危険な個性を持って生まれたら 作:れる
「個性把握テストォ⁉︎」
体操服に着替えたどり着いたグラウンドで、担任の相澤先生からの説明を受け誰かが叫んだ。
「入学式は!ガイダンスは⁉︎」
「ヒーローになるならそんな悠長なことしている時間はないよ。雄英は自由な校風が受け売り、それは先生側もまた然り。」
女子生徒の一人が詰め寄ったが冷静に返される。当然ながらクラスメイトがざわついており、火水も微妙な顔で担任を見つめた。
(入学式はともかくガイダンスは必要では…?)
そんな思いは届かず相澤はどこからか持ってきたボールを手に説明を始めた。個性把握テスト、つまりは小中学で行った体力測定を個性ありで行うものらしい。彼はデモンストレーションのために例の不良っぽい生徒を呼び出した、ハンドボール投げをハンドボール投げを行うようだ。
「死ねぇ!」
荒っぽい掛け声と共に爆音が鳴り響き、通常ではあり得ない速度でボールが飛んでいった。しばらくするとボールが落ちたらしく先生の手元の端末に『705.2m』と表示された。
個性なしでは不可能な数値にみんなが興奮を露わにした。しかし誰かが発言した「面白そう!」の言葉に相澤の雰囲気が変わる。
「面白そう、か。ヒーローになるための3年間、そんな腹づもりで過ごす気か。よし、トータル成績最下位の者は見込みなしと判断し、除籍処分にしよう。」
「「「はああああああ⁉︎」」」
およそどこの高校でも聞くことはないであろう彼の言葉に全員が驚愕した。生徒から抗議の声が上がるもそれを無視し不敵な笑みを浮かべる。
「今の日本は理不尽にまみれてる。そういうピンチを覆して行くのがヒーロー。プラスウルトラさ、全力で乗り越えてこい。」
とても高校初日とは思えない、理不尽な個性把握テストが始まった。
◆
第一種目の50メートル走、出席番号順に2名ずつが走る。火水は4番のため2組目での測定であり、早くも1組目が終わりスタート位置に立った。
(隣のレーンの邪魔にならないよう調整して、さらに自分の記録も意識しないと…考えることが多いなあ。)
『ヨーイ』の機械音が聞こえ横のカエル女子が体勢を低くする一方、火水は立ったままだ。スタートの合図が聞こえるやいなや、前に向かってジャンプし、即座に個性を発動させ自分を巻き込むように突風を起こした。風の流れに身を任せ、地面から浮いたままゴール地点まで運ばれた。着地時に先ほどまでの勢いが乗っていたため、数メートル滑ってようやく止まった。転ばなくて少しホッとした。
50メートル走 結果 2.95秒
「ケロケロ、とても速かったわね、すごい個性だわ。」
数秒遅れてゴールしたカエル女子に声をかけられた。
「ありがとう、でもこの種目との相性が良かっただけだよ、えーっと…」
「蛙吹梅雨よ、梅雨ちゃんと呼んで。」
「天地火水、えっとツユチャン…?」
火水がカタコトになりながら名前呼びすると、「自分のペースでいいのよ」と返され彼女は待機場所に戻って行った。なんというか、フレンドリーな人が多いなと感じた。他者とあまり関わってこなかった自分とは大違いだと感心しながら火水もみんなの場所に戻った。ちなみに順位は1位で、飯田くんが悔しそうにしていた。
◆
第2種目の握力測定では個性を生かさないため普通に測定し、個性なしの平均よりやや高め。
続く立ち幅跳びでは50メートル走と同様にジャンプした瞬間に突風を起こしての大ジャンプ。先ほどと違うの点は、1人での測定のため先ほどより風速を上げたこと。おかげで見事一位、その代償に今回は着地失敗して足に擦り傷を負った。
第4種目反復横跳び、こちらは普通に測定して平均より上。背の低い男子が両サイドにボールのような物を配置してバウンドしながら測定していたのは面白いアイデアだなと思った。
そして第5種目ボール投げ。こちらも数少ない個性を活かせる種目のため力を入れて取り組んだ。ボールを投げた直後に突風を起こして遠くへ飛ばした。そしてボールが落ちそうになると、落下地点に竜巻を発生させボールを巻き込んで更に遠くへ運んで行った。
「…天地、あれはいつまで維持できる。」
いつまで経っても落ちないボールに痺れを切らしたのか相澤が尋ねてきた。
「だいたい30分くらいですかね。」
「なるほど、あれの移動速度は?」
「うーん、今は時速80kmくらいですね。」
いくつかの質問に答えると、竜巻を止めるよう指示を受けた。そして彼は手元の機器を触り手動で測定結果を表示した。
ボール投げ 結果 40.805km
グッとガッツポーズし、1位を確信したがその後のボブカット女子が∞を出して惜しくも2位。あららと残念がるもすぐに次の種目のことに頭を切り替える。
ボール投げも後半に差し掛かるころ、緑色のもじゃもじゃした髪の男子が先生に詰められていた。何か不備でもあったのだろうか、沈んだ様子のまま2投目を促される。俯いたままボールを手に持ち投げる体勢に入った。ぶつぶつと何かを呟きながら放った一投は、先ほどの平凡な記録とは打って変わって700メートル越え。思わずクラス全体がわあと盛り上がった。その後ヤンキー君がひと悶着起こしかけたが、先生に拘束され事なきを得た。
◆
ボール投げが終わり、次の種目の準備中に葉隠さんから声をかけられた。
「すごいね、2回も1位なんて!私は全然だー!」
「それは…」
今回の測定と個性の相性が悪かっただけでは、そう言いかけ慌てて口を噤んだ。そんなこと言われずとも本人が一番理解していることだ。
「…葉隠さんはその個性であの入試をクリアしたんだから、少なくとも素の身体能力は平均以上あるはずだよ。それに個性がある以上平等じゃないテストってことは先生も把握してるはずだし。」
「うん、ありがとう!珍しくマイナス思考になってたわ。おっしゃ、やったるぞー!」
そう言いながら彼女の袖が上に向いた。おそらく拳を突き上げてるのだろう。気休め程度の慰めだったが励ますことには成功したらしい、自分としても初日で知り合いにいなくなって欲しくはない。いざとなったら校長室に抗議しに行こう、密かに心の中で決意し次なる種目へ取り組んだ。
◆
その後は持久走、長座体前屈、上体起こしと続いた。持久走以外個性を有効活用はできなかったし、その持久走も他人の走行妨害をしてしまうため普通に走った。ともかくこれをもって個性把握テストが終了し、クラスメイト全員が相澤先生の前に集合した。
「んじゃ、パパッと結果発表。トータルは単純に各種目の評点を合計した数だ。」
先生は手持ちの端末で成績を投影しながらそう説明した。火水はすぐに順位を確認した。自分のではない、成績表の下に目線を動かした。最下位には緑谷出久と表示されおり、その2つ上に葉隠さんの名前があった。ワースト3だが彼女の個性を考慮すると頑張ったと思う。ほっと胸を撫で下ろすと相澤がニヤリと笑いながら説明を続けた。
「ちなみに除籍はウソな。君らの最大限を引き出すための、合理的虚偽。」
「「「はああああああ⁉︎」」」
テスト開始時と同じく叫び声が上がった。
「あんなのウソに決まっているじゃない…ちょっと考えればわかりますわ…」
「そゆこと。これにて終わりだ。教室にカリキュラムなどの書類あるから目ぇ通しとけ。」
それだけ言うと相澤はこの場から去って行った。
(やっぱ、ヤバい担任だわ。)
火水は半目になり彼の背を睨んだ。
個性把握テスト 最終結果
1位 八百万 百
2位 天地 火水
3位 轟 焦凍