覇気使いの日記   作:パンツハキハキマン

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日記④

 

 ×月×日

 

 修業明け休暇1日目。

 

 久しぶりに同期と顔合わせ。

 話を聞くと、同期は魔法の扱い方をリヴェリア様から指導を受けたらしい。

 

 同期の魔法は、風属性の付与魔法という自由度の高い魔法でありながら、詠唱や魔力の消費が圧倒的に少ないという最強魔法とのことで、この1か月間は理解度を深めることで出来ることの幅を増やそうキャンペーンを主に行っていたんだと。

 

 前から思っていたけど、やっぱり同期は主人公っぽい。

 昔暴れてた闇堕ちスキルとか、暗い過去あるとか、大きいイベントを超えた後の成長率とか、風属性とかいう主人公っぽい属性もあるし、しかも燃費良し詠唱少なし威力申し分なし…なんでしょ?

 

 最近アストレア・ファミリアのメンバーを赤髪団長を中心にした主人公集団だと思ってたけど、同期を見たらそんな考えも吹っ飛ぶよな。

 

 

 顔合わせ後は、いつもの魂の素振り1万回を行う。

 この素振りも修業前と後では、かなり見え方というか形が変わっている。その変化を同期も気付いたらしく、珍しくオレの素振りをじっくりと見ていた。

 

 素振り後は、同期との目隠し訓練。

 実は、コレもかなり成長したことの一つ。なんと! 今のところ気配はかなり感じることが出来ています! 「大体ここらへんに誰かがいるなー」みたいな大雑把な感覚しかないけど、この成長も師匠との修業様様である。

 

 

 ×月×日

 

 修業明け休暇2日目。

 

 剣とは人であり心である。

 

 ―――剣と心は一つである。

 剣を磨くことは即ち心を磨くことと同義。正しい心を持てば、剣も正しく応えてくれるという考え。

 

 つまり、闇雲に剣だけを磨くだけではいけないということ。心も同時に磨くことこそが剣の道を歩むということであるという考え。ソレが極東の教えの根本にあると初めに習った。

 

 剣術は、戦う術ではあるがそこだけに陶酔してはいけない。

 

 誰かを傷付けることの出来る武器を持つということは、どういうことなのかを考えることが重要である。その剣を持ち何を成すのかは、自身の心に問い続けなければならない。

 

 

 

 

 まぁ、何か難しいことをつらつらと並べたけど、要は禅を組み自分の心を見直せってこと。

 

 ソレが結果的には見聞色に繋がった。

 はじめは、修業の前に10分禅を組み心をスッキリさせて修業に挑む程度の感覚だったけど、この心をスッキリさせる状態こそが周りの気配を掴む結果に繋がった。

 

 雑念が無いからこそ感じる周りのノイズ。

 ソレこそがオレの求めてたヤツだった。

 

 

 ということで、目隠し修行は上々。

 最初から声なしで挑んだが、6割くらいを避けることが出来た。

 

 

 

 ×月×日

 

 ダンジョン攻略会議。

 

 今日は、明日の攻略に向けて会議。

 今回は、オレたちの最終攻略ラインである24階層までの慣らし運転を目標に攻略を進める。修業をしていたとは言え、ダンジョンから1か月も離れるなんてことは今まで一度も無かった。

 

 感覚が失われているとは思わないけど、多少のブランクは感じるとは思ってる。だから、24階層まで行くという目標は立てるけど、行けたら良いよねくらいの感覚で挑む。まぁ、それと同時に修業分の成長をオレたちが感じれたら御の字くらいで行こうと思う。

 

 午前中は、マップのおさらいと攻略ルートの調整。

 特に19階層から始まる森マップは綿密に行う。久しぶりにウザモンスターたちの特性とか攻撃パターンとかのおさらいをしたけど、思っていた以上に頭の中に残ってた。

 

 同期も覚えてたし、オレたちはあのモンスターたちをかなり恨んでるんだと思う。

 

 午後は、ダンジョンに持っていく持ち物の買い物。

 中でもポーション類には抜けがないかのチェックを丁寧に行う。今回の攻略から、同期は本格的に魔法の運用を考えているとのことで、魔力回復系に関しては前回の倍の量を持っていくことになった。

 

 

 将来的な戦闘スタイルは、魔法剣士らしい。

 

 

 ×月×日

 

 ダンジョン攻略1日目。

 

 今日は、18階層に向けて午後から攻略を開始。

 もう苦戦をするなんて場面はないが、手を抜くことはしない。今日は、明日から始める本番に向けての最終調整。ダンジョンの空気感を思い出しながら1か月ぶりのモンスター狩り。

 

 まぁ、予想はしていたけど楽勝。

 なんか、感覚的にはまたレベルが上がったみたいな感じがする。1か月前とは戦い易さが段違いな感じ? レベル1からレベル2に上がった時みたいな…ちょっと言葉にするには絶妙な感じ。よくわからない感覚だけど、とにかく戦い易いし本当の意味で雑魚狩りしてた。

 

 

 修業前ってマジで感覚で戦ってたんだなぁ。

 

 

 

 

 

 ×月×日

 

 ダンジョン攻略4日目。

 

 目標の24階層達成!

 今日で24階層まで攻略を進めることが出来た。ここ数日、群体系の昆虫モンスターを相手にしてきて運が無いとは思っていたが、攻略最終日にしてダンジョンが本気を出してきた。

 

 デッドリー・ホーネットとブラッディー・ハイヴの最悪コンボ。

 

 リヴェリアゼミにて、中層攻略において最も注意することとして説明を受けた災害の一つ。デッドリー・ホーネットは、『 上級殺し(ハイ・キラービー) 』と呼ばれるなど単体でも危険度が高いモンスターだが、ブラッディー・ハイヴと共生関係にあるとダンジョンによる悪意の本領を発揮する。

 

 その本領とは、次産間隔(インターバル)の短縮化。

 

 つまり、通常の時間よりも早く次のデッドリー・ホーネットが生まれるということ。要は、デッドリー・ホーネットがブラッディー・ハイヴと共生している場所には、通常より多い数のデッドリー・ホーネットがいる可能性があるってこと。

 

 それこそ怪物進呈(パス・パレード)レベルのモンスターパニックが起こる場合がある。

 

 

 ということで、デッドリー・ホーネットによるモンスターパニックが引き起こされていたが、何とか全部駆除することが出来た。普通であれば、逃げる選択を真っ先に取るべき展開だったが、ひと月修業を積んだことで戦闘の密度・連携の幅が広がったオレらには勝てなかった。

 

 赤ちゃん見聞色で気配を拾いながら、なるべくダメージを受けない立ち回りを意識。自身の間合いに入ってくる蜂は、一太刀で処理しながら敢えて蜂達の動きを引き付ける。

 

 ……してるつもりなんだけど、これがまだ甘い。

 

 分かるのは「来る」ってことだけ。

 どこから、何匹、どのタイミングかまでは分からない。

 

 そのせいで何度か被弾しかけた。

 いや、普通に一回刺された。コレが痛い。でも、引き付ける動き自体は成功。

 

 その隙に魔法を使った同期が圧倒的速度で元凶の巣箱に近づく。

 ただモンスター側もバカじゃない。動きを察知した蜂達は、同期の狙いを把握。すぐさま狙いを変更。オレを一定数の蜂で動けないように抑え込みながらも、巣箱にたどり着く前に生まれてきた正面蜂と後ろからの追跡蜂で挟み込みを狙う。

 

 一見完璧な動きに見えるが、それだと一手足りない。

 同期は、巣箱にたどり着くことがゴールではない。自分の技が届く間合いに入れば良いだけ。

 

 そんな前情報を知らない正面蜂達は、同期の大技ハリケーンで巣箱もろとも破壊。後方から追ってきた蜂は、追いついたオレが一閃して終わり。

 

 

 かなり厳しい状況の中では、完璧に近い動きを出来たと思う。

 

 

  Lv.3    

 力:C644  →C663

 耐久:E450 →E461

 器用:E422 →E440

 敏捷:C613 →C633

 魔力:I0 →I0

 覇気:H

 耐異常:I

《魔法》

《スキル》

【覇気】

・任意発動

・習熟度によって効果上昇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ×月×日

 

 ダンジョン攻略4日目。

 

 ㊗28階層突入!

 今日で下層突入6か月くらいか。遂に28階層までこれた。

 

 みんなは、下層で元気に泳ぐアンフィス・バエナ先輩を知ってるかい?

 

 アンフィス・バエナ

 分類:階層主

 出現階層:下層25‐27階層

 出現地点:巨蒼の滝(グレート・フォール)

 形態:双頭水竜型

 全高:20メートル超(個体差アリ)

 推定戦闘能力:Lv.5相当(水上地形含む)

 次産間隔(リポップ):約1か月

 特性:蒼炎の息、紅霧の息

 備考:紅霧で魔法威力が減衰するから遠距離戦はすっごい大変! 討伐には接近戦を頑張れ!

 

 リヴェリアゼミでも習ったと思うけど、下層にいる階層主さんだ。

 

 ……こうして文字だけで見ると「へー」とか「双頭水竜! かっけー!」で済むんだけど、現実になると本当にクソゲーなんだよね。 

 

 毎回ルート取りを考えて、あの野郎がどう動くか気にしながら雑魚を刈っていくのが本当に大変だった。下層ってだけでモンスターの質は上がるし、団体行動を覚えてるヤツまでいるしで、普通にクソしんどい。

 

 装備もウンディーネ・クロスとか滑り止めの利くブーツとか、水辺対策の装備をちゃんと揃えたし。

 

 でも、一番きつかったのは同期の水嫌いだな。

 アイツは……まぁ、過去の負債があるから。

 

 そんなこんなで辿り着いた念願の28階層は、めちゃくちゃ綺麗だった。

 

 下層における安全階層(セーフティポイント)迷宮の花園(アンダーガーデン)」。

 クリスタルの柱や花が一面に咲き誇るリゾート地。でも、リヴィラの街みたいに発展はしてなかった。宿屋とか無いし。まぁ、普通に考えてここまで来るのって死ぬほど大変だしな。

 

 

 

 それでも、ここまで来れたのは一つの区切りとして素直に嬉しい。

 前回のランクアップから1年くらい経ってるし、ステイタスもかなり伸びてきた。ホームに帰ったら長めの休暇を取って、本格的にパーティーメンバー探すのもアリか。

 

 

  Lv.3    

 力:A878  →A899

 耐久:B712 →B722

 器用:B767 →B781

 敏捷:A865 →A881

 魔力:I0 →I0

 覇気:H

 耐異常:I

《魔法》

《スキル》

【覇気】

・任意発動

・習熟度によって効果上昇

 

 

 

 ×月×日

 

 ダンジョン休み1日目。

 

 午前中は、素振り1万回→剣舞→目隠し修行→同期と模擬戦の流れをこなす。

 サムライとして剣術と向き合う時間。剣士として覇気と向き合う時間。その両方を確保した上で摸擬戦に挑む。身体と精神の誤差を減らしていく作業のなかで少しずつ理想へと近づけていく。

 

 そうして最後に、居合一閃を体に染み込ませる修業をする。

 

 あの日見た師匠の所作。

 全ては脳裏に焼き付いている。ソレを身体に投影させる。少しでも良い。1㎜でも良いから、あの所作に近づけたい。

 

 午後は、同期と買い物。

 前回の攻略で消費した状態異常対策の薬品と回復系のポーションの補充。あとは、細かいけど古くなってた包帯や止血キットも買い直し。同期は、魔法をよく使うようになったから魔力回復のポーションも購入してた。その他にも、あまり持ったことのない煙玉や強臭袋みたいな道具も見て回った。

 

 そんな感じでのんびり買い物してた途中、パトロール中の師匠たちと遭遇。

 

 師匠に赤髪団長、それからアーディさんもいた。

 

 初対面の同期に軽く紹介をしながら、近況報告をする。案の定「生き残りたいなら、しっかりパーティーメンバーを探せ!」と師匠に頭を叩かれた。けど、最後まで話すとちゃんと褒めてもくれたからプラマイゼロ。いや、ちょいプラスか?

 

 アーディさんはそんなやり取りを見て笑ってた。

 

 「噂の双鬼、思ってたよりちゃんと子どもだね」

 

 とか言ってきた。失礼すぎる。こっちは真面目に生きてるだけなんだが?

 いや待て。それよりも双鬼って何ですか?

 

 話を聞くとオラリオでは、レベル2にランクアップした時、神様たちから二つ名が与えられる文化があるらしい。3か月に一度開かれる神会(デナトゥス)なる神達の集会にて与えられるらしく、そんな文化にオレらも気付かぬ内にお世話になっていたと。

 

 同期は剣姫で、オレは狂剣。

 そして、二人で合わせて双鬼と巷では呼ばれてるらしい。

 

 

 オレらのこと化物扱いはひどくね?

 

 

 加えて、オレと同期、アストレア・ファミリアの金髪エルフは冒険者歴的には同期らしく、その世代の中でオレたち3人が次期英雄候補と呼ばれているんだと。

 

 ちなみに金髪エルフは疾風らしい。

 ちくしょう普通に羨ましい。

 

 そう悔しがってるオレを見て、アーディさんは明るく笑ってた。赤髪団長ともまた違う、場を和ませるのが上手い人なんだと思う。同期のこと見ても「剣姫ちゃんは本当に喋らないんだね」と面白そうにしていたし。

 

 同期はいつも通り無言。愛想ゼロ。

 

 

 

 それにしても話してる間の師匠たち…空気が少しだけ固かった。

 顔も喋り方もいつも通りなんだけど、最近ようやく働き始めた赤ちゃん見聞色が「なんか張ってるな」ってとこだけ拾ってくる。

 

 隠してるつもりなんだろうけど、ほんの少しだけ漏れてる感じ。

 上手く言葉に出来ないけど、あれは多分ただの気のせいじゃない。

 

 最近は街も前より落ち着かないし、何となく嫌な感じがする。

 

 気のせいなら良いけど。

 

 

 

 

 ×月×日

 

 大抗争1日目。

 

 午前中は、昨日と同じ素振り1万回→剣舞→目隠し修行→同期と模擬戦の流れ。

 

 いつも通りのメニューなのに、妙に集中しきれない。

 

 体調が悪いとかじゃない。剣の振り自体は悪くなかったし、目隠し修行でも最近の赤ちゃん見聞色はそこそこ働いている。同期の打ち込みも六割くらいは避けれた。前なら半分も無理だったことを思えば、十分成長してると思う。

 

 でも今日は、何かがずっと引っ掛かってた。

 

 外の音が妙に耳につく。人の話し声、荷車の軋む音、露店の呼び込み。街のいつもの音に混じって、たまに空気の硬さみたいなものを感じる。音じゃない。気配とも少し違う。ただ、どこか張り詰めてる感じだけが、たまに引っ掛かる。

 

 その時は、まぁ赤ちゃん見聞色だしな。気のせいってことか…くらいの気持ちだったけど、見聞色が開花しているからこそ違和感を意識するべきだった。

 

 模擬戦の結果は五分五分。あっちはあっちで魔法の使い方が前より上手くなってて普通にうざい。距離を詰めたと思ったら風を纏って消えるの、ズルだろ。オレも一閃の踏み込みで何度か良い形を作れたし、内容としては悪くなかったと思う。

 

 午後は、同期と露店通りへ。

 昨日で必要な物は大体買い終わったし、今日は息抜き半分。昼飯を食いに行くついでに、ぶらぶら街を歩くことにした。こういう休みの日くらい、ダンジョンのことを忘れて街を歩くのも悪くない。……まぁ、半分くらいはオレが食い歩きしたかっただけだけど。

 

 適当に串焼きと焼き菓子を買って、屋台を冷やかしながら歩く。同期は相変わらず無言で、何を考えてるのかよく分からない。でも最近はこうして並んで街を歩くことにも慣れてきた。最初の頃の殺人鬼みたいな目を思えば、大進歩である。

 

 そんなふうに、割と普通に休日をやっていた。

 

 だから余計に、最初の一発が何だったのか分からなかった。

 

 爆音。

 

 二本先くらいの通りから、耳を叩くような破裂音が響いた。続けて悲鳴。視界の端に黒煙が上がる。

 

 一瞬、通り全体が止まった気がした。

 

 その次の瞬間には、誰も彼もが好き勝手な方向へ動き出していた。叫ぶ奴、しゃがみ込む奴、逃げる奴、何が起きたか分からず立ち尽くす奴。露店の品がひっくり返り、荷車がぶつかり、人の流れが一気に濁流みたいになる。

 

 オレと同期は、考えるより先に走っていた。

 

 現場は地獄だった。

 

 崩れた屋台、吹き飛んだ木片、倒れた人、人、人。煙のせいで視界が悪い。火の手はそこまで大きくないけど、代わりに通りの一角だけがめちゃくちゃに荒れてる。事故じゃない。あまりにも壊し方が作為的すぎる。

 

 しかも敵は、モンスターじゃなかった。

 

 黒ずくめの人間。

 

 それも一種類じゃない。剣や短剣を持って突っ込んでくる低レベル帯の連中。明らかに戦闘慣れしてないくせに、自分ごと吹き飛ぶことを前提に火種を抱えてる奴。恩恵すら受けてない、ただ自爆するためだけに使われてる市民みたいな連中までいた。

 

 正面から斬り合うだけなら、低レベル帯なんて相手にもならない。同期も同じだ。風を纏ったあいつは、雑魚相手ならマジで触れさせる気すらない。自爆役も見えてさえいれば対処できる。多少強そうな相手だって、二人でかかれば止められる。

 

 問題は、そこじゃない。

 守りながらが戦うことが問題だった。

 

 敵は斬れる。

 でも、斬ってる間に別の奴が市民へ行く。

 自爆を一つ止めても、別の通りで爆発が起きる。

 子どもを庇えば、後ろのおっさんが斬られる。

 おっさんを助ければ、遠くの泣き声には届かない。

 

 あぁ、最悪だ。

 

 選ばないといけない。ここで救う命を。

 覚悟しないといけない。敵を殺してでも止めることを。

 

 しかも、それを自分で選ばないといけない。

 

 あぁ、本当に最悪だ。

 

 オレは、こんな状況でも同期には人を殺してほしくないと思ってる。

 

 

 

 だから、選んだ。

 

 「アイズ、誰も殺しちゃダメだ。絶対に。......吹き飛ばすだけで良い。あとはオレがやる。」

 

 あいつは何も言わなかった。

 けど、一瞬だけこっちを見て、そのまま風を纏って前へ。煙を吹き散らし、奥の視界をこじ開ける。

 

 この前の魔石工場の破壊行為とはわけが違う。相手は、本気で人を、いやオラリオを潰しに来ていた。加えて自爆特攻が当たり前。モンスターみたいに何も考えず斬れるわけじゃない。こっちが躊躇った一瞬で、誰かが死ぬ。それに殺すなら爆発させないようにスイッチ部分を破壊しながら斬らないといけない。

 

 黒ずくめの男が、刃物を持ったまま人混みに突っ込もうとした。

 

 考える前に踏み込んで、一閃。

 

 そのまま振り返らず、次の自爆役の腕を落とす。さらに肩口まで斬り抜く。

 

 止まらない。

 

 途中、真正面から斬りかかられたのを、わざと身体を前に出して受けた。後ろにいたのが、腰の抜けた女の子だったからだ。痛いとかは後回し。とにかく前に出る。下手に避けて後ろに通したら終わる。

 

 止まれない。

 止まった瞬間、誰かが死ぬ。

 

 その事実が、ずっと背中に張り付いていた。

 剣を振るたびに、視界の端で別の誰かが倒れそうになる。

 助けたと思った次の瞬間には、別の場所から悲鳴が上がる。

 

 認められない。

 その場にいた人間の多くは、戦えない人たちだった。

 

 オレたちが前に出なければ、簡単に潰される。

 

 ―――あぁ、気持ち悪い。

 

 別の場所で、何の恩恵も無さそうな男が笑いながら火種を抱えて走っていた。同期が風で一気に距離を詰めて、そいつの体勢を崩し、そのまま人気のない側へ吹き飛ばす。直後に爆発。もしあれを人の真ん中でやられてたら、何人飛んでたか分からない。

 

 街中のあちこちで、同じようなことが起きてた。

 

 最初は誰の指示もない。

 衛兵も冒険者も、それぞれ自分の前の惨状をどうにかするので精一杯。オレたちも完全にアドリブだった。

 

 どこを守る。

 どの敵を先に落とす。

 どこに市民を逃がす。

 誰が前に出て、誰が後ろを見る。

 

 その全てをその場で判断する。

 

 同期とはいつもの連携があるからどうとでもなる。ただ、それでもキツイ。ダンジョンなら敵を見て、動きを把握して同期と力を合わせて倒せばいい。同期は信頼してる。守る相手じゃない。一緒に戦う仲間だ。

 

 だけど今回は、敵だけを見ていればいい戦いじゃない。

 

 守るべき人たちを意識して、斬る相手を選び続ける。判断を間違えれば、そのまま誰かが死ぬ。

 

 誰を救えて、誰を救えないのか。

 自分の判断で、生き残れる人が決まる。

 

 その重さが、苦しかった。

 

 少し離れた場所で二発目。さらに別の通りでも悲鳴。

 

 この時に理解(ぜつぼう)した。

 これが通り魔とか爆破事件とか、そういう生温い規模じゃないってことに。

 

 オラリオ全体が襲われてる。

 そう理解すると、この鳴りやまない爆音にも納得がいく。

 

 そうして最初はただの怒号だったのが、急に流れを持ち始める。衛兵が叫ぶ内容が揃い始めて、冒険者たちの動きが噛み合い出す。

 

 少しずつ状況を理解したみんなの動きが良くなる。

 途中からオレらの団長が遠くで指揮を執り始めたらしい。

 

 直接声が届く距離じゃない。けど、伝令と怒鳴り声が前線を渡ってくる。

 

 市民を都市中央へ。

 周囲の民間人を優先。

 散るな、固めろ。

 戦える奴は外周で迎撃。

 

 そんな感じの指示が、波みたいにこっちまで流れてきた。

 

 ようやく、戦い方が変わる。

 オレたちは目の前の敵を捌きながら、近くの市民を中央へ逃がす動きに切り替えた。同期が風で視界と退路を作って、オレがその隙間を埋める。走れない奴は運ぶ。走れる奴には中央へ向かえと怒鳴る。途中で襲ってくる黒ずくめは斬る。

 

 ただ、それでも全部は無理だ。

 

 低レベル帯の敵は、下手するとその辺の石ころみたいに湧いてくる。弱いくせに、躊躇いがないぶんタチが悪い。恩恵を持たない自爆役なんて、止める方がよっぽど神経を使う。しかも、その裏でたまに格上が混ざる。

 

 一度、明らかに格が違うヤツとぶつかった。

 

 男か女かもわからない。剣は一本。構えは小さい。近づいた瞬間、空気が変わる。レベルは、オレと同格かちょい上。真正面からやり合ったら体格差で負けるかもしれない。

 

 そんな緊張感の中、空気の変わったオレに気付いて同期が割り込む。

 

 風を纏って一瞬で男の間合いを乱す。その隙にオレが横から踏み込んで斬る。浅い。けど十分だった。男は舌打ちして距離を取り、そのまま別の路地に消えた。

 

 追えなかった。

 

 追ったら、その背中側にいた市民を守れなかった。

 

 今日一日、ずっとそんな感じだった。

 

 勝ってるのか負けてるのかも分からない。

 ただ目の前の人間を中央へ流して、目の前の敵を斬って、爆発を減らして、それでもまだ足りない。

 

 気付けば、腕も脚も重かった。服には返り血と煤がついていて、どれが誰のものかも分からない。同期も無言のまま、息だけ少し荒くなってた。

 

 どれくらい時間が経ったのか分からない。

 

 ただ、少しずつ悲鳴の密度が減って、衛兵と冒険者の列が形になってきた頃、ようやく一帯の戦闘がひと段落した。

 

 その混乱の中で、やっとファミリアのみんなと合流。

 そこで初めて、今日の全体像を知った。

 

 裏では、ロキ・ファミリアとアストレア・ファミリアの主力が、闇派閥の拠点襲撃に出ていたらしい。だから最初の街に、指揮官クラスも主戦力もほとんどいなかった。

 

 朝から感じていた違和感の正体は、それだった。

 

 そして、もう一つ。

 

 アーディさんが死んだ。

 

 途中で合流できた師匠たちから聞いた。闇派閥の拠点襲撃。急に現れた子どもを説得しようと近づいたときに爆発。威力は凄まじく、亡骸すら残らなかったと。師匠たちは、死を受け止める暇もないままオラリオ襲撃が本格化。そのまま都市防衛で連戦。

 

 みんな、堪えた表情をしてた。

 心に傷を負っていないはずがない。辛くないわけがない。

 

 でも、誰もそれを表に出さなかった。

 

 自分たちが折れちゃいけない。そう言い聞かせているような顔だった。

 

 一通り話し終えると、師匠たちはすぐに市民の救助活動へと駆けて行った。

 

 

 

 

 昨日まで普通に笑ってた人が、いなくなるなんて―――。

 

 

 今日はもう、何を書けばいいのかよく分からない。

 

 何も書く気が起きない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まだ人を斬った感触が離れない。今日は、斬りすぎた。

 

 

 

 

 

 

 




※主人公のセリフ変更。
改めて見ると自分の中での主人公イメージと離れていたため。流石に上から目線過ぎる+セリフがキザすぎる。
もしかしたらまた変更するかも。
【変更前】
「お前は、誰も殺すな。吹き飛ばすだけで良い。汚れ役はオレがやる。」
【変更後】
「アイズ、誰も殺しちゃだめだ。絶対に。......吹き飛ばすだけで良い。あとはオレがやる。」
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