傷だらけな多重人格の青年は泥臭くもVtuberとして呼吸をする 作:村上トオル
「んで?ライブやるのは全然構わないけどどんなふうにやるのさ?」
「それならもう決まってる。ライブを配信でやりながら私達の映像を流すの」
「ちょいちょい待ち?それって実写ってこと?」
「いや、Vとして」
「Vとしてって……琉藍Vの姿ないじゃん」
香織の言う通り、琉藍はVとしての姿がない。
一度だけアタシが琉藍はVやらないの?と聞いたことがあったが、琉藍は「いやぁ、私はいいかな」と言っていたのを聞いたことがあった。
「それなら大丈夫、私が昔試作的に作ったアバターがあるから」
琉藍は逃げ場を失くされたとき、「えぇ?私が……?」と面倒そうにしていたがこれもリューの為だと自分を納得させてみたいだけど……。
「あーまあ……それなら大丈夫か……ていうかバンド名はどうすんのさ?流石に前と同じのは使えないでしょ?」
「それ私も思ってたところなんだよねぇ……流石に前と同じワンフォーオールを使う訳にはいかないと思うんだよねぇ……」
あのバンド名は一人はみんなのために、みんなは一人のために、という意味が込められていて私は好きだったけど香織や琉藍の言う通り、今まで通りのバンド名を使う訳にはいかないよね。
「ふふっ!こんなこともあろうかと私は考えておいたよ!!エデンってのはどう!!」
「中二病乙じゃん……しまなみ海道とかどう?」
「え?なんで何処か昭和歌唱風なの……えっとじゃあ私は……韋駄天とかどう?」
それぞれが提案する名前にアタシは少し頭を抱えていた。
それぞれ主張したい個性が強すぎて色々と駄目になっている……。此処はアタシがちゃんと決めないと流れ的に全然決まらなくなってしまう。そう恐れたアタシは香織の机の上に置かれていた裁縫の雑誌が目に入る。
「パッチワークとかどう?」
「私は別に構わないけどどうして?」
「あーいや香織の部屋に置いてある洋裁の本見てたら何となくこういうのがいいかなって思ってさ……。本当は色々と頭の中でごちゃごちゃ考えていたんだけど頭の中で一瞬これがいいかなってなったんだよね」
「まぁ……略称的にパチワとか可愛らしくなっちゃうけどそれもギャップっぽくて案外いいんじゃないかなって私は思うよ」
香織がアタシに対して疑問を投げかけるなか、一番最初にアタシの案に賛成してくれたのは琉藍だった。
「パッチワークって確か、色んな色や柄・形の布をはぎ合わせて一つの面を作る技法の一つだよね」
「うん、アタシ達は性格や個性はそれぞれバラバラ。だからそんなバラバラな個性を持つ布と言う名の音楽をはぎ合わせて作り出すのがアタシ達の音楽だと思うんだ」
「はぁぁぁぁ!!?めっちゃエモ!!?いいじゃん!!」
アタシの話を聞いて突然大きな声を出したのは香織。
香織はこういうふうな話から切り出せばきっと納得してくれるというのは分かっていた。隣で来ている琉藍と恵梨は凄く五月蠅そうにしていたけど……。
「バラバラな個性や性格を、か……。私もいいと思う」
恵梨も納得してくれたことにより、アタシが決めた新しい名前、パッチワークということで決まったようだった。
「此処だよね……」
琉藍から指定されたスタジオルームを貸出してくれるカラオケ屋に辿り着き場所が合っているかどうかを確認していた。アタシ達は一度香織の家から出て今日急遽貸切ることになったスタジオルームで集まることになっていた。
「あっチサお疲れ!!後はじゃあ……ヒメとエリーだけだね」
「お疲れ琉藍……ごめんね、急にスタジオルーム抑えてなんて言って」
「ああ、それなら気にしないでいいよチサ。偶々空いてる場所あったから借りられてただけだよ。後当日のスタジオだけど貸してくれるって」
「本当にありがとう琉藍」
二へへと笑いながらも琉藍は軽くドラムを叩いた後に再度アタシの方を見る。
「チサはさぁ……この新しいパッチワークっていうバンド……。一時的なもので終わりだと考えてる?それともVとしての活動が終了しない限りは続けたいと思ってる?」
「琉藍は……どうしたい?琉藍は流れ的にVになっちゃったけど」
「そうだねぇ……欲を出すなら一度っきりって言うのを勿体ないと思うよ。新しいバンド名まで決めて活動するならちゃんと継続的に活動した方が私はいいと思うなぁ……どういうふうに活動していくのかとどういう活動方針にして行くかとちゃんと決めておかないと今後にも響くだろうからねぇ……後配信するっていうことは少なくともそういう気があるっていうことでしょ?」
「うん、そうだね。それにしてもなんだかんだちゃんと考えてくれてるんだね琉藍」
何事も面倒そうに考えているように見えてちゃんといつも考えてくれている。
本人曰くそんなことは全然ないらしいけどちゃんとこの新しいバンドをどうやって活動していくべきなのかをちゃんと考えてくれている。確かに琉藍の言う通り、配信もやろうとしているのは多くの人にアタシ達の歌を届けたいという気持ちもあるからだ。それなら今回限りというのは確かに勿体ないのかもしれない。
「えぇ?そんなことないよチサ……アタシはただのめんどくさがりだし……ただこれから先このバンドを続けたいっていう気持ちがあるならそこはちゃんと考えておかないとダメだよってだけだよ……」
琉藍は私に助言してくれた後、「あー疲れた」と言いながらもペットボトルの水を飲んで休憩しているようだった。自分の中では慣れもしない事を言ってしまったとでも思っていたのだろうか。
「ごめんみんな遅れた」
アタシに続いてスタジオルームに入って来たのは恵梨だった。
「大丈夫だよエリー、ビリはヒメだから」
「そ、そういうルールだったっけ……?」
まるで競争でもしていたかのような言い方をする琉藍。
「千里、来て早々かもしれないけど竜弥に渡しておいて欲しいものがあるの」
「竜弥に……?」
「うん、これ竜弥に渡して置いて欲しい……」
アタシが渡されたのはチケットホルダー。
チケットホルダーの中に入っていたのは今回のライブの恐らくたった一枚になるであろうチケットだった。
「凄いねぇ、この短時間で作ったのエリー?」
「急遽作ったからそんなにいいもんじゃないだろうけど竜弥にすぐに渡して欲しいの……。竜弥に直接渡すのが無理ならポストでもいいから……」
「分かった……竜弥に渡してくる」
渡して来るか……。
いつかは絶対竜弥と会わなくちゃいけないのは分かっている。
結局アタシは家の前まで来てどうしようかと悩み果てていた。
分かっているけれど今はそのときじゃない気がするけどどうすればいい、そのままポストに投函して渡しても竜弥は読んでくれるだろう。もしかしてそのまま捨てられたりなんてしないよ……ね。
い、いや竜弥のことだし中身は開けてちゃんと読んでくれるはず……。
「なにしてんの?千里?」
「え?静音……?」
アタシがずっと竜弥の家の前でポストに投函するべきかしないべきか迷っていると私の行動
に不思議そうにしながら話しかけてきたのは静音だった。
「竜弥に用があるなら呼んでくるけどどうかしたのか?」
「あーいや呼ばなくていいよ……!ただこれを竜弥に渡しておいて欲しいの!」
「……ん?ああ、私は構わないけど……渡しておけばいいのか?」
「うん、それじゃあお願いね静音……」
結局静音から竜弥に渡して貰うという選択肢を取ることになったけど、これはこれで良かったのかもしれない。あのときのこともあってアタシは竜弥に会ってもなんて声を掛ければいいのか分からないし、まとまった言葉をかけることができないから。
「静音に聞いてみたいんだけどもし……アタシがバンドを組んで演奏するって言ったらどう思う?」
「マジで!?千里バンド組むの!?」
「あーいや仮の話だよ?静音はどう思う?」
「うーん?まあ私は難しい話よく分からないけど、千里が組んだならきっと……」
「すげえいいもんになると思う」
静音はお世辞を言うのはあまり得意な方じゃない。
その静音がアタシの顔を見て嬉しそうに笑っているなら間違いなく新しく作り上げたこのバンドに更なる熱意を込められるというものを……。
「ありがとう静音、もしそのときが来たらとびっきりのものを見せてあげる!!」
「ああ期待してるぜ!千里!!」
アタシは静音の言葉を聞いて軽快な足で歩き始めていた。
もし、という言葉を使ったけど静音があんなにも期待を込めたような笑顔で笑ってくれていたんだ。だったら新しいバンドは竜弥以外に色んな人々にも響くものになるかもしれない。響くかどうかはそれはもちろんアタシ達の頑張り次第なところもあるけど……!
「アタシ達は全力を出し切るだけ……!!」
バンドのことを考えながら歩き始めてから少しして誰かがアタシを呼ぶ声が聞こえてくる。アタシはその声の方に耳を傾けるとすぐにその声が誰なのかわかった。
「千里……!!」
後ろをチラッと振り返ると、そこにいたのは竜弥だった。
「チケット見てくれた?」
「ああ……」
あのときのような怒りに身を任せたような声ではなくいつもの竜弥とほぼ変わらない声になっていた。アタシはそれだけで少し安心したような気がしていた。
「じゃあこれだけは伝えておくね……」
「絶対見に来てね竜弥……!!」
もっと伝えるべきことがあったのかもしれない。
もっと話すべきことがあったのかもしれない。でもそれは竜弥とちゃんと話を出来るときにアタシは持ち越すことにした。それが正しい答えだったかは分からないけど、竜弥の顔を再度チラッと見たとき「絶対見に来てね」と言ったとき、「ああ」と笑顔で言ってくれているような気がして本当に嬉しかった……。
「竜弥、見ててね……。アタシ達が絶対に竜弥のことを救ってみせるから……」
高校時代、アタシは竜弥のことをきっと救うことは出来なかった。
それどころか竜弥に頼ってばかりだということすら気づかないでいた。そんなアタシが今更償うことが出来るのか分からないけど、アタシはアタシは絶対に竜弥のことを救って見せるから……。
アタシ達の音楽で……!!
「千里、どうだった?」
「あの様子なら大丈夫だと思うよ」
「なら良かった……」
恵梨はアタシが竜弥にチケットを渡せたようでホッとしていると、香織が「注目ー!!」と言いながら手を叩き始める。
「さて!!これで五人集まったことだし、新しいバンド、パッチワークの活動開始という訳で!!千里から一言!!」
「なんでヒメが仕切ってんのさ……」
「え~!いいじゃん!!ほら!千里、一言!!」
「え?うん……みんな……!!」
「アタシ達のこのバンド、パッチワークは初回の配信で竜弥だけじゃなく色んな人達に届けたいという想いがあるの……!どれだけの人がアタシ達の配信を見てくれるかは分からない……!!それでもアタシは……この配信で全力のパフォーマンスを届けたい……!!だからみんな……!!」
「力を貸して!!」
琉藍、言ってたよね。
このバンドを一度っきりにするのか継続したものにするのか、どうするのかって……。アタシね、そんなの考えるまでもないよ。こうしてまた四人の力を揃えることが出来たのならアタシはこの四人でもう一度バンドを再結成したい。
そしてこのバンドで様々な人達に感動を届けたいって気持ちがあるの……。
「本当なら面倒だけどチサに頼まれちゃ仕方ないよねぇ……」
「もしかしたら全世界の人がアタシ達の歌を見てくれるかもしれない!そう思ってきたら俄然燃えてきたじゃん!!」
「うん、頑張ろう千里……!」
みんなの反応がそれぞれ返って来る。
それぞれの誓いのようなものを聞いたアタシはもう一度声を出してこう言う。
「やろう、アタシ達で……!!」