危険な個性を持って生まれたら 作:れる
火水が個性を発動させてから1分程度経ったころ、水難エリアの底が見えるまで水が流され、辺りを包んでいた水もすべて彼方へ消えていった。
「ケロ…どういうことなの?天地ちゃんの個性は風を操る個性だったわよね?」
「そう、天地くんの個性は風に関するもので、水を巻き上げるだけの威力はあると思うけどあそこまでの質量を持ち上げることなんてできるとは思えない。いやあれはどちらかというと水そのものを操っているようにブツブツブツ…」
「と、ともかくヴィランがいねえってことはオイラたち助かったんだよな…?」
恐ろしいヴィランが目の前から消えたことにより、3人はうっすらと安堵の表情を浮かべた。しかし火水の表情は険しいままだ。というのも火水は自身の個性で巻き込んだものをある程度把握している。チンピラヴィランを含めほとんどの敵を一網打尽にしたが、問題はあの2人のヴィランだ。どちらにもぶつかったもののその直後どちらか一人が突然消えた。
すると突然、崩れた噴水付近に黒いモヤが出現した。徐々に広がっていくそれから、手だらけのヴィランと黒モヤのヴィランが現れた。
「黒霧…脳無はどうした。」
「申し訳ありません、死柄木弔。あなたを救出するのに手いっぱいで、どうすることも…。それもうひとつ、悪い知らせがあります。生徒の一人に逃げられてしまいました。」
手だらけのヴィラン、死柄木はイライラした様子で首を強く搔きむしった。
「黒霧…お前がワープゲートじゃなけりゃ、今頃粉々にしてるぞ……!」
まるで子供の癇癪のように苛立ちを仲間にぶつけている。
「脳無はガキにやられる、ヒーローどもの救援もやってくる。ゲームオーバーだ、帰ろっか。…けどもその前に、平和の象徴としての矜持を少しでもへし折って帰ろう!」
死柄木は即座に火水との間合いを詰め、火水の顔を5本の指で掴んだ。しかして個性が発動され、火水の顔が崩れるかと思われたが何の変化もなかった。
「……本っ当かっこいいぜ、イレイザーヘッド。」
脳無にズタボロにやられ、先ほどまで意識を失っていた相澤が顔だけを上げ、『抹消』により死柄木の個性を打ち消した。
「手っ…放せぇ!!SMASSH!!!」
個性を発動させた緑谷が死柄木を殴りつけた。咄嗟のことに防御ができなかった死柄木は数メートルほど吹き飛ばされた。
「いっっってえええ!このクソガキどもが!!ヴィラン相手なら何してもいいと思ってんのか!?殺してやる!!」
「…やってみろよ。ご自慢の脳無はもう施設の外まで流された。お前ら程度じゃ水を使うまでもない、かかってこい…!」
今まで沈黙していた火水が口を開き、ヴィランを挑発する。しかし、頭や口から血が流れ、冷や汗も止まらない。
「ガキがっ…!調子に乗るなよくそっ…」
「落ち着いてください、死柄木弔。あの少年はどう見ても強がり、使おうと思えばすぐに使える個性も発動する様子はないです。」
「うん、そうだね。黒霧、そっちのチビガキはお前が抑えてろ。こいつは俺が殺す。」
黒霧の言葉で冷静になった死柄木は再びゆっくり火水に近づいてきた。
(あーあ、さっきの威嚇でおとなしく帰ってくれれば良かったんだけど。)
緑谷たちは火水を助けようとするも、黒霧に妨害され近づけないでいた。火水は一歩も動けずただただその様子を眺めているしかなかった。
次の瞬間、USJの扉がバアンという音とともに吹き飛んだ。その場にいた全員がそちらに顔を向けると、そこにはオールマイトが笑みを浮かべずに立っていた。
「飯田少年に何が起きたかあらまし聞いた。もう大丈夫、私が来た!」
「オールマイトォォ!!!」
待望のヒーロー、オールマイトの出現に生徒たちは安堵の表情を浮かべた。
「ああくそ!脳無のいない状況での本命登場だ…!もう打つ手はない、さっさと帰るぞ黒霧ぃ…!」
「はっ!」
黒霧が黒モヤを展開させ、その中に死柄木が飲み込まれようとしている。
「待て!」
「オールマイト!天地くんが…!」
「ムッ!(天地少年…やむを得ん…!)」
急いで死柄木たちを追おうとしていたオールマイトだったが、緑谷の言葉に呼び止められ、火水の救助に向かう。先ほどまで気力のみで立っていた火水は、力なく地面に倒れ伏していた。
「天地少年…!相澤くんまで…。天地少年が特に危険な状態だ、すぐに病院へ連れていく。しかし心配しないでくれ!もうじき他の先生方が駆けつけてくれる、私もすぐに戻る!!」
「はい!あの、天地くんを頼みます!」
「安心しなさい!天地少年は絶対に助かるさ!!」
そういうやいなや、オールマイトは火水を抱えて一瞬で姿を消した。その後、やってきた教師たちにより残党が全て捕まり、USJで発生した事件は幕を閉じた。
◆
「———の件については、大変申し訳———」
「いや———でしょう。」
どれくらい意識を失っていただろう、聞き覚えのある声が火水の耳に届き意識が覚醒した。重たい瞼をゆっくりと開けると、まぶしい光が目に入り込んできて思わすうめき声をあげてしまった。
「火水!気が付いたか!?」
久しぶりに、されど聞きなれたこの声は確か。
「空悟…さん?なんでいるの…ってかここは…?」
目をこするとぼやけていた視界が明瞭になる。どうやら病院にいるらしく白い部屋とほんのりと薬品の匂いを感じた。そしてこちらをのぞき込む空悟さんことギャングオルカ。
「雄英近くの総合病院だ。昨日、火水が重傷を負い緊急搬送されたと聞き急いで仕事を終わらせ駆けつけた。」
「昨日…?そうだ、皆は!?相澤先生は!?」
「落ち着きなさい、天地少年。クラスメイトも相澤くんも無事さ!」
「オールマイ…えっと、どなたですか?」
オールマイトのような呼び方に思わず反応してしまったが、よく見ると金髪の骸骨のような見た目をした中年男性だった。
「あー、私はその、八木という者で、雄英高校の用務員をしていてね、今日は校長の付き添いでここに来ているんだ。」
「ネズミなのか犬なのか熊なのか、かくしてその正体は————校長さ!目が覚めたようで何よりさ!怪我もリカバリーガールに完璧に治してもらっているから安心するといいよ!」
八木さんの肩に乗っているスーツを着たネズミのような動物、校長まで見舞いに来ていたようだ。そして怪我を治してもらったと聞いた、確かに折れていた左腕や肋骨に違和感はなく内臓が痛むこともない。
「そして改めて謝罪させてもらうよ。天地くん、危険な目に合うだけでなく重傷を負わせるような事態になってしまい、本当に申し訳ない。ギャングオルカも、ご子息を預かっているにも関わらずこのようなことになってしまい、申し訳ありませんでした。」
校長は八木さんの肩から降りると、ベッドに近寄り深々と頭を下げながら謝罪の言葉を述べた。
「いや、あれは僕が避難命令を無視して飛び出したからで…」
「それでもだよ、守るべき生徒を守れなかったのは我々の落ち度さ。」
「そうですか…じゃあ、その、謝罪は受け取っておきます。」
そう答えるとちらりとギャングオルカを見た。いつも通り険しい顔つきだが、今回は本当に怒っている様子だ。
「先ほど言った通り、何も先生方が悪いわけではない。あくまで雄英に侵入してきたヴィランどもが全ての原因だ。…だが主犯格には逃げられたと聞いた、やつらの外見、個性など知っていることは教えていただこう。」
「それは当然の権利さ!こちらが知る限りの情報を共有することを誓うよ。」
その返答に満足したのかギャングオルカは小さく頷いた。校長との会話が終わると不意に背後から声がかけられた。
「自分の行動についてよく理解しているようだな、天地。」
「相澤先生、いたんです…大丈夫ですか?」
声は相澤だが体中、顔面に至るまで包帯でぐるぐる巻きにされたミイラ人間がいた。
「バアさん…リカバリーガールの処置が大袈裟なだけだ。むしろ俺よりもお前の方がずっと重体だった。…でだ、今回の件はお前の命令違反も一因だということは理解しているな。」
「はい、でもその嫌な予感がしたというか…」
「言い訳は聞いていない。ヒーローの本分が人助けとは言うがお前はまだヒーローどころか仮免すら持っていない。ただの生徒であるお前はあくまで守られる立場だと言うことを理解しろ、そして教師の指示には従え。」
「…わかりました。」
包帯越しに力強い眼光で睨みつけられ、火水は萎縮してしまい弱々しく返事をした。
「とまあ、ここまでが教師としての俺の意見だ。ここからは個人的な意見だ…今回は助かった、お前が来なかったら俺だけでなく緑谷、峰田、蛙吹の3人まで危険な目にあっていた。」
「どういたしまして…?」
先ほどとは打って変わって柔らかな雰囲気を感じついつい戸惑ってしまった。
「…今日は昨日の襲撃で学校は臨時休校だ、明日から平常授業に戻る。傷は癒えてるとはいえ精神的疲労も大きいだろう、明日は無理に来なくていい。」
相澤は立ち上がり病室から出て行こうとした。
「先生は?もう大丈夫なんですか?」
「この程度で休んではおられん。じゃあな、療養に専念しろ。」
最後にそれだけを言い残し相澤は退室した。それに伴うよう校長と八木も出て行き、病室に残ったのは火水とギャングオルカだけとなった。
「それで、体調の方はどうだ。」
「全然問題ないよ。あんな状態になってたのにここまで回復するなんてリカバリーガールはすごいね。」
「今回はすまなかったな。」
冗談ぽく茶化そうかと思ったが、ギャングオルカからは深刻な雰囲気が漂ってきた。
「なんで謝るの?関係なくない?」
「ヒーロー科に行かせたのは私の責任だ。こんな事になるとは、本当にすまなかった。」
そう言うとギャングオルカは深々と頭を下げた。普段では見られない彼のそんな姿に火水は目をギョッとさせ、慌てて声をかけた。
「いやいやいや!悪いのはヴィランのせいだし、怪我も治ってるし!」
「だが…」
「それにさ、クラスメイトはいい人ばかりで初めて学校が楽しいって思えた。まあ気になることがないわけではないんだけど。」
どこか負い目があるようで火水は目を伏せた。
「どうした?」
「いや、個性のこと誰にも言ってなくて…」
事情を察したのかふっと笑みをこぼした。
「今までのことがあったから喋らないのもわかる。…だがヒーロー科の級友たちが個性だけで火水を避けるとは思えない。」
ギャングオルカはおもむろに懐をさぐり、スマートフォンを取り出した。デザインを見ると高校入学前に買ってもらった火水の物だとわかった。
「いい友人ができているじゃないか、しっかり休んですぐに登校しないとな。」
差し出されたスマホを受け取り画面を見ると、メッセージアプリに3つの通知が届いていた。
『天地くん大丈夫かな?早く完治して戻ってきてね』
『おい天地!死ぬなよ!絶対学校こいよ!!』
『天地ちゃん大丈夫かしら、元気になったら返信してくれると嬉しいわ』
メッセージを読むと、胸の内がじーんとしてきた。自分からあえて遠ざけた人たちが心配してくれている、なんていうか言葉にならない。
「では、私は事務所に戻る。何かあればすぐに連絡しろ。」
ギャングオルカは踵を返すと足早に退室した。仕事を後回しで駆けつけてくれたから、色々と業務が滞っているのだろう。色々な人に心配かけたなあ、早く元気になろうと思いベッドに寝転んだ。
◆
その日の夜、もうじき消灯時間になるところでスマホに通知が届いた。
『待ってるから』
「…明日も休もうと思ってたけど、やっぱ登校するか。」
差出人とメッセージを確認すると、火水はぼそりと呟き目を閉じた。