危険な個性を持って生まれたら 作:れる
プロローグ
『どうも~個性考察チャンネルでーす!』
『こんかいのお題はこちら!最強個性ランキング~。世界中で確認されている個性からランキングを作っていきまーす。』
『最強と言ったらやっぱりオールマイト!?いやいや海外のプロヒーローだって負けてない!それに表には出ていない強個性だって山ほどあるよーってことで早速いってみよう!』
まだ肌寒い夜が続く4月、ここギャングオルカヒーロー事務所の執務室内に配置されたソファに寝転がりながら一人の少年がテレビで動画を視聴していた。事務所内に数名待機しているサイドキックはいつものことだというように、特に気にした様子はなく各々の作業にいそしんでいる。
「くだらね~」
動画を半目で見ながらそうぼやきつつ、宿題もすでに終わらせた少年は他にやることもないようで視聴を続けている。
ところで俺こと 天地 火水(あまち ひすい)がなぜヒーロー事務所に居座っているのかというと、話せば長くなるため割愛するが、10年前のとある事件が原因でギャングオルカに保護された。当時は別事務所のサイドキックだった彼がその後独立し、しばらくは2人で苦労しながら生活していた記憶がおぼろげにある。今では大人数のサイドキックを抱え、さらには水族館の館長も兼任するようになり大きくなったなあと感慨に浸った。
「火水、少しいいか。」
動画が終わりそうになり次なる暇つぶしを探そうとしていると、いつの間にか近くにいたギャングオルカから声がかかった。
「大丈夫だけど、何?」
「まあ、ここではなんだ、社長室まで来てくれ。」
そう言うと彼は背を向け歩き出した。いつもとは少し違う様子に困惑しながらもゆっくりとソファから起き上がり、動画を止めるのを忘れて彼の後に続いた。
見る人がいなくなったテレビには先ほどまで火水が見ていた動画が終わり、自動再生で次の動画が始まっていた。
『こんばんは、日本の闇解明チャンネルです。』
『今回のお題はこちら、天津地震です。』
『10年前に天津市で発生した比較的大規模な地震、幸いなことにオールマイトたちヒーローのおかげで死者がいなかったものの、多くの重軽傷者が出た地震です。』
『え?たまたまオールマイトが天津市に滞在していたときに地震が発生したのが怪しい?そんな些細な噂ではありません。』
『とある教授の研究により、実はこの地震の正体はなんと…』
◆
火水が社長室に入り、すでにソファに腰かけているギャングオルカの対面に座った。
「それで、なんの用?」
「ああ、火水の進路についてだ。県内一の進学校を目指している、これはまだ変わっていないか?」
「そうだけど、それが?」
「模試の結果はA判定、学生生活の態度も良好。ああ何も問題はない…いや、なかったと言うべきか。」
そう言うと彼は腕を組み沈黙した。その様子を少年は怪訝そうに見つめた。
「なに?なんかあるなら早く言ってよ。」
ややあってギャングオルカは小さくため息をつき、話を再開した。
「高校へ入学してそのまま大学へ進学するという希望は前から知っている、毎日勉強に励んでいることもな。…悪いが進路を変更してくれ、ヒーロー科にな。」
「はい…?嫌だけど…」
「すまない、なんとか掛け合ってみたが私にはこれが限界だった。わかってくれ。」
気落ちした彼の様子にどこか気まずさを感じ、目を横にそらした。
「掛け合ったって、誰かから言われたってこと?」
「…ああ、公安にな。制御ができるようになったとはいえ彼らはまだ火水の個性を危険視し、あわよくば自分たちの監視下に置きたいらしい。まだ中学生の君にそんな不自由はさせたくなく、ほかのヒーローにも協力してもらい、ヒーローになってもらうことを条件に今回は手を引いてもらった。」
「…っていうことはなに、それを無視して普通科に進学しようものならここから引き取られてあいつらの元に連れていかれるってこと?」
「ああ、そうだ。あんなことがあったから火水には自由に生きてほしかったが、今回ばかりは許してくれ。」
ギャングオルカは深々と頭を下げた。今いない人間や彼に頭を下げさせている自分に憤りながら、わざとらしくため息をつきなんとか怒りを抑えようとした。
「わかった、でも学校は好きに決めていい?」
「ああ、それは問題ないが行きたいところがあるのか?」
「どうせ行くなら一番のところに行ってやるよ。」
◆
社長室から退出し、執務室内を通り抜けてから併設されている居住スペースへ向かった。途中で落ち込んだ様子を悟った夜間待機中のサイドキックの一人から、珍しくシャチョーに怒られたかと茶化されたが生返事をして足早に去った。
『火水』のネームプレートが掛けられているドアを開き部屋に入るとすぐさまベッドに倒れ込んだ。
ヒーロー科に行きたくないと言ったが、ヒーローが嫌いなわけではない。幼い頃誰もが憧れたように自身もまた憧れていたことはある。しかしそのたびに思う、自分の個性でヒーローになれるのかと。人を傷つけることはできても人助けはできないと。
ただ、もうヒーロー科を受けると決めたし、取り敢えず明日から頑張ろう。重くなった瞼を閉じた。
翌日以降火水は勉強に励み、そしてたまにではあるがギャングオルカ立ち合いのもと個性の訓練も行った。そして時は進み年明け一通の封筒が火水のもとに届いた。中を開けると数枚の資料とともに一枚の小さな紙が出てきた。
『雄英高校受験票』
火水は宣言通り、国内最高峰のヒーロー科を受験することとなった。