傷だらけな多重人格の青年は泥臭くもVtuberとして呼吸をする 作:村上トオル
俺にとってのあの日、母さんに首を絞められそうになったという事実は消えることはなかった。どれだけ忘れようとしても悪夢としてあの日の記憶が蘇ってしまうのだ。もういい加減にしろよという気持ちに何度もなっても俺の感情とは違って夢は何度も見せて来ていた。
ただ……母さんの中でもあのときの母さんは何かを変えるキッカケになったのか、母さんは仕事を始めていたのだ。仕事の内容は日中は病院での掃除の仕事。夜はコンビニのバイトをしている。今にしてみれば罪滅ぼしのつもりだったのかもしれない。
「お兄ちゃん、今日もお母さん仕事?」
「そうだよ結衣……」
母さんは仕事ばかりで俺達に構っている時間というのはほんのわずかだった。
ほんのわずかっていう時間が本当に貴重なもので俺はそんな貴重な時間というのをちゃんと覚えている。病院の清掃の仕事を始めて三ヶ月ぐらいしたとき、俺にスマホを買い与えてくれたときは本当に「いいの?」と何度も聞いてしまっていた。
『変なことに使わなければ構わない、でも……あまり使い過ぎないって約束できるか?』
『あ、ありがとう……』
あの日、母さんのことを偶に買ってくれるご馳走のこと以外で初めて親らしいことをして貰ったような気がしていた。ただ母さんの言われたことは守れなかったかもしれない。それは変なことに使ったというより買って貰った初日にスマホを使い過ぎたということだ。
スマホというものは今や小学生でも持っているもので「持っていない」と言うと、「ええ!?」みたいな反応をされることが多かった。その為、初めてスマホというものを自分の手で触ってみて中々楽しいものだと実感していたのだ。次の日の朝、母さんに怒られることはなかったが携帯の話をされて俺はドキッとしていた。
『使い過ぎに気を付けなくちゃな……』
母さんに苦言を呈されることはなかったがどう見ても使い過ぎだと言われそうになっていたことを気づいていた。暫くスマホの使用は夜遅くまで使わないことに決めていたのが俺の中学二年生のときだった。
「お兄ちゃん、スマホ貸して……」
「なんで?」
食事を終えた後に結衣は俺のスマホを借りようとしてきていた。
結衣が俺のスマホを借りようしてくるのは割とよくあることだ。まだこのとき結衣は小学六年生だったから母さんとしては不要という気持ちがあったんだろう。実際、結衣が中学一年生に上がった後に買って貰ったようだったし……。
「クリオネ育てたいの」
「ああ、まあそれなら……いいけど」
結衣はこうして一日一回の日課のゲームを熟していた。
クリオネを育てるゲームなんてどういったものなんだろうという気持ちがあったもののあんまり興味も湧かないため、どうでもいいやとなりながらも俺は学校へ行く準備をしていた。
「ゲームか……」
妹がやっていたクリオネを育てるというものにはあまり興味を示していなかったが、このときから既にゲームというものに興味自体はあったが俺はやるという気持ちにはなっていなかった為、やっていなかったのだ。俺がゲームに本格的にハマりだしたのは中学三年生になってからのことでまた別の話だ。
それから二年という年月が経過していた。
この二年間という期間は俺にとっては穏やかなものだったのは確かなものだったがずっと怯えていたことがあったのも確かなことだった。それは勿論、いつ母さんに殺されるかも分からないという恐怖心から来るものだった。それを抱えた状態でずっといた俺は心の中で僅かなストレスが徐々に集まり始めていたのだ。
そして中学三年生になった、俺は……。
あの日、あの月になったとき俺は母さんに聞いたのだ。
「あのさ……今月なんだけどさ……なにあるか覚えてる?」
「結衣の誕生日だろ、分かってる」
「お母さん……!」
「美味いケーキを買って来てやるからな……」
母さんが結衣の頭を撫でている姿を見ながら俺は学校の準備をしていた。
俺はこのとき母さんが結衣の誕生日を覚えていてくれたことが良かったという気持ちがあったがどうせ今年も来ないだろうという気持ちしかなかった。
それは結衣の誕生日に起きた出来事だ。
「結衣、学校行かないのか?」
「やだ……行きたくない」
「どうしたんだ?学校でいじめられてるのか?」
「違う……」
いじめられているという言葉に否定的な反応を見せていた結衣だったが、どうも様子がおかしい。俺は今日のところは結衣のことを学校休ませることにしようとして結衣の担任に今日休みであるということを報告しようとしていた。
「僕は学校行ってくるから、ちゃんと家でお留守番してるんだよ結衣。後、今日は誕生日だから母さんの帰りに待ってな」
「……うん」
結衣の様子が明らかに違ったのは間違いのないことだった。
学校か何処かで何かあったのは確かなことだったが、確信が出来ていないことに俺はどうしたものかと溜め息を吐きながらも自転車を漕いで学校へと目指すのだった。結衣のことが気がかりになりながらも俺が駐輪場に辿り着くと下級生のこんな声が聞こえて来た。
「あいつ本当に間抜けだよなぁ……」
よくあるくだらない他人の話でもしているのだろうと気にしないようにしていた。
「結衣だっけ……?馬鹿みたいな奴で本当に頭足りてねえって言うかさ……!この前だって俺が馬鹿にしたら泣きそうな顔し「おい……」」
「え……!!?」
「俺の……僕の……妹を虐めたのはお前か?」
「誰だよ……テメェ……いきなりなにしやがる」
気づいたときには体が勝手に動いて目の前にいる下級生の男子生徒のことを殴っていた。
殴られた下級生は自転車小屋に体をぶつけていた。
「おい竜弥、やめとけって!」
「本当の痛みって奴を教えてやるよ……」
俺は友人の制止を振り切って下級生の男子を何度も殴り続けた。
周りの生徒に何度もその光景を見られていたが俺にはそんなことはどうでも良かった。目の前で俺の妹を虐めていた奴の話を聞いて黙って居られるほど俺は穏やかな人間ではなかったのだ。なによりあのとき本当に学校に行きたく無さそうにしている結衣の表情を見て俺はこいつを痛めつけないと駄目だと言う気持ちが強かったのだ。
「……竜弥君、今回の件は向こうの親御さんも穏便に済ませたいそうだ」
「……そうですか」
気の済むまで下級生のことを殴り続けた俺は空き教室に呼び出されて担任の教師から事情の説明を問われた。俺は正直に結衣が虐めたという話を聞いたから多少痛めつけたという話をしたが、教師が俺に対して言ったのはやり過ぎだという点だけだった。
「結局虐めてた奴に対してのお咎めはなしかよ……」
「何か言ったかい、竜弥君」
「なんでもないですよ……」
溜め息の一つや二つが付きたくなるこの場で俺は苛立ちを覚えながらも出来る限りそれを表に出さないようにしていた。結局、この場では何事もなかったように終わらされて結衣が虐められたという事実すらも無かったことにされた。更に屈辱だったのは俺はその虐めていた下級生の前で謝罪をさせられたことだった。
「なんで僕が……」
謝罪をするのは向こう側だろうという気持ちを必死に堪えながらも話を終えた俺は駐輪場に置かれていた空き缶を壁に蹴り飛ばしながらも自転車に乗って全速力で飛ばしながらもケーキ屋に行っていつも貯めていたお小遣いでケーキを買うのだった。
「結衣……お帰り」
「お帰り、お兄ちゃん……それケーキ?」
「ああ、今日は結衣の誕生日だから僕が買って来たんだ」
「え?ほ、本当に……?ありがとう!!」
結衣は俺が手に持っていたケーキを見て「早く食べよ!」と言いながらも俺が「はいはい」と言ってテーブルの上に置いて皿を準備してケーキを食べ始めようとしていた。
「ほら、結衣……誕生日おめでとう」
「ありがとうお兄ちゃん、じゃあろうそくの火消すね!!」
美味しそうなイチゴが乗っかったホールケーキの上にはろうそくが置かれており、ろうそくの火が付いており明かりを消していた為、そのろうそくの火が明るく目立っていたが結衣がろうそくの火を消すと一気に部屋が暗くなっていたのだ。
「お母さんも来て欲しかったなぁ……」
「そうだね……」
もうこのときの時点で俺の中でもう母さんとの間の溝が出来上がっていた。
元々俺が下級生を殴った件で母さんも学校に来ることになっていたが、母さんは結局学校に来ることはなかった。担任は少し不憫そうな表情を浮かべていたのを俺ははっきりと覚えていた。そして、極めつけは下級生の母親にこう言われたのだ。
『貴方も可哀想な子ね、お母さんが肝心なときに来てくれないなんて……」
俺は何も言い返すことが出来なかった。
ただ形だけの謝罪をするしか出来なかったのだ。
そして結衣の誕生日……。
もう20時が回っているというのに帰ってこない母親に俺は失望しかけていた。
「お帰り竜弥……話があるんだが……どうして学年二つ下の生徒を殴ったんだ?」
「……その話かよ」
「竜弥……?」
「……いいよ、謝りに行くんでしょ?」
何処か不貞腐れたような物の言い方で俺は母さんの車に乗ってシートベルトを強めに締めていた。母さんは何処か俺の様子がおかしいことに気づいていたが聞き出そうとはしていなかった。
その後、菓子折りを持って下級生の家の下に来た母さんと俺。
俺はどちらかと言うと、この場に謝罪をしに来たという気持ちはなかった。どちらかと言うと腹が立っていた。それは俺のところに来てくれたことではなくこんな時間まで何処で何をしていたのかが気になって仕方なかったのだ。そしてどう見ても結衣の誕生日を忘れているような感じが嫌になっていた。
「竜弥、なにか言いたいことがあるんじゃないのか?」
家に帰って来た後、テーブルに仕事の荷物を置きながらも俺は何か言いたそうにしている様子に気づいたのか俺は言おうとしたが……。
「……あ、あのさ……いや……やっぱりなんでもない……おやすみ」
「あ、ああ、おやすみ竜弥……」
これ以上母さんに期待をするのやめよう。
もうそう思えてしまうほどだった。
「竜弥……なにか食べたいものある?」
あれからかなりの溝が出来上がり始めた頃、母さんはある日俺と結衣と一緒に外に出ようと言ってきたのであった。結衣がその提案に乗っかったのを見て俺も外に出ることを決めたのだ。本当は母さんと一緒にいるなんて嫌だったけど……結衣が行くなら俺も行くことに決めたのだ。
「え?食べたいもの……?」
「今日は給料日だったから少しぐらいなら外で食べに行こうと思ったんだがどうする?」
結衣が大喜びしている声が聞こえてきながらも俺はある場所を指すのだった。
それは家の近くにあるラーメン屋のことだ。
「じゃあさ……ラーメンがいい」
「ラーメン……?ラーメンで本当にいいのか?」
「うん、あそこの前通ったら偶々通ったら凄い美味しそうな匂いがしたから行ってみたかったんだ」
折角の母さんからの好意、何も期待していなかったはずだというのにこうして俺は母さんに何か与えて貰えるというのは悪い気分じゃなかった。
「……あれ、いいな」
目の前を通過した親子の姿に俺は一瞬目を奪われていた。
親子は手を繋いで歩いており、楽しそうに歩いていたのだ。小さい頃からああいうのを体験したことがない俺にとってああいうのは羨ましい対象だったのだ。
「竜弥、手繋ぐ……?」
「え……?」
手を繋ぐと完全に言い切った後に俺の手は母さんの手と繋がれていた。
中学生にもなってこんなことをされているのは少し恥ずかしい気分だったが悪い気分じゃなかった。母さんの冷たい手を実感しながらも俺達はラーメン屋の中へと入る。
「いらっしゃい!!」
奥の方には厨房が見えており、周りを見るとカウンター席とテーブル席が置かれている。席のところには調味料と思われるものが置かれており、建物の上側を見るとそこにはラーメンの名前がズラズラと書かれていた。
「竜弥、何食べる?」
テーブルの席に座った俺は母さんからメニューを受け取りながらも少し戸惑っていた。
ラーメンなんて高価なものをこうしてちゃんと食べるの初めてだった為、何がいいのか俺にはよくこのときはまだ分からなかったのだ。とりあえず、俺は醤油ラーメンを頼むことにすると結衣も同じものでいいと言って母さんは醤油ラーメンを三つ頼んでいた。
「お兄ちゃんラーメン楽しみだね!」
「そうだな……」
ほぼ適当な返事で結衣の言葉に返していた。
俺には結衣の言葉より気になっていたのは厨房で作られているラーメンが気になって仕方なかった。厨房には大きな鍋やら大きなフライパンが置かれていたり、麺を湯切るようのものまで置かれていた。なにより俺が気になって仕方なかったのは従業員の人が声掛けしながらも作り合っている姿に俺は魅了されていた。
「はい!!醤油ラーメンお待ち!!」
一番最初にラーメンが届いたのは俺のところだった。
ラーメンの良い匂いが俺の鼻には過ぎ去って行っており、食欲をより活性化させていた。続くようにして母さんや結衣の下にラーメンが届いて俺は小声で「いただきます」と言って俺は一番最初にスープを飲むと、何回も飲みたくなるようなあっさりと感じに圧倒されていた。続いて麺を啜ってみると、しっかりとした細麺の美味しさに俺は再び圧倒されていた。ラーメンというものを此処までちゃんと食べたのは初めてだったが、俺は感動していたのだ。
「美味しいね竜弥……」
「うん……」
あまりにも美味しいラーメンという料理に俺は本当に心を揺さぶられながらも此処に連れて来てくれた母さんに多少はこのとき感謝しており、あのとき結衣の誕生日に来てくれなかったことを少しは許してもいいかもしれないという気持ちになっていた。
「結衣、結衣……どうしたんだ?」
「……熱あるかも」
俺が学校の準備をしていると結衣が全く布団から出てくる様子がなかった。
俺はもしかしたらまた学校で何かあったのかだろうかと不安になっていたが、体温計で結衣の体温を測るとどうやら本当に熱があるようでおでこを触ってみると熱くなっていた。
「……学校には僕が連絡しておくから」
「ありがとう、お兄ちゃん……」
「学校休まないと駄目だよな……」
結衣には伝わらない程度の声で俺は言う。
結衣はもう中学一年生だ、一人でなんとかなるのは勿論分かっているし、少し過保護が入っているのも分かる。ただどうしても俺は結衣のことが心配で仕方なかったからこそ俺も学校を休むことを決める。電話をした後、俺は冷凍庫から氷枕を取り出して結衣の頭の下に置いた。
「お兄ちゃん、学校は……?」
「結衣が具合悪いのに行ってる場合じゃないだろ……本当に酷い熱だぞ?」
「そんなに酷いんだ……」
「念のため母さんに連絡しておくから」
ラーメン屋の一件もあって俺は母さんを信じていいかもしれないという気持ちが再び芽生えていてた為、俺は母さんに頼ろうとしていたが結局母さんから電話や連絡が入ることはなかった。
「結衣が大変なときになにやってんだよあの人は……」
トイレの壁を思いっきり拳を握り締めながらも叩きながらも俺はトイレを出て来て、部屋に戻ると結衣が「来て」と言って手招きをしてきて俺はすぐに結衣の傍に駆け寄る。
「お兄ちゃんさ……前に私の為にクラスの子殴ってくれたんでしょ?」
「……別にアレはムカついたから殴っただけだよ」
「ふふっ、そうなんだ。でも……ありがとうねお兄ちゃん」
「……当たり前だろ」
結衣は決して俺にあの話を今までしたことがなかった。
話をするのがし辛いということもあるのだろうし結衣は自分のせいでこうなってしまったと罪悪感を感じていたからこそ話をしなかったんだろう。実際この後結衣は……。
「私のせいでお兄ちゃん随分……学校で居づらくなったよね」
「別に気にしてないよ、煙たがっている人も居るのも事実だけど僕は特に気にしてないし」
あの一件以来、俺の評判はかなりがた落ちになったのは事実。
しかしそれでもあの日の行動が間違っていたなんて俺は絶対に思わない。あの日俺がやったことは正しい行動だったんだから。
「本当にありがとうね……お兄ちゃん」
「もう分かったから……寝な結衣」
「うん……おやすみ結衣」
結衣が眠りに入ったのを見て俺はこう一人で言っていた。
「血の繋がっていない僕のことは……いいよ。でもさ……なんで結衣のときは肝心のときにいつも居てくれないんだよ……」
「母さん……」
あの日、ラーメンを食べさせてくれたことは嬉しかった。
あの日、スマホを買ってくれたことは嬉しかった。それだけじゃない、母さんは初給料日に寿司を買って来てくれたりして俺達に対してご馳走してくれたことは忘れないこと。だけどそれ以上に許せないことがあったのは俺の誕生日はともかく結衣の誕生日や結衣が大変なときに限ってあの人はいつも居ないというのが本当に許せなかったのだ。
「竜弥、結衣は……結衣は大丈夫?」
遅い、遅すぎる。
急いで家に帰って来たという点は本当にダメな人じゃないというのを分かって良かったのかもしれないけどそれでも母さんに対して怒りというものを抑えることが出来ないでいたが俺はなんとか深呼吸をして自分の心を落ち着かせていた。
「……うん、今は落ち着いてる」
落ち着かせながらも色んな感情が俺の中で浮かんでいたがそれも落ち着かせていた。
「竜弥……私は……」
「もういいよ母さ……、……結衣も体調良くなったみたいだしさ……。だからもういいよ……」
「お仕事の方が大事なんでしょ?」
色んな感情が浮かんでいた俺はこの場に居るのが耐えきれなくなり、俺はアテもないというのに家を一旦出てしまう。あの場所にいるというのは俺にとって苦痛でしかなかったのだ。最早あの人のことを母さんと呼ぶことすら苦痛になっていたのだ。
あれから数十分ぐらい歩いただろうか……。
公園で少し休憩しようとしていた俺はベンチがある方向に向かおうとしたとき、楽器の音のようなものが耳に入って来た。その音は音楽というものを奏でるようにしてなっていた。知らない曲のようだが、俺は惹かれるようにしてその場へと向かって行ったのだ。
「so now my time is up」
声が聞こえて来た方向まで行って、俺はその声の主を確かめようとしていた。
曲の始めの部分だろうか、先ほど歌っていた部分が終わったようで違う曲を歌い始めていた。
「音楽はよく分からないから……どの曲とか分からないや……」
それでも俺は女性らしき声に惹かれるようにして俺は導かれその声のところに行くと、そこには……。
「完全感覚Dreamerが僕の名さ」
月明かりにベンチで楽器を弾きながらも歌っている女子の姿が目に入る。
時々夜風で彼女の結ばれた長い髪が揺れ動きながらも彼女はギターで弾きながらも鼻歌交じりに歌っていたのだ。暗がりから徐々に彼女の顔が月が照明のように彼女のことを照らしており、彼女と言う存在を見せようとしていた。彼女の顔は歌う度に表情を変えており、そんな彼女に……俺は……見惚れてしまっていた。
自分という人間が他人に此処まで心を揺さぶられるのは初めてだったような気がしていた。
それも良い意味でだ……。
「i can't get enough! can't get enough!!」
曲が終わったと思った俺は思わず彼女に拍手を送ってしまうと、彼女は俺のことを見ながら少し笑顔を見せながらもこう言ってくれていた。
「最後まで聞いてくれたのは……貴方が初めてかも」
「そうなんだ、あんないい歌声なのに……」
「そう?アタシの歌声なんてみんな気にも留めてないよ」
「そうなんだ……」
俺はなんだか申し訳ないことを聞いてしまった気持ちになっていた。
でもあんなにも良い歌声なのに誰にもちゃんと最後まで聞いて貰えないなんて悲しいことがあっていいのだろうか。
「さっきのって……どういう曲なんだ?」
「ん?ああ、さっきのはね……人の曲でね。結構有名なロックバンドさんの代表曲みたいなものなんだ。それでね、この楽曲には意味が込められてて決してこのままでは終わらない、理屈ではない感覚的発想で未来を切り開いていくという意味が込められてるんだ」
「へぇ、音楽のことはよく分からないけどカッコいいね」
決してこのままでは終わらない、か……。
俺にもそんなふうな野望めいたものを掴めるときが来るんだろうか……。
「音楽のことよく知らないの?」
「ん?そうだよ、でも……そうは言っても音楽の内申点は高いけどね」
「じゃあ意外な才能持ちだったりするのかな」
「それは……どうなんだろうな?先生も音痴とは言っていなかったし……」
俺は楽器を片付け始めている彼女の後ろ姿を見ていると彼女は肩にギターケースを背負って俺の方を見ていた。
「ふうん?ねぇこうやって出会えたのも何かの縁かもしれないしさ……名前教えてよ」
「樫川竜弥……」
「竜弥か、良い名前じゃん。アタシは……」
「
綾川千里、初めて会ったときから俺は彼女という人間に強く惹かれており、彼女という人間のことをもっと知りたいという欲が湧いていた。それはそのとき気づいていなかったが彼女の歌声というものに……彼女という人間に少しずつ惚れ始めていたからなのかもしれない。
「それじゃあまたね樫川」
そして……彼女の出会いは
「本当に同じ高校来たんだね竜弥」
「ああ、言ったろ……」
「俺も千里と同じ学校に行くって」