傷だらけな多重人格の青年は泥臭くもVtuberとして呼吸をする 作:村上トオル
與那城静音は不思議な子だった。
自分で言うのもなんだけど私みたいな変わりものと話したがって子供のように後ろを歩きたがる。そんな子だった。そんな子だったけど、私は彼女に親近感を感じていた。あの子が田舎から抜け出した子でありところとか、親を憎んでいるところとかだった。
でも正直言って私とあの子とじゃ全然違う。
私はあの子みたいにはっきりと行動に表すのが怖い。
「ねぇまたあの子後輩脅して一緒にいるよ」
私が静音たちと一緒に歩いているとそんな声が聞こえてくる。
静音は一瞬そっちの方を見てムッとしていたが私が「気にしなくていい」と言うと、納得がいかないと言った様子でこっちを見ていた。私が静音と違うと言ったのにはこういう意味だ。静音は行動で示そうとする、それが間違っていたとしても私からすればそれが羨ましいのだ。
私は理想を掲げているとはどれもまだ実現できない。だからこそすぐにでも行動でき静音が羨ましいのだ。
「なぁ真波先輩……いっつも思ってたんだけどなんで言い返さないんだよ?」
「與那城さん」
自分でも分かっているつもりだ。私は言葉が強いから周りに勘違いされやすい。
分かってくれる子は分かってくれる。だけど一生分からない子だっている。当然だ、人間なのだから。
「いいのよ、アキラ……。前にも言ったでしょ?私は気にしてないって。気にするだけ無駄だって」
「でも言い返さないといつまで経っても言われ続けたまんまだぜ?」
分かっているつもりだった。
私の口から直接言わなければきっとあの子達は将来私の正体に気づいたとき、私のアンチになって学校ではあんな奴だったんだって言い触らすに決まっている。嫌な未来を突き付けられながらも私は溜め息を吐いていると、スマホに連絡が来る。
「は、はぁ!?」
「ど、どうしたんですか水野先輩?」
「あっ、い、いや……ごめん。私ちょっと行くところが出来たから行くわ!!」
「え?わ、分かった!」
ったく、なんで今日なのよ。今日は休みだからのんびりとしていたのにしかも絶対近場でいるの見てたから駆り出されたようなもんじゃないの、これ!文句の一つや二つ言いたくなるわよ、全く……!
私は文句を一人で言いながらもデビル君の中に入り、ヒーロー達にボコボコにされる簡単な仕事を終えて静音達の下へ戻って来た。
「な、なんか私ショック受けちまったぜ……」
ショーが終わった後、静音のところに来ると疲れたように椅子に座っていた。
こいつなんで私より全然疲れてるのよ。
「アンタなんで……そんな疲れてるのよ?」
「先輩だって……疲れてるじゃん」
椅子に寄りかかって座っている静音を本当になにしてんのこの子という目で見ていると、アキラもどうして私がこんなに汗掻いてるのだろうと見ていた。全く変なところで勘がいいわね、この子は……。
「ちょ、ちょっと歩いて来ただけよ……!!そ、そんで?アンタはどうしてそんな疲れてるのよ?」
静音から事情を聴くと、どうやらマスコットに中の人がいるということを知らなかったようだ。
全くこの歳になってなんてことを言い出すのよ、全く呆れてものも言えないわ。
「ぷっ、何を言い出すのかと思えばアンタその歳で今まで知らなかった訳?馬鹿じゃないの?」
「はぁ!?知らなくて悪かったな!?」
「なに怒ってんのよ、大体ああいうのには人が入ってるなんて当たり前のことでしょ?まさかデビル君が本当に悪魔だなんて思ってたの?」
納得したのか、静音は黙り込んでしまう。
本当にどういう生き方をしたら本当に悪魔だなんて思うのよ。と内心ちょっと馬鹿にしていると後ろから子供の泣く声が聞こえてくる。
「あっ先輩が子供泣かせた!いけないんだ、中に人がいるとか言って!」
「な、なっ!?」
まるで私が悪いと言わんばかりに指してくる。
は!?これ私が悪いの!?そもそもアンタがそんな複雑そうな表情をしていたから教えてあげたんじゃないの!?
「ご、ごめんね……!デビル君に人なんか入ってないから、安心して?お姉さんなんでも適当に喋っちゃう人なの。だからさっきのも適当に言っただけなの……本当にごめんね」
どうしてこんな事態になったのか分からない。
子供も子供よ、大体八歳ぐらいの子なんだからもうそういうのも分かって来るぐらいの歳でしょ!?
「それでも最低だけどな」
「アンタは黙ってなさいよ!!というか、アキラもボケっとしてないでこの子が泣き止むの手伝いなさいよ!親戻って来たときにドヤされたら連帯責任するわよ!!」
「え?は、はい!!」
自分でも何故連帯責任にしようとしているのか分からなかったがそんなことより泣き止まない子供に困り果てていた。どうすればいいのよと考えていると、静音が頭の裏を掻きながらも子供の目線に合わせる為かしゃがみ込み、頭の上に手を置いて撫でていた。
「ごめんな、このお姉さんも悪気があってそんなことを言ったわけじゃないんだ。ちょっとした反抗したい時期でさああいうのを見て馬鹿らしいとか思っちゃう年頃なんだよ」
「結局悪気があって言ってるみたいじゃない」
は?それじゃあ、私がまるで悪いみたいじゃないの……。
なんでそういう話になるのよ。大体反抗したい時期ってなによ。こんな子に反抗期って言っても分かる訳ないじゃない。
「ま、まあ……そ、そのなんだ……ごめんな?」
「う、うん……分かった……」
「そっか、ありがとうな。許してくれて」
言葉が通じたのか子供は目を見ながら静音の言葉を聞いていた。
「こんなことあり得るのね……」
意外だった、あの子がこんなふうに子供を慰められるなんて……。馬鹿にしていた訳じゃないけど、逆にもっと泣いてしまうんじゃないのかと不安だったのだ。
「じゃあね、お姉ちゃんたち」
「ああ、じゃあな!!」
子供は明るく元気に手を振りながらも私達の方を見ていた。
元気で明るく手を振っている子供の姿を見て私達は笑顔になっていた。
「意外ね、アンタこういうの得意だったのね」
「確かに……少し意外……かもです」
「そんな意外か?……まあ、そうだよな」
静音は自分がこういうのを面倒だと感じるタイプなのが自分でも気づいていた。
「あの人みたいにやれば……出来る気がしてさ」
静音は私がいつもしているように何処かを見ながら話を続けていた。
「あの人……?」
「すっげえラーメン好きでゲームも上手くて人の話をちゃんと聞いてくれる人なんだ。それでちゃんと此処はこうなんだからダメなんだよとか言ってくれてさ。だから俺は……その人のこと」
「すっげえ尊敬してるんだ!!」
静音が話しているその人のことが誰のことなのか、その人物に心当たりがあったのだ。
まさかあいつだとは思えないけど、でもこの子ならそれもあり得そうね……。
神無月 ロウガ……。
「それじゃあ服でも見てから帰ろうぜ、二人共!私が選んでやるよ」
「アンタに服買わせたら男っぽくなりそうだからごめんよ」
先導する静音の後を歩きながら私とアキラは歩いていたが、私の歩幅はアキラよりもかなり小さかった。
「やっぱりこの子は私とは違うわ……」
改めて確信していたのだ。
この子は私とは違う。私のように染まり切っておらず、行動できる人間なのだ。それを指し示すように誰かを模範したとはいえ先ほどの行動が出来ていた。私にはきっとあの子を泣き止ませることは出来なかっただろう。
きっと彼女なら私なんかよりも凄い子になれるだろう。そう彼女の背中を見ながら確信していた。
そんなある日のことだった。
「はぁ!?家に一度戻って来いだぁ!?」
屋上から誰かが声を荒げているのが聞こえて来ていた。
聞き覚えのある声だった為、聞き耳を立てるのは良くないと考えながらも私は聞き耳を立てていた。
「静音……?」
気になって声の主を見ると、そこに居たのは静音であった。
静音はかなりキレているのか大声で叫びながらもベンチに八つ当たりしていたのだ。
「あんなあの子見たことがないわ……」
憎しみを込めたような声をしていた。
なんであんなにも怒っているのか私には分からなかったが、彼女が「父親面するな!」という声を聞いて誰からの電話なのか理解できたのだ。
そう、アンタは親に愛されているのね……。親から電話というのもあって彼女のことが少し羨ましくなっていた。私は親に絶縁を言い渡されたようなものだから羨ましかったのだ。
「まずい、静音が戻ってくる……!」
私は何処かに隠れようとしたのだが、間に合わなかったが私はあることを静音に伝えようとした。
「聞いていたのか?」
そこに普段の静音の姿はなかった。
あるのはやはり怒りに身を任せた獣の姿であった。
「静音、聞きなさい。アンタは親に……えっ……?」
自分の身に起きたことが分からなかった。
分からなかったというより一瞬でそれは起きた為、分からなかったのだ。突き飛ばされていたという実感が湧かなかったのだ。理解してくれると思ったのだ。彼女ならきっといつものように理解してくれると期待してしまっていたのだ。
去っていく静音の姿を見ながら彼女が豹変していることに気づいたもののそれ以上言葉を口にするのが怖かったのだ。口にすれば更に彼女が豹変してしまうのではないのかと思ったからだ。
だけど何故だろうか、なんであんなにも悲しい目をしていたのだろうか。
私にはそれが分からなかった。