危険な個性を持って生まれたら 作:れる
雄英体育祭当日、出場する生徒たちは各クラスに分かれ出場ゲート前の待機室に集っていた。火水たちA組の面々は本番前に精神統一をしている者、普段通り友人とおしゃべりに興じている者など様々だ。火水もまた目線を下に落とし、右手を開いて閉じてを繰り返していた。
「やあやあ天地くん、どうですかな調子のほうは。」
「まあ悪くないんじゃない?ってか何その口調…」
「別に~?普通ですけど~?そういう天地くんこそ緊張してんじゃない?」
妙に上ずった声で葉隠さんがしゃべりかけてきた。口調から察するに彼女もまた緊張しているのだろう、とても珍しいことに。
「まあ緊張はしてるよ、こんな大々的なイベントなんて参加したことないしね。」
「ふーん、そうなんだ。天地くんこういうの緊張しないタイプだと思ってたわ。」
「全然だね。で、葉隠さんはどうなの?優勝できそう?」
お返しと言わんばかりににやにやした表情で見つめ返すと、彼女の肩がぷるぷる震えだした。
「うるせー!絶対吠え面かかせたるわ!」
「そう、期待しておくね。」
声に抑揚をつけづに返答すると、葉隠さんはムキーと言いながら肩をポコポコ叩いてきた。
その後もしばらくじゃれ合っていると、いよいよ体育祭開始時間が近づいてきた。委員長である飯田くんが声を上げ入場ゲートへと向かった。
◆
『雄英体育祭!!ヒーローの卵たちが、我こそはとシノギを削る年に一度の大バトル!!どうせてめーらアレだろ、こいつらだろ!!?ヴィランの襲撃を受けたにも関わらず、鋼の精神で乗り越えた奇跡の新星!!!』
『ヒーロー科!!1年A組だろぉぉ!!?』
プレゼント・マイクの実況とともに火水たちA組が会場へと登場した。入場とともに観客席からは大歓声が上がり、カメラのフラッシュも絶え間なくたかれている。例年では3年生の会場が一番人気らしいが、先のUSJ事件のこともあり今年は1年ステージも満員だ。
A組の紹介の後にB組が入場、続けて普通科、サポート科のクラスも入場し1年のほぼ全クラスが勢揃いした。
「選手宣誓!!」
鞭を振るいながら朝礼台上に立つミッドナイトが、初めての体育祭ということもあり浮ついている1年生を一喝した。
「選手代表!!1-A、爆轟勝己!!」
呼ばれた生徒の名前に一抹の不安がよぎる。先日A組前に集合した他クラスの人たちを挑発していたこともあり、嫌な予感しかしない。そんな不安をよそに爆轟くんは両手をポケットにいれたまま台上のマイクの前に立った。
「せんせー、俺が一位になる。」
「「「絶対やると思った!!!」」
クラスメイト達も同様なことを考えていたようで、声を大にして突っ込みを入れる。それを皮切りに他の生徒からもブーイングが飛び交う。さらに爆轟くんは私たちを挑発するよう、跳ねの良い踏み台になってくれと言いながら右手親指で首を切るジェスチャーをかました。本当に彼はヒーロー志望なのか?
「さーて、それじゃあ早速第一種目、行きましょう!いわゆる予選よ!毎年多くのものが
ミッドナイトが指示したディスプレイに『障害物競走』の文字が映し出された。
スタジアムの外周およそ4キロを走る、計11クラスによる総当たりレース。コースさえ守れば何をしてもよいらしく、障害物だけでなく生徒同士の妨害にも注意する必要がある。
「さあさあ、位置につきまくりなさい……」
スタジアムのゲートの一つに11クラスの総勢200人超が集まり、スタートラインへと向かった。我先にと最前列を目指す生徒たちの隙間を縫うように火水は最前列へたどり着いた。
「緑谷くん。」
集団の先頭付近にたどり着くと、深呼吸をしていた緑谷くんを確認し声をかけた。
「えっと、天地くんどうしたの?」
「前の学食の時に結局俺の個性について何も言わなかったけどさ、やっぱ皆に教えるよ。…まだ個性とは向き合えないけどさ、ヒーローになるからにはいつまでも逃げてちゃダメだしね。そのために今日は最善を尽くして結果を残すよ。」
「天地くん…うん、わかったよ。でも僕だって負けられない…!」
もうまもなくレースが開始されるかという状況で、2人の視線が交差し火花が走る。10秒ほどにらみ合った後、火水はくすりと笑いそれにつられ緑谷も気恥ずかしそうに苦笑いし正面を向きなおし合図を待った。
『スタート!!』
ミッドナイトの声とともに1年全員が一斉に駆け出した。
◆
『さーて実況していくぜ!解説アーユーレディ!?ミイラマン!!』
『無理矢理呼んだんだろうが。』
実況席でプレゼントマイクと未だ包帯でぐるぐる巻きの相澤先生が会場内を盛り上げていた。
一方のレースでは開始早々に轟が個性により地面を凍らせ多くの生徒を妨害していた。大多数の普通科が足止めをくらっている中、火水たちA組は全員轟の個性に対応していた。
『さぁいきなり障害物だ!!まずは手始め…第一関門!ロボ・インフェルノ!!』
先頭を走る轟の走行を妨害するかのように、入試試験で立ちはだかった0ポイント敵が複数立ちはだかった。しかし轟は冷静にそれらを凍らせることで対処し、さらに不安定な姿勢で凍った巨大ロボが倒れることでさらなる妨害を行った。
「まあ入試のロボ程度じゃ轟くんは止められないよな。…でも簡単に独走はさせないよ。」
火水は周囲の状況を確認し個性を発動させ、突風によって体を浮かせ崩れ落ちたロボを乗り越えた。さらに追い風を纏った状態で先頭の轟との距離を詰めていった。
「待て半分野郎に茶髪野郎!!」
もうじき第二関門に差し掛かるあたりで火水の後方より爆轟が猛追してきた。長距離で自分を浮かせながら進むことに不慣れな火水に対して、瞬間的にそして連続的に爆発的な速度で進むことができる爆轟に少々分があるようだ。
『オイオイ第一関門チョロイってよ!!んじゃ第二はどうさ!?落ちればアウト!!それが嫌なら這いずりな!ザ・フォール!』
見えてきたのは底が見えないほどの断崖絶壁と向こう岸に掛かる複数のロープ。轟はロープを凍らせ足場を形成して地上を渡った。一方の火水と爆轟は障害など無意味と言わんばかりに個性によって障害の上空を飛び越えんとした。
未だ先頭を走る轟を追うように火水、爆轟が第二関門を突破した。
『そして早くも最終関門!!一面地雷原!!!怒りのアフガンだ!!地雷の威力は大したことねえが音と見た目は派手だから失禁必至だぜ!』
『人によるだろ。』
「はっはぁ俺は———関係ねー!!」
「それは俺もね。」
慎重に歩を進める先頭の轟に対し、上空を進む火水と爆轟はトラップを無視して突き進もうとしていた。
『ここで先頭がかわった———!!喜べマスメディア!!おまえら好みの展開だああ!!』
ついには火水と爆轟が轟を追い越した。しかし轟も黙ってはいないようで2人を妨害し、3人で足を引っ張り合いながらデッドヒートを繰り広げる。
だがここで後方より大爆音がとどろいた。そしてその爆風に乗りながら火水たちに飛んでくる人影。
『偶然か故意か—————A組緑谷、爆風で猛追————!!!?っつーか抜いたあああああー!!!』
「げ、まじか。やるなあ緑谷くん。」
ついには先頭3人を飛び越した緑谷。けん制し合っていた3人も争うのをやめて緑谷に追いつこうと、なりふり構わず個性を使用した。先ほどの爆風の勢いが落ちてきたようですぐに3人が緑谷に追いついた。そのまま追い越すかといったところで、緑谷はなぜか手に持っていた鉄板を思いっきり地面に振り下ろした。再度地雷が起動し、再び爆風の勢いに乗った緑谷は火水たちを突き放した。
『緑谷、間髪入れず後方妨害!なんと地雷原則クリア!!イレイザーヘッドお前のクラスすげぇな!!どういう教育視点だ!』
『何もしてねえよ。奴らが勝手に火ィ付け合ってんだろう。』
先ほどの爆風で火水は体勢が崩れ、緑谷に追いつくことができずにいた。しかしまだレースは終わっておらず今回の順位が後々どう影響するかわからない。轟と爆轟に負けないよう個性を発動させ、2人に追いすがった。
『さァさァ序盤の展開から誰が予想出来た!?今一番にスタジアムへ還ってきたその男—————緑谷出久の存在を!!』
プレゼントマイクの実況とともに歓声が上がり、緑谷が1位でゴールしたことが伝えられた。
「ああくそ、悔しいなあ…」
団子状態だった火水たち3人は僅差でゴールラインを超えた。そして脱落者以外の全員がゴールすると大モニターに順位が映し出された。
1位は当然緑谷。ほぼ同着だった3人の結果は轟が2位、爆轟が3位、そして火水は4位という順位で第一種目が終了した。