傷だらけな多重人格の青年は泥臭くもVtuberとして呼吸をする 作:村上トオル
俺は少年とみさかが一緒に残りの三人を探している姿を後ろから見ていた。先ほどまで俺はあの少年のことをわざと叩きつける為にああ言っていたが……俺は……。
「らしくねえことを言っちまったかもな……」
少し熱くなってしまったのかもしれない。
過去の俺はこの熱さを持っていたが俺はこの熱さを今は捨ててしまっていたはずだったのに俺はその熱さを取り戻そうとしていた。
「俺は……案外捨て去ることなんて出来ねえのかもしれねえな」
捨て去る、か……。
俺は楽しさというものを捨て去ることも出来なかった。結局のところ楽しさも熱さも何もかも捨て去ることを出来なかったんだ。もしかしたら俺は……。
『竜弥、手繋ぐ……?』
母さんの愛さえも捨てることが出来ないでいるかもしれない。あの日見た母さんの優しそうな表情は今でも俺は引きずっているのだから。最初の俺の人格がこれを認めるわけがねえかもしれねえ、他の奴らが認めねえかもしれねえ。
それでも俺だけは知っているはずなんだ。
あの日の母さんの眼差しを……。
「秀治、見てたんだろ?」
「……気づいてたのかい」
茂みの方から俺のことをもう一人見ていたのは気づいていた。
「……竜弥、どうするんだい?彼との勝負受けるのかい?彼は間違いなくキミへの対抗心を剥き出しにして竜弥より多く見つけて彼女にかっこいいところを見せようとしてるよ?」
恵梨や香織に当たり散らしていた頃ならきっと俺はこんなことに対してくだらねえと言っていたかもしれねえ。逃げていたかもしれねえ、だけど今は違う。
楽しさや熱さなんて幼稚じみたものを取り戻した今の俺は……。
「やる気なのかい、竜弥?」
「ああ……この挑戦状を受けてやるよ……!」
馬鹿みてえかもしれねえ、ガキみたいかもしれない。
それでも俺は今楽しい、熱さという実感をこの胸に抱いている。俺はこの気持ちに今はただ付き従うことを選ぶことにした。
「坦々だった頃のキミは健在みたいだね竜弥」
「ああ、かもな……!!」
ゲーム実況者だった頃の俺を受け入れるつもりはなかったが俺は今自分がこの気持ちに抗わない方が楽しい気持ちになれるということを欲に従っているだけだ。
だって……そっちの方が楽しいからな……!!
「子供の遊びにこんな楽しくなるとは想像もしていなかったが悪くねえ……!」
さっきから何処か熱を打たれたように俺は熱くなってるような気がしていた。これかつての俺はそうだった。かつての俺は情熱を持ってゲームをしていたはずだった。これだってゲームだろ。こんなの熱くなるに決まってるだろ。
だって俺はただ……。
「ゲームが好きな高校生だったからな……!!」
隣で聞いている秀治は笑っている。
まるでかつての俺が取り戻してくれたことを嬉しそうにしているのを見て俺は悪い気はしていなかった。
「秀治、作戦練るぞ。子供の遊びだからって手抜きはねぇな……!!行くぞ!!」
「ああ、最高に楽しくなりそうだね!!」
俺と秀治はお互いに拳を合わせて自分に喝を入れる。
この感じも随分懐かしいものだ。俺は秀治と互いにラーメン代や大盛り定食の料金を賭けて一緒にゲームをやったり大盛りの丼に挑戦して早食い競争をして俺が途中でギブアップしたりしていることが多かった気がするがそれでも楽しい日々だったということは変わらなかった……。
『竜弥、こんなことを知ってるかい?栄養士の人達は多くの栄養を摂って食べることは成長に繋がるんだってさ』
『……お前の食べる量は流石におかしいだろ。栄養士もドン引きするだろ』
『そうかな?ほら俺は多く食べてるけど太ってないでしょ?だから大丈夫だよ』
『はぁ、もう好きにしろ……』
思い出してみれば良かったと言える内容なのかは定かじゃねえがそれでも俺にとって秀治は唯一俺が本音で話せる"男の友達"だったんだ。
「秀治、変なことを言うが俺はかくれんぼというゲームをやるのは始めてなんだ。こういうゲームで隠れそうな場所を教えてくれ……!」
「構わないよ竜弥」
秀治は俺がかくれんぼというものを今までやったことがないと言うことに対して変ということを言わずにかくれんぼというゲームのものに対しての作戦と戦略を練ってくれた。
「秀治、大体お前の案は分かったぞ」
かくれんぼというこのゲーム、この歳になって分かってきたっていうのがなんとも恥ずかしい気分になりそうだがこのゲームを乗り越えることが出来るかも知れねえ……。
秀治は言っていた。
このゲームにおいて最も重要なことは賢く探し回るということ。ルートを頭の中で精密に作り上げて効率的に隠れてそうな場所を探し出せば良いと……。
頭の中で瞬時にまだ探していない場所を探し出すことにする。
この公園は中規模程度の大きさの公園だ。だから探すとすれば少し骨が折れることになるかも知れないが公園の遊具は大体把握しているがこの近場に隠れられそうになる場所はない。候補を絞り出すなら間違いなく……。
「あそこか……」
俺の中で閃きが起きる。
此処の公園に来て真っ先に印象に残っていたあの銅像。人も多くあの場所なら周囲への環境に溶け込むこともできるかもしれない。秀治は言っていなかったがこのゲーム、人混みが多ければ多いほどただ遊んでいる一般人かと紛れ込むことが出来やすいかもしれねえ。
「行ってみるか……!!」
◆
あのお兄さんは俺がみさかのことが好きだということを見抜いていた。凄い恥ずかしい思いをさせられたけど思い返してみれば亜実も俺に前に似たようなことを言っていた気がする。
『好きなの?みさかのこと?』
俺は顔を真っ赤にして何も言うことができなかった。
多分亜実からすればただの素朴な疑問程度なのかも知れねえが俺にとってその質問はりんご飴のように顔が真っ赤になってしまう質問だったんだ。
「勝矢行くよ!」
「わ、分かってるよ!」
俺は今みさかと一緒に鬼になって隠れている残りの三人を探している。残りの三人の中で一番何処に隠れてるのか分かりやすいのは少し小太りの男子小学生の慎二。あいつはすごく分かりやすくて此処の公園に植えられているザクロの木の近くにいるはずだ。
「みさか……!ザクロの木を探すぞ!!」
都会の公園でザクロが植えられているなんていうのは珍しいことなのかも知れない。俺は食べたことはないけど大人が前に甘酸っぱい味わいがすると話していた気がする。
「いない……」
食い意地の張った慎二なら此処に隠れると見ていたけど違ったのかもしれないと見ていた、そのときだった。草むらを抜け出す人の姿を見て俺は追いかける。
間違いない、あれは慎二だ。
慎二の奴、俺に見つかりそうになって場所を変えようとしているな……!!
「見つけた慎二……!!」
慎二がもう逃げることはできないと見て諦めて止まった。見つかってしまっていた慎二は息を荒くしながらも「見つかっちまった……!!」と言っていた。
残り二人、亜実ともう一人……由里香を探し出すことに成功すればあのお兄さんと同じ人数の人を探すことが出来るんだ!」
本当はあのお兄さんより多くの人を見つけたいけど既にあのお兄さんが三人見つけている状態。俺はさっきあの人より多くのをって息巻いてたけどそれはもう無理な話、だけどあのお兄さんと同じ数、一番最後の人を早く見つけ出すことができればこの試合俺の勝ち……!!
「みさか、慎二……!!良い提案がある!!」
俺は慎二とみさかに話をする。
この公園、中ぐらいの大きさだから探すのは少しだけ骨が折れるけど俺はこの公園で何度もかくれんぼをしてきたことがあるからこそ分かるし、由里香が隠れていそうな場所もなんとなく分かる、この勝負俺の勝ちだ……!!
◆
「竜弥、いったい何をしているんだい!?」
「ああ、秀治が言っていたように効率よく探してるんだ。そこに亜実ならきっと此処に隠れるという案をな……!!」
先ほど俺が銅像の方を見に行ったがあの場に亜実はいなかった。
居なかったときのことを考えて俺は亜実が隠れそうな場所を考察し始めていた。俺はあいつと出会って日は浅いし思い浮かぶ場所なんてものは少ないのかも知れねえが今の俺はあいつに勇気があるということを知っている……。
勇気……?
もしかして……だと思うが……。
「そういうことか……!!」
勇気があるからこそする行動……。
正直こんなところに隠れるわけねえと勝手に見ていたから候補から外していたがこれは全然あり得る話だぞ。俺はこの公園において一番高い場所……。
「ジャングルジムに行く……!!」
「ジャングルジム……何故だい?」
秀治は何故そこに隠れていると言えるのか不思議になっているようだった。俺だってもし秀治の立場でジャングルジムと言われたら同じ反応をするはずだ。だけどこれには訳がある。
「亜実は自己主張が薄いように見えて勇気がある奴だ。大胆な行動を取ってまさかそんなところにいるなんてと相手に思わせることを判断させることだって出来るはずだ」
「それがジャングルジムだって言うのかい?」
「ああ……!あんな高い場所は見下ろせば一発で分かるがいる訳ないなんて誰もが思うから見落としがちなんだよ、だからいるとすれば……!!」
ジャングルジムへと向かう足音が六つほど聞こえながらも俺はジャングルジムへと辿り着き、上を見上げるとそこには亜実がいたのだ。
「「いた……!!」」
俺とあの少年の声が聞こえる。
ジャングルジムの一番上まで登っていた亜実は「あっ見つかっちゃった」という声を出しながらも笑っている声が聞こえていた。彼女は降りようと足を下ろそうとしたときだったが彼女は足を踏み外してしまったのだ。
「……まずい!!」
俺はすぐに踏み外した亜実を助けようとしたが、駆けつけるには少し遅くなってしまいこのままだと間に合わないかもしれないとすぐに分かったのだ。
どうする……?
どうすればいい、このままだと俺は目の前で人を助けられないで終わってしまう。
『どうする!?アンタはこの場で俺を殺して自分の人生を終わらせるつもりなのか!?』
なんで、なんで今になって思い出すんだよ……!!
あの犯人のことを出来る限り思い出さないようにしていたのになんで今なんだよ……!!ああ、そうだよ。分かってるよ、俺はあの日自分を刺してきた犯人をこれ以上罪を重ねないようにするために説得しようとしていたのに自殺させてしまったことを俺はずっと後悔していたんだ。
あいつのことは千里の声を奪った犯人だからこそ許せなかったという気持ちはあったがその前に俺はあいつのことを自殺させてしまったことを後悔していたんだ。
そして今目の前で俺の前で命を落としてしまう。それだけは避けたい気持ちが強かった。頼む、頼む……。間に合ってくれ……!!
「間に合えよ……!!」
人間の底力というものを案外こういうときに働くのかもしれない。
俺は自分の足が早くなったような気がして届かなかったはずの亜実の体が俺には触れることが出来たのだ。
そして……。
「大丈夫か……亜実」
「ありがとうお兄さん……」
「怪我ないか?」
「うん……」
安心きった俺はホッとしながらも彼女の姿を見てこう言うのだった。
「無事でよかった、本当に……本当に……」