危険な個性を持って生まれたら 作:れる
※本編とは全く関係ないお話です。
【番外編】葉隠透誕生日記念
6月上旬の日曜日、火水は普段は訪れないであろう雑貨屋に来ていた。しかし自分用の品物を買いに来たのではなく、とある人物へのプレゼント探しが目的だ。
と言うのも遡ること2週間前、とある人物…まあ葉隠さんなのだが。彼女がやたらと自分の周りでアピールをしてきた。休憩時間では火水の席近くで友達と喋りやれ誕生日はいつなのかと話していたり、反町さんと3人で昼食をとっていたときも誕生日の話題で盛り上がっていた。
そこで反町さんがプレゼントを用意するねと言ってしまった。その時は自分に何も言ってこなかったがこれで何も準備しないでいたら最後、不機嫌アピールをされ、延々と文句を言うことだろう。思わず小さくため息をついた自分を許してほしい。
そんなこんなで誕生日プレゼントを買いに来たわけだが、ここでひとつ大きな問題がある。今まで友達がいなかったせいで、誕生日プレゼントとやらをあげたことがない。つまりは同性はもちろん異性に対するプレゼントなんて全くわからないのである。とりあえず何かしらありそうな雑貨屋を選んでみたが、何にすればいいか全くわからない。
一応、ネットで調べてはみた。女の子には化粧、アクセサリーなどが良いだとか、今時はスマホでギフトカードを送るだとか。正直色々ありすぎて混乱したため実物を見に来た訳だが、むしろ逆効果だったかもしれない。ギフトカードでいいかなあと考えていたところ、女性店員さんに話しかけられた。
「いらっしゃいませ、何かお困りですか?」
「あーえっと、友達の誕生日プレゼントを買いに来たんですけど、何がいいか全然わからなくて…」
「なるほど、ご友人は男の子ですか?それとも女の子でしょうか?」
「女の子です。」
そう答えるとなぜか店員さんは微笑ましい笑みを浮かべた。
「でしたら店内にあるものですと、アクセサリーや香水なんかがよろしいかと思います。」
「それも考えていたんですけど、あまりセンスに自信がなくて。相手の好みと違うものだったら微妙だなって。」
「では普段使いできるものやリラックス用品なんていかがでしょう。入浴剤なんかは性別年代問わず人気のプレゼントですよ。」
なるほど日用品か、プレゼントだから特別なものを想像してたけど友人相手だしそういうものでもいいんじゃないか。
「ありがとうございます、参考になりました。」
「はい、ではごゆっくり。」
店員との会話を終え、火水は再び店内を見回った。やがてとある商品群が置いてある棚の前で足を止め、しばらく悩んでからそのうちのひとつを手に取りレジへ向かった。
「はい、ではこちらのお品物が一点で2500円です。」
先ほどの店員さんがレジ対応を行ってくれた。プレゼント用なのでと綺麗な包装紙に包まれ、リボンまでつけてもらったそれを紙袋に入れられ手渡された。
「ありがとうございました…先ほどは色々言いましたが、女の子は一生懸命選んでくれたものならなんでも喜びますよ。頑張ってくださいね。」
「ありがとうございます…?」
女性目線の意見はすごく助かったし、太鼓判も押してくれた。しかし頑張ってくださいとはなんだろう。火水は頭にはてなマークを浮かべながら店を出た。
◆
「誕生日おめでとう、私〜!!」
わーぱちぱち、と火水と反町さんが小さく拍手する。本日は6月16日、我らが葉隠さんの誕生日ということで、放課後にそこそこ通い慣れたスタバにやってきている。
「おめでとう透ちゃん、これプレゼント。」
「わーありがとう衝子ちゃん!」
反町さんがおずおずと差し出した可愛らしい小包を葉隠さんが丁寧に開けると、中からルームフレグランスが出てきた。葉隠さんは大袈裟に喜び、反町さんはどこか照れくさそうだ。
「で、天地くんは〜?まあプレゼントとか渡したこと無さそうだもんね〜準備してなくても全然。」
煽るように、しかも図星をさされイラッとしたが生憎今回は準備している。カバンから雑貨屋で買った包みを取り出し、片手で渡した。
「わ!ちゃんと用意してくれたんだ。」
そりゃあんだけアピールされればな、とは口に出さなかった。彼女が火水のプレゼントを丁寧に開けると、二組の大人っぽくてどこか可愛らしい白のハンカチが出てきた。
「…これほんとに天地くんが選んだの?」
「いらないなら返してもらうけど。」
「わーうそうそ!むっちゃ嬉しい!2人ともありがとー!2人の誕生日楽しみにしといてね!」
失礼なと言わんばかりに火水はわざとらしくため息をついた。反町さんは苦笑いをしながらその様子を眺めていた。
「っていうか誕生日会って言うからどこか行くのかと思ったけど、いつもと同じで普通なんだね。」
イベントが好きな葉隠さんが、自身の誕生日にいつもとは違うところに行ったりしないのかと意外に感じた。しかしこの言葉を聞き葉隠さんの見えない目が怪しく光ったように錯覚した。
「ほう、つまりは天地くんは特別な場所に行きたいと。」
「え、いやそういうんじゃ…」
「あー急にどっか行きたくなったなー誰か連れてってくれないかなー」
完全に先ほどのは失言だった。取り消したいが時すでに遅し、さらには謎の誕生日オーラを身に纏っている彼女を鎮めることもできそうにない。
「…すぐには無理だから別日にして。」
「ふむふむ、まあよかろう!じゃあ楽しみにしとくねー!」
「頭が痛い…」
「あ、あははは…」
◆
葉隠さんの誕生会があった週の土曜日の朝、火水たち3人は雄英高校と同じ県内のとある駅まで来ていた。
「結構時間かかったねー。で、ここらへんなんかあったっけ?」
「ここって県南だよね。あ、温泉って看板あるよ。」
「えー私たちと温泉入りたいの〜?もう天地くんったら~」
「もうすぐでバス来るから。」
葉隠さんの戯言を無視しバスを待つよう指示した。程なくしてバスが到着した。
「え、このバスって…」
「あっそう言えば上田駅って…」
バスの車体に書かれていた文字を見て2人はどこに行くか察したらしい。3人はバスに乗り込み目的地へと向かった。
◆
「いやーそれにしても天地くんが水族館に連れて行ってくれるなんてねー」
「ふふ、確かにちょっと意外かも。」
「別にいいでしょ、さっさと入るよ。」
バスから降りて3人を迎えたのは、入り江に浮かぶ水族館、上田海中水族館であった。予想外な場所だったため、女子2人はほほえましい笑みで火水を見つめた。火水は苦虫を嚙み潰したような表情をし、入館するよう促した。
「そうだね、チケット買いに行こ!」
「もうネットで3人分買ったからいいよ。」
ほら、と言いスマホの画面に映るQRコードを見せた。
「気が利くねーありがと、いくらだった?」
「払わなくていいよ。もう終わったけど誕生日記念に来ただけだし、ついでに反町さんのも大丈夫。」
財布を取り出そうとしていた2人を止めた。まあ誕生記念と言いつつも、もともと来たいとは思っていた。体よく言い訳として使わせてもらった。
「うーーーん…わかった、ありがたく受け取っとくわ!でも絶対にお返しするから、楽しみにしといて!!」
「私までいいの…?でも……うん、わかった。私も絶対お返しするね。」
◆
「すっごー!本当に海の上に建ってるんだ!」
「ここって船になってるんだ、すっごく大きい…あ、餌やりの時間みたい。」
「ほんとだーかわいい!」
火水がとある予約を済ませて大水槽前まで戻ってくると、女子組きゃいきゃいとはしゃいでいた。
「お帰り~どこ行ってたの?」
「イルカショーの予約。」
「ここのイルカショーって予約いるんだ。」
「普通に見るならいらないけど、特別席みたいなのがあるの。そこで見たかったから予約してきた。」
火水は受付にて受け取ったイルカショー特別シートのチケットを2人に渡す。
「ありがとう。特別席ってどんなの?」
「行ってみればわかるよ。ほらもうすぐでショーの開演だよ。」
2人を急かすようにそう言うと、火水は早歩きでショーが行われる海上ステージへ向かった。
「ねえ天地くんってもしかして…」
「うん、たぶんそうなのかも…」
◆
係員にのチケットを見せ、事前に受け取っていたポンチョを着て特別シートへ向かった。ステージで写真撮影は可能だそうだが、濡れて壊れても自己責任とのこと。めちゃくちゃ撮影したかったがさすがにスマホが壊れる恐れがあるため断念。手荷物をすべて預け係員に誘導されシートへ向かうと、海上に浮かぶ箱型の浮船が現れた。
「海がステージってすごーい!しかも海面で見れるって他になくない!?」
「うん、ほんとにすごい。こんなところあったんだ…」
2人はシートに座ったままそわそわして辺りをきょろきょろ見渡している。火水も同じ気持ちで、ショー前に優雅に泳いでいるイルカを凝視している。
「ってかさーこのポンチョめっちゃ天地くんのコスチュームと似てるよね。」
「いやレインコートってだけで全然似てないし…」
「へー天地くんのコスチュームってそうなんだ、ちょっと意外かも。」
「そーなんだよ!個性に合わせてんのかなーって思ったけど全然違うし。実はイルカショーで貰うやつを意識してたり。」
「……違うし。」
「えっ冗談で言ったんだけど。ふ~んそうなんだ~」
火水はやってしまったと言わんばかりに頭を抱えた。葉隠さんはあからさまに二やついているだろう、というかニヤニヤとうい効果音が彼女の頭上に浮かんで見えた。
「ふふ、結構かわいいところあるんだね。」
「反町さんまで…もう勘弁して…」
女子2人に辱めを受け、火水の顔は赤く染まった。こうして少しの間2人にいじられていると、火水を助けるようにアナウンスが響いた。
『ただいまよりイルカショーの開演です!皆さん、楽しんでいってください!』
「お!もう始まるって!ほら天地くんしっかり見ないと!」
「…わかってるって。」
ステージに上がる前より明らかにやつれた様子の火水が弱弱しく返事をした。ともかくイルカショーが始まった。序盤は普通のイルカショーと同じようにイルカが飛んで跳ねて遊びまわったり、トレーナーと一緒に泳いだりしていた。ただそれを海抜0メートルで見ると迫力が違う、ポンチョがなければ服ごとずぶ濡れだっただろう。
「見て見て、前からイルカ来てるよ!」
葉隠さんが指さす方向から一頭のバンドウイルカが迫ってくる。シートまであと数メートルというところで大ジャンプし、見事客席を飛び越えて見せた。その後いくつかのパフォーマンスが行われショーが閉演した。
「イルカってあんなに高くジャンプするんだね!」
「うん間近で見ることなんてなかったから、いい体験だったな。」
「写真撮りたかった…」
3人は興奮冷めやらぬ様子で談笑をしながら次のエリアへと向かった。
◆
その後はアシカ、ペンギンゾーンを見て回ったり、カワウソへの餌やり体験を行ったりと水族館を思う存分楽しんだ。最後に火水たちは出入り口付近のお土産コーナーに来ていた。女子たちは友人にお土産を買うとのことで一度解散した。火水は特に誰かにあげる予定はないため店内のとあるコーナーの前で商品を眺めていた。
「あれ?火水くんそれ買うの?」
「見てるだけだよ。ってかそんなに買うの?」
葉隠さんの手元にある買い物かごを見ると4つほどのお菓子の箱とぬいぐるみが入っていた。
「うん!家族用とクラス用でしょ、それと中学の友達用に私が自分で食べるやつ。天地くん何も買わないの?」
「一人暮らしだし、他にあげる人もいないからね。」
「友達少ないもんね。」
「うるさいよ。」
ごめーんと言いながらその場を離れレジに向かっていく葉隠さんに、火水は思わずため息をついた。この後すぐに2人の買い物が終了し、これで思い残すことはなくなり水族館を離れた。
「めっちゃ面白かったねー!」
「うん、ほんとうに。ありがとう天地くん。」
「前から行きたかったからちょうど良かった。…本当はイルカと泳げたりできるらしいけど、予約で埋まってたのが…」
火水は心残りがあるようで、少し落ち込んだ表情をした。
「じゃあまた今度行こ!よし、天地くんこの後の予定は?」
「え?帰るつもりだったけど…」
特に予定がないことを伝えると、葉隠さんはわざとらしく腕をあげやれやれといった態度をした。反町さんも少々戸惑い顔だ。
「まだお昼過ぎだよ?はーこれだから天地くんは。」
「ふふ、それなら私行きたいお店あるからそこ行こう。」
「さっすが衝子ちゃん!案内お願いね。」
2人がスマホ画面をのぞき込み、そこまでの道のりを確認すると反町さんが先頭で歩き始めた。すると葉隠さんが後ろに下がり、火水の隣まで歩み寄り小声で話しかけてきた。
「天地くん、これあげる。」
葉隠さんは手に持ったビニール袋からイルカのぬいぐるみを取り出して手渡してきた。
「えーっと?」
「今日は色々ありがとう、これはお礼。…好きなんでしょ、イルカ。」
「2番目にね。高校生だからちょっと恥ずかしいけど、嬉しいよ。」
火水は恥ずかしそうにそれを受け取り、リュックに入れた。
「あれ、そうなの?じゃあ一番好きなのは?」
「教えない。」
「えーいいじゃん教えてくれても!」
「どうしたの2人とも。」
「聞いてよ衝子ちゃん!天地くんがさあ……」
3人はわいわいと騒ぎながら次なる目的地へと歩き続けた。この日は結局夕方まで遊びあるき、くたくたになった火水はいつもより早くに就寝した。火水が眠りについた後、スマホの通知音が鳴り、真っ暗の室内がほんのりと明るくなった。
『今日はめっちゃ楽しかった!次は私が面白いとこ案内したげるから楽しみにしといてね!!』
『今日はありがとう、お礼は必ずするからね。』