傷だらけな多重人格の青年は泥臭くもVtuberとして呼吸をする   作:村上トオル

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彼女は共感性を歌う

「それにしてもよく最初にドラムを誘おうなんて思ったねチサ」

 

「このクラスで出来る限り集められるなら集めたいと思ってたからさ」

 

「あーチサはこのクラスに馴染めてるもんねぇ」

 

「琉藍はもう少しクラスに馴染もうとしたらどうなんだ?」

 

「えー?クラスに?」

 

 琉藍は面倒だと言いたそうな顔を浮かべる。

 かなり他人の口ぶりで言っていたが琉藍はこのクラスにあまり馴染めていなかった。

 そもそもあまり認識すらされていなかったのだが本人は特に気にしている様子もなかった。本人曰くそういうの面倒だから知られてない方が楽と語っていたが……。

 

「面倒だし私はいいよー、目立ちたくないしー」

 

「琉藍がそう言うなら咎めはしないし、強く言うつもりはないけど……。クラスに馴染んでおいた方が色々といいことはあるんだぞ。いつ何かある訳じゃないんだからな?それこそ急に学校を抜け出さなくて行けなくちゃいけないことになってそのときに誰も琉藍のことを覚えていなかったから大変だろう?」

 

「チサ、リューが正論で殴ってくるんだけどー」

 

 琉藍は千里を助けを求めるようにして千里に抱きつくと琉藍の頭を撫でながらも宥めているようで俺はそれ以上言うことは出来なくなっていると、琉藍は笑みを浮かべつつ千里の膝から顔を上げて話をし始める。

 

「そういえばチサー、実は私達と同じ学年で前にバンドをやっていたっていう子が居るのは知っている?」

 

「え?そんな子がいるの?」

 

 俺達と同じ学年の奴で前にバンドをやっていた奴……?

 そんな奴がいるのかと俺は琉藍の話に喰いついていた。

 

「うん、中学の時はギターボーカルをやっていた子らしいんだけどねぇ。ちょっとした理由で前のバンドを辞めて今はギターも歌もあんまりやってないみたいだけど、こんな好都合な子中々居ないんじゃない?」

 

「よく知ってるな琉藍」

 

「ーん?まあ、私の情報力はバンドや音楽界隈では情報屋って言われるほど名が知れてるからね」

 

「面倒なことは嫌いなのに名は知れてるんだな」

 

「ま、まあ色々あるんだよー私にも……」

 

 琉藍は情報屋と呼ばれるほどバンドや音楽界隈のことに関してはかなり詳しかった。

 本人は情報屋と言われていることに関してはちょっと面倒だなーと捉えているようだったが……。

 

「それでその子の名前は?」

 

「あーその子の名前は……えっとなんだったっけ……。確か八十科恵梨だっけ?」

 

「えっ!?あの八十科恵梨!?」

 

 千里や琉藍の声ではない声が聞こえて来て俺は誰の声だと周りを見ると、そこには俺の後ろに座っているあのときの紫髪のボブへアーの少女が「えぇ!?あいつ!?」と反応を示していた。

 

「昨日の……その恵梨って奴のことを知ってるのか?」

 

「え?う、うん……同じクラスなんだけどさ……。なんか聞いた話なんだけど中学のときに不良グループをたった一人で打ちのめしたって話を聞いたことあってさ……」

 

「リュー、その子誰?」

 

「ああ、って……俺も知らないな」

 

 香織とは昨日出会ったばっかりで俺は名前も聞いていなかった為、彼女のことは全く知らなかったのだ。

 

「ふふっ、よくぞ聞いてくれました」

 

「聞いてないけど」

 

「うっ……私は一年B組の姫咲香織……!!好きなものは漫画とゲーム!!よろしく!!」

 

「あーオタクか」

 

 わざと反応を試す為に琉藍は聞こうとする。

 表情の裏にはにちゃにちゃとした感じを出していたのは俺は気づいていた。

 

「なにその言い方!?凄い不服がある言い方なんだけど!?そっちだってドラムオタクじゃん!?」

 

「あーそっか、私も周りから見たらオタクか」

 

「なんで自己完結してるの!?この子意味分かんないんだけど!?」

 

 期待していた通りのツッコミが返って来たのを聞いて満足そうにしている琉藍。

 

「琉藍、あんまりそうやって弄るのはやめてやれよ。困ってるだろ」

 

「えー?まあ少しは楽しめたしいっか……」

 

 香織は「遊ばれてる!?」と反応を示していると、琉藍は満足そうにしていた。

 

「にしても……不良グループ相手をたった一人で打ちのめしたか。でももしかしたら聞いていた話とは全然違う可能性もあるかもしれないし、優しい奴かもしれないだろ?その……恵梨って奴は」

 

「うー?そうなのかな、私あの子凄い話しかけづらいオーラ漂ってて苦手なんだよねぇ、友達は割りと多いみたいなんだけど」

 

「あんまりそういう言い方してやるなよ……千里どうする?今日にでもその八十科恵梨って奴と話してみるか?」

 

「え?あーちょっと私今日は無理そうだからその恵梨っていう子について情報集めておいて」

 

 スマホを眺めていた千里はバッグに自分の教科書を集めて帰ろうとしていた。

 何かあったと言うのは間違いないだろうが、俺は聞くことはしなかった。千里も急いでいるようだったから声を掛け辛かったのだ。千里が教室を出た後、香織が千里を指しながらも俺に言ってくる。

 

「あの子行っちゃったけどどうする?」

 

「あの感じ的に何か用事があるんじゃないのか?琉藍はどうする?」

 

「あー私はいいや……二人に任せるよ。なんか面倒な子っぽいし」

 

 自由人の琉藍は俺達に後のことを託して帰るのだった。

 

「え!?私も!?」

 

「じゃあねリュー」

 

「ああ、じゃあな……」

 

 機能出会ったばっかりの奴と俺は二人っきりになってしまうという事件が発生してしまっていると、香織がツッコミを始めていたが既に琉藍は居なくなっていた。

 

「待って!?私なんで任されたの!?」

 

「……さあ」

 

 残された俺達……。

 

 

 

 

「ふふっ、バンドメンバーの情報を集める準備段階、ゲームでいうところでの攻略準備も良い所だよ!!」

 

「あれが八十科か……」

 

 香織曰く、茶髪で近寄りがたい印象が出ており、見た目は一匹狼のような感じがしているらしい。また、カラオケによく行っているというの彼女の情報。ぶっちゃけ私情がかなり入っているがカラオケに行っているという情報はかなり役に立つ。この辺にあるカラオケは全部で三つ。学校は割と終わってすぐだ。三つのうち、二つのカラオケ屋に二人で張り込めば会える確率があるかもしれない。

 

「にしても竜弥……これってストーカーって奴じゃないの?毎日臭い飯食わされるの嫌なんだけど……」

 

「……まあ、それに関しては突っ込まないでくれ」

 

 二度目のストーカー行為。

 いや今回に関しては相手を待ち伏せしているだけだからストーカー行為に当たるのか。これは……分からない。

 

「姫咲……変なことを聞くんだが待ち伏せもストーカーに入るのか?」

 

「入るでしょ、そりゃあ」

 

「だよな……」

 

 冷静に見なくても今俺がしている行動はストーカー行為に当たるものだった。

 相手のことをよく知らないという意味の分からないストーカー行為ではあったが……。

 

「姫咲ってゲームよくやるのか?」

 

「ーん?よくやるよ」

 

「ゲームって楽しいのか?」

 

 結衣が楽しそうに俺のスマホで簡単なゲームをやっているところを何度も見かけていた俺は香織に聞いていた。

 

「えー?そりゃあ楽しいに決まってるじゃん。初めてやったゲームなんてそりゃあ今でも手の感覚があるほど覚えているよ。それにさ……」

 

 

 

 

「私はゲームをやるっていうことで感動するとか喜びを感じるとかそういう感情を得ることがとてもいいことだと思うわけ!!だってゲームから学べる大切なことだってある訳じゃん!?それを今日々の教訓にしたりするのが私にとっては凄いいいことに繋がるの!!だから私はゲームが好き!!」

 

 過去の俺が少しの間だけゲームが好きということに違和感を感じていた答えは此処にあったのかもしれない。かつて俺がゲームを始めようと思ったのは香織からゲームの楽しさを教えてくれたからだ。教えてくれた上で俺はあいつからゲームの楽しさを学んだんだ。

 

「なに!?もしかして竜弥、ゲームに興味あるの!?ゲームに興味あるならゲーム貸そうか!?」

 

「あーいや人のゲーム借りるのは流石に悪いし……でもありがとうな香織。ゲームの楽しさ、教えてくれて」

 

「名前呼び!!?あー全然ゲームの話ならいいって!!もしゲームのことを知りたくなったら私に聞いてよ!!答えられる範囲なら答えるからさ!!」

 

「ああ、そのときは頼む」

 

 過去の俺、答えは此処にあったぞ。

 俺にはゲームが好きになった理由の根源が此処にあったんだ。紀帆や恭平と一緒にゲームをやっている間の疑問の根本は此処にあったんだ。

 

 

 

 

「それで竜弥殿、目的の八十科恵梨は見えてきましたか?」

 

「あー香織殿、目的の八十科恵梨だが……見えて……あーもしかしてあれか?」

 

 俺と同じ高校の学校の制服に茶髪の髪型……。

 あんまり言いたくないが確かに香織に言う通り、若干近寄りがたい印象があるかもしれねえ。

 

「香織殿、それっぽい奴を見かけた。大至急来てくれ」

 

「了解!!」

 

 俺は香織をすぐに俺が送ったカラオケ屋のところへ呼んでからすぐに中へと入ったのは良かったが、今まで一人でカラオケ屋に来たことがなかった俺はカラオケ屋というものに呑まれてしまい、更には受付で少し戸惑ってしまうという事態が起きながらも俺はなんとか個室の中へと入ることが出来たのだが……。

 

「あっやべ……何処にいるのか分かんねえ」

 

 カラオケ屋という場所に来て個室の中へと入って来た俺はカラオケ屋という場所に魅了されてばかりいて本来の目的を忘れてしまっていたのだ。でもこればかりは俺が悪くないという意思表示を俺は珍しく見せていた。

 

 と言うのも俺はこの個室を見て本当にこのカラオケ屋という場所が気に入ってしまっていた。

 千里はこういう場所でいつも練習をしていたのかと心が踊る。

 

「って……そんな場合じゃねえ」

 

 俺は立ち上がり、個室から出ると同じタイミングで個室から出てきた人を見ると、そこには俺が先ほど追いかけていた人物、恵梨が居たのだった。まさか自分が居た個室の隣だとは気づかなかったけどな……。

 

「あれが八十科恵梨か……」

 

 香織が言うように確かにあのときの恵梨からは近寄りがたいものを感じさせていた。

 実際、あの頃の恵梨はバンドを抜けて荒れていた頃だったんだろう。だから俺はそんなふうに恵梨のことを分析出来ていたんだろう。

 

「竜弥殿、お待たせしましたな!!」

 

「ああ……あの人か?」

 

 香織が頷きながらも恵梨の方を見ていた。

 俺達は恵梨の姿を確認して個室の中へと入って行った。恵梨はこのカラオケ屋である程度歌ってから出るだろうという予想を立てて香織と俺は自分達の個室の中へと入って行くことにした。

 

 

 

 

「いつか見たあの夢を両手で抱きしめて離さず諦めずに信じ続けたい!」

 

「なんかかっこいいな……」

 

 香織が歌っていたのは自分が好きなボーイミーツガールというジャンルで尚且つロボットもののアニメのOPだった。香織の歌声は千里とは違って楽しくがモットーな歌声だった。俺は千里とは違う初めての歌声に少しばかりこれもいいなという感覚になりながらも俺は香織の歌声を聞いていた。

 

「どうよ!!私の歌声……!!」

 

「ああ、とても良かったぞ」

 

 本当にとても良かったという感想が出る歌声だった。

 音楽というのは当時本当によく分からなかったが香織の歌声も悪くなかった。

 

「香織が歌っていたのってさっきのアニメの曲なんだよな?」

 

「うん、そうだよ。竜弥はアニメとか見るの?」

 

「見たことないな」

 

 俺の家はそもそもテレビがなかったし、このときはスマホでサブスク登録して見るっていうことも知らなかったからアニメを見るという機会が全くなかった。

 

「最近ってどういうの流行ってるんだ?」

 

「そうだねぇ……最近はねぇ……結構王道的なものが流行っててね……!!特にこのアニメとかは本当に王道でね!!主人公が心までズタボロにされて本当に可哀想なんだけど最後はハッピーエンドになれて幸せになれたんだよ!!いやー本当に良かったよ!!」

 

「それ面白そうだな、名前教えてくれよ」

 

「え!?いいよ!!」

 

 香織は俺のRINEを登録して最近流行っているというアニメについて教えてくれていた。

 香織は俺にアニメを教えている間「え!?私今イケメンにアニメ教えてる!!?もしかしてちょっと前に流行っていたオタクに優しいって奴!?」とか騒いでたのを聞こえていたが俺は特に反応をしなかった。因みに香織は静音と同じハッピーエンド主義者らしい。

 

「俺ちょっと飲み物取って来る」

 

「おうよ!盟友!!」

 

「盟友……?」

 

 香織の呼び方に疑問を抱きながらも俺は個室を出て飲み物を取りに行こうとしていたが、俺は恵梨が居る隣の部屋が少し気になっていた。俺の方はまだ歌い始めていて一曲目だからすぐに居なくなるなんてことはないだろうが俺は興味本位で恵梨がいる個室の前に立っていたのだ。

 

 

 

 

「僕は無力だ。僕は無力だ。無力な歌をキミを救いたいけど……!!」

 

 個室の前から聞こえてくる少しの声に俺は彼女の歌声というものを肌で感じ取っていた気がしていたのだ。香織や千里とは全く違う。俺の中で体の中で響くという言葉が相応しいものが俺の感情のままにそのまま個室の扉に触れようとすらしていたのだ。

 

「救いたい……けど……」

 

 何度も言うが俺は音楽に関しては全く知らなかった時期だ。

 だから音楽に関して言えば俺は素人もいいところだが、それでも恵梨の歌声は本当に別次元のようなものに聞こえていたのだ。

 

「なにしてるの……?」

 

 恵梨の歌声を初めて聞いた俺は……彼女の歌声が本当に別次元に聞こえていたのだ。

 千里とは全く色も音も違う。彼女の歌声は本当に感動という言葉が相応しかったのだ。聴いているだけで圧倒されるほどの歌唱力があったのだ。だから恵梨に扉を開けて不審げに見られていたことに反応出来なかったのだ。

 

「いや、悪い。凄いなって思ってさ」

 

「聞き惚れてるのは構わないけど普通に変な人に見えるから止めた方がいいと思う」

 

「わ、悪かった。で、でも本当に凄いなって……。なんつうか感動したって言うかさ」

 

「……共感したから?」

 

 俺は彼女の言葉に頷いていた。

 彼女が歌っていた曲は何処か共感性がある曲だったのだ。そしておれはその曲に対して自分を重ねていた部分があったからこそ共感できていたのだ。無力の自分を嘆くという曲であり、俺はその曲の歌詞に何処か自分を重ねていたんだ。だから俺は恵梨が歌っていた曲と声に感動を覚えていた。

 

「そっか……私の曲じゃないからありがとうって言っていいのかは分からない。でも……ありがとう同じ学校の不審者さん」

 

「不審者か……」

 

 俺はこのとき自分の目で確かめて正解だった。

 八十科恵梨という人物がただの不良グループを打ちのめしただけの奴だけではないことはなんとなく分かっていた。そういうのには大体理由がある。だから俺は本当にこの目で確かめて良かったとか正解だったと思っていた。

 

「ねぇ一曲聞いて行く?」

 

「いいのか?」

 

「うん、一曲だけならいいよ」

 

 恵梨は一曲を入れ始めると、楽曲が流れ始めて恵梨は歌い始めていた。

 

 

 

 

 恵梨は……曲に対する感情表現に関しては千里以上のものだった。

 曲に対する解像度が高いというか理解度が高いのだ。恵梨は千里の空間がよく分からないと言っていたが、恵梨は恵梨以上に独自のもので歌を自分のものにしていたのだ。

 

「共感性がある歌が好きなのか?」

 

「……うん。私は……自分を肯定してくれるような曲が好きなんだ。応援したり励ましてくれたり慰めてくれたりそういう歌が好き」

 

 恵梨が歌う曲は何処か共感性が高いような曲を歌うことが多かった。

 恵梨は元々ボーカロイド通称、ボカロやバラードや誰かを励ます曲も好きだったりしていたのだ。ただ偶にNoAの歌枠を見ているのだがバラードや誰かを励ます曲は最近はほぼ歌っていないようだが……。なにかあったのかもしれないな……。

 

「私は……誰かを支えられる歌を歌いたいの……」

 

「いいな……それ」

 

「そう……かな?」

 

「少なくとも俺はいいと思うぞ」

 

 恵梨は嬉しそうにしていたが何処か気持ちが晴れないよう感じだった。

 

「ありがとう、本当は音楽をやめるつもりでいつもカラオケ屋に来てるんだけどね……やめられないんだ」

 

「そう……だったのか、なんか悪い……」

 

「いや、いいの……!褒めてくれて……嬉しかったから」

 

 恵梨は疑問を抱いているようだったが俺には本当に尊敬の声でしかないような状況だった。

 俺は千里の歌声も本当に好きなのが恵梨の共感を呼ぶような歌声が個室の前から聞いていたときから好きになっていたんだ。

 

 

 

 

 

「八十科恵梨……凄い奴だったな」

 

「ねぇ盟友、八十科恵梨にバンドのこと聞いた?」

 

 

 

 

 

「……あっ」

 

 情報収集だけとはいえ、彼女にバンドのことを切り出せていなかった。

 したことと言ったら彼女の歌声を聞きに行っただけ。悪くはない収穫だったが、当初の目的を全く果たせていない。

 

「一応千里達に今日のこと報告しておくか……」

 

「あっ話題逸らした」

 

「いいだろ、別に……」

 

 若干現実逃避しながらも俺は今日のことを二人に報告すると、琉藍が「バンドのことを聞いた?」とすぐに聞いて来た為、俺は何も言えなくなっていた。

 

 

 

 

「彼女居なかったよ」

 

「あれ?教室に居なかった?」

 

 千里が恵梨のクラスに行ったのだが、恵梨は教室に居なかったのだ。

 香織は「うーん」と頭の中を雑巾を絞り出すようにして何かを言おうとしていたときだった。

 

「音楽室とかはー?音楽好きならワンチャンいるんじゃない?」

 

「ちょっと見て来る」

 

 琉藍が自分の机に顔をくっつけて寝ながらも千里に言い、千里はその言葉を聞いて音楽室の方向へと向かうのだった。

 

「竜弥、一応見に行く?」

 

「そうだな……少し気になるしな。琉藍は行くか?」

 

「私は……まあ面白そうだから行こうかな」

 

 俺達は千里の後を追いかけるようにして音楽室へと向かうことにした。香織は恵梨のことを怖がって来ることはなかったが……。

 

 

 

 

 

 

「売れることこそがどうでもよかったんだ」

 

「本当だ 本当なんだ 昔はそうだった」

 

 

 

「だから僕は音楽を辞めた」

 

 音楽室から響く彼女の歌声……。

 

「いいなやっぱり……」

 

 俺は恵梨の歌声が好きになっていた。

 彼女の何処か共感性を感じさせてくれる歌声が好きだったんだ。

 

「今の有名なアーティストの曲だよね?よく歌うの?」

 

 音楽室の中へと堂々と入って行く千里。

 千里の姿に気づいた恵梨はとっとと撤収しようとしていた。

 

「昔はよく歌ってた。でももうこの曲は音楽を辞めるとき以外絶対に歌わないって決めてたから……」

 

 自分のことをあまり詮索されたくなそうにしていた恵梨はギターをケースの中に詰め終えて肩に掛けていた。辞めたいという言葉はカラオケ屋でも聞いたがいったいどういう意味なのだろうかと俺は首を傾げていた。

 

「バンドやらない?」

 

「やらない」

 

 彼女が完全に言い切ってその場を離れようとしたとき、千里は息を吸い始めながらも同じ歌を歌い始めていた。

 

 

 

 

 千里は恵梨をバンドに引き入れるのには自分の実力を見せるしかないだろうと思い、彼女は行動に移したのだ。恵梨に千里の歌声の何かが届いたのか、彼女は音楽室から出ようとしていた足を止めて千里の方を見ていた。綺麗な歌声に魅了されていたのか、それとも千里の完璧な音取りに聞き惚れていたのかは分からない。

 

 それでも恵梨にとって何か彼女の歌声が引っ掛かるものがあったからこそ足を止めてこう言ったんだろう。

 

「……方針は?」

 

「最高のバンドを組んで最高に人を魅了できるライブを作り上げる。それが私の目標。そして、一人はみんなのためにみんなは一人のために……」

 

「おっ……」

 

 一人はみんなのためにという単語に対して声を出す琉藍。

 

「……単純だね。でも……いいよ。ただ……」

 

「その方針を変えたら私はバンドを抜ける」

 

 恵梨の表情には決意めいた表情を浮かべており、これから先このバンドでなにをしようかと既に考えているようだった。こうして恵梨は千里達のバンドに入ることになり、後にギター担当になることになったのだ。

 

 

 

 

「今日から千里のバンドに入ることになった八十科恵梨、よろしく」

 

 カラオケ屋に来た俺たちは早速恵梨か挨拶を済ませており、四人が此処に集まっていた。入る直前、琉藍が「香織来れば良かったのにねー」と言っていた。

 

「うん、よろしく私は月見里琉藍。よろしくねエリー」

 

「エ、エリー?よ、よろしく琉藍……」

 

 カラオケ屋の中で挨拶を済ませるなか、それぞれが好きな曲を入れ始めると琉藍が入れた曲に対して千里と恵梨が興味を示していた。

 

「琉藍は……昭和歌謡好きなの?」

 

「あーまあおばあちゃんがよく聞いてたからなんか私も好きになったんだ。後はおばあちゃんが昔バンド組んでいたときにヘビメタをよくやっていたらしいから、その影響もあってヘビメタとかも歌えるっちゃ歌えるかなー」

 

 恵梨が飲み物を飲んだ後、琉藍に聞いていると琉藍は楽しそうにおばあさんと話をしていた。

 琉藍にとっておばあさんとのことは大変な思い出になっていたんだろう。

 

「琉藍のおばあさん、バンドマンだったんだ……」

 

「ギタボをやってたみたいだよー」

 

「琉藍のおばあさんってグロリアスのリーダーだったんだよね?」

 

「え?あのグロリアス……?」

 

 恵梨も知っているのか、「え?」と言っていた。

 俺は恵梨の言葉を聞いてそんなに有名なバンドだったのかと聞き耳を立てていた。

 

「ーん、まあ……そうなんだけどね。おばあちゃん、その昔は結構有名だったみたいで女性ファンも多かったらしくて今でもファンとの交流しているみたいなんだよねー」

 

「まさかこんなところで有名人の孫と出会えるなんて……」

 

「まあ、それほどでもー?千里も入れてもいいよ」

 

「あーアタシはどうしようかな……あっそうだ」

 

 千里は何かを思いついたようにしてカラオケの機械を操作すると、曲が始まり出していた。

 

 

 

 

 

 

「「「Boy Meets Girl 恋してる瞬間 きっとあなたを感じてる」」」

 

 千里は琉藍にも恵梨にもマイクを貸して一緒に歌っていた。

 曲自体は俺はこのとき何処かで聞いたことがあるような気がすると感じていた。

 

「昭和の曲とか昭和歌謡とかは正直あんまり知らないんだけど……楽しいね琉藍」

 

「……そっか」

 

 琉藍は暫く無言でいた後、千里に返事を返していた。

 無言の間琉藍は何を考えていたのか全く分からなかったが琉藍は何度も拳を握り締めてはそれを解いたりしていることを俺にはこのとき全く気付かなかった……。

 

 

 

 

 そして……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「みんな凄く面倒なことなんだけど……絶対に聞いて欲しいことがあるんだけどー」

 

 

 

 

 

 

 

「路上ライブすることになった……」

 

 

 

 


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