Blue"Fantasy"Archive~透き通るような"幻想"世界~   作:八坂 義景

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補習授業部設立の目的が明かされた続きです。


File95.ET-06~補習授業部(容疑者達の牢獄)③~

~"ティーパーティー"会館 テラス~

side-"先生"

 

「――ごきげんよう、"先生"、ヒフミさん」

「し、失礼いたします...!」

「"――失礼するよ"」

 

―――"ティーパーティー"会館のテラスに入ると、"ティーパーティー"ホスト首長(ホスト)専用テーブルにはナギサだけが座っていて、立ち上がった彼女の挨拶にそう答えながらヒフミと共に歩み寄る。テラスの隅に立つ"ティーパーティー"の娘達を除けば、どうやら今はナギサ一人だけの様だ。

 

「"急なお願いにもかかわらず、こうして会談の席を作ってくれてありがとう、ナギサ"」

「――本来ならば『シャーレ』に数多舞い込む依頼、要請への対応でご多忙であるにも関わらず、"補習授業部"顧問として真摯に活動してくださっているのです。それをサポートすることも、"ホストリーダー"()()としての責務ですから」

 

 "ティーパーティー"メンバー二人が引いた、空いている椅子に座り、紅茶が注がれる様子を傍目にナギサに謝意を示せば彼女は微笑みながらそう答える。

 

「"――今回は、その"補習授業部"について確かめたいことがあって、君との会談を求めたんだ"」

「一回目の特別学力試験は()()()()()となったことは聞き及んでおります。補習授業開始からそれなりに日も経ち、部員の皆さんの問題点も分かってきたかと思いますが...何か、私達"ティーパーティー"のご助力が必要でしょうか?」

「えっと...その...」

 

 ナギサの言葉に対してヒフミが口ごもり、キョロキョロと不安そうにテラス内に立つ"ティーパーティー"の娘達を見回す。

 

「...大丈夫ですよ、ヒフミさん。私達首長(ホスト)の会合場所であり、必然的に()()()()()()()が交わされるこのテラス内で補佐を務める者の中に口外する者は居ませんよ」

「わ、分かりました...そ、その――申し訳ございません、ナギサ様!やっぱり私だけでは荷が重過ぎて...!せ、"先生"に()()()()()()を――()()()()()()()について話してしまいました!」

 

―――ヒフミが()()()()()()()()()()()()()について私に話したと白状して謝罪して頭をバッと下げる。ナギサは余裕然とした振る舞いでカップを口元に持っていこうとした瞬間にヒフミの言葉を聞き、僅かにカップの中の紅茶の水面が揺れる。

 

「"――ヒフミから聞いた時は驚かされたよ。権謀術数渦巻くここ『トリニティ』ではそういう裏工作はあり得そうだと思う反面...まさか、彼女達が裏切り者だとは思えなかったから。今回、君との会談を求めたのは――何故"補習授業部"の娘達に裏切りの容疑を掛けたのか。そして、裏切り者の捜索を行う理由を知りたいからだ"」

「...知って、どうなさるおつもりですか?"先生"、及び『シャーレ』には()()()()"補習授業部"顧問と補習授業のサポートのみをお願いしております。...話してしまった以上は仕方ありませんが――ヒフミさんへのお願いなど気にせず、依頼を果たすことは充分可能では?」

 

 ナギサはカップをソーサーに置き、平然とした表情でそう返す。確かに、裏切り者の捜索(ヒフミがナギサからお願いされたこと)は補習授業と関係無い様には見える。ナギサの言う通り、ヒフミに任せてシャーレ(私達)は補習授業に専念すべきだろう。でも―――

 

「"――ヒフミ達は勿論、私達も補習授業修了を目指して努力している。でも、その最中に()()()()()()()()()()なんて認識を一度でも持ってしまえば――勉強、試験に専念できる程穏やかではいられないよ。それに――"」

 

 一度言葉を切って紅茶を一口飲んで口内と喉を潤し、ナギサを見つめる。

 

―――『――()()ナギサには気を付けて。当人は隠し通せているつもりみたいだけど...幼馴染、親友として解るの。今のナギサ(あの子)は――()()()()()()()()()()()

 

―――『トリニティ』に来たばかりの時、出迎えてくれたテンシの言葉を思い返す。"補習授業部"について説明を受けた時と同様、温厚で優しさも感じられる表情。でも、よくよく眺めて見れば―――化粧でも隠し切れていないのか目元には微かに隈が浮かんでいて、彼女もあまり眠れていないと解る。そして―――彼女の黄色い瞳には()()()が差している。

 私は"補習授業部"顧問として教材研究やテスト作成で最近は夜更かしばかりだけど、恐らく彼女は『エデン条約』絡みだろう。締結間近という事もあってより激務でもある筈だ。そんな状況下で裏切り者が居るとすれば、ナギサからしたら心穏やかではいられないだろう。

 

―――『"先生"。これはあくまで私個人の推測です。..."補習授業部"についての話を聞いた時から疑問だったんですよ。何故今――条約締結間近の状況で補習授業を行うのか。何故我々シャーレを必要としたのか。ヒフミさんが明かした、ナギサさん――桐藤"ホストリーダー"()()からの依頼...それを聞いて合点がいきました。今回の"補習授業部"は()()()()()()()()()()()()()()()()()()。恐らく――』

 

 

「"――あの時は特に疑わずに受け入れた身で今更ではあるけど。...君は、『シャーレ』の()()()()()()を利用して、()()()()()()()退()()()()()ことを狙っているんじゃないかい?"」

「...その様な考えに至った理由をお聞きしても?」

 

―――昨夜、ヒフミがナギサからのお願い(裏切り者の捜索)について私とアヤに打ち明けた時。アヤが挙げた推測を思い返して問い掛けると、ナギサは表情を変えずに聞き返してくる。

 

「"第一に、『エデン条約』締結間近の状況下で設立したこと。五人の成績的には、確かに不合格、未受験が多いけど――皆退()()の条件には()()()()()()()()。"退学条件に達する前に補習授業(救済措置)を行う"と弁は立つけど、それでも『エデン条約』締結間近で多忙な状況で無理に設立する程厳しい状況でもないと私は思う。だから――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ということだ"」

 

 右手の人差し指を立てて一つ目の理由として"補習授業部"の設立時期を挙げる。五人は確かに成績不振ではあるけど、退学が迫っている程厳しいものではなかった。恐らく、『エデン条約』締結を成した後で設立しても充分間に合う筈だ。

 

「"第二に、『シャーレ』の権限を適用したこと。仮に、()()()()()()()がない状況で試験に合格できなかったとしたら――『シャーレ』を顧問兼サポートとしても"補習授業部"に異動させられた五人の成績は改善しなかった成績不振者。周囲から見れば自然とそういう認識になる。でも、()()()()()()()も含まれているなら――それは()()()()()()()()()()()()()()()()()()になり得る。

 一つ目の理由と関わるけど、"補習授業部"の迅速な設立だけでなく――()()()()()()()()()()()()()ことも目的としていると考えた。『エデン条約』締結に向けて多忙な中で、『シャーレ』が介入したという体で"補習授業部"の迅速な設立を目指すという無理を通せるしね"」

 

 中指を続けて立てて二つ目の理由を挙げる。"補習授業部"設立を聞いた時は時期の悪さに少し違和感を感じた程度だった。でも、()()()()()()()についてヒフミから明かされたおかげで()()()()()()()()()()()()()()()()()()としての側面もあると推測出来てしまった。生徒の問題を解決する事を目的する『シャーレ』が、"補習授業部"に異動させられた五人の成績を改善出来なかった。それ程の成績不振者を退学させる―――カバーストーリーとしては実に都合が良い。

 

「"――私が思い付いた理由としてはこんな所かな。...君達ほど政治謀略に明るい訳じゃないけど、それでも『シャーレ』顧問――()()()()()()の行使者として、それなりに影響力の大きさは理解した上で『シャーレ』を運営しているつもりだ。

...今回、"補習授業部"にまさか()()()()()()()なんて、穏やかじゃない密命が仕組まれていたとは考え付かなかったけどね。ヒフミが明かしてくれなければ気付けなかった"」

 

 そう言葉を締め括って紅茶を一口飲んで喉を潤し、ナギサを見つめる―――

 

「――流石"先生"、大人としての豊富な経験に由来する洞察力...と言った所でしょうか。――えぇ、認めましょう。"補習授業部"は我が『トリニティ』に潜む裏切り者を隔離して封じ込み、退()()に追い込むことによる()()を目的としたものです。

 そして――()()()()()()()()四人については理由があります。前提として、各人理由は異なりますが、全員"補習授業部"入りする成績不振者であることは認識していますね」

 

―――ナギサは私の推測を受け入れて目的を明かし、()()()()()()()()に掛けた容疑について説明を始める。

 

「まず、『浦和ハナコ』さん。一年生の頃は私にも多少ながら彼女の才覚についての噂が入る程の天才でした。それが、二年生に進級してから正反対に成績が悪くなり、水着姿での授業出席や深夜徘徊等が常習化...変化があまりにも露骨過ぎます。()()()()()()()()()()()()()()()()()と推測しました。

 次に『白洲アズサ』さん。ミカさんが『ヴァンダル分校』で才能を見出し、ここ本校へと編入させた方です。しかし...正義実現委員会(治安維持組織)所属でもないのに、()()()()()()()()()()を行っているという話も聞いており、『トリニティ』生としても異質な点から一応容疑を掛けています。...ミカさんが編入させた方ですから、あまり疑いたくはないのですが。

 『下江コハル』さんには明らかな容疑と言える程の不審な点はないのですが...コハルさんは押収品保管室管理の役職を濫用して()()()()()()()()()()()という情報がありました。具体的に何を横領したかは分かりませんが、横領した物品で何かしら良からぬことを企んでいる可能性も否定できませんから、補習授業部"へ異動させました"

 『久栗キクリ』さんは、サリエルさんから『"補習授業部"に入れて欲しい』と依頼されて後から異動させた方です。しかし、噂として"補習授業部"設立の話が『トリニティ』内に広まっていたとは言え、()()()()()側近を異動させる動機が分からず、()()()()()()()()()()()キクリさんを異動させた可能性があると判断して容疑を掛けました」

「"――そうか...推測が外れていたら安心できたんだけどね。君はヒフミとは()()()()()()()()()みたいだから、どうして彼女に()()()()()()()なんて重すぎる密命を課したのか...良ければ教えてくれるかい?"」

 

 ナギサが挙げた四人への容疑に頷き、私はそう疑問を口にしながらヒフミを見る。かなり緊張しているのか、瞳を震わせ、固唾を飲んで私とナギサのやり取りを見ている様だ。―――何故、こんな彼女に、努力家で穏やかな人柄でお人好しである彼女に()()()()()()()を任せたのか。

 

「――ヒフミさんだからこそ、です。行動力があり、特に何かしらの派閥やグループに所属していないからこそ、自分自身の中立的な視点で物事を見られると信じたのです。

...なお、退()()が決まった暁には――ヒフミさんだけは()()()退()()()()()()()()()つもりです。常習的な定期試験の未受験という、"補習授業部"入りする理由にはなり得ても、退()()に至る程勉強ができない訳ではないのですから」

「...え...?」

 

 ナギサはヒフミに任せた理由をそう挙げ、加えて―――()()()()()()退()()()()()()()()()()()()()()とも宣言し、ヒフミが驚いた表情を見せる。―――三回の試験中、一度でも試験の全員合格を成せない場合は()()退()()となる制度に()()()()()()()()とするとは...それだけナギサにとってヒフミは大切な存在なのだろう。でも―――

 

「"――ナギサ。それは()()()()()()じゃないかな。ホストリーダー(生徒会長)としての権限ならできないことはないのだろうけど――ホストリーダー(生徒会長)だからこそ、()()()()()()()()()()()()()()を贔屓するのはその当人――ヒフミの為にもならないし、君にとっても悪影響を及ぼすことになる"」

 

―――ナギサは()()と肩書きは付くけど、今の『トリニティ』全体を統括し、運営するホストリーダー(生徒会長)だ。そんな彼女が、ヒフミ(一個人)を退学させない為に()()を行使する。それはナギサだけでなく、ヒフミにも批判が及ぶだろう。

 時には()()()()()()()()()()()判断も必要な生徒会長(一国家のトップ)が、()()()()()()()()()()()()()()()のは生徒会長の地位の公正にも影響を及ぼす。―――調べた限りでは"ティーパーティー"内での合議により"ホストリーダー"を選定する事になっている様だから、尚更ナギサの立場は危ういものになりかねない。

 

「――周囲から謗りを受ける覚悟はできていますし、()()()()()()()が成った後にヒフミさんを守る為にも手を尽くすつもりです。『エデン条約』の締結――これさえ、この歴史的大業を成してしまえば後はどうとでもできます。...あまり乗り気ではなかったセイアさんが、私の意見を容れて進めてくれたのです。これを締結目前まで至った今、何者にも邪魔を、妨害される訳にはいかないのです」

 

 しかし、私の忠告を受けてもナギサは方針を変えるつもりは無さそうで、『エデン条約』の締結を成す為に手段は選ばないと覚悟を宣言する。―――セイア。その名前で一瞬、脳裏に何処かで見た様な姿が過るけど、ハッキリと思い出せない。

 

「"...セイア。確か、本来の"ホストリーダー"だったっけか"」

「――そう言えば、"先生"には詳しくお話していませんでしたね。『百合園セイア』さんは"サンクトゥス分派"首長(ホスト)であり、仰られた通り今代"ホストリーダー"を務めておりました。少々気難しく、迂遠な物言いや表現が多い方ですが...三年生(同級生)として、幼馴染の親友として"ホストリーダー"に相応しい方であることは私が保障します。

 しかし――『エデン条約』締結に向けた交渉や内部協議を進めていた最中に()()()()()()を受けたのです」

 

 私の言葉にナギサはそう答えてセイアについて説明する。やはり()()()()()()()()()()()けどハッキリ思い出せず、その後に続いた、ナギサの表情に陰が差して紡がれた物騒な言葉に興味を惹かれる。『エデン条約』締結に反対する者が居る事は知っていたけど、誰かが条約締結を阻止せんと()()()()()()()()を取った様だ。

 

「た、確か...セイア様が滞在されていた"首長(ホスト)"用邸宅で()()()()()()とニュースで見ましたね。それで、セイア様は...」

「えぇ、その通りです。...事件発生当初は情報が錯綜しており、()()()()()()()()()()などという恐ろしい情報まで飛び交っていた程でした」

 

 ヒフミの言葉に対してナギサはそう答え、一瞬瞳を震わせる。()()()()()()()―――それはキヴォトスで暮らす生徒の()を示す事象。銃弾の一発、爆風程度では大したダメージにはならない頑丈さ、耐性を齎しているのがヘイローらしいけど、それでも小さなダメージはある。つまり、銃撃や失血、窒息、飢餓、病―――"塵も積もれば山となる"要領で生徒の肉体へ()()()()()()()()()()事でヘイローの加護を貫通し―――()に至らしめる。

 これがキヴォトスに於いて()()()()、故に()()()()()()()()()()()大きな理由だ。

 

「幸い、一命は取り留めたと"救護騎士団"から確実な情報が出たのでその時は一安心でした。しかし、重症ではあり、ミネさん――"救護騎士団"団長から面会謝絶を徹底されていた程で、幼馴染で親友である私やミカさん、テンシさんとて例外ではありませんでした。

 そして――それからすぐに、セイアさんは()()しました。"救護騎士団"も警備体制は充分強固だった筈なのですが...犯人不明、()()()()()()。現在も人的余裕があれば捜索や情報収集を行っていますが...成果はありません」

 

 ナギサはそう説明して目を伏せる。―――ヘイローの破壊()を免れて一安心だった所に()()の発生。何処に居るのか、生死はどうなのか―――酷い表現になるけど、ヘイローの破壊()が判明していた方がマシだった筈だ。()()()()()()()状況が続く事程、不安や恐怖が募る事は無い。

 

「"――そっか。それが君の今の行動を後押しする原動力なんだね。ミカとテンシ――()()()()な、君の大切な人が()()()()()()()()に陥ってしまわないか。それが怖いんだね"」

「――ご理解いただけたようで何よりです。加えて...少々飛躍した見方かもしれませんが、私が『エデン条約』締結に向けてセイアさんの背中を押したようなものです。故に――その責任も果たさなければならないのです。...周囲から誹りを受けるような行動を取ることになったとしても」

 

 ナギサはそう言って紅茶を一口啜る。―――責任感が強い娘だ。ミカとテンシ(大切な二人)を守る為に。セイアが進めていた『エデン条約』を締結する為に。彼女は()()()()()をも躊躇なく取るつもりなのだろう。でも―――

 

「"――君の決意は分かった。だからこそ――()()()()()()()()()()()()()()()。依頼として請けた、"補習授業部"顧問としてすべきことはするけどね"」

「...意外ですね。"先生"は生徒第一であり、問題解決の為に手を尽くすと聞いていたのですが」

「"()()()()()()ことと()()()()()ことは()()()()()()()()()()よ。"補習授業部"の全員合格と、君が言う()()()()()()()を両立するのは難しい。

 依頼でもあるから、私は前者の遂行を目指すよ。...後者はナギサ、君の為にもならないだろうしね。ヒフミから君がどんな人物かは聞いている。優雅で穏やか。淑女然として、生徒会長(人の上に立つ者)に相応しいカリスマと才能を持ち、政治的能力も高い、と。でも――"」

 

 一度言葉を切り、紅茶の残りを飲み干す―――

 

「"――素人意見だけど、君は為政者として()()()()()()()()()()()ように見えるよ。捜索役を任せているとは言え、()()()()()()の為に退()()を前提として設立した"補習授業部"に入れておきながら、ヒフミだけは退学を免除しようとしていることがそれを示している。

――裏切り者かもしれない者(ゴミ)を纏めて退学させる(捨てる)補習授業部(ゴミ箱)から、そこに紛れ込ませた捜索役としてのヒフミ(大切なもの)だけを救い出す(取り出す)。相反する行動は傍から見れば怪しまれるし、退学を免除されたヒフミ(取り出したもの)も一緒に怪しまれかねない。

 それにさっきも言ったけど、退学から救い出せたとしても、それで当人が救われる訳ではないよ。...まだ問題は抱えているけど、ヒフミも四人とは馴染んできているし、五人の協力も深まりつつある。ヒフミ――仮に、"補習授業部"の中で君以外の四人が退()()になったとしたら、どう思う?"」

「...私のサポート、協力が足りなかったかもしれないと後悔すると思います。それに...私だけが『トリニティ』に残ってしまって、もし四人が奇跡的に他の学校に編入できて、そこで再会したら...私はどんな顔をして、どんな言葉を交わしたらいいんでしょうか」

 

 私はナギサの言葉や方針に感じていた懸念を挙げる。―――国家元首なり、組織の長なり。人や機関の上に立つトップには()()()()()()()()()()()判断が必要になる事がある。

 今回の場合、ヒフミには()()()()()()()()を課していたという理由付けができるけど、裏切り者の捜索については現状外部には知られていない現状、()()()それを明かしても周囲は疑念を抱くだろう。一度でも試験に全員合格出来なかった場合は()()退()()になる制度下で、ヒフミだけが『トリニティ』に残るのはナギサの、ひいては"ティーパーティー"そのものの()()()()()()()()()を疑われる事にも繋がりかねない。

 そしてヒフミの答えの通り、ナギサが彼女に掛けようとしている優しさは一方的なものだ。退学を免除しただけで全てが解決するわけではない。部内で深めた関係の唐突な破断や、自分だけが救われた事への後悔。救われた筈の当人に遺恨が残ってしまう。

 

―――()()()()()()()を試みるのはまだいい。でも、無関係の娘が居る可能性もある中で()()()()()()()()―――即ち()()退()()に追い込むのは遺恨が残ってしまう。これを止める為には―――

 

「"――さっきも言ったけど、"補習授業部"顧問として、全員合格できるように指導、サポートすることは正式に依頼として請けているから、これは()()遂行させてもらうよ。だから――()()()()()()()()()()()()()()()。これは捜索役を課されたヒフミと話して決めたことだ。仮に、本当に裏切り者が部内に居たとしても...無関係、無実の娘を巻き込むことは許容できない。裏切り者を確実に特定して、取調なり、然るべき手順で裁くべきだと思うから"」

 

 改めて裏切り者の捜索には協力しないと宣言すると、ナギサは目を伏せて小さく息を吐き―――

 

 

「...分かりました。裏切り者の捜索はこちらで、私が行います。"先生"、ヒフミさんには引き続き、"補習授業部"の指導、サポートをよろしくお願いいたします。――()()()全員合格できることを祈っておりますよ」

 

―――ナギサは目を開き、微笑みながら宣言を受け入れる。しかし微笑みを浮かべた瞳には、未だに暗い陰が差していた。

 

 


~"補習授業部"合宿所 トイレ付近の廊下~

side-キクリ

 

「...あれは...」

 

―――日付変更が近い夜。トイレを済ませて廊下に出ると、窓から差し込む月明かりが照らす廊下に人影を確認する。人影の下に歩み寄れば―――

 

 

「――あら、キクリちゃんじゃないですか♡歩いてきた方向的に、トイレでしたか?」

「はい。...そういうハナコさんは()()ですか」

 

―――予想通り()()姿()()ハナコさんで、相変わらず誘う様な、思わせぶりな微笑みを浮かべ、彼女の問に答えて彼女の装いを見てそう推測を挙げる。授業やミサだけでなく、主に夜間でも水着姿で歩き回っていると、巡回当直中の"正義実現委員会"の方から聞く事もある。

 

「あら、何故そう確定できるんでしょうか?これが単に寝間着であり、キクリちゃんと同様用を済ませたばかりでここに居ることもあり得るのでは?」

「...そうですね。その可能性に至らず、一方的に決め付けてしまい申し訳ございません」

 

 しかしハナコさんはそう別の行動を取っている可能性を挙げて反論し、私は()()()謝罪する。―――コハルさんにも度々言っているものの、こういった思わせぶりな行動、言動を取る者と相対する場合は反論せず、素直に謝るか肯定するのが効果的だ。特に目の前のハナコさんは―――

 

「...分かってくれたならいいです。"補習授業部"に入る前も色々な方から言われてきましたが..."水着で外を出歩いてはいけない"と校則には明記されていないというのに、何故皆さん私を悪く言うのか...♡」

 

 コハルさんとは違って反論しないのが()()()()()のか、少し()()()()()目を伏せながら困った様に眉を曲げる。

 

「一般論として、水着姿で外を出歩くのは有り得ないからでしょう。...そろそろ、私はこれで失礼します。明日も朝から補習授業ですから、ハナコさんも夜更かしせずに就寝することをおすすめします。では、おやすみなさい――」

 

 

「――待ってください、キクリちゃん。...もう少しだけ、私とお話しませんか?一つ、()()()()()()があるんです。――()()()()()()()()()()()()()()()()()()を」

 

―――就寝の挨拶を言い置いて踵を返して歩き出そうとした瞬間、ハナコさんが呼び止める声が背後から聞こえる。先程までの思わせぶりな声色ではなく、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を声色から感じ取る。振り向けば、ハナコさんは普段と同様の微笑みを浮かべて私を見つめている。

 

「...どうかなさいましたか?」

「"補習授業部"として集まった当初から、ずっと気になっていたんです。キクリちゃん、貴女はどうして"補習授業部"に来たんですか?...いえ、これでは自己紹介の時に既に話していたことの再確認ですね。では、こう聞きましょう――」

 

 

 

 

 

 

「――キクリちゃんは、()()()()()()()()()()()()()()()()()、或いは()()()()()()()"補習授業部"に来たんですか?」

 

―――糸目が開かれて若葉色の瞳が露わになり、私を射抜く様な眼差しで見据える。

 

―――『シスターキクリ、浦和ハナコには気を付けろ。メンバーは開示されていないが...彼女は高確率で"補習授業部"に来るだろう。水着姿での深夜徘徊や授業出席...普通ではない行動を日常的にしでかす問題児だが――アレは()()()()()()()()()と私は見ている。何せ、一年生の頃は"ティーパーティー"の()()()()()()()()()()として周囲からちやほやされていたからね。もしかしたら――その隠した才覚で君に課した目的を見抜く可能性がある。その時は――』

 

「――何故、そう言い切れるのですか?私は"シスターフッド"での活動に傾倒し過ぎて試験の未受験が多かったが故に、補習授業部(ここ)に来ています。...そこにサリエル様のご意思が介在しているとでも?」

 

―――サリエル様の言葉を思い返しながら反論する。

 

「――キクリちゃんは、サリエルさんの右腕として常日頃、殆ど傍に付いていましたね。傍から見ていれば一方的な忠誠、崇拝ではなく、サリエルさんもまた貴女に信を置いている。例えるなら..."シスターフッド"リーダーであるサクラコさんと、彼女を支える右腕(No.2)としてのサリエルさんの関係でしょうか。

 それだけ強固な繋がりを持ち、よく支えている者をどうして"補習授業部"に――()()()()()()()()()()()()()()()にあっさりと入れてしまえるのでしょう?これが一つ」

 

 ハナコさんは右手の人差し指を上げて一つ目の理由を挙げる。―――驚いた。ミサや礼拝で明らかに目立つ水着姿を見かける事は多々あったけど、彼女は彼女でこちらを()()していた様だ。

 

「二つ目は、キクリちゃんが言った"補習授業部"へ異動した理由です。これはヒフミちゃん...ひいては()()()()()()()()()()()()()()()ですが、今は置いておきましょう。――進級に必要な試験の未受験。それは成績のデータとして見れば、なるほど"補習授業部"入りする成績不振として見えるでしょう。

 ですが――初回のテストや一回目の試験。あの成績は、受験すれば安定して合格点を出せる――即ち()()()()()()()()()()()()()()()()()程に勉強がしっかりできることの証左です。それはヒフミちゃんも同様ですが、そんな()()()()()()()()()()()()()()()のがおかしいんです。一人であれば、部長であるヒフミちゃんだけであれば、部と部員をリードできる人物が必要ですからまだ納得はできます。私やコハルちゃんのような()()()()()()()ではリーダーも合わせて務めるのは厳しいですしね。

 加えて、今回は『シャーレ』の"先生"が顧問として、メンバーである"RABBIT小隊"とアヤさんがサポーターとして付いています。ですから――尚更()()()()()()()()()()()()()()()()()()()筈です」

 

 ハナコさんは中指を上げて二つ目の理由を挙げる。

 

「最後に――"補習授業部"設立、対象者の決定は"ティーパーティー"が行ったことです。そして、サリエルさんは度々"ティーパーティー"との会合も行っていて、現生徒会長(ホストリーダー)代行であるナギサさんもよく信用しているみたいですね。故に...()()()()()()()()()()()()ように交渉もできるでしょう。

 これらから、サリエルさんが()()()()()()()()()()()キクリちゃんを"補習授業部"に入れるように"ティーパーティー"に計らい、貴女は補習授業部(ここ)に来た――私はそう推測しました」

 

 ハナコさんは薬指を上げながらそう理由を三つ挙げる。―――やはりサリエル様は聡明だ。ハナコさんは一言目から核心を突いて逃がさないと仕掛けて来た。補習授業ではこちらから教えても中々改善せず、"先生"が作成された小テストでも、二桁までは向上したものの相変わらず合格点を大きく下回っている。―――そんな方が、これ程鋭い推理を挙げられるだろうか。

 

「――貴女も本来なら()()()()()()()()()()()()()()()()ようですね、ハナコさん。...それ程鋭い推測ができる方が、()()勉強ができない筈がありませんから。――認めましょう。確かに私はサリエル様より『"補習授業部"が設立された目的を探れ』と命ぜられて補習授業部(ここ)に来ました」

「――"シスターフッド"...いえ、サリエルさんは"補習授業部"に疑念を抱いているんですね。...しかし、意外ですね。秘密主義の"シスターフッド"に所属しているのに、そんな素直に認めるとは...」

 

 ハナコさんの推理への反論が浮かばず、素直にサリエル様からの命を秘めて"補習授業部"へ入った事を認めると、ハナコさんは意外だと言いたげに眉を上げる。

 

「――私は『"補習授業部"設備の目的を探れ』、()()()命ぜられただけですから。サリエル様が何かしら()()()()()()()()()としても関係ありません。私はサリエル様から――()()()()()()()()()()()()()より与えられた使命を果たすのみ」

 

 ハナコさんの言葉にそう答える。

 

―――サリエル様は私を、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()私を救って下さった恩人であり、道も示して下さった恩師でもある。

 どの様なお考えを、どの様な計画を持っていようとも―――私はサリエル様に従う。

 

「...本当に、サリエルさんを篤く慕っているんですね...少し、羨ましいですね...でしたら、きっと()()()()にも乗ってくれるでしょう」

「...提案、ですか。是非とも教えていただきたいですね。――私は()()()()()()()を明かしました。それを求めた理由を教えてもらわねば、等価ではありませんから」

 

 ハナコさんは私から補習授業部の調査(秘めた目的)を問い質した理由を―――提案したい事があると明かし、私はそう言って促す。

 

「...実は、昨日の夜にヒフミちゃんが"先生"の下を訪ねたみたいで。悪いことと思いつつ、こっそり尾行して()()()()()()()んです。幸い、"RABBIT小隊"の子達の巡回に捕まらずに済みましたが――」

 

 ハナコさんは昨夜取った行動についてそう明かし、目を伏せる―――

 

「――どうやら、『エデン条約』に絡むのか()()()()()()()()()()そうで。しかも...試験の全員合格の是非に関わらず部員全員――()()()()()()()()退()()()()()()()可能性もあるみたいなんです。後者は不確実な情報..."先生"達の推測ですが、()()()()()()()()()()。――仮にこの情報が確実だとしたら、()()()()()()()退()()()()()()()()ですよね?

...優しいヒフミちゃんでは荷が重い。アズサちゃんは...個人的推測ですが、()()()()()()()()()()()()()()()()()。コハルちゃんは言わずもがな。――なので後は貴女だけなんです、キクリちゃん。私と一緒に――」

 

 

 

 

 

 

「――この"補習授業部"に()()()()()()()を暴いて、阻止しませんか?」

 

 

―――ハナコさんから明かされた情報と()()。どちらも()()()()()()であり、頭が一瞬真っ白になる。

 

 

―――To be Continued―――

 

 

 




ということで、補習授業部の真の目的が明らかになりました。

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