傷だらけな多重人格の青年は泥臭くもVtuberとして呼吸をする 作:村上トオル
チケット
「なんでだよ……!!なんで僕のことを裏切ったんだよ!!ふざけるなよお前!!」
「こっちに戻ってきたか……」
俺達がそれぞれ想像しているものしか置かれていない世界に戻って来るとすぐに最初の人格である樫川竜弥が俺に乗っかって来て今にも殴りかかろうとしているのがよく伝わって来るが俺にはどうでもいい話でしかなかった。
俺には今の俺がちゃんと体の中に入れたのか心配だったが周りを見渡した限りでは今の俺の姿がなかった為、ちゃんと体に入ることは出来たんだろうか……。俺にとってそれだけが不安だった。それよりも今はこいつを黙らせないとな……。
「俺は知りたいんだよ、母さんの第一声を……。母さんがあの日何を思っていたのか、あの日以降何を思っていたのか……。俺はそれを知りたいんだ。だからそれまでは母さんに復讐するかのかは考えるのはやめておくことにした」
未来を写し出すようにして見せていたあの悲惨な光景はもう見たくねえ。
「だから俺はちゃんと母さんと話してみたい、そんだけだ。だから今はあいつや俺の邪魔をすんな」
最初の人格である俺は俺のことを睨みながらも言葉で反論してくることはなかった。
少なくともこいつの中でも母親からの言葉を知りたいと言う気持ちがあったんだろう。だから俺に反論することはしなかったんだ。
◆
「俺は戻って来たのか……」
「起きたのかい竜弥?」
「秀治……?」
起き上がると俺はベッドの中にいた。
周りを見ると俺にはこの部屋が見覚えがある部屋だということがすぐに分かった。
「秀治の部屋か……」
若干散らかっている部屋を見て此処が誰の部屋なのかを察した。
こういうところもあんまり変わってないんだな秀治……。
「事情は聞いているよ。だけどキミも少し突拍子もないことを頼んだんだね」
「まあな……」
恭平や秀治からすれば突拍子もないことなのは間違いない。
俺も立場が違えば同じことを思っていたに違いないだろうからな……。それにしても気絶することで俺を体という意識の中に連れ戻すか、結構大胆なことを頼んだんだな……。
「そういえば恭平は?学校か?」
「うん、彼は学校に行くから後のことはよろしく頼むと言われたよ」
「そうか……」
あいつがあの後、どうなったのか一番気になるだろうにちゃんと迷わず学校に行くという選択肢を取れたのは偉いなと少し関心していると秀治が少し考え事をしていたのを見て俺が「どうした?」と聞く……。
「いや、彼が言っていたんだ。気絶させる前の竜弥は凄く辛そうにしていたってね……。そんなときにまた僕は立ち会えなかったのか、と思うと少し自分に対して悔いが残ってしまうばかりだよ」
「秀治……」
また、というのはきっと俺が炎上したときのことだ。
秀治はまだあのときのことを引き摺っている。無理もない話なのかもしれない、主催者として俺の友人として何も出来なかった。だから次こそは俺の為に何か出来るだけのことをしたいという気持ちがあったんだろうけど今回もまた後手に回ってしまったという後悔があるんだろう。
「気にするなよ秀治、秀治は秀治のやれることだけのことはしてくれたんだ。恭平一人で俺のことを運ぶのは大変だったろうし一緒に居てくれたから恭平も此処まで運べたんだ。だから秀治には本当に感謝してるし何も出来なかったなんてことはないと思う、だからありがとうな秀治」
「竜弥……こちらこそ本当にありがとう」
「気にするなって言ったろ?」
恭平一人じゃ俺のことを此処まで運ぶのはきっと大変だったはず。
俺が気絶して起きるまでかなり時間があったから焦っていただろうし秀治が居てくれたからきっと俺は自分の家まで帰ることが出来たんだ。だからこそ俺は秀治には感謝の気持ちしかなかった。恭平にも後でちゃんとお礼を言っておかなくちゃな……。
「じゃあいつまでも秀治に世話になるのもどうかと思うし俺は帰るよ」
「ああ、またいつか一緒に替え玉競争でもしないかい?」
「構わないぞ、それじゃあ秀治。またいつかな」
俺が秀治の家から出て家の扉が閉められる音だけが響いていた。
秀治の家から出た俺は歩きながらも此処数日にあったことを思い出していた。
『もういいんだよ竜弥……辛かったよね』
千里に俺の本音に近いものを聞かれたとき、俺は心の中で見ているとき俺はもう駄目だ、千里に知られたくはないことを知られてしまったという気持ちが強かったがそれでも千里は俺のことを見捨てることはせずありのままのことを受け入れようとしてくれていた。俺はそれが本当に嬉しかった。
それと同時に千里にはやはりこれ以上暗いものを背負わせたくないという感情があった。
俺のせいで千里は不幸にさせてしまった。あの日声を失わせてしまった。千里が與那城のことを聞きに行ったあの日、千里は俺が居なくなることを拒んでいた。声を失ったことなんてもう関係ないと言ってくれた。それでも俺の中では未だに踏ん切りが付かないんだ。結局俺と言う人間が千里の声を奪ったことには変わりないのだから。
『あのさ、一人殺せば二人も三人も変わらないとかいう馬鹿いるけどまさかそういうことを言いたいんじゃないよね?』
あの日の香織の言葉は今でも俺の中に残っている。
俺は母さんのことやあの犯人のことを憎んでいる気持ちがあったからこそ香織の言葉が俺の中で響いていたのだ。そして、あの後に言われた「同レベルなんじゃないの?」と言う発言が本当は俺にとっても過去の俺にとっても大事な言葉になったのには違いないかもしれない。
『愛していたからだ』
澤原さんのあの発言は俺は正直耳を疑っていた。
自分のことを虐待していた父親のことを正直に愛していたということを出来るなんて信じられなかったからだ。あのとき過去の俺が澤原さんの手を掴めなかったのもなンとなく分かってしまうが俺はあの人に悪いことをしてしまったようなきがしてしまっていた。
あの人と本当の意味で友になれる日は来るのだろうか……。
もう一つ俺がずっと気になっていたのは楓が考えた提案したあのシナリオのことだった。あのシナリオで楓は償いという内容を入れるべく敵であるキャラを許すという選択をしてしいたが俺にはそんなことが出来る日が来るだろうか……。
『絶対にリューを昔みたいに明るくて元気なリューに取り戻させて見せる。私たちの力で』
澤原さんから逃げるようにして離れた俺に話しかけて来たのは此処最近俺のことを付けていた琉藍。琉藍は当時の頃と変わらずに俺と話しかけてくれていた。過去の俺のことをリューと呼んでくれていたし、俺のことを取り戻そうとしてくれていた。
俺はその気持ちだけで少し嬉しくなっていたがやっぱり千里やみんな……そして恭平の力を借りなくちゃいけないのかもしれないということに俺は自分が情けなくなっていた。
恭平か……。
『貴方が居てくれたから僕は此処まで来れたんですから!!』
恭平、恭平は俺にとって光のように眩しい存在に見えていた。
恭平はいつも眩しくて明るくて元気で俺のことを慕ってくれていたからこそ過去の俺は気になって仕方なかったんだ。過去何度も俺は恭平のことを裏切って来たというのにそれでもなんで俺のことを推してくれていたのか、好きで居てくれたのかと言うことを……。
返って来た答えは俺自身の心が知っている答えだったのかもしれないが直接恭平の心の内から聞けたことで俺は嬉しくなっていた。本当に心の底から嬉しくて自分という人間を誇れたような気がしていたんだ。殴れなんて急なことを頼んでしまったことはあいつには悪かったかもしれない、後で謝っておこうと俺は携帯を見て通知を確認するとそこには……。
なにより俺が嬉しかったのは俺がVを始めるときにみんなの前で言っていたあの言葉通りに勇気を貰えたという少年が居てくれたということが本気で嬉しかったんだ。俺はあの言葉を述べてたとき、そういう人が居てくれたら良かったらいいなという感情だったのに俺は一人だけでもそういう感情にさせることが出来ていたんだ。
俺は本当にそれが嬉しかったんだ。
『昨日は殴ってごめんなさい。僕の気持ちは昨日竜弥さんに言ったように貴方という人が居てくれたから此処まで来れたと本気で思っています。本当に感謝しても感謝しきれません。絶対にプロゲーマーになって大会優勝してきますんでそんときは賞金でいっぱいご馳走させてください。後……昨日の件で謝らないでください……竜弥は最近絶対に謝ったりお礼言ったりをし過ぎていると思うので僕にはそういう遠慮とかしないでください』
「俺は本当に……出来たファンを持ったんだな……」
送られて来ていた内容を確認しながらも俺は心の中で恭平に感謝の気持ちを送りながらも俺はベッドから立ち上がり、再度スマホを確認する。
「後四日か……」
結衣や母さんに会う日までの日にちを確かめながらも俺は自分の家に戻って来て念のためポストを確認すると、そこには與那城が立っていた。
「あれ?竜弥?千里と一緒じゃなかったのか?」
「……千里と一緒?どういう意味なんだ與那城?」
「あれ?いやぁ……てっきり千里と一緒に来たのかと思ったんだけどさ……」
俺が千里と一緒に帰って来た……?
ただ俺達が仲良いから今日も一緒に家に来たと思い込みで言っているのか、それとも千里が此処まで来ていたのかどっちかなんだろうか……。
「さっき千里が竜弥にこれ渡して置いてくれって言われてさ……」
「千里から……?」
與那城から受け取ったチケットホルダーを開いてそこにはチケットのような物が入ってあった。チケットホルダーにチケットを戻して手に持ちながらも俺はもしかしたらまだ近くにいるかもしれない千里のことを探し始める。俺はあのときのこともあったから千里とは正直話をしにくい……けどそれでも俺は千里に言いたいことがあったのだ。
「千里……!!」
マンションからすぐ出た先の歩道で俺は千里のことを見つける。
千里は俺に話しかけられて背を見せながらも呼び止められて足を止めていた。
「チケット見てくれた?」
「ああ……」
「じゃあこれだけは伝えておくね……」
「絶対見に来てね竜弥……!!」