傷だらけな多重人格の青年は泥臭くもVtuberとして呼吸をする   作:村上トオル

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私の心臓は止まらない

「初めまして私たちはパッチワークというバンド名です。突然、皆様にこういう機会での発表のバンド演奏ということになり、驚いた人も多いと思われますが今日はせいいっぱい皆さんの前で練習の成果を見せいきたいと思っていますので最後までよろしくお願いします!!」

 

 かつてのような噛み噛みのチサの姿はなく、そこにははっきりとした口調でのMCが続いていた。私は椅子から立ち上がり座り直しつつ機材を壊さないようにしていた。

 

「そして今回……!!初デビューを私達のバンドで飾らせていただいているのは……ドラムの安藤みのりです!!」

 

「はーい……みのりでーす、今日はよろしくお願いしまーす……」

 

 少しダルそうな声で反応をしながらも私は音をチェックするかの如く、軽くドラムを叩き始める。ドラムを叩けば私の心臓が飛び跳ねるようにして嬉しがる。私の心臓は赤ん坊がママのミルクを飲んでお腹いっぱいになるのと一緒で私の心臓はドラムの音を聞けば聞くほど、満たされていくんだよねぇ。

 

 

「ドラムの音か……」

 

 マイクに入らないような小さな声で言いながらも私はシンバルに軽く触れると、埃が床へと散っていったのが目に入ったような気がしていた。このドラムとも私は何十年の付き合い。お祖母ちゃんが偶々引き取ったこのドラムで私は今までずっと叩いて来た。

 

 このドラムと面倒に感じていたことも、辛かったことも何度だって乗り越えて来た……。

 あのときだってそうだ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……はぁ……!!」

 

 六年前の六月頃、私は路上ライブをするという話を聞くその当日……。

 カラオケを終えた後、ストレスを発散するようにして私はその日ドラムを叩いていたのには理由があった。私はエリーやチサの歌声を肌と耳が通るようにして実感して分かったことがあったんだ。

 

「あの二人と私じゃ……実力差があり過ぎる」

 

 ボーカルなんてきっと千里か恵梨がやるのは明白だから気にすることなんてなかったはずなんだ。それでも私は自分の中でまだまだこれから先楽器でも差を付けられそうな予感がしていたんだ。

 

 別にマラソン大会みたいに一緒に走ろうよと言われて後から追い上げて抜かされるのとかが嫌とかそういう訳じゃない。ただ私の中で面倒なものを背負い始めて来たのは間違いなくこのときだった。このときから私はもうあの二人に絶対に勝てないということが分からされていて、息が詰まりそうになっていた。

 

 そして、それに追い打ちをかけるようにしてお祖母ちゃんに言われたことがあった。

 

「アンタ、あの子達のバンド入ったそうね。今何人いるの?」

 

「……三人。多分、ギターとボーカルとドラムは揃った」

 

 お祖母ちゃんが私のドラムの音を遮られないように終わるまで待ってくれていた。

 私が音を遮られるのはあまり好きじゃないのは分かっているからこそ、お祖母ちゃんは配慮してくれていたんだ。

 

「そう?なら、ここら辺で路上ライブをするっていうのはどうだい?」

 

「路上ライブー?そんなすぐにできるもんなのー?」

 

 まだ自分の心にあるものに重きを向けていなかった私はドラムに前に置いてある椅子から立ち上がり、ペットボトルに入った水を飲んだ後に質問を投げかける。

 

「手続きを踏めば、すぐにでも出来るはずさ」

 

「ふーん?」

 

 お祖母ちゃんはライブや音楽のことに詳しかった。竜弥たちに言ったことはないが、私はその業界に詳しかったりするのはお祖母ちゃんのおかげだったりしていた。因みに、旅館の奴は私が自力で調べただけ。

 

 後は知人には警察と言った人達の知り合いもいたからこういう手続きというのはお手の物だったんだろうねぇ。私はややこしいことよく分からないからそういう手続きとかは全部お祖母ちゃんに任せてたけど……。

 

「で?アンタはやりたいのかい?やりたくないのかい?まあアンタがやりたくないと言っても此処に来ていたあの女の子はやる気かもしれないけどね」

 

「まあ……チサならやりたいって言いそうだけどさー」

 

「なら話は早いわね、早速手続きの方済ませておくからあの子達に聞いておきなさい」

 

「……ん」

 

 ほぼ流れのような形で私達の路上ライブは決まることになった。

 このとき私はのんびりとしていたのには理由がある。それはお祖母ちゃんも名前も決まっていない出来たばかりのバンドグル―プに路上ライブに放り投げるなんて一ミリも思ってもいなかったからだ。

 

「まさかねー」

 

 と私はあーなんか変な夢見たという夢と認識させて私はお祖母ちゃんが去って行く姿を見ていたのだが……。

 

 

 

 

 

 三日後……。

 お祖母ちゃんが言っていたことは夢なんかじゃなかった。現実だったのだ。

 

 急ぐようにして学校に来ていた私は周りのクラスメイトからは珍しそうにして見られていることはどうでもよくなっており、私はチサとエリーが話しているところに入る込むようにして机の前に立って事情を説明した。

 

 事情を説明した結果、チサとエリーは三人で路上ライブに出ようという話になった。私はこの三人で出るなら成功するかもしれないという期待を抱きながらも「面倒だなー」と感じながらも私は了承することになったが、この後スタジオで行った練習で地獄を見ることになった。

 

 

 

 

 

 

 

「チッ……!!」

 

 スタジオでの練習中、思わず私は舌打ちをしてしまう。

 心にあった焦燥感が肥大化し始めていたのだ。最初こそは私達全員が揃わずに「じゃあ合図出そうか」という話になっていたが、可視化され始めていたのだ。誰が原因なのか……。

 

 駄目、強く叩き過ぎ……。

 

 迷いと焦りが生じている中、ドラムスティックを叩けば力が強くなってしまう。自分の音をなんとかして取り戻そうとしても心臓が今までのように喜ぶことはなく無感情でいたのだ。汗ばんでいる手は感情を込めているのは伝わっている。頬からも汗が出ているのが見えている。それでも私の心臓だけは全く喜んでいなかった。

 

 

 いつしか私は本能のままに鼓動(ドラム)を叩くことができなくなっており、臆病な音に変わり始めていたのだ。

 

 

 

 

「はぁ……はぁ……」

 

 スタジオでの練習を終えた後、私はたった一人お祖母ちゃんのライブハウスを借りて練習をしていた。一人での練習にどれくらい意味なんてないのかもしれないけど、私は続けることしか出来ないでいた。あの二人に後れを取りたくなかったから。

 

「やっぱり、ダメじゃん……」

 

 ライブハウスの空間は、普段の喧騒とは違い、静寂に包まれているのがより一層私に対して焦燥感を漂わせていた。スタジオ練習、初日で此処まで引きずるようにしてあの二人と自分は違い過ぎるということを想い知らされた私はドラムスティックを持つ手が震えていた。もう自分がドラムの前に立ってドラムを叩く自信すらなくなっていたのだ。

 

 一旦ドラムの前から立とうとした瞬間だった。

 スタジオの扉が開く音が聞こえて来たのだ。誰かがスタジオに用があって此処に来たんだろうと捉えて、すぐに練習に戻ろうとしたときのことだった。もう既に家に帰ったはずのエリーが私の目の前に立ってギターケースからギターを取り出して、ギターをアンプに繋ぎ始めチューニングを始める。

 

 今日の練習のこともあってもしかして責められるのかもしれないという少し怖がっていると、エリーは何も言わずギターを弾き始めている姿を見て私は手に持っていたドラムスティックを落としそうになりながらもギターを弾いている姿を見ていると、エリーの口元が動き出した。

 

 

「ヘビメタ……」

 

 すぐに私が好きな選曲に合わせて歌ってくれているのが分かった。

 私にやりやすいように合わせてくれていたがエリーの声はかなり掠れ掠れなものだった。普段は出さないような張り詰めたような声、ボカロも人間が出せるような声をしていない歌が多いが慣れないジャンルの曲に苦戦している姿を見て私は背中を押されているような気がしていたのだ。

 

 エリーの熱意が伝わって「立ち上がれ」と言われているように感じて来た私は深く息を吸い、ドラムスティックを強く振り下ろした。心が……本能が……動かされるままに私は鼓動を刻み込み始めると、私の心の中で再び心臓が音を立ててるようにして喜んでいるのが伝わって来たような気がしていたのだ。

 

 私はエリーに心の中で感謝をしていた。エリーが無理をしてでも、声を張り上げてくれていることを分かっていた。その思いに答えるようにして私は力強くドラムを叩き始めていた。音楽は重厚感溢れるものへと変わっていき、重なり合って行きながらも私のことを引っ張り続けてくれていた。

 

 

 気づけば私はドラムを叩くことに夢中になっていた。

 

 

 

 

 

 

「ありがとうねエリー」

 

 ライブハウスを出る際、練習を終える最後まで何も言わないでいてくれたエリーに対してお礼を言うと最後まで何も言うことはなく、軽く相槌を入れてそのままエリーはライブハウスを出ていたのだ。

 

 

 私はエリーに助けられて一週間後にある路上ライブを頑張ろうと言う意気込みを再度入れ直すことが出来たのだ。

 

 

 

 

 

 

「ウチのライブハウスの前でなにしてんのさー?香織」

 

「うぇぇぇっ!?」

 

 ある日、ライブハウスの中のカフェで此処最近ずっとコーヒーを飲んでいるヒメの姿を見かけて思わず私はヒメに話しかけてしまった。彼女の横にはギターケースと思われるものが置かれていた。

 

「香織、バンドやってたの?」

 

「い、いや……実は……」

 

 ヒメはエリーのことをこのときまだ怖がっていた為、話しかけられているだけというのに詰められている気分になっていたのだ。

 

「……あーちょうど良かったー!!ちょっと香織来てよ」

 

「え、えっ!?」

 

 ヒメの手を取って私はスタジオの方へと向かうと、ギターケースからギターを取り出しながらもヒメに私はそれを持たせる。

 

「あ、あの……私なにやらされるの……?お、お金とかはそんなに持ってないから勘弁して……」

 

「じゃあ臓器売って?」

 

「やだやだ!!絶対売らない、この臓器は煙草もお酒も寄せ付けないって決めてるんだから!!」

 

「琉藍……」

 

 私がヒメで遊んでいるとき、後からスタジオに戻って来たエリーがスタジオの扉の方に寄りかかりながらも私のことを咎めていた。

 

「あーごめんごめん、私達の練習に付き合って欲しいの?香織はギター出来るの?」

 

「一応、ギターとベース。バンド入ったときにどっちも出来るようにしておいた方が役割譲ったりできるかなって……」

 

「二つも出来るんだー?凄いじゃん」

 

 褒められてライトが照らされたようにして顔が明るくなるヒメ。

 凄く分かりやすい表情の移り変わりに私は思わず笑いそうになっていた。

 

「そ、それほどでもないよ……それで練習だっけ?私は全然いいよ。寧ろ、こんな私でも役に立てるならお安い御用!!」

 

 その結果、ヒメもまた練習することになった。

 練習に参加する前、エリーがどうしてもヒメの実力を確かめておきたいということで実力を私達は聴くことになるのだが、思った以上の出来上がりに私たちは心を動かされていた。弾いていたのはアニメのOPと思われるものだが、ヒメもまた楽器を弾く度に楽しそうに笑っている姿を見て私と一緒だという気持ちになっていたのだ。

 

 

 

 

「はぁ……はぁ……み、みんな……ストイックじゃん……」

 

 再びエリーとはライブハウス前で別れることになり、「じゃあねー」と言いながらも私は手を振っていた。隣にいるヒメは疲れているようで足がガクガクになっているようだった。

 

「ヒメ、今日はありがとうねー」

 

 ヒメは私達が路上ライブを始めると言ったとき、逃げてしまったようだったけど私達のことが気になってこのライブハウスに通い詰めていたみたいだった。だからヒメが此処に来続けているのは知っていたから今日は声を掛けたのだ。

 

「ヒ、ヒメ!?あー姫咲だからか!?」

 

 あだ名というものを初めて付けて貰ったヒメは少しはしゃいでいるのを横目に私は真面目の話をし始めていた。

 

「私さ……あの二人に凄い実力差を感じてこの先バンドをやっていけないとすら思ってたんだ」

 

「……え?そうだったの?」

 

 まるで私は全然追いつけているとでも言いたそうにしているヒメに対して私は首を横に振る。

 

「スタジオ練習の初日さー、あの二人を間近で見てこれ無理だーってなったんだよね。焦ってばっかで全然あの二人に追いつけなくて悔しくてその日のうちに此処のスタジオ空いてる時間どうしてもないかって頼んで開けて貰ったんだ。そしたらエリーが助けてくれたんだ」

 

「恵梨って無口で何か考えているのか、分からなかったけど……もしかして結構いい奴だったりするのかな?」

 

「エリーは全然いい奴だよ……私が保証する。無口で何考えてるのかは確かに分からないけどさー」

 

 あの日、エリーが何も言わずに手伝ってくれなければ私はずっと不甲斐なさを感じたままで終わっていただろう。本当にエリーが来てくれたから私は千里を含めたスタジオ練習でも緊張することがなくなったんだろう。エリーがわざわざ自分の声を無理矢理引き出してヘビメタを歌ってくれていたのは私に自信を付けさせるためだっただろうから。実際、そのおかげもあって私は千里の選曲にも合わせることも出来るようになった。

 

「そっか、じゃあこれ琉藍にあげるね!!三人分だからちゃんと渡して置いてよ!!」

 

「これって……お守り?」

 

「そう!!三人のライブが成功にするようにっていうお守りだから大事にしてよ!!その辺に捨てたら化けて出てやるから!!」

 

「ふーん?ありがとう」

 

 私はヒメから受け取ったお守りを取り出して残りはバッグの中にしまって取り出したお守りをジッと見ながらもこれからの練習を望もうとしていた。

 

 

 

 

 

「ふーん、じゃあ私はどう思う?」

 

 スタジオ練習の終えた私はリューの前に座ってコーヒーを楽しみながらもあることをリューに聞いていた。

 

「琉藍のドラムは凄いと思う。なんていうかこう……楽器を叩く前はダルそうにしているけどいざ叩くと楽しそうにしながらも魂で叩いているって感じが俺はそういう琉藍のとこが好きだぞ」

 

 私は重く捉えたことよりこうやって日常の会話の方が大好きだった。だからみんなとの何気ない会話も好きだったのだ。だからこうして面と向かってちゃんと言ってくれたリューに対して感謝を心の中でしていて本番も「やるぞー」というなれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねえエリー、チサ大丈夫そう?」

 

 先ほどからずっとお手洗いに駆けこんでいるチサの姿を見ていた私は少し不安になっていた。

 

「大丈夫、本番が始まればきっとなんとかなるから……」

 

「だといいけどさー」

 

「琉藍も準備、始まってから待ってくださいは効かない」

 

「分かってるよー」

 

 エリーに言われるまでもなく私はドラムの調整をしていると、エリーが小声でこう言って来たのだ。

 

 

 

 

「今の琉藍ならきっと最高の演奏ができる」

 

 本番当日、私はエリーに言われたことをはっきりと覚えている。

 それは本番当日……エリーはこう言ってくれたのだ。今までスタジオ練習では「次」とか「止め」とかそれだけしか言わなかったエリーが私を高く評価してくれているということが分かっただけで本当に嬉しかった。

 

 私は握り拳を作ってこれから始まろうとしている路上ライブを頑張ろうと言う意気込みが湧いて出ていた。

 

 

 

 

 

 

 路上ライブ当日、私の心臓は激しく鼓動していた。

 周囲の人は通り過ぎて行くばかり、こんな人達がこっちに引きずり込まれるような音楽を奏でてしまえばいい。お祖母ちゃんは路上ライブが決まってからというもののアドバイスらしいアドバイスはしてくれなかった。私が自分で成長することを促そうとしたんだろう。

 

「恵梨にああ言われたならきっと大丈夫なはず……それに……」

 

 私の手にはヒメから渡されたお守りがあった。

 ヒメは後から路上ライブを見に来ると言っていたけど、ぶっちゃけ最初からちゃんと見に来てよねーと言えばよかったとちょっと後悔しながらも私は手に握っていたドラムスティックをしっかりと握り、ドラムセットの前に座った。始まる前にかつて感じていた不安が少しだけ顔を出していたが、千里や恵梨がこっちを見て合図を送ってきたため、すぐにそれは去ることになった。

 

「始まった……」

 

 小声で私が言っていると、エリーのギターのコードが奏で始めたの同時に、力強く歌い始めるチサ。一番最初はチサのお気に入りの曲でもあるロックの曲から始まったのが問題が生じていた。千里は早速一番から歌詞を飛ばしてしまう事態が発生してしまっていたのだ。

 

 千里がかつての私のように焦っているのが伝わってきていたが私はどうするべきなのか悩んでいた。悩めば悩むほどに自分の中で築き上げていた音が崩れ落ちそうになっていきそうになっているのが怖くなって私は何かしようと考える思考が出来ないでいた。そんな間にも一曲目が終わってしまい、恵梨が耳打ちで千里を励ましているのが聞こえていた。

 

「落ち着いて心臓……」

 

 大丈夫、大丈夫。

 次こそはきっと上手くいくはず……。今度こそ上手く行くはずなんだ。私は音というものに窮屈に感じて始めている心臓を落ち着かせながらも私が先導するようにしてドラムを叩き始める。

 

 

 

「駄目だ……」

 

 このままじゃまずい。

 千里は今自分を取り戻せないでいる。このままじゃ絶対に呑まれてしまう。何か、何か考えないとまずい。

 

 

 

「恵梨……」

 

 恵梨は千里を先導するようにして歌い始めていたのだ。

 すると、一瞬千里は恵梨の方を見てお礼を言っているように聞こえていたのを見て千里も歌い始めると、私の心臓がきゅっと響いたような気がしていた。

 

「来た……!!」

 

 この感覚、この感覚だ。

 夜空に相応しい今回のセトリ達。私はこの楽曲たちのことをよく知らないけど、それでもこの夜に相応しい楽曲たちなのは間違いなかった。だからこそ二人の歌声も合わさって私のドラムが息を吹き返したようにして叩き始めてくれていたのだ。

 

 これが……これが私がずっと求めていた音楽。

 これなんだ……。

 

 

 心臓が飛び跳ねるようにして喜んでいるのが伝わって来る。

 ただ人が通るだけで見ようとしていなかった世界は変わりつつあった。疎らではあるが、人々がなんだなんだと言わんばかりに集まって来ているのを見て私と心臓は嬉しくなっていた。気づけば、二曲目が終わった頃には千里と恵梨に抱きつきそうになっていたのを堪えているほどだった。

 

 

 

 

「ありがとうございました!!」

 

 結果だけ伝えると、路上ライブは成功した。

 最初の方は実戦慣れしていなかったということもあり、千里が歌詞を飛ばしたりMCを噛んだりしてしまっていたがエリーがそれをカバーすることでライブは大成功を成し遂げることが出来ていたが、私は此処までずっとカバーしてくれたエリーに対して自分が少し情けなく感じながらも二人のことを見て「良かった」という気持ちが強かったのだ。

 

 

 

 

「琉藍、お疲れ……今日の演奏とっても良かった」

 

「ーん?あー私は全然だよ」

 

 ライブを終えた私達はお祖母ちゃんのライブハウスの関係者の人の車に楽器やアンプを置いて車の前で話していると、千里が少し複雑そうにして話に入って来る。

 

「そんなことないよ、琉藍のドラムや恵梨が私に合わせてくれたから私は最後まで歌い切ることが出来た。最初はちょっとダメダメだったけど、二人が居てくれたから私もしっかりしなきゃと思えたんだ。それに琉藍のドラム捌き私は凄い耳に心地よくて好きだから。聞いていてこっちの芯まで熱くなる気がして最高だからさ、だからごめん……二人共!!」

 

「ちょ、ちょっとどうしたのさーチサ……謝るなんて」

 

 駐車場の中でチサは突如、私達に謝っていたがそれも無理はなかった。

 チサは自分のせいで最初と二番目の曲を途中まで台無しにしてしまったという後悔があったはずなんだ。

 

「アタシは今回のライブ……気合入れているつもりだった。なのに足を引っ張ってばかりで何も出来なかった。だから本当にごめん……本当は二人が香織と一緒に三人で一緒に練習していたのを知ってたの。三人の練習の成果を無駄にして……ごめん!!」

 

「千里、顔上げて……私は千里がお手洗いから戻ってくる前にこう言ったはずだよ。最後に楽しかったねって言えるライブで終われたらそれでいいって……だから私は今回のライブ悔いはないよ。琉藍はどう?」

 

「その言い方だと凄い言いづらいんだけどー?まあ、いいや……。私も同じ。今日のライブを通して私の心臓が本当に楽しかったって言ってくれてたし……あーごめん。変なこと言って」

 

「全然変じゃないよ、心臓が飛び跳ねるほど楽しいのアタシも分かるからさ!!」

 

「そっか、そうなんだ。私だけじゃないんだ、良かった……。とにかく本当に良かったと思うし楽しかった。だから次のライブはさー香織も呼んで失敗も何もなく終わらせて見せよう?ね?チサ」

 

 

 

 

「うん……琉藍!!恵梨!!」

 

 千里は涙を流しながらも私達と一緒に誓い合った。なによりも心臓が飛び跳ねるほど嬉しいという表現を使ってもチサは気持ち悪がることはなく受け居てくれたことが嬉しかったし、チサなら確かに私の気持ちを分かってくれるかもしれないと思っていたのだ。

 誓いあいながらも私たちは肩を組んで笑い合っているとスマホに電話が掛かって来ていた。チサに電話掛かって来ていると言われて電話を掛けて来たのは知らない電話番号だった。普段だったら出なかったけど気になってしまった私は電話に出てしまうのだった。

 

 

 

 

 

「え……?」

 

 路上ライブが終わった少しぐらい経った後、お祖母ちゃんが階段を踏み外してしまったというのを電話で聞いて私はすぐに病院に行くことにした。病院に行くとそこには病室で元気そうにしているお祖母ちゃんの姿を見て私は安心していた。

 

 

 

 

「今日のライブ最高だったよ」

 

「お祖母ちゃん……」

 

 お祖母ちゃんが倒れてしまったたという話を聞いて、すぐに来た私はお祖母ちゃんが無事で居てくれたこととそして……お祖母ちゃんが褒めてくれたことが本当に嬉しかった。

 

「ほら、アンタはこんなところに居ないで。あの子達のところへお行き」

 

「いやいやー病人放っておけないからさ……」

 

「とは言っても来たわよ……彼」

 

「え……?」

 

 お祖母ちゃんが顎で目線を向けさせようとしていた。

 私が後ろを振り返ってそこを見るとそこにはリューの姿があった。

 

 

 

 

「竜弥、今日の……演奏どうだった?」

 

 絶対的な自信があったからこそ私は聞くことにした。

 千里が私の演奏を褒めてくれたようにきっと竜弥も褒めてくれるかもしれないなんてちょっと馬鹿な期待をしていたのかもしれない。

 

「俺は凄い良かったと思う。前にも似たようなこと言ったよな?楽器を叩く前はダルそうに叩いているけど、いざ叩くと楽しそうに笑いながらも叩いているって感じが本当に俺は好きだ。見ているこっちまで心奪われそうになるんだよ。ドラムスティックを軽快に叩いてる姿とか音を通して琉藍の表情が豊かになっていくのが本当に好きなんだ。そんな琉藍のことが本当に好きだったから……今日は凄いカッコよく見えていたぞ」

 

「ふーん?そうなんだリュー……じゃあさぁ私からも一言言わせてもらうね?」

 

 

 

 

 

 

「バーカ」

 

 投げ捨てるように言った言葉。

 私の口元をよく見てみると笑みを浮かべているようにも見えていたが、実際言い過ぎもいいところだった。千里もみんなもそうだけど竜弥もそうだ。私のことを過大評価し過ぎている。そんなこと言われたら嬉しくなっちゃうに決まってるじゃんさぁ、本当にさ……。

 

 

 

 

 

 

 

「アンタ、自分で作ったお弁当忘れてるよ」

 

「ーん?ああ、そういえば自分で作ったんだっけ?」

 

「アンタが弁当を作るなんて珍しいとは思ったけど、ちゃんと味見をしたんでしょうね?」

 

「したよ、した……。ちゃんと人が食べられる弁当だから安心してよ」

 

 「心外だなー」と言葉を付け足しながらも私はお祖母ちゃんからお弁当を受け取っていた。

 

「一人はみんなのためにか……」

 

「私のバンドの話?っそ、私たちは一人はみんなのために頑張って……。最終的には大物になって見せるからさ」

 

「あれだけの客足でよくそんな大口が叩けるもんだねぇ」

 

「お祖母ちゃん私が正論嫌いなの分かってて言ってるよねー?」

 

 一人はみんなのためにという意味を込めてのワン・フォー・オール。

 最初はあまりパッとしていなかったけど、悪くはないと感じている自分がいる。決めたのは自分だし面倒だからお祖母ちゃんの言葉をすぐに思い出して借りただけだけど。助け合っている姿を見てこの名前にしてよかったという感覚があったのだ。

 

「事実は事実だろう?だけど……悪くはなかったわよ」

 

「……でしょー?じゃあ……行ってくるねー」

 

 お祖母ちゃんの言葉を聞いた後は爽やかな気分になりながらも私は登校をしていた。

 

 

 

 

 

 

「おはようリュー!昨日のこと感謝しているからさー」

 

「おばあさんもう大丈夫なのか?」

 

「うん、定期的に検診って形にはなるらしいけど大丈夫だって……全く人騒がせのお祖母ちゃんだよねー」

 

「そうか……良かったな……」

 

 一時はどうなるかと思ったと言いたそうにしているリューの顔を見ながらも私は「にへへ」と笑っていた。

 

 

 

 

「あーそれと……ワンフォーオール新メンバー入るよ」

 

 

 

 

 ◆

 

「二曲目、ありがとうございました!!」

 

 千里の声が響く私達の演奏を通して色んな人に……もしかしたら世界中の人々に届けることが出来るかもしれない。そう思うと本当に私のベースと私の魂が燃えてしまってしょうがない。城崎ハクとしても姫咲香織としてもこの衝動を抑えることが出来ないでいた。

 

 そして今の目にいる竜弥に……私達の演奏をぶつけることが出来る。

 本当に燃えるよねこういうシチュってのは……最高に滾るものがあるってもんよ……。ちょっと中二病っぽくなっている私は自分を落ち着かせながらも深呼吸をするとあの日々のことを思い出す。

 

 

 

 

 

「これが私、姫咲香織の生き方だ!!」

 

 

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