傷だらけな多重人格の青年は泥臭くもVtuberとして呼吸をする   作:村上トオル

92 / 179
※注意 

この話の最後には、直接的な虐待未遂のシーンがあります。精神的な負担を感じる可能性があるため、ご注意ください。また虐待を推奨する意図は一切ありません。


第七章 人格たちは呼吸を忘れる
刻み込まれた一生の傷 ※閲覧注意、虐待未遂描写あり


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……最後まで聞いてくれたの貴方が初めてかも」

 

 偶々通りかかった公園で俺は歌声に導かれるようにしてその場に行くと、そこには長い茶髪の少女がベンチに座りながらもギターを弾きながら歌っている姿を目に入った。彼女という存在に目を奪われていた俺は彼女の歌を黙って聞いていると、歌え終えた後拍手をすると彼女は満更でもないような表情をしており、彼女は俺にこう告げてくれていた。

 

 これが……これが俺にとって綾川千里との最初の出会いだった。

 俺は彼女に出会うまで自分の中でストレスという狂気をどう処理するべきなのか迷っていた。迷い続けた俺は学校や家の中ではあまり見せなかったが時々自分ではない顔が見えるようになっていたような気がしていたのだ。それこそ物に当たったり時々人からにしか分からないがとても冷酷な表情を浮かべていたり、そうなった原因はやはりあのことなのかもしれない。

 

 

 

 それは俺がまだ千里と出会う前のこと……。

 そして俺にとって封印したい過去の出来事だ。

 

 

「じゃあ行ってくるから……結衣のこと頼むね竜弥」

 

「……うん」

 

 あの日もまたいつものような日々が続くのだろうと思いながらも俺は溜め息一つ吐くことはせず、玄関で母さんのことを見送っていた。

 

「お母さん……何処行ったの?」

 

 玄関で母さんのことを見送った後、結衣が目を擦りながらも俺の方へとやって来ていた。

 

「……分からない」

 

 知らないわけがなかった。

 当時妹は10歳。年齢を重ねて行くごとに母親が何処へ行っているのかは気づいていたのかもしれないが、俺にこうやって母さんの帰りがいつなのか聞いて来ることが多かった。きっとお腹を空かせたりしていたからなんだろう。

 

 そして……当の母親は何処へ行ったのかというと……。

 

「またギャンブルだよな……」

 

 妹にまたギャンブルに行ったよ、あの母親なんて言えるはずもなく俺は真実をひた隠しにしていた。その方が妹の為にもなると思っていたからだ。

 

「このパン美味しくないね……ちょっと前に食べたカレーが恋しいよ」

 

「……ほらあげる」

 

 妹が食べていたのはフランスパンのように硬いパン。

 決して賞味期限が切れているとかそういう訳ではなく恐らく母さんがこのパンが見切り品で安かったから買って来ていただけだった。そんなパンを食べている結衣を見て俺は何も言えなくなってしまい、俺が食べようとしていたパンを結衣に渡すのだった。

 

「……いいの?お兄ちゃん?」

 

「うん……」

 

 一口も手を付けていないのに気づいた結衣は俺に「いいの?」尋ねていたが、俺は何も言うことはせずただ返事をしただけだった。こんなことがしょっちゅうあり、俺はいつも授業中腹を空かせており学校の給食だけが最高の料理だったということを覚えている。よく考えてみれば、ただのギャンブル狂いだった母さんが給食費や学校のお金を出せていたことが不思議でしょうがなかったがきっと母さんの祖母から幾らか借りていたんだろう。こう思うと当時の母さんは本当に情けなく感じてしまう。

 

「ほら結衣、歯磨き粉垂れそうになってるよ」

 

「あっ!本当だお兄ちゃん、ありがとう!!」

 

 口の中を歯磨き粉でもごもごとさせながらも結衣は笑顔で俺に言ってくる。

 結衣はいつもこんな感じで何処か抜けている妹だった。方向音痴だったりする為、知らない場所や道を通ると迷うこともあった。本人からすればきっと迷路のように道というものが複雑に見えているんだろうが俺はいつもそんな結衣が心配でしょうがなかった。

 

「結衣、最近学校はどう?虐められたりしてない?」

 

「してないよ!私のこと揶揄ってくる子は居るけど全然気にしてない!!」

 

 結衣は俺が思っている以上に強い子なのかもしれない。

 強い子なのかもしれないが、俺は心配でいつも結衣が何かされてないか不安だったのだ。抜けているところも多いからそういうところを揶揄われて虐められていたりしていないのか……とかな。

 

「そうか……じゃあ兄ちゃんは先に家の前で待ってるから!」

 

「うん!!待っててねお兄ちゃん!!」

 

 結衣がまだ歯磨きをしているのを横目に俺は学校に行く準備をして入れてあったランドセルを背負って玄関の扉に触れて扉を開けるとそこに広がっているのは当然外だった。この頃、俺はまだ都会というものに揉まれていなかった。いや、埼玉も充分都会っちゃ都会か……。

 

「ごめん待った?お兄ちゃん」

 

「待ってないよ、ほら行くよ結衣」

 

 結衣が家から出て来たのを見て俺は玄関の鍵を閉めて学校へと向かう。

 

「ねぇお兄ちゃん、最近学校の男子の間でゲームが流行っているらしいんだけどね。それがね、ものすごく楽しいらしいの!それでね、そのゲームはね魚が釣れたり虫取りが出来たり部屋の模様替えなんかも出来るんだって!!私もいつかはゲームやってみたいな」

 

「……僕が高校生になってバイトを出来るようになったら買ってあげる」

 

「ほんと!?じゃあ将来の楽しみにしているね!」

 

 今になって思えば俺のこのときの会話は小学生とは思えない会話だったかもしれないが、俺は楽しそうにゲームの話をしている結衣のことを見て現実を突き付けて我慢しろというより、将来の楽しみを増やしてあげた方がいいに決まっていると考えていたからだ。結衣はいつもこんなふうに学校で起きたことを俺に話してくれていた。なによりも楽しそうに笑っている結衣の姿が俺は好きだったから、俺もまたこうやって話をちゃんと聞いていた。

 

「それじゃあお兄ちゃんまた放課後ね!!」

 

「また放課後な!!」

 

 学校に着いた俺達は下駄箱で結衣と別れて俺は六年生の教室へと入って行く……。

 

「あっおはよう竜弥!!」

 

「おはよう」

 

 俺はこの頃は"まだ"クラスに馴染めていた。

 いや、実際のところは学校に馴染めていなかったのかもしれない。母親がギャンブル狂いだといいうことを知られていて誰かがそれを噂しているかもしれないと言う恐怖心に怯えながらも過ごしていたた為、可哀想だと見られるのが本当に嫌だったのだ。結衣のように明るく振舞っていることが出来なかったのだ。

 

 そう、自らが可哀想な子だということを演じていることにも気づかないでいたんだ。

 でも実際仕方ないだろ、俺は一度だけ教師から学費が遅れていると言われたとき本当に内心自分の親がそういう狂気の類のものにハマっているとバレるかもしれないという謎の恐怖心で包まれていたのだから。

 

「ねぇねぇお兄ちゃん!!」

 

「どうした?」

 

 学校から帰って来た後、先に家に帰って来ていた結衣が俺のランドセルを持って寝床の前に置いてから俺に話しかけてきていた。

 

「あのねお兄ちゃんってさ凄い良いお嫁さん貰えそうだよね!」

 

「凄い未来の話をするんだね結衣……」

 

 いきなりしてきた結衣の話に俺は戸惑いを隠せないでいた。

 結衣の話が突拍子もないことなのはいつものことだが俺はこのときの結衣の話に関してはかなり覚えていて、本当に驚きを隠せないでいたのだ。 

 

「だってそうじゃん!お兄ちゃんって私のことをいつも面倒を見てくれてお世話するのも上手だからきっとすごくいいお嫁さん貰えるだろうねって!!」

 

「なんかそれだと僕がお嫁さんのお世話してるだけじゃない……?」

 

「そうかな!ほらお兄ちゃんって料理も上手だしきっといいお婿さんになるよ!!」

 

「……ありがとう結衣」

 

 結衣の説明的にまるでお嫁さんのことを介護する未来が待っているような言い方をされて俺はどういうこと……?というふうになっていたが、俺はこのときの結衣の話がまさかあんなふうな形で実現するとは思ってもいなかった。あいつのことをお嫁さん……、というのはまだ早いかもしれないが……。本当笑えないもんだな……現実ってのは……。

 

 

 

 

「おかえり……結衣はもう寝たのか?」

 

「……そうだね、母さん。いつも通りぐっすりと眠ってるよ」

 

「そうか……私ももう疲れたから竜弥もすぐ寝なよ……」

 

「うん……」

 

 本当は母さんに言いたかったことがある。

 今日こういうことがあったんだとか、体育で褒められたんだとか……。テストで良い点取れたんだとか伝えたい事が山程あるけど母さんはいつも体に「後にしてくれ」というオーラを纏っているように俺には見えていたんだ。だから俺は母さんに学校のことや結衣のことを話すことはなかった。

 

 本当は放したくてしょうがなかったけど……俺は話そうとはしなかったんだ。

 もしかしたら……もしかしたら子供の頃からちゃんと母さんと話していれば少しは違った未来を見えていたのかもしれないというのに……。

 

 

 

 

 そして……時は訪れた。

 そう、あの出来事はあの日に起きた出来事だったのだ、俺が……。

 

 

 

 

 

 

 

 ()()()()されたという……。

 

 

 

 

 

「この子を殺せば私は楽になれるのだろうか……」

 

 生活に困窮し始めていたのか、俺が寝ていると思っている母さんはそう独り言を言っているのが聞こえていた。俺はその当時、その声が必死に聞こえないものとして考えようとしていたが頭から離れることはなかった。

 

 徐々に伸びて行く母親の手が俺の首を狙っていたのを覚えていた。

 俺はその瞬間、今まで母親に対して少しでも話してみたい、それでも母親だからきっと愛情はあると信じていた俺とって恐怖心というものが初めて植え付けられたのだが、俺はそのとき目を開けて誰もが仰天をするようなことを言ったのだ。

 

 

 

 

 

「いいよ……母さん。僕のことを殺しても……」

 

「え……?」

 

 母さんからすれば何を言っているのか分からなかったかもしれないだろう。

 

「俺のことを……僕のことを……殺してくれて構わない。だけど……」

 

 

「妹だけはちゃんと守るって約束して……」

 

 到底十二歳とも思えないほどの発言。

 普通の十二歳がこんなことを言えるはずもなかったが俺は普通の十二歳ではなかった。何故ならこのときから既にもう別の人格が出て来そうになっており、そっちの俺は大人びていたのだから。

 

 このときの俺は……なによりも母さんに対して可哀想な人と言う印象が強かったんだろう。

 

 

 

 

「竜弥……」

 

 きっと母さんには意味が分からなかっただろう。

 十二歳から出る言葉とは思えない言葉に驚愕していただろう、俺はそんなことも知らずに震えることなく俺は母さんに妹のことを託そうとしていたが……母さんは突如俺の頬に触れながらこう言って来たのを覚えていた。

 

 

 

 

 

 

「ごめんね……」

 

 と……。

 それ以来だろう、母さんはギャンブルをやめて時間帯問わず働くようになったのは……。副業出来る仕事を見つけて夜はコンビニの店員をしつつ俺達を養おうとしてくれていたのだから。妹はあのときの現場を見ていなかったらから母さんの中でどういう心境の変化が訪れているのかがよく分かっていなかったようだがそれでも前までとは違う母さんを見て何処か誇らしげにしていたのを今でも覚えている。

 

 

 そして俺の中ではあの日……母親に殺されかけたという心傷的なものを忘れることが出来ずにいた。そして母さんの声が微かに聞こえていたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 この子は自分の子供じゃないという声が……。

 そして……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 新たな人格が芽生えようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「僕の妹を虐めたのはお前か……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本当の痛みって奴を教えてやるよ……」

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。