貞操観念逆転世界における人妻の対義概念について 他   作:ちくわサンド

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貞操逆転世界における男性の電車事情について

おはようございます、ABKBニュースのお時間です。本日の司会は私、宮城朱里が務めさせていただきます。

そして、本日のコメンテイターには男性の社会参画に関する多数の法案、特に男女間の雇用に関する議論等のきっかけになったと言われている男性社会参画運動の立役者となり、現在では映画、ドラマやバラエティ番組などでも活躍されている今話題の実力派若手男性タレント、東千鶴さんにお越しいただいております。

 

東さん、よろしくお願いします。

 

ー よろしくお願いします。

 

相変わらずお綺麗ですね。

 

少しはにかんで口元を抑えながら

ーありがとうございます。

 

さて、早速ですが、東さんと一緒に本日のニュースを見ていきましょう。今日のニュースも様々なものがあります。

 

 

 

...

 

 

 

では、続いてのコーナーです。

 

軽快な音楽とともにデジタルテロップが表示される。

『男性専用車両の導入から1か月、効果は?』

 

こちらは東さんにも大変関わりの深い件かと思います。

 

ー はい、私は以前からSNS等で男性専用車両の導入についてお話させていただいておりました。

 

軽く頭を下げて同意する。

 

ご存じの通り今から約一か月前、都内で初めて『男性専用車両』が川手線等の一部区間において運用が開始されました。

 

画面が切り替わり、電車が流れるシーンが映る。車内に押し込まれるように満員電車に入り込んでいく沢山のスーツや学生服を着た女性たち。駅員が何とかドアを閉めようと必死に背中を押し込んでいる。むぎゅっぐいっと押し合いへし合いになる中、駆け込もうとした女性が車両に乗り損ねて駅員に注意されていた。

そこからカメラが切り替わり『この時間帯は男性専用車両となります』と書かれたステッカーを窓に張った車両が映し出される。通勤ラッシュの時間帯のみに限定された措置のようだ。

こちらもかなり混雑しており余裕はなさそうに見受けられるが、流石に先ほどまでのような密着具合ではない。

 

そこに映るのは先ほど同様スーツや学生服に身を包んだ、様々な年齢の男性。部活動のためらしい重たそうな道具を抱えた高校生とみられる子や、妙齢のややくたびれたサラリーマンの男性など、その様相は多種多様だ。

 

しかし、先ほどまであれほどいた女性は一人もいない。

司会者はムービーがひと段落したことを確認して、言葉を続けた。

 

それでは、今回男性専用車両が導入されるに至った経緯を簡単に振り返っていきましょう。

 

そういうとデジタル画面からカメラが切り替わり、写真やイラストの盛り込まれた手の込んだつくりの見やすいフリップとホワイトボードが映し出された。重要ワードと思われるところは付箋で隠してある。

 

初めてこの議論が日本で起こったのは今から3年ほど前、都内の鉄道で発生した『集団痴女事件』がきっかけとされています。

 

ー 痛ましい事件でした。実際のところは以前から声はあったのですが、全国的に言われるようになったのはやはりあの一件の発覚以来だったと思います。

 

番組フリップには『20〇×年▼月□日 ○○鉄道集団痴女事件』と大きく見出しで書かれた項目がクローズアップされる。赤字で書かれたそれの下には逮捕される大勢女性の映った一枚の写真と事件の要点が簡潔に記述された文章があった。

 

インターネットでつながりを持ったとされる違法痴女集団「男の子にお触りし隊」。

メンバーは全国各地に存在。

事前に相談した車両に示し合わせて乗車し、仲間のみが周辺に乗り合わせた状態でそうとは知らずに乗り込んだ男性に対し痴女行為をするといった手口が常套化していた。

偶然を装った巧妙な手口での痴女行為を行い、周囲の女性たちが見て見ぬふりをするといった隠蔽を行う。そのため、発覚するまでに長い時間を要した。

 

▼月□日、サラリーマンの男性1名、(当時)19歳の男子大学生3名、(当時)16歳の男子高校生2名を相手に大規模集団で痴女行為を行ったことで発覚。その車両にいた中で犯行に加担したとされる女性34名が逮捕された。

 

その規模は年々拡大していたとされ各社は調査、対策に乗り出した結果、○○鉄道以外でも同様の事例が次々と報告されることとなる。

最大規模と見られる都内では車両丸々一両分を占領していたとされ、全国各地で合計160人以上の関与が発覚、逮捕された。その中には、教育関係や政治関係の職業に就くものもいた。

 

司会者である宮城は声を厳かにして続ける。

 

これに関する一件で最も悲惨だったとされるのは▼×月△□日、北九州地方で起こった集団痴女・強姦事件でした。逮捕されると予想し自暴自棄になったメンバーと見られる女性たちが同日とある車両に乗り込み、どうせ逮捕されるなら最後までやってやると声を荒げながら強引に犯行に及びました。

人の少ない路線と時間の犯行だったためその場に居合わせた警備員、警官のみでは対処しきれず、

事前に周到な準備をしていたとされる犯人たちは即席のバリケードを作って車両の後方に立てこもり、犯行時間は実に1時間にもわたったとされています。

最終的に警察の特殊班による突入が行われていなかったら、さらなる時間が経過していたでしょう。

なお、男性に対する性犯罪関連で特殊班が出動した件数も近年増加しており、こちらもさらなる拡充をという意見もあります。

 

結果としてその場に居合わせた二人の男性が集団強姦の被害に遭い、現在も精神的な治療を受けています。

 

ー 被害者の男性の心的負担は計り知れません。

 

えぇ、ただでさえ男性専用車両の必要性に高まりが出ていた中で、この事件は決定的となったように思います。この事件の後、国会では臨時国会が開かれ過去に類を見ない異例のスピードで法案が可決、施行されました。

 

SNS等では何でもっとはやくやらないんだ、必要性は明確であるといった意見や国会の迅速な対応を称賛する声もある他、監視カメラ等で十分、近年の男性保護方針は行き過ぎているといった意見もあります。

 

ー 近年は男性に対する性犯罪の件数の増加に伴う保護政策が急激に推し進められており、行き過ぎではないかといった声があることも認識しています。私自身、男性を過剰に保護することは逆に男女間の対立を生むことと考えております。

しかし、こういった明確な犯罪行為が行われている現状を鑑みると、男性専用車両は妥当な取り組みであると思います。

 

 

東は宮城の方に少し目配せをして、話を譲る。

 

 

宮城はそれを受け取ると、後ろに控えてあったもう一枚のフリップを取り出した。

そこには『男性に対する盗撮の防止』と書かれている。

 

 

今回の男性専用車両の導入は、男性に対する盗撮行為にも繋がるでしょう。

痴女行為に比べると罰則が軽いと言われていますが、盗撮行為もまごうことなき犯罪です。

 

フリップには証拠と見られる写真が強いモザイクをかけられた状態で示されている。

 

ー 特にこれから夏場になるにつれ、どうしても薄着になってしまいますからね。

 

盗撮ではこのように男性の透けた下着や生腕、生足、ボタンの開けられた胸元等が狙われる可能性が高いです。皆さんは十分に注意してください。

 

 

さて、男性専用車両に話を戻しますが、この仕組みが導入されてから早一か月が経ちました。その反応は様々ですが、おおむね評価は高いと見られています。

 

ー ええ、女性が近くにいないということで心理的な負担が軽減され、通勤や通学がしやすくなったという声が多く見受けられます。また、痴女件数も先月と比較すると下がっています。

 

 

宮城は『各月の痴女件数の推移』と書かれた棒グラフの記載されたフリップを番組スタッフから受け取りカメラに映りやすい位置において、話を進める。

 

こちらをご覧ください。

都内における痴女件数は先月の四分の一と、過去一年間で最も少なくなっています。

 

 

これは男性専用車両は成功だったと考えてもよいのでしょうか?

 

ー おおむねは、そうだと思います。

 

というと、何かしらの問題も?

 

東は両手をテーブルにおいて、若干言いにくそうな様子を見せながらも濁さずに言う。

 

 

ー 男性専用車両が導入されて痴女被害は減ったのですが、一方で()()()()()()()()()痴漢行為の件数が増えている、ということが報告されています。異性からの合意の無い性的な行為には法整備も進んでいるのですが、同性を対象にしたそういったことにはあまり対策がとられておらず、精々が迷惑防止条例といった具合です。同性からそういう対象に見られやすい男性は、逆に男性専用車両を避けるといった行動も見られます。...私も日常的に電車を利用していますが、何度かそういったトラブルを目の当たりにしました。

 

東は深刻そうな表情をして言った。

 

そんな東の顔を見て心配しながら問う宮城。声には出さないが、東さんほどの方でも電車を利用なさるんですか?という疑問が表情にありありと浮かんでいる。

 

東は苦笑すると、少し明るい口調に戻していった。

 

 

ー もちろんタクシーを使うこともありますよ?ですが私はタレントといってもまだまだ若輩者ですし、これは公表していますが、一般家庭の出ですから。都内近辺の移動の際は電車をよく利用しています。

 

 

それでは、ご自身の身を守るためには十分に注意する必要がありますね

 

 

ー えぇ。

 

 

 

その後は別の話題に移りニュースは続いた。この放送があった後、番組SNSには様々な意見が寄せられ、電話はひっきりなしに鳴り続け、担当者はその対処に奔走することとなる。

 

 

 

 

 

 

ーーー

 

 

 

 

 

 

都内でも有数の賑わい盛んな街。

夜が訪れてなお、その世界は様々な種類の明かりで満たされていた。僕は一際大きなテレビ局の建物から出るとそのまま駅に向かって歩き出す。帰宅の時間帯なのか、同じ方向を向いて歩き始める多くの人がいる。帰宅用の簡易な変装をしているだけだがバレることはないだろう。もしバレていたとしてもおそらくこの辺りの人はテレビ関係者だろうから、不用意に騒ぎ立てられたりはしないはずだ。

 

僕は事務所の男性マネージャーに連絡を取り、これから帰宅することを報告する。今日は結局一日中テレビの収録だったり、あいさつ回りだったりで時間を使ってしまった。マネージャーは今も仕事をしてくれている。次会うときは何か労ってあげる必要があるかな。

 

そんなふうにスマホを触っていると、一件の通知が届いた。

 

...そうか、一緒に帰れるのか。

 

外で待っていてもいいが、もう暑さが大変になってきている。テレビ局に折り返してもいいのだがもう結構な距離を歩いてしまっており、駅はすぐそこ。今から戻るのも少し億劫だ。足取りを変更してまだやっているチェーンのカフェに入る。

店内にはまばらに人がいるだけで、店員さんもレジに一人見えるだけ。恐らく奥にもいるのだろうけれど、忙しそうな気配は全くない。

 

僕が入店したことに気づくとレジに立って注文を取ってくれる店員さん。コーヒーを頼もうとしてもう夜だったことを思い出し、結局カフェインレスのティーをお願いした。

 

...三十分くらいだろうと言っていたので、小さいサイズにしておこう。

 

 

 

 

 

ーーー

 

 

 

 

それからほんの十五分少々経ち、少し息を切らしたような様子でお目当ての人物が入店してきた。

僕は軽く手を振って自身の席を示すと、彼女はこちらに手を振り返してから手早く注文をしているのが見て取れる。

 

トレーを受け取るやいなやこちらに駆け寄ってくる彼女。嬉しそうな満面の笑みを浮かべ、可愛らしくこちらに向かってくる様はとても微笑ましい。先ほどと変わらないぴしっとした社会人らしいスーツに身を包んでいるが、そのあどけなさは年下の女の子のようにも見える。

...とはいっても、実際は彼女の方が一つだけ年上なのだが。

 

「ごめん、ちょっと待たせちゃった。突然今日は上がってもいいことになったからさ、せっかくなら千鶴と一緒にいたいなって思って」

 

そういいながら一口カフェオレを口にする彼女。肩まであるセミロングの髪の隙間から見える耳飾りが大人っぽくて、その瞬間に目を奪われる。

少しだけ僕が呆けたような姿を見せると、どうしたのかと聞いてくる彼女。僕は首を振って気持ちを切り替えると自分もストローを吸ってダージリンティーを喉に通してから彼女の目を見て言った。

 

「ううん、大丈夫だよ。僕も朱里と一緒にいられないかなって思ってたから、嬉しい」

 

そういうと、少し照れたようにえへへと笑う彼女。僕もその照れが伝播してしまったのか、思ったよりも直接的なことを言ってしまったからか、それにつられて笑ってしまった。

 

別段用があるわけでもないが、そのままカフェで何でもないことを話しこむ。それぞれの近況や面白かったこと、今朝の仕事のこと。

 

「もう、絶対にわざとだよね、この人選って。そりゃあ、千鶴と一緒に居られて嬉しいことは嬉しいけど、お仕事だからいつも通り話すわけにはいかないし、ちょっとやりにくいよ...」

 

それは僕もそう思った。仕事の場で普段は会わない恋人と会うとめちゃくちゃやりにくい。

 

「...とかいって、冒頭でちょっと揶揄ってきたの、僕覚えてるからね」

 

「えへへ、ごめんね。いつもと違うお仕事モードの君がかっこよくて、見てたらつい言葉がもれちゃった。でもその後はきちんとしてたでしょ?」

 

「まぁ、確かに。話題が話題だったしね」

 

「あ、そうそう!どうせ千鶴がくるんだったらもっと楽しい話題にしてくれればよかったのに!そりゃ今ホットな話題だから男性専用車両のことになるのも分かるけど、なんでわざわざ今日なのかなー...」

 

「まぁ、僕の印象的には触れない方が不自然だし...多分担当者さんも本来はそのことで呼んでくれただろうからね。今回のことは偶然だったんじゃないかな?」

 

「ぜーったい違う、確信犯だね。まだ公表して二週間しか経ってないんだから、絶対いろんなこと言われるって...あー、ほら、もうSNSで切り抜かれてる。朝からイチャイチャを見せつけるテレビカップル、だって」

 

「そんなにイチャイチャしてなかったと思うけどな...」

 

そんなことを言いながら、二人してSNSの反応を見ては感想を言い合う。僕と朱里が付き合っているということを公表した熱が再燃してるのか、反応は会見のときと同じくらいか下手したらそれよりも大きいように思える。

 

一通り感想を見終わると、朱里が思い出したように強い口調で言った。

 

「あ、そうだ!千鶴、いい加減タクシー移動を基本にするなり、事務所に言って送迎の運転手さんをよこしてもらうなりしてよ!私それ言っちゃいそうになったんだから!昔ならいざ知らず、今はもう売れてるんだからそういう対応だってしてくれるでしょ?」

 

「うーんと、その方がいいとは思うんだけど...ほら、あんまりそういう生活を知らずに今日まで生きてきたから、どうしてもお金がもったいないなって思っちゃって...仕事だっていつまで貰えるか分からないんだし、なるべくは節約して貯金したいなって思ってて...それに、売れてると言ってもまだまだ駆け出しだし、あんまり図々しいことは言える感じでもなくて」

 

「千鶴のそういう倹約家なところは良いと思うけど、それで痴女みたいな被害にあったら元も子もないんだからね!?今日だって自分で言ってたじゃん。...私だって、もし千鶴がそういう危ない目にあったらって思うと心配なんだよ?」

 

そう真正面から言われると、申し訳ない気持ちがわいてくる。

僕が何と言おうか迷っていると、返事をするよりも先に朱里が言葉を重ねた。

 

先ほどまでの慌てた雰囲気が少しだけ和らぎ、代わりに真剣みを帯びている。

 

「...えっと、その、それにさ、いや、千鶴がやりたいってことは私も応援したいと思ってるし、おうちだって二人で作っていけばいいと思ってるから、全然急かしたいとかそういうつもりはないんだけど...」

 

そこまで言ってから一度言葉を区切り、ほとんどないであろうカフェオレの入っていたコップに口をつけるふりをすると、朱里は冗談を排した頼りがいのある目で続けた。

 

 

「私、ちゃんと千鶴と...その、子どもを、養えるくらい、頑張るからね...?」

 

 

自分の恋人からその言葉を聞かされ、どうしようもなくドキドキしてしまう。

 

二人の間に甘い雰囲気が漂い、僕もたまらず空になっていたカップで顔を隠すように口につけた。

 

 

 

...貯金してるのは結婚資金のためだよ、って言おうとしたものの、よりインパクトで上回られてしまってはどうしようもない。

 

 

 

 

 

 

ーーー

 

 

 

 

 

 

「結構混んでるね...」

 

帰り道、タクシーで帰ろうという彼女に譲ってもらって僕は同棲しているマンションまで電車での帰宅を選択した。ここからだとそこそこ...いや、結構良い値段になってしまうし、何より今日は朱里がいるからだ。仮にもし誰かしらに狙われていたとしても朱里が守ってくれるだろう。朱里は「勿論!千鶴のことは私が絶対守るからね!」と言っていた。頼りがいのある限りだ。

 

なお、現状男性専用車両は帰宅ラッシュには設置されていない。

 

列車が来るとまるで雪崩のように人がおり、また同じくらいの人が入っていく。僕たちは後ろの方から何とか乗ることに成功した。

 

僕は車両のドア前の端っこに、朱里の体でガードされるようにして立っていた。

急行列車なので途中駅をどんどんと飛ばしていく。しばらくはこのドアも開かないだろう。

 

背面をドアに押し付け、僕の正面に朱里が立っている。

 

朱里の両手が僕の両サイドに回されており、いわゆる壁ドンのような体勢になっていた。至近距離で密着し、少し香水の交じったいい匂いがする。

本当に朱里が居てくれてよかった。普段なら鞄を前に抱えてガードするなりなんなりするのだが今日に限っては薄い荷物入れ一つしか持ってなかったため、朱里が居なかったら全く見ず知らずの人と密着することになっていただろう。

 

そのまま幾ばくかの時間が過ぎる。

 

電車が揺れるたび、一呼吸遅れてその力に押し流される僕たち。朱里は僕の体がふらつかないように抑えていてくれた。

 

「千鶴、大丈夫?つらくない?」

 

朱里がそう若干心配そうにこちらを見てくる。端麗な顔立ちが真ん前に接近して、思わず返事をするときに視線を少し下げてしまった。

 

「うん、大丈夫だよ」

 

...もちろんそのつもりはないと分かっていても、朱里の大きな胸元に顔を埋めて抱き着くような姿勢になってしまって、そのことが少し恥ずかしい。

 

 

そんな状況を続けていると、朱里に支えられたまま高速で移動する車内の中で先ほどまでの甘い空気を思い出してしまった。

 

 

...そういえば、最近、シてなかったな...。

 

 

マズい、と、そう思ったときにはもう遅い。一度意識してしまうと、頭から振り落とそうとしても中々ソノ考えが消えてくれない。

公共の場である電車の中で、よこしまなことを想像しているなんて冗談じゃないと思いつつも、時折押し付けられる朱里の豊かな体や僕の足に差し込まれる彼女の太ももが僕の正常な思考を歪めてしまう。

 

一度始まってしまった妄想は、堰を切ったように頭に流れていく。

その淫らな考えは、どうしようもなく一点に集中してしまって。

 

 

...あっ、まって、だめ...とまってっ!

 

僕は理性で何とかそれをとどめようとするも上手くいかず、必死に朱里に弁明を始める。

 

 

「いや、違うの、朱里。これは、その、そんなつもりなくって、朱里がいるってこと、意識しちゃったからで...普段からそんな、こんなことになっちゃうなんてことはなくって...!!!」

 

不味い、ダメだ、こんなことなら、朱里の言う通り大人しくタクシーに乗っておくんだった。

 

どうしよう、淫らな子って思われたかもしれない、逆痴女まがいのことをするビッチって思われたかもしれない...っ。

 

 

嫌われるかも、しれない。

 

 

先ほどまでの思考を塗りつぶすように、一転して不安が僕の頭を埋め尽くす。感情が乱高下し、動悸が収まらなくなり、ついには目にじわりと涙が浮かんでしまう。

どうしようと途方に暮れていたその瞬間。

 

 

朱里の手がさりげなく、けれどもしっかりと僕のことを包んだ。

 

 

「落ち着いて、大丈夫だよ。分かってるから」

 

 

温かく、ゆっくりと、平穏な時と何も変わらないその声色に、とても簡単に心が凪ぐかの如く安定していく。

 

視界を上げると、大人びた美しい笑みを浮かべる朱里。その微笑みはまるで聖母のようで、僕の不安を一掃するだけの懐の広さと慈しみの感情を持っていた。

 

「最近、お互い忙しかったから、あんまりしてなかったもんね」

 

そう彼女に声をかけられ続ける。

 

耳元で囁かれ、心を絆され、目の前の最も安心できる相手に余計な力が抜けていく。

 

「大丈夫?おうちまで、我慢できる?」

 

首を小さくうなずかせて返事をする。

その後も、僕が安心できる言葉を何度もかけてくれた。

 

「うん、偉い子。もうすぐ着くから、それまで辛抱してね」

 

 

あぁ、本当に、頼りになる。彼女の匂いを胸いっぱいにかいで、その温かさを全身で享受して、もう僕はこの人なしでは生きられないんだろうというくらい、強烈な安心の感情を抱かされる。

 

先ほどまでの不安はどこかに消え、もはや早く家に着いてくれないだろうかという蕩けた欲望しか頭にはない。この人に体を預けて抱きかかえられている時間に、幸せとじれったさしか感じていない。

 

彼女は再度僕の耳元に口を近づけ、吐息のまじった少し低い声で息を潜めて言った。

 

 

 

 

「...おうちに着いたら、たくさんシてあげるからね?」

 

 

 

 

 

 

 

 




恋人として冷静に包容力のある対応をすることに成功した朱里でしたが、内心では垂涎を飲みこみながら今すぐ襲いたいという衝動をなんとか理性で持ちこたえていました。二人は帰宅後に過去一激しい夜を過ごし、翌日自分たちが電車内でいちゃつくバカップル扱いされていたことを知るのでした。

ちゃんちゃん。




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