危険な個性を持って生まれたら 作:れる
マスコミによる雄英高校侵入事件があった翌日、ヒーロー基礎学の時間がやってきた。相澤先生が教壇に立つと、『RESCUE』の文字が書かれたプレートを生徒に見せて授業の説明を始めた。
「今日のヒーロー基礎学だが、俺とオールマイト、そしてもう1人の3人体制で見ることになった。内容は災害水難なんでもござれの人命救助訓練だ。」
コスチュームの着用は個人の判断に任せるとし、訓練まではバスで移動となるそうだ。相澤はすぐに準備を始めるように告げると退室した。
(災害救助、ねえ…)
人命救助こそヒーローの本分と気合を入れるクラスメイト達を横目に、火水はどこか冷めた目をしながらコスチュームを取り出し更衣室へ向かった。
◆
クラス全員の着替えが終わりバスの発着場に集合したA組一同。飯田くんの指示のもと番号順に並んだものの、到着したバスの種類が路線バスタイプのため整列した意味は特になく、飯田くんは芦戸さんから慰めだか煽りだかよくわからない言葉を貰っていた。
最初の方に乗車した火水はバス後方の2席シート窓側の席を確保した。ややあって発車したバス内はすぐに騒がしくなった一方で、火水は我関せずと言った様子で頬杖をつき窓の外を眺めていた。
ふいに肩をとんとんと叩かれた。何の用だろうと思い叩かれた方、つまりは隣の席に顔を向けると右頬に硬い何かが刺さった。一体なんだと思い目線を肩に向けると、肩に置かれた手袋が人差し指を突き出しており、それがこちらの頬をへこませていた。
「あはは!ひっかかったー」
いたずらの張本人、葉隠さんがけたけた笑いながら肩に置いていた左手を離した。
「…何?イタズラしただけ?」
「いや~天地くんバスに乗ってからずっと暗い表情してるんだもん。救助訓練苦手とか?でも天地くんの個性ならひょひょいって助けれそうだもんね。」
「隣に素っ裸の女子が座ってきて頭が痛くなっただけだよ。てか裸で救助活動って、怪我するよ。」
「裸じゃないし!ちゃんと手袋とブーツ履いてるし!」
余計変態っぽいわ、とはギリギリ口に出さなかった。それに先ほど言った通り服着てない状態で男の隣に座るなよ、いよいよ羞恥心とか無くなっているのかと思ってしまう。
「体操服でよかったじゃん。今回の訓練場は災害を想定した所なんでしょ?本当に危ないよ。」
「じゃあそれ貸してよ、レインコート。」
「なんでだよ。」
他人のコスチューム借りようとするか、普通。八百万さんに作ってもらえばいいんじゃないか。
「だってもう教室に戻れないし。それにそんなに心配してくれるなら貸してくれてもいいんじゃないかなー?」
そう言うと葉隠さんはぐいぐいと雨合羽を引っ張ってきた。
「わかった、わかったから。着いたら渡すからもうやめて。」
「後ではぐらかされそうだから今ちょうだい。」
「しないから…ってもうわかったすぐに渡すから。」
レインコートへの謎の執着に根負けして、おとなしく羽織っていたそれを窮屈そうに脱ぎ葉隠さんに渡した。彼女は受け取るとわーい、と喜び袖を通した。
「ぶかぶかだー!どう、似合ってる?」
フードまでかぶった彼女は余っている袖を上下に振りながらこちらに問いかけてきた。その姿は似合っていると言えば似合っているが、可愛いとかよりもむしろ…
「なんていうか…幽霊みたい。」
中身のない黄色のレインコートが人の形をして座っている姿はちょっとしたホラーだ。正直にそう伝えると彼女は無言で頭部に手刀を振り下ろしてきた。コスチュームを貸し出した挙句に暴力を振るわれたため恨めしそうに彼女を睨みつけるが、機嫌を悪くした葉隠さんはそっぽを向いてしまった。
「派手で強ぇっつったら、やっぱ天地と轟、爆豪の3人だな。」
2人の間に微妙な空気が流れていると、突然名前を呼ばれた。どうやらクラスメイトの個性について盛り上がっているらしい。それにしても自分の個性が派手か、そうだと言われると肯定はするがあまり話題に出さないでほしい。あとさっきまで不機嫌そうにしてたのに、俺の個性の話題に腕を組みながらフードごと頭を縦に振っている葉隠さんは一体なんなの。
「うんうん、天地くんの風の個性は強いし今回も色々役立ちそうだもんねー」
「…そんな便利な個性じゃないよ。」
火水は葉隠さんにも聞こえないよう小さく呟くと、再び窓の外を眺めた。
その後もワイワイと車内が盛り上がっていると、相澤の「そろそろ着くぞお前ら、いい加減にしとけ」の言葉に一瞬で沈黙した。
◆
先ほどの言葉通り、数分でバスがドーム状の建物の前に到着した。バスから降りると火水より先に降りていた葉隠さんが他の女子に絡まれていた。
「葉隠、あんたどうしたのそれ。天地のコスチュームだよね?」
「そう!今回危なそうだから天地くんから剥ぎ取ってきたー!」
「うわ、めっちゃ幽霊っぽ…」
「なんだとー!」
女子たちもも自分と同様の意見らしい。さっきは座ってたからまだましだったけど、歩いてるといよいよだ。夜だと確実にすれ違う人みな恐怖心を植え付けられるだろう。
中に入るとまるでテーマパークのような施設が立ち並んでいた。巨大な湖に浮かぶ船に倒壊した建物群、燃えるビルなど、災害を再現した施設だらけだ。
「すっげー!USJかよ!?」
「水難事故、土砂災害、家事…etc。あらゆる事故や災害を想定し、僕が作った演習場。その名も…
大丈夫なのかそのネーミング。USJのメインエントランスで待ち構えていた宇宙服を着たプロヒーロー『13号』先生に、火水は思わず心の中で突っ込みを入れた。災害救助で活躍しているヒーローらしく、彼女のファンである麗日さんが歓声をあげていた。
「えー、訓練を始める前に、お小言を一つ二つ…三つ……四つ……」
増えていく小言に困惑しながらも、クラス全員が静かに耳を傾けた。
彼女の個性『ブラックホール』は全てを飲み込み塵にする力を持つ。それを生かして救助活動を行っているが、その反面簡単に人を殺すことのできる個性だと言う。超人社会の現代は一見成り立ってあるように見えるがそれは厳しく管理されているからであり、誰もが互いを害する個性を持っている。この授業では心機一転し人命救助に個性を生かす訓練をしていくと。
「君たちの力は人を傷つけるためにあるのではなく、人を助けるためにあるのだと心得て帰ってくださいな。以上!ご清聴ありがとうございました!」
13号が最後にそう締めくくると、大きな拍手が鳴り響いた。
(耳が痛いなあ…)
火水は苦笑いを浮かべながらも拍手はしっかり行っていた。
早速授業を開始するため相澤が指示を出そうとしたが、すぐさま何かに気づいた。広場の噴水付近に黒いモヤが不自然に発生している。どう見ても自然現象ではないそれが個性によるものだと即座に判断すると、即座に叫んだ。
「一固まりになって動くな!」
急激に拡大したモヤからおよそ学校関係者とは思えない人物たちが続々と現れた。突然の事態に火水を含め生徒たちは状況を把握できず狼狽えていた。
「何だアリャ!?また入試ん時みたいなもう始まってんぞパターン?」
「動くな!あれは
ヴィラン、その言葉に緊張感が走るのが伝わった。多くの生徒が顔を引き攣らせる中、手だらけのヴィランがゆっくり口を開いた。
「どこだよオールマイト…せっかくこんなに大衆引き連れてきたのにさ…子どもを殺せば来るのかな?」
この日、火水は未だ経験したことのない悪意と相対することになる。