危険な個性を持って生まれたら   作:れる

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幕間

火水が意識を取り戻した翌朝、制服に着替えカバンを揺らしながらいつもとは違う通学路を走っていた。ホームルーム開始時刻ぎりぎりに校門を通過し、そのまま駆け足で1年A組へ向かった。

 

「「「くそ学校っぽいの来たぁぁ!!!」」」

 

ドアに手をかけると教室から大声が響き、思わずびくりと反応して手を放してしまった。再びドアに手を当てゆっくりと開いた。

 

「…おはようございまーす。」

 

「おはよう、登校するなら遅刻しないようにしろ。」

 

「いやー病院って意外と融通が利かなくって…」

 

後頭部に手を当てながら申し訳なさそうに頭を下げ自分の席へ向かった。荷物を机に置き座ろうとしたが、先ほどの騒がしさが噓のように静まり返った教室内を不思議に思い回りを見回すと、クラスメイトのほとんどがぽかんと口を開けこちらを見つめてきた。

 

「え…な、何ですか…?」

 

「天地も復帰早えええ!!!」

 

火水の言葉を皮切りに再びの絶叫があがり、再度びくりと肩を震わせた。ホームルームなのも忘れクラスメイト達が火水の席に殺到した。

 

「何ですかじゃねえよ!めっちゃ心配したわ!」

 

「怪我は治ったけど復帰には時間かかるってさっき聞いたんだぞ!」

 

「つーか返信しろよ!オイラ本当に死んだかと思っちまったじゃねえか!」

 

心配だったのかクラスメイト達が大声で詰め寄った。その後も好き好きに様々な言葉を投げかけられていると、葉隠が人混みをかき分けて火水の目の前まで来た。

 

「天地くん、これ。」

 

彼女の手には火水のコスチュームである黄色のレインコートがきれいにたたまれていた。差し出されたそれを右手で受け取ると、葉隠さんはそのまま差し出した手を掴んだ。突然のことに困惑した表情を彼女に向けると、肩が少し震えていることに気づいた。

 

「葉隠さん…?」

 

「…心配したんだよ。あの時天地くんを止めておけば良かったって、もし学校にこれなくなったらどうしようって。連絡しても全然返信ないから不安で眠れなかった。」

 

だんだんと握られている手の力が強まってきた。

 

「ごめん…」

 

「ごめんじゃないよ!大丈夫ならちゃんと連絡してよ!私だけじゃなくて皆心配してたんだよ!?もう…本当に…無事でよかった……」

 

そう言うと葉隠さんは握っていた火水の手にそっと額を押し当てた。慟哭にも似た声に火水も思わず下唇を噛み、左手をそっと彼女の手に添えた。

 

「うん、本当に心配かけた。でももう大丈夫だから、ありがとう。」

 

「…なあ、オイラは一体何を見せられているんだ…?」

 

「峰田ちゃん、今いいところだから静かにね。」

 

「へえ~透ちゃんってそうなんだ~」

 

すっかり自分たちの世界に入っていた火水と葉隠が周囲を見回すと、好奇の目と一部憎悪の目で皆が2人を見つめていた。

 

「へ…?あ、いや違う違う!そんなんじゃないって!!」

 

「そんな必死にならなくても~」

 

「だ!か!ら!違うもん!」

 

「せっかくオイラが心配してやったのによぉ、自分は女子といちゃつきやがって。ふざけんじゃねえぞ!」

 

いつの間にかわいわいと騒がしくなったクラスメイト達に、相澤の眉間にしわがよった。

 

「おい、まだホームルーム中。」

 

その言葉に教室内に一瞬で静寂がおとずれ、皆が慌てて着席した。ただ、今まで黙ってみていたのは彼なりの優しさだったのだろう。

 

「説明の途中だったが、天地が遅れてきたため再度言うぞ。もうじき体育祭が開催される。先日ヴィランの襲撃にはあったが、いつも以上に警備を万全にして悪意に屈さない姿勢を示すつもりだ。それにスカウト目的でプロヒーローも多数訪れる。年に一度、計三回だけのチャンス。ヒーロー志すなら絶対に外せないイベントだ。その気があるなら準備は怠るな、以上。」

 

 

  ◆

 

 

「天地くん、学食行くよ。」

 

4限が終わった後の昼休み、葉隠さんがいつもより低い声で昼食を誘ってきた。

 

「うん、今日は弁当もないし。」

 

「よし。」

 

「ケロ、私もいいかしら?」

 

「あ、葉隠さん、僕もいいかな…?」

 

2人で学食へ向かおうとすると緑谷くんと蛙吹さんに声をかけられた。特に断る理由もなく了承し、4人で教室を出た。

 

初めての学食に少し心踊らされ、何にしようかと少し考え唐揚げ定食に決めた。それぞれが料理を受け取り席につき、食事を始めた。初めて食べる学食に舌鼓を打っていると、ややあって左前に座っている蛙吹さんが口を開いた。

 

「天地ちゃん、本当に大丈夫なの?」

 

「うん、後遺症もないしさすがリカバリーガールだね。」

 

「そう、よかったわ。…でもそうなら返信はして欲しかったわ。私もとても心配したのよ。」

 

「うっ…それは本当にごめんなさい…」

 

図星を指され少したじろいだ。もともとギャングオルカとそのサイドキックたちにしかほぼほぼ連絡をしてこなかった手前、同年代への返信に慣れずどう返せばいいか迷いに迷ってついに返信しないでいた。

 

「天地くん、私だけじゃなくって梅雨ちゃんと峰田くんにも返信しなかったの!?もう、メッセージ貰ったらちゃんと返信する!」

 

「はい…緑谷くんもごめんね。」

 

「ううん、大丈夫だよ。それよりも、ありがとう天地くん。君のおかげで僕たち無事で帰ることができた。」

 

隣に座っている彼は優しい笑みを浮かべてそう答えた。

 

「もしかしてそれ言うためだけに一緒に来たの?」

 

「あはは…もちろんそれもあるんだけどね、それとは別に天地くんに聞きたいことがあるんだ。」

 

「聞きたいこと…?」

 

先ほどとは打って変わって真剣な表情でこちらを見つめてきた。

 

「うん、天地くんの個性についてなんだけどね。」

 

その言葉を聞き、ついに来たかと思った。これまでのらりくらりとかわしてきたが、この間彼らの目の前で風以外の力を使ってしまったし、当然と言えば当然か。

 

「てっきり風を操る個性なのかなって思ってたけど、あの時のあれは明らかに風を操ってどうこうできる規模じゃなかったし、個性の名前も聞いてなかったなって。だからその…教えてくれたらなって…」

 

「あー確かに!天地くんの個性聞いたことなかったなー」

 

「そんなに知りたいの?」

 

「あ、いや無理に教えてくれなくても…」

 

幾分か声を低くすると、緑谷くんは慌てて首を横に振った。

 

「まあ今まで敢えて言わなかったのは認めるよ、いつかは言わなきゃいけないなってことも。そうだね……」

 

今までだましだまし公表を避けていたが、今こそ言うタイミングだろう。しかし過去のトラウマから次の言葉を出すことに躊躇してしまい、下唇を噛んで黙りこくってしまった。

 

「ねえ天地くん、唐揚げおいしい?」

 

「え?えっとその…」

 

沈黙を破るよう葉隠さんが口を開いた。今までの話題と全く関係ない内容に困惑してしまい、思わずどもってしまった。

 

「今までお弁当だったもんね、美味しいでしょ学食。」

 

先ほどまでの重たい雰囲気とは違う、どこまでも明るい声で優しく話しかけてきた。

 

「うん、すごく美味しいよ。でも今はそうじゃなくって…」

 

「天地くん気づいてないと思うけどさあ、泣きそうな顔してるよ。」

 

その言葉を聞いた瞬間、即座に右手で口を覆い顔を下に向けた。

 

「別にすぐに天地くんの個性を知りたいわけじゃないし、それにそんな表情させてまで私は知りたくないな。」

 

「ご、ごめんね天地くん…!僕が無神経だった…」

 

「大丈夫かしら、天地ちゃん?」

 

2人が慌てた様子で自分のことを心配してくれた。火水は必死で笑顔を作り顔を上げ彼らに向かい合った。

 

「大丈夫だよ、それに謝る必要もない。これは自分が弱いからだし。でもごめんね、決心がついたら改めて伝えるね。」

 

「うん、いつまでも待ってるよ。ほら、ごはん冷めちゃうから早く食べよ!」

 

危うく重たい空気になりかけた食事の場だったが、葉隠さんのおかげでいくらか明るい状態で昼食を終えた。

 

 

  ◆

 

 

その日の放課後、A組の教室前に多くの生徒が集まっていた。あまりの多さにクラスから出ることができそうにない。

 

「な…何事だあ!?」

 

「んだよ!出れねーじゃん!何しに来たんだよ!」

 

「敵情視察だろザコ。ヴィランの襲撃を耐え抜いた連中だもんな、体育祭の前に見ときてぇんだろ。」

 

人だかりに戸惑うA組のメンツの前に立ち、爆轟が荒々しく言葉を放つ。

 

「噂のA組…どんなもんかと見に来たが、随分と偉そうだな。ヒーロー科に在籍する奴は皆こんななのかい?」

 

「ああ?」

 

人垣を縫って現れたのは、逆立った紫髪と目の下の隈が特徴的な男子生徒だった。

 

「普通かとか他の科って、ヒーロー科落ちたから入ったって奴、結構いるんだ。そんな俺らにも今回の体育祭のリザルト次第でヒーロー科への編入も検討してくれるんだって。逆もまた然りらしいよ。敵情視察?少なくとも普通科は、調子乗ってっと足元ごっそり掬っちゃうぞっつーこと。」

 

しばらく2人のにらみ合いが続き、再度人混みから大声が上がった。聞けばB組の人らしく、彼もまた様子見に来たつもりが、見事爆轟に挑発されてしまった。

 

誰も彼らの様子を静観している中、火水は人混みの中で小さな影がひょこひょこ動いているのに気付いた。それは葉隠も同じだったようで、2人は彼女に近づいた。

 

「お疲れー衝子ちゃん。衝子ちゃんも敵情視察?」

 

「え!?いやいや、そうじゃなくって…その、A組ってヴィランに襲われたんでしょ?けが人もいたって聞いたし、2人は大丈夫だったのかなって…」

 

「そっか緘口令が敷かれてたから言えなかったもんね…私は大丈夫だけど…」

 

葉隠さんはそう言うとこちらをちらりと見た…ような気がした。

 

「俺もこの通り。」

 

何もなかったというように両手をひらひらさせると、反町さんはほっとした様子で胸をなでおろした。

 

「良かった…もし2人が怪我してたらどうしようかって。元気そうでよかった。」

 

「うん…そうだね、今はお互い元気だよ。」

 

「えっと…?あっそういえばさっきはごめんね。鉄哲くん…さっき大声出してた人なんだけど、私は全然そんなこと思ってないから!」

 

葉隠さんの含みのある言葉に少々疑問を持った様子だが、特に言及はせず先ほどのB組生徒による発言の謝罪を行った。

 

「ふっふっふ。そんな甘いこと言っていいのかな~?私たちはもうライバルなんだよ~?衝子ちゃんには絶対勝つよ~?」

 

おそらく不敵な笑みを浮かべている葉隠さん。体育祭では仲良しこよしなんて不可能であり、A組B組関係なしに全員がライバルとなるからこその挑発を行った。

 

「えっ!?えーっと…わ、私も負けないよ…自信ないけど…」

 

「天地くんも、私絶対に負けないからね!目指せ優勝!」

 

「俺も…負けられない。」

 

「うんうん。じゃ、この後天地くんの退院記念に3人でマックね!」

 

「あのさあ…」

 

「えっ退院ってどういうこと…?」

 

この後3人でマックへ行き、USJでの事情について洗いざらい話され、心配させまいと隠していたことが無駄になった。

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