傷だらけな多重人格の青年は泥臭くもVtuberとして呼吸をする 作:村上トオル
「見ててよリュー、私達が明るかった頃のリューを取り戻すから……」
リューの背中を見送りながらも私は拳を突き出していた。
らしくないことをしたのかもしれない、いや絶対にらしくないことをした。今までの私ならきっとこんなこと面倒だと感じてやりたがらなかったから……。それでもリューのことを助けようとしているのはやっぱりリューに借りがあるからに決まっている。
『ねぇリュー、なんで私達のバンドがそんなに好きなの?バンドなんてそこら中にいっぱいあるじゃん?』
リューに私のドラムの調子を聞いてもらう為に私はたった一人で楽器を借りてスタジオルームに来て演奏を終えた後聞いていた。単純に一度聞いてみたいという欲があった私はリューに聞いてみることにした。
『まあ確かにそうかもしれないけど俺は琉藍たちがやっているバンドが好きなんだよ』
『なんで?』
リューはよく私達のバンドの練習によく付き添ってくれるし、私たちのバンドが好きというのはよく分かるけどそれでも気になっていた。
『なんでって……言葉にするのは割と難しいかもしれないけど琉藍たちがやっているバンドには人に響かせるようなものがある気がするんだよ。俺は音楽には疎いからよく分からないけど』
『ふーん、じゃあ私はどう思う?」
『琉藍のドラムは凄いと思う。なんていうかこう……楽器を叩く前はダルそうにしているけどいざ叩くと楽しそうにしながらも魂で叩いているって感じが俺はそういう琉藍のとこが好きだぞ』
『そっか、好きなんだ?ふーん?』
褒められて悪い気はしなかった。
リューは実際私達一人一人のことをちゃんとよく見てくれている方だと思う。私はこのバンドを暇つぶしにでもなればと思って入っていたけど、此処まで楽しめるものだとは本当に思っていなかった。だってこんなにも無自覚に人のことを好きだとか言っちゃうお馬鹿さんがいるんだから……。
『俺は変な意味で言ってないぞ』
リューは自分が揶揄われていることに気づいたのか、私に抗議の声を上げていたがそれが本当に面白かった。リューは喧嘩が起きると、否定も肯定もしないような奴だからこういうときちゃんと言ってくれるのは有難い。本人曰く「好きな物ぐらい好きって言っていいだろ?」らしいけどさ、それでもちゃんと言ってくれるのは嬉しいんだよね私からすれば……。
「千里、今少しいいかな?」
リューが過ぎ去った後私はチサに早速電話することにした。
リューを救うためには私たちの力を合わせるしかない、もう一度再結成するしかない。
リューはきっとバンドが解散をしたのは自分のせいだとか勘違いしているかもしれないけど、それでも私達の力を再集結させる必要がある。チサに事情を説明すると、チサは頷いて了承してくれた。
「琉藍やろう、私達の力で」
「うん、そりゃあもちろん」
チサは私の話を聞いている途中から「やる」と言ってくれたのが嬉しかった。
それでこそチサだよ、私は嬉しくなりながらも他の二人を誘おうとするのだったが……。此処で問題が起きた、次に誘おうとしたヒメが今のリューを救うのは絶対に無理と言い出して拒否してきたのだ。エリーもまた悩んでいる様子だったが、何かを見て決心がついたのか私達と一緒にリューを助けると決めてくれたんだよねぇ。
でもエリーの迷いやヒメの拒絶というのも無理はないと思う。
あの殺意を向けたようなリューの目を知っているからこそ私は無理かもしれないと言う気持ちはなくなかったけどそれでも私はリューのことを助けたという気持ちがあるんだよねぇ。だってリューは私にとって親友も同然なんだからさ。
だから諦めないよヒメ……。
◆
「げっ!?家まで来たの……」
頼んでいた宅配かと思って家の扉を開けたら入って来たのは琉藍と恵梨。
勿論来た理由は私のことを説得しようとしに来たんだろうけどめんどくせぇ~!!さっきまで私が楽しそうにしながらオタクグッズが来たと喜んでいた自分を返して欲しいという気持ちになりながらも恵梨は語り始める。
「香織、今の竜弥は自分を見つめ直そうとしてる。だから香織が言っていたようなことは今は絶対に言わないって言える」
「それは今の話でしょ?今はそういう考え方をしていたとしても考え方が変わったら私が知っているあいつに戻るだけだよ」
恵梨はもうあいつのことを竜弥と呼ぶようになっているんだ。
あの短期間であいつと何があったのかは知らないけど今見えているあいつが変わることだって普通にあり得るはずに違いないよ。人間の心っていうのはそう簡単に変わるもんじゃないからさ。
「私は恭平に対して優しく接してくれている彼のことを見た。自分の中で本当は復讐をするべきなのか迷っているだけ。だから彼はこれ以上悪くなることなんてない」
「だーかーら、それは今だけの話って言ってるじゃん?」
恵梨があいつのことを信じたいという気持ちは私には正直分からない。
あいつは他人のことを殺してもいいと平気で言い放ったも同然の人間なんだから。そんな奴を救える、だなんて私はこれっぽちも思わない。
「ヒメはリューのこと救いたくないの?」
「……ああ、もうそういう言い方は卑怯だって!!私だってそりゃあ竜弥のことを助けたという気持ちはあるよ!!苦しんでいる竜弥を助けたいと言う気持ちはあるけど!!あいつ多重人格だしあいつの中にいる人格が何し始めるか分からないからそれを言っているの!!」
そりゃあ勿論私にだって竜弥のことを助けたいという気持ちはあるよ。
盟友だと思っているし、最高の親友だと思っているからこそ助けたいという気持ちはあるけど竜弥の中にいる凶暴な人格を抑える方法なんて私には何もないし、私はあいつ嫌いだもん……!!
なんで二人共なんか驚いている表情をしているんだろ……。
……あれ?もしかして竜弥が多重人格者だということ知らなかったの……?
「もしかして竜弥が多重人格者だっていうこと知らなかったの?二人共……?」
「な、なんとなくそんな気はしてたけど……」
「まさか本当とは思わないしねぇ……」
「ほ、本当に知らなかったんだ……」
やばい、割と勢い余って言ってしまったけどこれを軽く言うようなことじゃなかった気がする、絶対にだけど……。でももう言ってしまった事だし仕方ないよね……。というか取り消せないし……。
「多重人格……そうだったんだね」
私の部屋の扉を開けて入って来て私達が居る方にやって来たのは千里。
千里は竜弥が多重人格であるというところに何か心当たりがあるのか考え事をしながらも私に近づいて話を始める。
「お願い香織!私は今の竜弥が苦しんでいるように見えてしょうがないの!!彼が苦しんでいるように見えるの!!竜弥は……彼は……ずっと今苦しんでいて必死に藻掻こうとしている!!そんな彼らを私は助けたいの!!!」
「千里……」
千里にまで言われたら何も言えないよ……。
でもあいつは今救いようもないほどカス野郎だしあんなの助けたってしょうがないよ。でも恵梨が言うには多少はマシになったらしいけどそれでもやっぱりあんなカス野郎……助けたってしょうがないって……。人を殺してもいいだなんて言う奴はダメだよ。
「お願い香織!!私達に力を貸して!!」
千里まで私に頭下げ始めたしこんな状況下になったら私絶対に断れる訳ない。というか琉藍だけ全然頭下げようともせずに私が今苦しんでいる状況を笑っているように見えるし、あいつマジで覚えてろよ……!!ああもうこうなったらやってやる。
「ああ、もう分かったよ!!!やればいいんでしょ!!やれば!!千里に頭まで下げられたら断れる訳ないじゃん!!」
どうやったってこんな状況で断れる訳がないじゃん!!
恵梨や千里にまで頭を下げられているこの場で自分の意見を押し通すなんてことは無理に決まってるし!!頭を私に対して下げている千里の方を見ながらも私は竜弥のことを思い出してしまっていた。ああやばい私の割と恥ずかしい過去が……!!
私だって竜弥に対して思い出がない訳じゃないよ。
高校生になったとき偶々中学のときに虐めて来ていたグループに囲まれた私を助けてくれたのが竜弥だったから。竜弥は私のことを虐めようとしてきた奴らの中にいた私の手を引っ張って助けてくれて公園まで一緒に逃げてくれた。その後、自販機で竜弥が飲み物を買って来てくれてこう言ってくれたんだ。
「大丈夫か?」
って……。
私に対して色々と聞きたいことはあっただろうに竜弥の第一声がそれだった。
嬉しかった、何も聞かないでただ隣で寄り添ってくれている竜弥が嬉しかった。このときからだったのかもしれない、竜弥のことを本当の意味での盟友だと思うようになったのは……。普通だったらこんなこと言われたら惚れてるからね!?千里居なかったら私ふっつうに竜弥に惚れてたからね!?
あのハーレム男、普通に惚れさせる天才だからさ……!!
「私だって竜弥を取り戻したいと思ってるよ、それでも取り戻せなかったときはどうすんのさ?」
どんな答えが返って来るかなんて私には分かってる。
千里達なら絶対にこう言ってくるという解答を待っているのだから。
「大丈夫、私たちの音楽なら絶対に……!!」
確固たる証明なんてものはないというのに千里が言うだけで私は本気で竜弥に伝わるという気がしていた。そうだよね千里、千里はどれだけ打ちのめされようとも何度だって這い上がって来た。此処で諦めるような子じゃないよね千里。
だから……私も……。
「分かったよ、千里」
これ以上は何も言わない。