貞操観念逆転世界における人妻の対義概念について 他   作:ちくわサンド

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別の作品でも貞操逆転で妹もの書いて、俺ってもしかして妹好きなのか…?(新発見)





終わんなかったので一話完結という肩書は無くなりました。一応オチはついてます。


貞操逆転世界における義理の兄妹恋愛について 

とん、かん、とん、と、階段を上っていく。

兄さんが住んでいる部屋は三階にあるためエレベーターを使うほどの労力は必要ない。大学生になって部活動がなくなり最近は運動量が減ったが、流石にまだ貯金があるためこれくらいを躊躇うようなことはしない。

 

…ただ、兄さんは自分が仕事から帰ってくるときはエレベーターを使っているらしいが。

あの人はこういうところで少しずつ歩く習慣をつけた方がいいんじゃないだろうか。どうしてあれほどまでにズボラで運動不足なのにスタイルがいいのか、長い事一緒に生きてきてもいまだに分からない。

 

まだギリギリ朝ということもできる早い時間だからか、土曜だというのにも関わらず誰ともすれ違わなかった。それどころか、マンションのどこかから人が出てくる気配もない。

 

そう時間がかかることもなく、目的の部屋の前についた。先ほどエントランスのロックを解除してくれたから起きてはいるはずなのだが、ひょっとしたらここに来るまでの短い時間で二度寝しているかもしれないと思い再度インターホンを押す。

 

やっぱりすぐにはでない。二度目を押し、三度目を押そうと手をかけたところでドアの向こう側で鈍く人が動く音がした。

 

その後ゆっくりと鍵が開かれ、半分ほど開いたドアから白くゆったりとしていて肩のちょっとはだけたふわふわな寝間着を着て、ぴょんと跳ねた寝癖をそのままにした若い男性が現れた。男性にしては高い背も、猫背のせいで縮まって見える。

 

三波秋人、私の兄さんだ。

 

兄さんは目を擦りながらこちらを見ると、何度も見た穏やかな笑顔を浮かべて言った。

 

「ん…あぁ、おはよう春香」

 

何年も見ていたはずのその微笑みだったが、最近は会えてなかったことが拍車をかけたのかいつにも増して美人に見えた。久しぶりに会えた嬉しさを出さないように努めて平静を装いながら返事をする。

 

「おはよ、兄さん」

 

わずかに空いたドアから部屋の様子を覗き見る。明らかに前回帰った時とは様子が違っていた。

 

「…ねぇ兄さん、いい加減部屋片づけられるようになりなよ」

 

兄さんは反省しているのかしていないのか分からないばつの悪そうな微妙な笑顔をしていた。

 

 

 

 

 

ーーー

 

 

 

 

「前来た時にあれだけ片づけたのに…」

 

部屋に通されると、予想をしていた通り部屋には様々な物が無秩序に散乱していた。

飲みかけのペットボトルや何かに使ったであろう残りの小銭、本類、閉まっていないクローゼット、配達の段ボールやなんだかよく分からない書類。ビールの缶やコンビニ弁当の残骸などが最低限ゴミ袋にまとめられているのが数少ない救いだろうか。

 

足の踏み場もない、とまではいかないものの十分に散らかっていると呼べる有様だった。

 

「い、いや…あはは、これでも僕的には頑張った方っていうか…最近忙しくって…」

 

「先々週もそんなこといってたよね?もう、兄さんはちゃんと社会人できてるの?私が片づけてくれるからってどんどん生活能力が退化してない?」

 

「そんなことはないんじゃないかな…?一応、一人暮らしも長いんだし」

 

「じゃあもう手伝いは必要ない?」

 

「それはお願いします…!」

 

若干大げさなに両手を合わせて頭を下げる兄さん。ただ、私も本気で言っているわけではない。なんだかんだ言って兄さんの部屋に来れる口実にもなっているからだ。

 

もっとも、毎回来るたびにゴミ部屋になっているというのも考え物だが。

 

「それじゃあいつも通り絶対ゴミなやつから適当に捨てていくから、兄さんは捨てられたくない物だけとっとと先に回収しちゃって」

 

そういうと、部屋にあったいくつかの書類を拾う兄さん。恐らく仕事関係なのだろう。私はストックしてあったゴミ袋を勝手知ったる戸棚から取り出すと、さっさと要らないものを捨てていった。ここのマンションはゴミ出しが24時間可能でありがたい。週に二回くらいしかゴミを出せなかったら、間違いなく兄さんの部屋はゴミ袋で埋め尽くされていただろう。

 

床を占領していた様々な障害物が取り除かれるとコンパクトな掃除機を取り出して仕上げにかかる。どうせ私が来た時から一回も掃除なんてしてないだろうから丁寧に。案の定もの凄い勢いでタンクが埃で埋まっていくのが見て取れた。これは中身を捨てなきゃダメそうだな。

 

 

私の兄さんは片付けができない。というより片付けをはじめとした身の回りのことが苦手で、かつ大雑把な人間だ。片付けができる人間がちゃんとした人間だと思うので、兄さんはちゃんとしてない人間に分類されるといえる。

 

兄さんの大雑把さは筋金入りで、記憶の内では小学生のときからそうだった。よくお父さんに出した玩具は片づけなさいと言われていて、私はそれを見て叱られないように先回りして片づけをすることを覚えた。しかし兄さんはいつまでたっても怒られていたため、見かねた私が兄さんの片づけを手伝うようになった。

 

他にも、絵具だとか習字だとか裁縫だとか、そういう様々な場面で兄さんの大雑把さは光った。

 

今思うとそれが最初だったのだろう。私は兄さんの世話を焼く学生生活を送ってきた。とはいっても、それが嫌だったわけじゃない。小さい頃からそういうものだと思っていたし、片付けをするのも好きだった。

 

兄さんが社会人になった今でもそれは変わらず、私は大学生になっても時折兄さんの住むマンションにやってきてはこうして片づけをしていた。実家暮らしだったころも酷かったが兄さんが一人暮らしを始めてから、もっと言うと会社で働き始めてからは輪をかけて酷くなり、こまめに片付けをしないと私の方が心配で居ても立っても居られないといった具合だ。

 

まあ、片付けをしている間は大好きな兄さんと二人で共同作業をしている時間だ。終わったら二人でご飯を食べたり、ゆっくりとした時間を過ごしたりすることができる。その時間が好きだからというのもある。

 

兄さんは一人では片づけをしないくせに私がやり始めると一緒にやってくれる。なんでも、「妹一人にさせるのは流石に気が引ける」とのことらしい。それに、他者のことになると急に人が変わったように気が回ったり細やかになったりするのだ。兄の性格ながら他人とのコミュニティでやっていけていたのもそういうところがあったからだったりする。

内緒だが、恐らく兄は自分の中で自分に対する評価が低いんじゃないか、なんて私は思ってたりもする。

 

兄さんは大雑把な性格だが、朗らかで温和で、いつも笑みを浮かべて楽しそうにしている。なんというか年上の余裕という奴だろうか、なんでも包み込んであやしてくれそうな雰囲気があるのだ。背が高いところとか、二重でたれ目なところとか、なんかいい匂いするところとか、鎖骨に視線を誘導する首元のほくろとか、首をこてんってかしげて何かを話すところとか、ゆったりとした話し方とか、女の意識を奪う魅力が凄い。それに足して天然成分も入っているのだから余計にタチが悪い。

 

妹の私が言うのもなんだが、同人誌なんかでよく出てくる「小さい子の初恋を奪う近所のお兄さん」とはうちの兄のことだと思っている。実際、子どもの頃は私の女友達は軒並み揃ってうちの兄に近づこうとする始末だった。そいつらは友達だが、邪な目で兄を見てくる奴らに兄に触れさせるわけにはいかないため私が追い払っていた。

 

初恋を奪われたのは私も同じだし。絶賛継続中だし。

 

 

私が十八歳になり、大学生になったある日。両親は兄が帰省してきた時を見計らって兄と私を呼ぶと、衝撃の事実を言った。

 

ー実は母さんたち、再婚なのよ。

ーあぁ、まだ春香は物心ついてなかった頃の話だ。

 

私は驚嘆した。

 

今までずうっっと四六時中えろくて無防備な兄と一緒に生活していて、お風呂あがりとか寝起きとかで毎回心をかき乱されて、でも兄妹だからそういう関係になることは叶わないと諦めて毎日毎日兄を思って一人ですることしかできなかった私にはちょっとしばらくの間現実とは思えなくなるニュースだった。

 

…そんなこと、ある?

 

この時の正直な感想だ。呆然として、他に頭が回らなかった。

 

兄は事前に知っていたらしく落ち着いていた。「血が繋がってなかったとしても、春香は僕の大切な妹だよ」とは兄の言葉だが、それは当然として私にはそれよりも大切なことがある。

 

義理なら我慢する必要なかった。私、我慢しなくてもいいんだ。

 

しかし、ならば明日からは積極的にアプローチするとはいかず、生まれてから今まで付き合ってきた関係性はそうやすやすとは変わらない。それに、兄さんの口振りから察するに兄さんは私のことを妹としか思っていないのは明らかだった。大切に思ってくれていることが嬉しい反面、女として思われていないことにやるせなさを覚える。

 

私は今更どうしたら妹以上に見てもらえるのか分からないまま、ずるずると何の変化も起こせず今に至っていた。

 

 

 

 

 

ーーー

 

 

 

 

 

「兄さん、寝室も掃除機、かけていい?」

 

隣の部屋から出てきた兄さんに、一応聞く。

 

「うん、いいよ」

 

私は掃除機のコンセントを一度抜くと、両手で抱えてその部屋に移動した。兄さんのベッドと机、ちょっとした収納が置いてあるだけの簡素な部屋。今の兄さんが寝起きをしている部屋。

実家にいたころとは違う、異性の部屋に入っているという自意識が芽生える。兄さんの匂いのする布団に飛び込みたい衝動をぐっと堪え、電源をコンセントに指し直して掃除を再開しようとしたその時、私の目が吸い寄せられるものがあった。

 

私は堪らず兄さんを呼んだ。

 

「…っ!ちょっと、兄さん、これ」

 

指差した先にあったのはコンパクトサイズのクリップのついた折り畳みハンガー。そして、それに干されている

 

…兄さんの、黒い普段使いの下着。

 

私は思わず動揺し、少し上ずった声で兄さんに声をかけた。別に今まで生きてきて兄さんの下着を初めて見たということはない。それどころか今までも思いっきり意識していた節はある。けれどもこうしてまじまじと見せつけられると挙動不審になってしまうくらいには、それはあまりにも刺激的だった。

 

そんな私をよそに兄さんは「あぁ、ごめんごめん」と言って、何でもない様子で下着を回収している。

 

…兄さんは、私に下着を見られてもなんとも思わないんだな。

 

改めてその事実を目の当たりにして、私の中の薄暗いもやもやとした感情が積もっていくのが分かった。

 

そんなふうに思う傍ら、私は兄さんが下着をクローゼットに閉まっているところまで無意識に目で追ってしまっていた。目を逸らそうと思ったときにはもう遅く、それが兄さんに気付かれていると分かるまでにワンテンポ遅れてしまった。

 

兄さんはわざとらしく下着を隠すと、目を細めて悪戯っぽく口元を上げ、少し弾んだような声色で言った。

 

「…もう、春香のえっち。見すぎだよ?」

 

その言葉が私にクリティカルヒットする。

 

兄さんは私が自分たちが義兄義妹と知ってから、時折このようなことがあると私のことを悪戯にからかうようになった。私の方が兄さんのお世話をしてあげてるはずなのに、生意気にも私の嗜虐心を煽るような挑発ともとれる言動をしてくる。

 

分かっている。これはおそらく兄さんなりに私たちの間に距離ができないためにあえてからかっているのだ。血が繋がっていないからって余所余所しくなったりしないで話ができるように、今まで通り軽口を言い合えるように考えてくれているのだろう。

 

しかしやり方が悪い。

 

兄さんのいつもの優しいおっとりとした笑顔の中にある、小悪魔のように女をからかう微笑が心に突き刺さり先程とは違う意味での鬱憤が溜まっていく。

 

…はい?兄さんが無警戒に下着なんて干してるのが悪いんでしょ?好きな人のものなんだから目の前にあったら見ちゃうのは当然のことに決まってるでしよ?

 

いっぺん分からせてやろうか…。

 

 

なお、勿論そんなことは口には出せない。いや、その、となんと言い訳しようかと口をぱくぱくさせていると兄さんはくすっと笑って表情を崩し、いつもの笑みに戻って言った。

 

「結構いい時間だし、お昼にしようか。ピザでも取ろうと思うんだけど、何がいい?」

 

 

 

 

 

 

ーーー

 

 

 

 

 

 

綺麗になった部屋のソファで二人して並んで座り、まだ届いたばかりで温かさの残る大きなベーコンの乗ったそれをぱくつく。私のことを考えて大きなサイズを頼んでくれたようで、兄さんは二切れ目を取ったところで少し手が止まっていた。

 

「相変わらずいい食べっぷりだね、ほら、ポテトもあるよ」

 

兄さんは小食だ。小学校の頃から給食を食べるのが苦手で、今でもひょっとしたら私が食べる量の半分も食べていないかもしれない。少なくとも、頼んだLサイズのピザの三分の二と付け合わせのポテトの半分は私が食べていた。

 

「兄さんはもう少しご飯食べた方がいいよ、背高いのに手とか足とか細いんだから、見てて折れちゃうんじゃないかってくらい心配」

 

「そうかなぁ…普通くらいだと思うけど」

 

確かに男性目線ではそう感じるかもしれないが、女としては誰かに襲われでもしたらどうするんだと心配になる。

 

私はピザをもう一切れ兄さんの皿に置くと、兄さんは小さい口でもくもくとそれを食べ始めた。

 

「食べると言えばさ、兄さん、またコンビニのお弁当ばかり食べてたでしょ?忙しいのは分かるけど、たまにはちゃんと料理しなきゃ栄養偏るよ。ただでさえ痩せ型なのに」

 

「あはは…だって、一人で料理してるとなんか…寂しくってさ」

 

先ほどまで掃除をしていて部屋は散らかっていたが、台所回りは若干浮いているくらいに片付いていた。兄さんが一人暮らしを始めてから最初の方は自炊もしていたのだろう。調味料の類や道具も綺麗に整頓されていた。

兄さんはこんな性格だが料理ができる。むしろ趣味としては得意な人だ。

 

私がまだ小学生くらいだったころ両親が仕事で遅くなった時なんかは、当時中学生だった兄さんが晩御飯をつくってくれたりした。最初の頃は兄さんも失敗することこそあったが、半年も絶たないうちに兄さんは凄く料理が上手になった。週に一度あるかないかといった具合だったが、私はその日が楽しみだった。

私が高校に上がると、私のお昼のお弁当は兄さんがつくってくれていた。自身も大学で食べるからお金を節約できるついでと言っていたが、兄さんは私のために私の好きな物を入れてくれたり、私が部活の試合の日なんかは気合を入れてつくってくれていたりと、明らかに私のためを思ってくれていた。

兄さんは私が来ると毎回こうしてご飯を奢ってくれる。けれども私は兄さんがつくるご飯の方が好きだった。

 

「…じゃあさ、兄さん。今日の夜ごはん、一緒につくらない?私も大学入って自炊するようになったし、一人じゃなきゃ大丈夫なんでしょ?」

 

私がそういうと意外そうにこちらを見てくる兄さん。

 

「私も久しぶりに兄さんのご飯食べたいし」

 

兄さんは最近、ちょっと気持ちが沈んでいるように見える。昔から儚い印象の人だったものの近頃はいつにもましてそうだ。私の前では元気そうに振舞っているし仕事も特別ブラックというわけではないと言っていたが、それでも気持ち的な疲労が残っているのだろう。気分転換にでもなればいいと思って、私はそう口にした。

 

兄さんは分かりやすく顔を明るくして、食べかけていたピザの切れ端をいそいそと口に収めてから言った。

 

「うんっ!それ、凄くいい!嬉しいな、春香からそう言ってくれるなんて。何つくろっか、春香は何が食べたい?兄さん久しぶりに張り切るよ!あぁでも冷蔵庫の中何にもないや。後で買い物行ってきていい?」

 

「私も行くよ。兄さんだけに荷物持たせるわけにもいかないでしょ」

 

今日一番の明るい声色で返事をする兄さん。どうやら私は正解ルートを選べたらしい。

楽しそうにメニューを考える兄さんを見て、私も自然と嬉しくなった。

 

 

 

 

ーーー

 

 

 

 

気持ち早めに昼食を終えると、一休みしてから私たちは揃って出かけた。目的地は近所のスーパーなので散歩がてら歩きだ。多少買い込むかもしれないが、その場合も私がいるのでさほど苦労はないだろう。

 

兄さんは先ほどまでの部屋着から着替え、白いTシャツにズボンというラフだが出掛けるには十分という恰好をしていた。むしろ服がシンプルな分、兄さんのスタイルの良さや色気が強調されている気もする。

 

穏やかな休日の午後の街中を、二人で並んで歩く。夏前だというのに今日は珍しく晴れていて、気温も暑すぎず寒すぎずのまさに散歩日和と言える温度。

 

カラッと晴れた空とぽかぽかとしたお日様、隣には兄さんもいる。今の私は無敵だった。

 

…あとは手を繋げられれば完璧なのになぁ。

 

兄さんもこの天気に嬉しそうな顔をしながら笑顔で隣を歩いている。お財布と携帯を入れた小さなポーチと買い物用の大きなマイバッグを肩にかけており、その両手は空いている。

 

多分、手を繋ごうと私が提案をすれば、若干不思議な顔こそするかもしれないものの兄さんは断りはしないと思う。

 

大人になっても仲のいい兄妹が手を繋ぐだけ。それだけ。

 

そう、自分に言い聞かせようとするも、どうしてもあと一歩踏み出せない。気恥ずかしさを免罪符に、勇気を出すことに躊躇いを覚える。

 

…まぁ、今は難しいことを考えるのはやめてこの安らかなひと時を楽しもう。

 

そう自分を言いくるめると、少し前を歩いていた兄さんがこちらに歩調を合わせて言った。

ご機嫌な様子で、何気ない雑談の一つだ。

 

 

「そういえば、春香はバトミントンの方はどう?」

 

私は一瞬、答えに詰まる。正直に話すとおそらく気を使わせてしまうだろうし、濁すという選択肢もあった。

 

「…ううん、最近はやってない」

 

けれど、兄さんに隠し事をするという後ろめたさの方が嫌な気がした。

兄さんは私の声のトーンが落ちたのにすぐに気が付いた。私はなるべく兄さんにちゃんと、かつ深刻そうに聞こえないように訳を話すことに決めた。

 

「大学の部活でさ、ちょっと男女関係でトラブっちゃって…同じ学年の子に、私が彼氏を取ったって言われて…。もちろんそんなことしてないよ?でも、その男の子が最近私に言い寄ってきてたのは事実だから、いくら断っても傍から見てたら仲良さそうに見えてたらしくって…」

 

そこで一つ区切る。兄さんは静かに私の話を聞いていた。

私はなるべく重い空気にならないように、かつわざとらしくなりすぎないように、自分のテンションを調整しながら続けた。

 

「それで色々あってさ、結局居づらくなっちゃってさ、やめちゃった。…あっ!とはいってもそんな心配しないでいいからね?無関係な子とか、ちゃんと分かってくれてる友達とかもいるし、実はその子たちも一緒にその部活やめちゃって、それで私たちだけで別の体育館とか行ってバトミントンやってるし、全然大丈夫だからっ!」

 

そう、別にそこまで深刻な問題だとは私自身思っていない。元々高校で引退したもので、趣味の程度で続けられたらそれで満足だったのだ。むしろ人間関係で大変な思いをするくらいだったら最初からこうすればよかったと思っているくらいである。

 

その一件の結末として、その男子は他の女にも同じような態度をとっていた有名なサークルクラッシャーだったらしく、今の部活はその男子の取り巻きばかりで悪評が立っている。私たちは努めて近寄らないようにしており、もはや無関係だ。

 

余談だがこの時に一緒にやめてくれた友人と、子どもの頃兄さんに言い寄ってきた子たちは同一人物だったりする。兄さんにちょっかいをかけようとすることを除けば大切な友人なのだ。

 

 

私が話し終えると兄さんは少し歩くペースを落とし、無言でこちらの手を握ってくれた。

 

指と指を交互に絡めるように。私の記憶にある兄さんの手よりも少しだけ小さくなったような気がする。けれども、その温かさはなんら変わらない。

 

その手が私を励ますようで、かつ心配いらないという私のニュアンスを汲み取ってくれたようで、私は兄さんが私を分かってくれているという嬉しさとそれはそうと兄さんと手を繋げて嬉し恥ずかしいという動揺とで少し慌てる。

 

そんな私の様子を見た兄さんは、安心したように笑っていた。

 

兄さんは私が過度な心配をしてほしくないという気持ちを持っているのを分かってくれたのだろう、純粋に、そして簡潔に返事をしてくれた。

 

「そっか、春香が大丈夫なら、よかった。一緒にいる友達って、昔からよく家に遊びに来てた子たちかな?…いい友達がいてよかったね。僕もお礼を言いたいな」

 

私は兄さんのその言葉を聞くと、兄さんの手を握り返して満面の笑みで言った。

 

 

「絶対ダメ。私がいないところでは誰にも会っちゃダメだから」

 

 

良いところがないとは言わないし、昔から知っているので信頼もしているが、女子大学生なんて基本的には馬鹿の塊みたいな集団だ。兄さんみたいな年上の色っぽい美人がフラフラ寄ってこようものなら真っ先に馬鹿なことをして、人がいい兄さんはそれを断りきれなくなるに違いない。

 

兄さんは困惑していたが、こればっかりは譲れない。

 

 

そんなことを話している内に、私たちはセールの内容を示すのぼりの立った、兄さんのマンションの近所のスーパーに着いていた。

 

 

 

 

 

 

 




この世界の女子大学生というのはぐら○ぶる的なやつです。

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