貞操観念逆転世界における人妻の対義概念について 他 作:ちくわサンド
近年、男性専門
一体なぜだろうか?
SPは当然ながら護衛対象を襲わないように厳しい訓練を受けた者たちだ。国家が定めた特殊なカリキュラムに乗っ取って育成がされており、その狭き門を潜ったエージェントであるSPから男性に対してアプローチをするということは起こりえないはずであるのに、だ。
特に、14~18歳の思春期から続けて任務に就いている者は結ばれる傾向が顕著である。
なお、次いで件数が多いのが18~35歳前後の既婚男性の第二、第三伴侶となるケースであり、前者はともかく後者に関しては第一伴侶との間に摩擦が生まれるケースも確認されている。いやほぼ全員やないかいとツッコミを入れた私は間違っていないと思う。
第一伴侶と男性との間に摩擦を生じさせるというのは男性の護衛、及び男性とその配偶者の近辺を守るためのSPとしてはあってはならない失態であり、本来ならば厳粛に対応すべき事案なのだが、「俺...もう若くないから...ちょっと休ませて...」「「「だめですよ、全員の相手をするまで寝かせませんからね!」」」のような惚気や相談風自慢や自虐風自慢にしか聞こえない報告ばかりが上がっており、担当チームが嫉妬の余り正気を失いかけたので対応は先送りにされている。大丈夫かこの国。私は心配になった。
閑話休題
そのため、とある議員が政府が派遣する護衛は短期間で交代させるべきでは?という意見をSNSで投げかけられた。これには現役SP、SP訓練生、及び関係機構その他各所からふざけんな、改悪法、到底受け入れられない、断固として拒否する、我々は徹底抗戦の構えだ、辞任しろ、何のためにこんなアホ厳しい訓練に耐えていると思ってんだ、私たちの希望を潰すな、といった圧倒的な反対の波にあうという事件が起こった。男性省、男性護衛庁は公式に声明を発表し、現在我々はそういった変更をする可能性は持ち合わせていないと明らかにしている。余談だが、その意見を投げかけた議員は現在投稿を削除したうえで活動を自粛することとなった。当然の帰結である。
とはいえ、私はこれは単なる炎上には収まらない、社会の根本的なしくみに繋がる問いであると確信している。
それについて考えるためには、SPの歴史、及び結婚というモノについて立ち返らなければならない。
男性の身を守るために女性が男性を警護するという文化は古来よりどの国どの地方でも存在したことは、義務教育を受けた者ならば当然知っているだろう。
ヨーロッパの騎士道の最も大切な考えは男性を大切にすること。
日本では武士道がそれに近い考えを持っており、現在に至るまで継承されている。
また、一口に守ると言っても様々な考えや体形がある。近代になるにつれ男性を守るための法整備が進むと一人の男性につき一人、もしくは少数で護衛をするという現在のような形が一般的に広く普及するようになったが、歴史的に見ると実は男性を守るときはコミュニティの中で、集団的に防衛をするという事例の方が多いのだ。
群れで狩りをして、群れで男を守る。これは生物としての原始的で自然な形である。
その場合、男性はそのコミュニティの共有財産となる。とある森林にすんでいたとされる今はなき部族がその典型的な例と言えるので、今回はそのことを持ち出そう。
とある部族、仮にAとする。Aは時代によって異なるが最盛期で総数200~300人ほどがいたとされており、そのうちの男性はいつの時代も30~40人ほどと推定される。これは当然ながら男性の比率が低下した現代よりも前のことであり、現代と比較すると男性の割合が多いように感じるが昔のことなのであしからず。
そして、Aではその部族そのものが一つの家族として捉えられており、結婚という概念がそもそも存在しなかったと考えられている。部族全体で愛し合っており、全ての男性が全ての女性から守られ、代わりに全ての女性と愛を育んでいた。女性が男性の個人所有、もとい個人的な関係を持つという考えを持たなかった、とても昔の話である。(注意:「男性の個人所有」という記述は現代のコンプライアンスに反するが、過去の事例について述べた文章であり正確な情報伝達のためにあえてこのまま記述させてもらいたい)
その後、歴史が進むにつれ世界各地で集住、及び文化的な発展が見受けられるようになるとAのような部族は姿を消し、代わりに人々は都市生活を行うようになった。
男性の個人所有、及び『結婚』という概念が生まれるようになったのはこのころであると考えられている。
有名なのは、古代イジプトの皇帝が何十人もの男性を独占し、宮殿に監禁して他の女に指一本たりとも触らせなかったという有名な伝承である。これは極端な例かもしれないが、これに類似するような権力者が男性を独占するといった事例が現代の『結婚』のもとになったと考えられている。
また、国の王に男性を置く、いわゆる男王もこの辺りの時代に誕生したのだがそれに関しては今回は割愛する。
やがて、この『結婚』文化は王から少数の貴族、少数の貴族からすべての貴族、すべての貴族から長い時間をかけて平民へと伝わり、『結婚』は社会に浸透した。
この話を聞いたものは誰もが疑問に思うだろう。男性の数は女性よりも圧倒的に少ない。そのため、貴族ならともかく平民が結婚をできたわけがない、と。
しかし先ほどの記述を思い出してほしい。そう、昔は男性の比率は現代よりも高かったのだ。
一説によると、中世時代当たりには二人から三人に一人の割合で男性がいたと言われている。今では考えられない割合だ。転生するなら中世に行きたい。
しかし、みなさんご存じのようにこのころから社会全体の男性の割合は下降の一途をたどる。これについては現代の様々な研究者が原因を突き止めようとしているが、いまだ解明には至っていない。
世の中に男性が不足するようになると、社会ではより強く、男性の身を守れる女性が男性を勝ち取るようになった。
ある時は決闘によって雌雄を決したり、ある時は財力や権力によって男性を得たり。この時代は社会が男性を巡って混沌としていたことから巷では「私のために争わないでっ...!時代」と言われている。
男性の割合減少がひと段落し現代と大体同じくらいで安定するようになると、世の女たちは今いる男性をどう守っていくかという方向に議論を転換させた。オーストイアのリーンで開催された「男子は踊る、だから進まず」会議である。
これは各国から訪れた重鎮たちをもてなすために余興として男子の踊り子がえっちな衣装を着て踊ったり、リーン貴族によって手厚く接待をさせられたため、重鎮たちが男子に夢中になってしまい全く会議に集中できなかったことから議定書を締結するまでに長い時間がかかったことを揶揄する言葉である。
なお、この結果、この辺りの時代から世間では『重婚』が各国で認められるようになる。元から専門家の間では事実上は重婚状態にある男性が多かったとされているが、宗教的には重婚を認めない風潮もあり世界各国では意見が割れていたのだ。しかし、男性の減少でそうも言ってられなくなったのか、(男性の減少に)抵抗する人々派、もとい新教会派が権力者の間で台頭すると、世論の風潮は一気に重婚賛成派に傾くようになった。なお、国際的に公の場で重婚が認められるようになったのはこの会議が世界初とされている。
2~4人ほどの少数の女性が男性を中心とした家庭をつくり、男性を守る現代の社会体系はこのころに確立した。なお、もちろん一夫一妻派も現代まで根強く残っており、様々な議論が展開されているが今回は割愛する。
そして、現代に繋がるSPという仕組みがつくられ始めたのもこの辺りである。
その歴史は悲しみと不幸と復讐の歴史だ。戦争というものは、人をどこまでも残酷にする。
近代になり産業が発展するにつれ、人々の発明は人間を豊かにすることも、その幸せを破壊することも可能にした。それはつまり、戦争の体形も変化したということである。
これに関する事例で最も有名な事件はオーストイア皇太子NTR事件だろう。オーストイア=ハンマリー帝国の皇太子が隣国のヤンデレスパイによって拉致監禁され、NTRされたという悲劇的な事件だ。
その結果、第一次NTR大戦が勃発する。
しかし、この件が世界的に有名ではあるが、このような事件も当然オーストイアのみで起こった事件ではない。このころから睡眠薬や男性を虜にするための道具や薬の研究が進み、様々な男性をいじめるための玩具、もとい拷問器具が発明され、アメリカ、アジアからヨーロッパの様々な敵対国の間で互いの男性を拉致するという事件が起こっている。「第二次私のために争わないでっ...!時代」である。
(なお、前述の「私のために争わないでっ...!時代」は昔すぎて状況が全く違うのでカウントせず、近代に突入してからのこちらを第一次とする学説も存在してる。第一次、第二次の数字を揃えたいからだと思う。)
そして、人間の愚かな歴史は繰り返される。NTR大戦は再度勃発した。第二次NTR大戦、もとい「第三次私のために争わないでっ...!時代」が到来する。この大戦は歴史上最も大規模な大戦とされており、被害男性は国内だけで1万人以上とされている。その数字だけで恐ろしいと思う。
NTRの被害に遭った女性は脳が破壊され、精神が崩壊し、
戦争とは、愚かなものである。
多くのNTRは悲劇であり、終戦後はNTR被害者返還のための特別措置が組まれたり、国際連合主導のもとNTR禁止条約やNTR防止条約が結ばれた。
一方で、ほんの一部ではNTR先で男性が女性を説得、改心させることに成功し、様々な話し合いの末に国際的な重婚が加速したという事例もなくはない。しかし、国際ハーレムの中に身を置くことになってしまった男性は、それはもう苦労したそうだ。
(また、悲しい事に一部ではそういうプレイにハマってしまった事例も報告されており、第一伴侶がNTRプレイをお願いするという痛ましい戦争の爪痕は現代まで残っている。今はNTRプレイをする場合は事前にこれがプレイであるということを記しておくこと、第二以下の伴侶のみを相手にすることなど、国によって様々なレギュレーションが設定されている。なお、愛と合意のない強制NTRはどこの国でも重犯罪である)
では、女性は襲い来るNTRの恐怖にただ怯えるだけだったのだろうか?
答えは否だ。
第一次NTR戦争の渦が世間に出始めたころ、わが国では今の男性専門セキュリティ・ポリスの前身である男性護衛官制度が制定された。これはスパイに狙われている疑いのある男性に対して政府から身辺警護のための警察官を派遣する制度である。
基本的に、男性は家にいるものであり、女性は外で働くものである。現代ではその価値観も変容を迎えているがこの時代はその風潮が非常に強かった。そんな中、伴侶が一人か二人しかいない男性は伴侶が仕事に行っている間自身の身を守ってくれるものが全くいなくなり、完全に無防備になってしまうということがあった。そういった状況下でのNTRを防止するための取り組みが、男性護衛官制度である。
全国各地に護衛官を十分な人数用意することは難しく完全に被害を防ぐことはできなかったが、それでもこの制度によってNTR大戦下で多くの夫婦が救われており、男性専門セキュリティ・ポリスが民衆に感謝される名誉職であることに繋がっている。
大戦終了後には男性護衛官制度は一時解体されることとなったが、国内における男性の身辺で発生する性犯罪を中心とした様々な犯罪から男性を一人一人の単位で守ることに、この制度は有効であるということが世間に知れ渡った。
そうして現代に設立されたのが、男性専門
これは各地の伝統ある名家や政治家、弁護士等の息子のみならず、希望すれば男子を持つ一般家庭や成人となった男性の全員が利用できる仕組みである。その仕事はセキュリティ・ポリスの名の通り男性の身辺警護である。
最も、既に伴侶がいる女性がセキュリティ・ポリスになることはない。自分の旦那さんを最優先に守るからである。そのため、当然と言えば当然のことだが、男性専門セキュリティ・ポリスは独身女性の集まりである。
一応再度言っておくが、彼女たちは特殊な訓練を受けており、自身の護衛対象に危害を加えるようなことはない。
ここで、部族Aに関する話を思い出していただきたい。
Aでは女性が男性を守る、代わりに男性は女性と愛を育むという関係が生まれていた。
そう、「守る」という関係と「愛する」という関係は、古来よりセットなのである。
この関係は『結婚』という関係よりも以前から存在する、人類普遍の法則なのである。
それが一対一、もしくはごく少数となり、男性の個人の意識が自分に強く向けられたとき、女性はどう思うか。
結論を言おう。
「今まで男の影もなかった私がむさくるしい女たちの集団から離れて可愛い男の子と24時間一緒の生活。車のドアを開けてあげたり一緒に連れ添って外出してあげたりみたいな今までの地獄みたいな訓練とはかけ離れた任務をするだけでこちらを見ながら笑顔で「ありがとう」って言ってくれて何が起こっても必ず私のことを信頼して頼りにしてくれてたまに軽くボディタッチなんてしてくれちゃったりして他の女には警戒心を持ってる分私には全然警戒をしない無防備全開な姿晒しちゃってそのこの人が信頼してくれるのは他の女じゃなくて私...っていう優越感とかが凄くってもう頭がこの人でいっぱいになっちゃって、でもSPたるもの護衛対象に自分から手を出すわけには絶対にいかない...そうだ自分から手をだせないんだったら向こうから手を出してもらえばいいんじゃないか!男性の方から求められる分には圧倒的セーフ!求められたからそれに応えて求め返す分には圧倒的正義!法は我らに味方する!!!やったあ!!!!!」
これが、SPと護衛対象の結婚率が高い理由である。
ーーー
「頼人さま、まだ起きておられるのですか?」
僕が部屋でごそごそやっていたのが聞こえていたのだろう、隣の部屋で寝ていたはずのカレンが扉の外からそう聞いてきた。時刻としてはもうすぐ日付が変わろうとしているところだ。
...まったく、寝ていてもいいのに、また扉の外で警護してたんじゃないだろうな。
僕の部屋の前には監視カメラは当然のこと、生体認証をはじめとしたロックなどの防犯設備が扉にも窓にも完璧にしてあるためそう簡単に何か問題が起こることはない。にもかかわらず、僕のSPであるカレンは「万一のことがあったらいけませんから...!」と言って警護をしようとしてくる。
僕は携帯を取り、カレンの番号にかける。このまま扉越しに若干くぐもった声で雑談をするのも大変だからだ。
ほとんどコール音を鳴らすことなく彼女は電話に出た。
「はい、頼人さま」
「カレン、何度も言っているけど、夜中まで警護をする必要はないよ。カレンもきちんと自分の睡眠時間を取ってほしいな」
「心配してくださってありがとうございます。ですが、私は訓練を受けているので問題ありません」
いつも通りの返事をするカレン。恐らく扉の外ではぴしっと背筋を正しているのだろう。
カレンは僕が14歳の頃から4年間お世話になっているSPだ。綺麗な茶髪のポニーテールをしていて、長身で鋭くて綺麗な目がクールで格好いい。あまり年は違わないはずなのに随分と大人びている印象をうける。
僕の家はいわゆる名家というやつで、僕自身もお坊ちゃんやお嬢様たちが集まる私立の一貫校に通わせてもらっている。名家や男性の兄弟のいる家なんかではSPを家族で雇うことも多く、僕の家も僕、お父さん、そしてお父さんの義理の弟さんが暮らしており、僕たちの一家で複数のSPを雇用して任務にあたってもらうということを行っていた。家の繋がりなんかでパーティーに行く機会も多く、他の家庭よりはSPが臨時で必要になる機会が多いためというのもある。
しかし、カレンは初めから僕専属のSPとして雇われた。21歳にしてアメリカのハイレベルなSP訓練校を最年少で卒業しSPの中でも一際エリートとして名をはせていた彼女を、どういうわけか僕のお母さんが引っ張ってきたのだ。
初めこそお互いに緊張していたが、4年も一緒にいればお互いを信頼するのには十分である。僕はカレンのことをすっかり信頼していた。
電話越しにちょっとだけ雑談をしたいと言うと、彼女は渋々ながら付き合ってくれた。
部屋に招き入れて喋ればいいだろうと思うかもしれないが、こんな夜更けに男性が女性と二人で会うなんてことがバレればいくら彼女がSPと言えども疑いの目を向けられるだろう。僕は彼女にそんな目に遭ってほしくはない。
「頼人さま、明日は紅葉さまとデートの予定がございます。もうそろそろお眠りになった方がよろしいかと」
「あぁ、覚えているよ。彼女が学校で弾んだ声で確認してきてくれたからね...そろそろ寝るよ。おやすみ、カレン」
「...はい、お休みなさいませ」
そういって、少し名残惜しそうに電話を切る。僕は携帯をしまうと、彼女に言われた通りベッドに入ることにした。
僕が寝る体勢に入ったことが分かったのか、カレンが隣の彼女の部屋に帰っていく気配がしたような気がした。
ーーー
「おはよう、頼人、カレン。今日はよろしくね」
翌日、僕は車で少し遠出したところにある遊園地に来ていた。
僕の目の前で可愛らしい笑みを浮かべそう話しかけてくるのは僕の婚約者である紅葉。
名前を体現するかの如く少し赤色が入った黒に近い髪色をしていて、背丈は僕より頭半分ほど高い。当然、向こうも男性専用ではない普通のSPを連れていた。
同じ高校の同級生でもある彼女は昔からの幼馴染であり、家同士が定めた結婚相手でもあった。僕と彼女は学校を卒業したら結婚をすることが決まっている相手同士である。
彼女と婚約者になったのは僕が生まれて一年したときだったらしい。その手の話の中には婚約者同士のウマが合わず苦労することもあるようだが、僕と紅葉に限ってはそんなことは全くなかった。
生まれたときから兄妹のように育った僕たち。昔は喧嘩することもあったが今ではすっかり仲良しで、こうして学校が休みの日には欠かさずデートをしたり、二人の時間をつくったりしている。互いの好き嫌いを知り尽くし、学校でも大抵は一緒にいる。
一通りの挨拶を終えると、彼女は僕の腕を取り園内へと入っていく。もうSPの姿は見えないが、きっとどこからか僕たちのことを見ていてくれてるのだろうし、恐らく、園内にも臨時のSPがいるだろう。いつも通りのことである。
それに、夢中で遊んでいるうちにそのことも頭の中から抜け落ちていく。
紅葉は凄い子だ。僕よりも勉学にも運動にも優れ、芸事にだって精通している。優秀な人が集まる僕たちの学校において、上位の成績を維持する秀才だ。将来の伴侶になる身分としてはもっと頑張らなきゃと思う反面、僕のお嫁さんはこんなに凄い人なんだと自慢したくなる。
紅葉にエスコートされるまま、一日中遊園地を楽しんでいると、あっという間に時間が過ぎてしまう。
僕は帰る前にお手洗いに行きたいと言って、少しだけ席を外させてもらった。
ーーー
「カレン、いるんでしょう?出てきてくれない?」
私は、その言葉に少しだけ躊躇いを覚えた。SPたるものこういった場ではしゃしゃり出るべきではないとされており、完全に気配を消すことが求められていたからだ。しかし、ご指名を受けてまでそうすることは逆に失礼にあたるだろう。
私はチームの他のSPに護衛を一時的に離れることを連絡し、紅葉さまのもとに駆け寄った。
「どうしましたか、紅葉さま?」
「ちょっと大事な話があるの、こっち寄って」
そういってさらに近寄るように言う紅葉さま。何か大切な要件があるらしい。私は彼女に近づきつつ、紅葉さまの口の動きが誰かに読まれないようにさりげなく立ち回った。顔を近づけて要件を聞く体勢を取ると、紅葉さまは思いがけないことを口にした。
「あなた、頼人のこと、好きでしょ?」
瞬間、制御しきれなくなった鼓動が激しく脈打つ。
彼女に返答をすることを一時的にやめ、訓練で教わった通りに平静を失ったときの対処法を実行し精神を抑えつけた。顔に出なかっただろうか。
いや、待って。紅葉さまは今なんとおっしゃった?
分かっている。言葉としては分かっているのだが、予想もしていなかったことに反応ができず、頭でかみ砕くことができない。
私は完璧に対処したと思っていたのだが、やはり甘かったのだろう。紅葉さまはしてやったりといった笑顔を浮かべて続けた。
「その反応は当たりね。とはいっても最初っから分かっていたのだけれども。流石にアンタとの付き合いも長いんだし。それに、私も将来の旦那様を守るためにSP訓練に混ぜてもらってるのよ。心の落ち着け方くらいは分かるわ。ほら、今なら頼人はいないから、正直に答えなさい?」
それは、言ってはいけない。私はSPだ。
口を噤め。
そう、頭では分かっていても、どれだけ心を隠そうとしても、目の前の方に嘘をつくことはできない。
自分の心に嘘をつくことが、できない。
「..........はい。私は、...頼人さまをお慕いしております。ですが...!」
私がそう弁明をしようとしたところで、紅葉さまは私の口をおさえた。
「ふふ、分かってるわ、立場が違うってことも。そういうことを言いたいんじゃないの」
そういってこちらを真剣なまなざしで見つめてくる紅葉さま。その瞳はとても学生のものとは思えないくらいの闘志に、意志に、自身に、何より決意に満ちていた。
「同じ女として、同じ男を好きになった身として、何よりあなたの友達として。...私はね、貴方にも幸せになってもらいたいの」
一呼吸、おいて。
「私と一緒に、彼のことを幸せにしてほしいの」
あぁ、ずるい。
その言葉は、
ーーー
「と、言うわけで、第二伴侶にはカレンを迎えようと思ってるんだけど、異議はないわよね?」
あっけらかんとした態度でそういう紅葉。
「え、な、なっ、え!?」
まさに寝耳に水という告白に困惑する僕。
僕たちは遊園地を後にして、今日宿泊をする予定のホテルに来ていた。
もちろん、彼女とは同じ部屋に宿泊することになっている。
夕食を済ませ入浴しバスローブをまいた僕は、同じくバスローブをまいた紅葉とベッドに座り、同様に恰好をしたカレンと対面していた。
何やらカレンと紅葉の間では話が通じ合っているのか、僕だけがよくわかっていない様子だ。
カレンがいつもとは明らかに違う、恥じらいの含んだ雰囲気で僕の目の前に立つと、片膝を立ててひざまずいた。いつもと違う挙動に何が何だか分からなくなる。
その疑問に答えるように、紅葉が解説してくれた。
「いやね?第一伴侶になるのは当然私だけど、どうせ今後頼人にも第二伴侶は迎えなきゃじゃない?それなら、どこの馬の骨とも分からない女よりは、信頼の置けるカレンの方がいいなって思って。カレンが貴方のことが好きだっていうのはこの4年間バレバレだったし、貴方もカレンのこと信頼してるそうだから、いいかなって」
見ると、顔を赤くしてこちらを見てくるカレン。
そうだったのか...全然気づかなかった。
いや、まぁ、確かにカレンのことは信頼してるし、魅力的だとも思うけど、あれ、でも紅葉がそう言ってるってことは...。
僕はいろんなことを考えながらカレンのことを見る。
その今までは見ることの無かった、恥じらいと真剣さを含んだ可愛くて真っすぐな目に、思わず惹き込まれる。
「ほら、貴方から言ってあげないと、カレンはまだSPのつもりみたいだから自分から言うことはできないのよ」
...うん。
「カレン、今の話、本当?」
そう聞くと、カレンは耳までを赤く染め上げて、絞り出すように言った。
「...はい。私は、頼人さまのことをお慕いしております」
直接カレンの透き通った声でそういわれて、今度は僕の心臓がうるさくなる。カレンに真正面からその言葉を言われて、僕はどうしようもないくらい嬉しくなっていた。
「...僕、まだまだ未熟者で、いっぱいカレンに迷惑かけちゃうかもだけど、それでも、いい?」
カレンはこちらをまっすぐと、真摯にむいて、言う。
「勿論です。たくさん私のことを頼ってください。...SPとしてではなく、妻として」
カチッ、と、僕たちの関係性の歯車が、入れ替わる音がした。
そんなやり取りを見ていた紅葉はわざとらしく声を上げて、僕の肩を叩いて意識を向けさせ、僕たちの中に割って入ってくる。
「もう、自分で言っておいてなんだけど、妬けちゃうわね。...ほら、頼人おいで、ちゅーしましょ」
僕が返事をするよりも前に僕の両頬に手を当てると、優しく、スマートに僕の唇を奪ってくる紅葉。三秒か、四秒か、それくらいの紅葉にしては短い控えめなキスをすると、一度僕の顔離してその後ろにいるカレンに声をかけた。
「ほら、何してるの、早くこっちにきなさいよ!...今夜は、二人で頼人を可愛がってあげるんだからね?」
その言葉を聞いてベッドに入ってくるカレン。いつにもまして随分と上等な部屋で、僕たち三人が入ってもまだ余裕がある。
僕は紅葉とカレンに挟まれるような形でベッドに寝かされる。すると、先ほどの空気を取り戻さんと僕の顔に自身の顔を重ね、口を味わうカレン。心なしか、紅葉がしていた時間よりも長い気がする。
その口づけは情熱的で、甘美で、積年の想いが凝縮された至極の味わいだった。
「ふふ、これから大変ね、頼人。...もちろん、カレンを迎えたからって私が手加減してあげるなんてことはないわよ?今までも、これからも、いーっぱい愛してあげるんだから」
「覚悟してくださいね?頼人さま...いいえ、頼人。今までに抑えつけてきた貴方を愛する気持ち、全てを知ってもらいますから。一かけらだって、零さないでくださいね」
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