危険な個性を持って生まれたら 作:れる
2月26日、雄英高校一般入試実技試験当日。火水は中学の制服に着替え前日入りしていたホテルから早めに出発し、雄英の門前にいた。
(校舎もだけど校門も無駄にでけえな…)
校舎の巨大さに圧倒されながら校門前を通り過ぎ、試験会場へと歩き出した。筆記はそこそこ自信があるが問題は実技試験、内容は一般公表されておらずそれ次第では落ちる可能性もある。程よい緊張感を持ちながら会場へ入室した。
『今日は俺のライヴにようこそー!!!エヴィバディセイヘイ!!!』
説明会場ではボイスヒーロー・プレゼントマイクが声を張り上げ受験生に試験内容の説明を行っていた。気になっていた試験内容はというと演習場にて仮想敵なるロボットを行動にすることらしい。仮想敵にはそれぞれポイントが割り振られており、倒した合計ポイントが実技試験の得点となるらしい。どうやら0ポイントなる仮想敵もいるらしいがそれは避けておけばよいだろう、ともかく何とかなりそうで安心した。
◆
バスに乗り指定の場所へ向かうと、そこにはもはや町と言っても過言ではないほどの広大な演習場があった。
(いちいちなんでも大きすぎでしょ…こんな会場が何か所もあるってすご…)
他の受験生も同じ気持ちのようでざわめきが収まらない。そういえば実技試験開始時刻が知らされていなかった。火水は手持無沙汰になりスタート地点で呆けていると、不意にプレゼントマイクの声が会場に響いた。
『ハイ、スタート!』
突然のことに体が一瞬硬直したが、すぐさま足を動かし会場内へ駆け出した。
『どうしたあ!?実戦じゃカウントなんざねえんだよ!!走れ走れ!!賽は投げられてんぞ!?』
再びアナウンスが届くと、慌てて他の受験生も走り出した。
火水が飛び出すとすぐに前方から仮想敵2体が飛び出してきた。それに慌てることなく右手をそれらに向ける。
「ぶっ飛べ」
すると突然竜巻が発生し2体の仮想敵を巻き上げた。上空まで飛ばされたロボットは重力に従いそのまま落下した。
「えーっと、こいつらが1P敵だから今ので2Pか。」
仮想敵が停止したのを確認すると、次なる標的を探しに走り出した。
◆
そろそろ制限時間の半分が過ぎた頃、ロボットの数も少しではあるが減ってきている。そしてほかの受験者はというと、怪我をしてリタイアしていくものも少なからず確認できた。
(高校受験で怪我するってやばいな、まあヒーローになればこの程度のことでいちいち騒いでられないのかもしれないが。)
未だに襲い来る1ポイント敵を竜巻で処理しながら、この試験の過酷さを認識した。
ずしん、と地響きが起こった。火水は突然のことに驚き周囲を確認すると、離れた位置で巨大な仮想敵が建物を壊しながらゆっくりと進行していた、あれがいわゆる0ポイント敵というやつだろう。思わず顔をしかめて巨大ロボから離れようとしたが、まだ試験時間は残っているし、どうもあれの足元付近にほかの仮想敵が見えた。
(うまくお邪魔虫をかわして最後のポイント稼ぎをしろってことか?他の受験生がどれだけ得点してるかわからないし、やるしかないか。)
しぶしぶといった様子で逃げ惑う人とは逆の方向に歩みを進めた。
0ポイント敵まで近づき数体の仮想敵を倒していると、突然声をかけられた。
「おーいそこのひとー!こっち助けてー!!」
立ち止まって声の方向を見ると、女子が一人倒れこんでいて近くにいる体操服に介抱されていた。いや、言い間違いとかではなく体操服がひとりでに浮いている。その光景に少々困惑しつつも駆け足でそばに近寄った。
「えーっと、倒れてる子はもう動けないの?リタイア宣言したら救護ロボが運んでくれるみたいだけど。」
「うん、そうしたいんだけど全然来なくて。だから安全なとこまで運んであげたいなって。」
倒れている少女の代わりに透明少女が答えた。ずいぶんとお人好しなんだなと火水は思った。積極的に救助すること、そもそも入学試験中にそんなことできるなんて、というか
「ふーん、いい人だね君は、試験中に人助けって。もうポイントは十分稼げたんだ。」
「ありがと!困ってる人を助けるのがヒーローだからね。ポイントは…まあ…そこそこかな、あはは…」
言いよどむ少女の様子に、思わずため息をついた。この時間で取れていたであろうポイントを放棄してまで人助けなんて、ヒーロー目指してる人はすごいな、心の底からそう思った。
「ねえ後ろ!危ない!」
「え?わ、うわわ!」
介抱されていた少女が突然声をあげた。思わず顔を上げると透明少女の背後から1体の仮想敵が接近してきた。咄嗟のことに対応できないようで、火水はそれに対して右手を向け竜巻を発生させ、ぶつかる寸前に上空へ飛ばした。
「あ、ありがとう、助かったよー。」
「…まだそいつ動けそうだから止め刺したら?」
今まで使用していた竜巻よりも威力を抑えたせいか、仮想敵は立ち上がろうとしていた。
「え、でも君が倒したんだし…」
「俺はもう十分ポイント稼いだから。それに試験で人助けするようなかっこいい人には受かって欲しいし。まあこいつは1Pだからそれで何か変わるとは思わないけど、ほらそろそろ起きるぞそいつ。」
透明少女は他人にポイントを譲られるのを躊躇っていたが、起き上がる仮想敵に何もしない俺の様子に心を決めたようで、えいっと可愛らしい掛け声とともに仮想敵を殴った。すでにボロボロだった仮想敵は少女の一撃で完全停止した。
「ありがとう、でも返せって言われてももうポイントは返せないからね?」
「別に。ほら、その子助けるんでしょ、肩を貸すから早く連れていくよ。試験もあと何分もないと思うし。」
「了解!ごめんねー痛むのに待たせちゃって。」
「ううん、大丈夫。それよりもごめんね、私が怪我したばかりに時間が…」
『終了~!』
「「「あ…」」」
試験終了の声が会場内に響き渡る。3人は思わず顔を見合わせてしばらくその場から動かなかった。
◆
「おかえり、どうだった試験は。」
「ああうん、俺は大丈夫だと思う。」
「俺は…?友達も受験してたのか?」
「いや、なんていうか…まあいいか。」
火水のはぐらかすような返事にギャングオルカは首を傾げた。