナを出迎える。
「こうして二人っきりのコラボって実は久々?」
「あー割と久々なんじゃねえのか?それこそ目立ってのだとカップリングのアレとか?」
「あーやっぱりそうだよね」
お互いにお互いのコラボ事情を話す。
自分で言っていて思っていたが、確かに俺とアンナがこうしてコラボするということは本当に久しぶりなことだったかもしれないとなっていると、若干緊張している自分が現れ始めていた。こうして千里を目の前にして恥ずかしくなってきていた自分がいたんだ。
「というか、今日はどうして私だけ呼んだの?他のゲストは居ないって聞いたけど?」
「ああ、それなんだがちょっと話しておきたいことがあってさ……」
「話しておきたいこと……?」
コメント欄を視界に入れないようにしていたが、若干視界に入ってしまう。
この時点でもうざわついているようだが、俺はもう腹を決めてこう告げる。
「俺は久龍アンナのことが好きだ……!!」
「……え?」
「俺が
「結婚してくれ……!!」
言いたい事は言い切った。
もうコメント欄のことは深く考えないようにしていたけど、やっぱり気になってしまって俺は一瞬視界に入れるとそこに映っていた景色は美しいものでしかなかった。
『ほら、やっぱりこうなった!!』
『久狼付き合うの!!?』
『元々付き合ってるようなもんだったんじゃん』
『神代マナ:おめでとう ¥50000』
『桜木美咲:おめでとう二人共 ¥5000』
『NoA: ¥50000』
『NoA: ¥50000』
「喜んで……これから……」
「よろしくね
「ああ、よろしく頼む……」
「
俺はこれから先綾川千里と……生き続けることを選ぶ。
この先、苦しむことになるかもしれない。辛いこともあるかもしれない、時には涙を流すこともあるかもしれない。それでも、千里となら俺は進むことができる。
そう決意していたからこそ、こう願っていた。
「俺は後悔することになってもこの選択を選んだことへの後悔はしない」
俺はこれからも……。
この選択を選び続ける……。
それが俺の答えの果てだ。
今までご愛読ありがとうございました