外に出たブラッドが始めに見た光景は崩壊していない文明だった。
オレイサのような穴蔵だらけの、草なんか茂る程生えていない砂漠のような場所では無い。
そして何より、外を歩く人。…人?二足歩行の動物と、機械の人間。
だが、ブラッドが一番目を引いたのはヘイローがついたキヴォトス人。そう、女が多いのだ。これがオレイサとの決定的な違いだった。
「!?……!!?」
「ん?ブラッド、どうした?そんなに周りを見るような事でも…あぁ、そうか」
リサがブラッドの行動を不思議がったが、ブラッドがどういう生活をしていたのか思い出すとニヤリと笑った。
「珍しいか?女の姿をしたアイツらが」
「…………」
ブラッドは答えない。もし興味がある等無神経に答えれば、傷つくのはリサだ。せっかく再び出会えた再開をこんな形で終わらせるような選択をブラッドは選ばない。
「言っておくが、お前がどう答えようと構わないぞ?もう昔は昔。私はここで過ごしているからな」
その答えを聞き、ブラッドはホッとした。
「……まぁ、端的に言えば…そうだな。生の女を見るのが久しいだけだ」
「ほう?じゃあお前、アイツら襲うのか?」
「女が居なくなっても、そもそも俺は女に興味はなかった。それに、こんな身体じゃあな…襲ったって何になる?」
「ははは!そりゃそうだ!」
実際、女と交わろうともブラッドにはもう自身の男の象徴も綺麗さっぱり消えている。交わる事は不可能だとブラッドは既に決めつけていた。
「止まれ」
リサが腕を広げブラッドの進行を止める。道路に戦車がやってきていた。オレイサではそんな物もう既に壊れていたし、動かせる人物もいないのでただのホームレスの住処と化していたので、実際に動いているのは初めて見た。
信号を渡り、再び歩き始める。旅のように長い歩きではないが、ブラッドは実に充実した気分を味わっていた。
「着いたぞ、ブラッド」
着いた先は服屋だった。ブラッドは何となく嫌な予感がした。
「……リサ…まさかとは思うが…」
「あぁ、そうだともブラッド」
リサがあまりにもいい笑顔で言った。
「お前に、新しい服を買おう」
リサが悪戯に成功したような表情をし、ブラッドは諦めた表情をして服屋に押し込まれた。
カーーーーン
ブラッドが服屋から出てきた。ブラッドに着せられた服はゆるふわガーリーな服だった。
「なぁ、リサ?この服…俺には似合わないんだが…」
「ぷっ…くく…いや、お似合いだぞ?…くっ、ひっ…」
ブラッドは無性に恥ずかしくなった。
(そもそも俺は男だった筈で…まぁ今は女なんだが…)
リサが腹を抱えて笑っているのを見る、次にブラッドが思い浮かんだのは…娘であるバディの顔。そしてそこから思い出される自身の記憶…
(それに男だったあの時でも…いや、あの時仕方なく…クイーンの店で女装はしたし、ある島ではとても下品なドレスも着させられた事もあったが…それとは違う意味で恥ずかしい…)
だが、リサが笑っている姿を見ると…この格好も悪い気はしなくなっていた。
……決して女装を気に入った訳では無い。と、未だに性自認は男のままのブラッドは首を振る。
「仕方がないからな。着るものがないから我慢するが…次はもっとシンプルな物を選んでくれ」
「ふふ…あぁ、わかったよブラッド。それじゃあ行こうか…」
そう言ってリサと他の場所へ行こうとすると…
「…………ブラッド?」
誰かが自分を呼ぶ声がした。ブラッドは周りを見たが、リサと人混みしかいなくて誰が呼んだのか分からない。
「?リサ、呼んだか?」
「いや?ブラッド、どうかしたのか?」
「……なんでも_______」
パァン!!
突然銃声が聞こえ、ブラッドがよろめいた。
(何だ…撃たれたのか…?)
衝撃的に打たれたのは頭。流石のブラッドでも致命傷かと思われたがピンピンしていた。
「……は?何だ?」
ブラッドは自身の頭を触るが死んでないどころか血すら出ておらず、ますます困惑した。
「キヴォトス人はな、硬いんだよブラッド」
リサがブラッドの傍に立つ。
「銃社会だからか、ここの連中は撃たれても撃たれてもピンピンしている。だから私も自衛の為これを所持しているんだ。気休め程度だがな」
リサが懐からハンドガンを取り出し、そのまましまった。
「だから次行くべき場所は武器屋だ。ブラッドに合う手頃な銃を見繕うつもりだ」
リサが手を差し伸ばして言う。ブラッドはその手に掴まり立ち上がろうとするが…
「行かせると思うか?」
突然目の前で声がした。2人が目を向けるとそこには人が立っていた。
ボブカットをちょんまげに結ってある女性だ。彼女は厳しい視線をこちらに向けている。
「お前、ブラッドだろ」
女性は厳しい視線を更に厳しくし、睨み付けた。
「俺を知っているのか?」
「知っているも何も、お前には散々迷惑をかけられたからな!」
女性はそのままブラッドを突き飛ばし馬乗りになった。そのままブラッドを殴り続ける。
「なんだ!?」
「喧嘩か?」
「どうする?ヴァルキューレに連絡するか?」
通行人もこの騒ぎによって集まってきた。
「おい、お前。とりあえずやめろ」
リサが女性に話しかけた。
「それは無理だ。あとブラッドと一緒に居たお前、コイツとは関わるな。ろくな事にならない」
「それは無理だ」
両者1歩も引かない姿勢をみせたが、遠くから通報を受けて駆けつけてきたヴァルキューレ警察学校のサイレンの音が聞こえてきた。
「これ以上騒ぎになるのは面倒だな。おいお前。場所は用意するからついてこい。ほら、ブラッド立てるだろ?」
「……あぁ…」
ブラッドは先程の暴力をまるで何事も無かったかのように立ち上がり、リサの後についていく。
ヴァルキューレが着いた頃にはその場にいた当事者達はバラバラになっており、結局呼ばれた子は無駄足になったのだった。
着いた場所は裏路地を通った先にある空き地だった。
「なぁあんた、ちょっとこの場所借りてもいいか?」
「え?いいけど…」
リサがその場にいた虎柄のワイシャツを着た少女にその場を譲って貰った。虎柄シャツの子は空き地の片隅で膝を抱えてこちらを見守っている。
「それで、ここでいいのか?」
「いや」
リサはそのまま女性に向かって先程持っていたハンドガンを向ける。
「そのまま腕を上げて抵抗するな」
「…………」
「何故ブラッドを知ってる?お前は誰なんだ?」
リサが問いかけるも、女性は答えない。ジリジリ近づいて行き、リサの腕を掴む。
「悪いが嬢ちゃん、これは脅しじゃない。俺達の問題なんだ、首を突っ込まないでくれ」
女性はそのままリサを突き飛ばす。
「リサ!」
ブラッドが倒れたリサに駆け寄る。
「ブラッド、私は大丈夫だ。だから…」
「どうしたブラッド!!お前はそんな守られてばかりの奴じゃなかった筈だ!」
「……リサ、少し待ってろ」
そう言ってブラッドは服を脱ぎ始める。下着姿になったブラッドは服をリサに預けた。
「なんで服を脱いでるんだ…?」
「……もう破かない為に。それと」
ブラッドが照れくさそうに言った。
「あまりボロボロにしたくないからな」
ブラッドは滅多に見せない笑顔を向けてから相手に向かって歩いていく。
「覚悟は出来たか…」
「…………」
ブラッドは無言で近づいて行く。相手もマシンガンを構え、こちらの様子を伺っていた。
「どうした、来ないならこっちから_____」
「フンッ!!」
ブラッドの拳と掌底が入る。アームストロング流のバスターパンチだ。
「フンッ!ハッ!セイッ!!」
息もつかせぬ早業でブラッドはアームストロング流の技を叩き込む。バスターパンチを始め、ドロップキック、マシンガンフィスト等相手が反撃するのを許さない。
遂に相手はマシンガンを落とし、両腕を組みガードの体勢に入る。
だが、ブラッドの猛攻は止まらない。渾身のヘッドバッドを叩き込み相手をスタンさせそのまま無防備な状態になった相手にひたすら技を決めた。
そのままアームストロング流のファイアーボールを喰らわせようとするが…
(もう…やめてくれ…)
ブラッドの脳内に、突如ある記憶が浮かび上がる。
「……スティッキー…」
「!?」
突然呼ばれた名前に女性は驚愕した。
「お、お前…俺の名前を…」
「お前…スティッキーだったのか…ならこれ以上はやめだ」
「!?」
「……行こう、リサ」
「もういいのか?」
「あぁ、もういい。じゃあなスティッキー」
ブラッドはリサに預けていた服を着直してその場を去ろうとする。だが女性…スティッキーがそれを止めようとした。
「ブラッド!早く俺にトドメをさせよ!あの時俺の顔を焼いたように!!」
「…トニー。俺は変わったんだ」
「いいや、お前は何も変わっちゃいない。以前と変わらないヤク中野郎だ」
「…………」
スティッキーが頭を垂れて呟いた。
「お前の名前を聞いて俺が最初に感じたのは危機感だ…お前が何故ここにいるのか、俺にも分からない。だが、何かが起きる前に事前に止めることはできる。暴走したお前が何をもたらすのか、オレイサで嫌という程知ったからな」
「…………」
「お前に殺された後、女だらけのこの世界に来た時、正直俺は歓喜したよ。報われたと。俺達の苦労が世界を救ったと!だが蓋を開けてみれば、俺は女になり、オレイサの事なんざひとつも書いてない。まるで別の世界だよ…」
ブラッドもリサも口を挟まない。スティッキーの心からの声を聞いている。
「それでも俺は、そんな世界でも生きようと今日を必死に生きた…だが、遂にその日常は崩れた。お前が来てからなブラッド。バディは諦めて今度はその子に執着するのか?」
「…………」
「ブラッド…」
「トニー。ひとつ訂正しておくぞ」
ブラッドがかがんでスティッキーと視線を合わせる。
「俺はな、執着してるんじゃない。なんて言うんだろうな…気負わないで済んだだけだ」
「は?」
「安心しろ。お前の考える最悪の事態にはもうならんだろう。俺と関わるのが嫌なら、もう絡まない事だな。俺はもう、自由だ」
ブラッドはスティッキーにそう告げて、背を向ける。
「待て」
それを今度はスティッキーがまた呼び止めた。
「お前、ジョイに溺れる前…鎮静剤を飲んでたよな?」
「……あぁ」
「もう、いらないのか?」
「いらん。俺には必要無くなった」
「……今のお前となら、本心で話し合える気がするよ」
「そうか、なら…」
ブラッドが手を差し伸べる。
「ほら、立てよソフティー・アンゴネリ」
「……あぁ…」
スティッキーがブラッドの手を取り立ちあがる。
「ブラッド、俺はお前を最初から信用する訳にはいかない。しばらくは監視させて貰うぞ」
「別にいい」
スティッキーが仲間になった!
「はっ…あぁ言えば次にこう言って、男の考えてる事はやっぱり分からん」
「あぁ…嬢ちゃん…さっきはすまなかったよ…本当に」
「嬢ちゃんじゃない、私はリサだ。ブラッドの…妹だよ」
「は?ブラッドの妹?」
スティッキーが聞きたい事を聞こうとしたが、彼女らに突然乱入者が現れる。
突然、ブラッドに向かって抱きついて来た人物がいたのだ。
「!?」
「ブラッド…ブラッドだよね?」
その人物とは、先程空き地にいた虎柄のシャツを着た少女だった。
「……テリーか?」
「そう!君の親友のテリー・ヒンツさ!」
そう、彼…彼女はチュートリアルの王…女王様、テリー・ルーパート・ヒンツ。
ブラッドの最初の仲間である。
この話考える時に度々チラつくんすよ…
流れ着いたジョイを研究するゲマトリア…と構わず使用するベアおばとカイザーコーポレーション。