Blue"Fantasy"Archive~透き通るような"幻想"世界~ 作:八坂 義景
~『トリニティ』自治区内 市街地~
side-ハルナ
「――前!前!またあいつらよ!」
「言われずとも、見えてますよ~」
―――数百メートル先の曲がり角から"正義実現委員会"の装甲車が
「~!」
「申し訳ございません、フウカさん。もう少しの辛抱を。自治区外へ抜けられればこのように揺れることも治まりますので」
「~!~!」
後部の荷台に乗っているフウカさんが猿轡越しに声をあげ、振り向いて謝罪すると彼女はジタバタと暴れ、しかし
―――そんな彼女の傍には大きなクーラーボックスが置かれている。アクアリウムで直接対面した時は思っていたより大きな個体で、ボックスに入るかと心配したけど、杞憂に終わった。
―――『何か食べたい料理ー?うーん...あ、そうだ。――マグロ料理、食べたいのだー。お刺身でも焼き物でも...一匹丸ごと分食べられるなら何でもいいよー』
―――今、こうして『トリニティ』に居るのは、『ゲヘナ』中等部での定期試験で好成績を挙げたルーミアさんへのお祝いとして何を食べたいかと聞いた所、
そこで、『トリニティ』自治区内の海で最近捕獲され、アクアリウムに展示されているという[ゴールドマグロ]に目を付けた。生育環境の特異さ故に個体数が非常に少なく、そして"一度食べれば他のマグロが味気なくなる"とまで謳われる、かなり希少なマグロ。それを、『ゲヘナ』、ひいてはキヴォトス全体でもトップクラスの腕を持つフウカさんに調理してもらう。―――あぁ、想像するだけでも気分が高揚する。
「それにしても
「――また出て来た!今度は右!」
「は~い。回避しますよ~」
「っと...!」
「わっ...!」
―――イズミさんがそんな疑問を零していると、右手の路地から装甲車が出て来てジュンコさんがそれに気付いて声をあげ、アカリさんが先程と同様に傍の路地へと一気に左折して入り込んで回避し、遠心力で身体が揺れる。
「っとと...!――ね、見たでしょ?挟み撃ち狙いにしては
「ここが『トリニティ』であることを考えれば...車両をぶつけての阻止は二次被害が大きいことを忌避して、でしょうか。
振り落とされないように前席の背もたれを掴んで踏ん張ったイズミさんが挙げた疑問に対してそう推測を挙げる。―――『ゲヘナ』では車両ぶつけての阻止を図る程度は
「――ですが、挟み撃ちにしては距離が空いています。こうして別の路地に逃げ込んでも...ジュンコちゃん、方角はどうですか?」
「えーっと...左折すれば復帰できるわ!」
「分かりました☆...あの路地に入りますね」
―――アカリさんがジュンコさんに方角の確認を行い、彼女の返答に頷いて左折する。
生憎、私達は『トリニティ』の地理についてはお世辞にも詳しいとは言えないけど―――方角を決めてその方向に進んで行けば、自ずと自治区境界に近付ける。ついでに挟み撃ちを阻止しつつ、右左折を繰り返す事で今も尚後ろから追い掛けて来ている車両を撒く事も狙える。
「ふふ...いつまで私達を追い掛けられるでしょうか」
ここ『トリニティ』でも度々
side-"先生"
「――
「"このまま追跡を継続!"」
―――"美食研究会"の車がアズサ達の車両の先回りに気付いて右折し、私の指示に答えるまでもなくドライバーの娘もしっかり追跡して右折する。
『すごいです...!ここまで的確なタイミングで先回りできるなんて...!』
「"そうだね...アズサの狙いが全部的中している。本当に地理を熟知しているんだね、アズサは"」
アロナの感心した言葉に頷く。―――『シッテムの箱』でアズサ達"補習授業部"の車両の動きを追っていたけど、"美食研究会"の車両が右へ左へ無作為に曲がってこちらを撒こうしているにも関わらず、最適なルートを選んで
『シッテムの箱』で展開している地図で動きを見ていると、メグムが講じた作戦通りに自治区境界への接近を阻止出来ていて、アズサの地理把握がかなり深いと実感出来る。
「"とは言え...このまま境界への接近を阻止しながら追いかけ回すだけでいいのかな。
『――こちらメグム。
「――座標、確認いたしました。...成程、この公園ですか」
『――こちらアズサ。こっちでも確認した。一見すれば幾つか侵入路があるように見えるけど、実際はメインの出入口以外は全て歩道。車止めを突破しようとすればそれで時間も取られる。そこに車両、歩兵で封鎖も掛ければ尚更。――追い込みに成功すれば袋の鼠だ』
―――メグムから通信が入り、ハスミが応答しながら端末上の地図をこちらに見せる。どうやら自然公園の様で、駐車場に入る大きな道路と、公園の敷地に繋がっている一見すれば車が通れそうな幅の道が幾つか見える。しかし、アズサが言うには一番大きな道路以外は歩道専用らしい。つまり―――アズサの言う通り、"美食研究会"をここに追い込めば袋の鼠だ。
『――飯綱丸メグム。メインの道路以外は封鎖しているな?』
『無論。車止めも増やして、部隊も配置済。最悪ランチャーで吹き飛ばす用意もできている』
『了解した。――よし、ルートができた。各車、指示に従ってくれ。"先生"達はそのまま
アズサがメグムに対して確認を取り、ルート取りの指示を出し始める。
『"先生"!アロナも座標を設定しました!早速
「"流石アズサだ。――空の目もある。このまま行けば...!"」
~『トリニティ』自治区上空~
side-アヤ
「――こちらアヤ。
『了解。...こちらはずっと二台だけで追っているからな。その体制を変えていなければ、こちらの作戦にはそう簡単に気付けないだろう』
―――空から
『――だが、現在のルートには一ヶ所問題点がある。ポイントに誘い込むには、どうしても一度大通りを一本渡さねばならないが――側道、交差点が少ない為に先回りできる道が
続けて、メグムさんが懸念を一つ挙げる。―――眼下を見下ろせば、大通りへの道を疾走する
大通りをそのまま目で追えば、罠を仕掛けている公園へ一直線となる右折路があるものの、そこへ誘導する為の
先回りを受け持つアズサさん達の車両が先回りを果たすには
『――その懸念は
「えぇ、既に
『――こちらマシロ。シャーレの"RABBIT4"と共に
『――既に手を打っていたか。流石は"氷の魔女"、見事な戦術眼だ』
―――インカムに"正義実現委員会"の狙撃手『静山マシロ』さんの報告が入り、メグムさんが心底感心した様な声でアズサさんを賞賛する。少し目を凝らせば、公園へ続く右折路の先にある建物の屋上で狙撃体勢を取るマシロさんとミユさんの姿を捉える。
『――よし。これで
「任されました。――直撃ではなく、
『あぁ、それでいい。――進路の先からいきなり攻撃されれば、本能的に左右どちらか、
アズサさんから合図役を要請され、受け入れながら狙撃の狙いを確認する。―――目的はあくまで"美食研究会の鎮圧及び捕縛"。その為の罠に追い込む最後の一手―――ミスは許されない。
『"――こちら"先生"!
「――お任せください」
―――"先生"から通信が入り、眼下を見下ろせば
「――
『――こちらも視認しました。マシロ、コピー』
『――り、了解..."RABBIT4"、コピー』
―――インカムに入る返答を信じ、
―――残り一〇〇〇。
―――八〇〇。
―――五〇〇。
―――三〇〇。
―――一〇〇。
合図を飛ばした刹那、狙撃音が夜空に響く。
「――こちらアヤ。
『――チェックメイトだな』
『あぁ。後は――私達も後を追って塞ぐだけ』
~公園への道路~
side-ハルナ
「っぶな...!まさか
「遂にしびれを切らして仕掛けてきましたわね...とはいえ――」
「えぇ、よほど
―――左右に横道が無い真っ直ぐな道路を走りながら会話を交わし、アカリさんの言葉に頷きながら少し身体を乗り出し、車体側面に付いた
逃げに徹し、右へ左へ逃げる私達にしびれを切らして狙撃を仕掛けて来たのは良かったものの、狙撃の腕が悪かったのかこうして
「でも、ここからどうするの?この先は公園っぽいけど...他に道はないみたいだよ?」
「問題ではありませんわ。遠目で見ても規模が大きい自然公園の類のようですし、それで出入口が一か所だけでは不便。最悪、歩道を無理矢理突破すればいいですわ」
イズミさんの懸念にそう答え、近付いてくる公園の正面ゲートを見やる。―――公園という、多くの人が利用するであろう施設において出入口が一か所だけでは不便だ。車両が通れる道が他に無くとも、比較的広い歩道を無理矢理突破すればいい。
「では、公園に入りますよ~」
「えぇ、お願いいたしますわ。――あちらもまだ追いすがっていますが、自然公園となれば木々や施設で視界を妨害されやすい。ここで撒いてしまいましょうか」
サイドミラー越しにこちらを尚追い掛けて来る装甲車を一瞥したアカリさんは私の指示に頷き、ゲートを通って殆ど車が止まっていない閑散とした駐車場に入る―――
ダダダダ...!
「きゃッ?!」
「わぁ?!」
「っ...?!」
「...?!――なるほど~。罠のようですが...!」
―――あちこちから飛び込んで来る弾幕。驚きながら見回せば、駐車場から伸びる歩道を
「きゃッ?!」
「わぁ?!」
「っ...?!」
「ッ...?!タイヤが...!」
―――ゲートへの道を
「ど、どうするのよコレ...?!」
「タイヤがないんじゃ走れないよー!」
「...してやられましたね~。まぁ、諦めるつもりはありませんが」
「えぇ、そうですわね...!」
ザッザッザッ...!
私達が動けなくなったのを確認してか、車両から降りた"正義実現委員会"の生徒達と、タイヤをパンクさせた委員会所属には見えない生徒達が銃を構えて包囲する様に接近して来る。彼女達に各々得物を構え、アカリさんがフウカさんを、イズミさんがクーラーボックスを担いで抗戦の意思を示す―――
『――ごきげんよう、美食探求に爆破を添えるゲヘナのテロリスト諸君』
―――包囲する生徒達の内一人、一際目立つ高身長と大きな翼――確か"正義実現委員会"副委員長『羽川ハスミ』さんだったか――を持った生徒がホログラムデバイスを投げると、そこから"正義実現委員会"参謀『飯綱丸メグム』さんのホログラムが姿を現し、不敵な笑みを浮かべて煽りを含んだ挨拶を挙げる。
「――私達は美食、食そのものを冒涜する者達に
『その
メグムさんは私の反論に不敵な笑みを崩さずに私達の
「~!~!!」
「――巻き込んでいる?フウカさんは私達の大義に
「~~!!」
『...分かってはいたが、
フウカさんは
『――さて。見ての通り、諸君らは包囲されている。どうせ
「――お断りいたしますわ。私達には、この[ゴールドマグロ]を
メグムさんの降伏勧告を拒否し、[
『そうか...残念だ。穏当に解決できればよかったのだがな。――“No task is too small.*1”私が好きな言葉だ。ライオンはか弱い獲物を狙う時でも全力を尽くす。慢心、油断は小さな仕事でもミスを起こし得るものだ』
「...妥協を許さないのは私達も同様ですが――それが今、この状況と何の関りが?」
「「?!」」
「ヘリ...?」
「一体何を――」
―――メグムさんの宣言と共に私達の頭上でヘリコプターのローター音が聞こえ始めると共に、ヘリコプターのライトが私達を照らす。見上げると―――
―――逆光の中に響く
side-サクヤ
「――着陸しました」
「――ご苦労様。行きましょう、セナ部長」
「えぇ、行きましょう。早急に
―――ヘリが着陸し、パイロットの娘を労いながら"救急医学部"部長である『氷室セナ』さんと共にスライドドアを引いて機外へ降り立つ。
『――おぉ、来たようだな』
「――そのようですね。お疲れ様です、十六夜"行政官補佐"、氷室"部長"」
「――お疲れ様です、"正義実現委員会"の皆様。我が『ゲヘナ』の要注意組織による違法活動の鎮圧、感謝いたします」
―――降り立つと、駐車場には"正義実現委員会"と"救護騎士団"が入り混じっていて、数メートル先にはホログラムの『飯綱丸メグム』"参謀"と『羽川ハスミ』"副委員長"の姿があり、歩み寄った私達に気付いて挨拶を交わす。
「それで、死t...失礼。制圧された"美食研究会"の方々はどちらに?」
『あぁ、そこに並べている』
飯綱丸"参謀"がセナ部長の問に答えながら親指で指し示した方を向けば―――『剣先ツルギ』"委員長"が相変わらずの猫背で不気味な笑みを浮かべながら、
「――では、私は回収に移ります」
「えぇ、お願いします。――改めて、我が『ゲヘナ』に代わっての"美食研究会"の制圧、心より感謝いたします」
"美食研究会"の下に足早に歩いて行くセナ"部長"を見送り、飯綱丸"参謀"と羽川"副委員長"に向き直って謝意を伝えて頭を下げる。
『このトリニティで犯罪活動や暴動を犯すならば
「――『シャーレ』が?」
飯綱丸"参謀"の返答を受けて思わず聞き返す。数日前に"当番"に出向いた時に留守を預かっていた早瀬"会計"から"先生"と"RABBIT小隊"、射命丸"広報員"が依頼で『トリニティ』に出向いていると聞いていたけど、どうやらまだ
「えぇ。現在、"補習授業部"顧問、及びサポーターとして活動されていまして。我が"正義実現委員会"からも一人部員を出しております。三日後には
「成程...しかし、ここには姿が見当たらないようですが」
『状況が片付いたのでな。残るは後処理だけであるし、車を出して合宿所に返している。今頃は合宿所に着いているのではないかな?』
~"補習授業部"合宿所~
side-"先生"
「"っと...送迎ありがとう"」
「あ、ありがとうございました...!」
「どういたしまして。――では、おやすみなさい」
―――装甲車を降り、ヒフミと共にドライバーの娘を労ってから離れ、走り出す装甲車を見送る。
「"――よし、戻ろうか"」
「はい。...すごかったですねツルギ"委員長"」
「あぁ、流石"トリニティの歩く戦略兵器"。抵抗もさせずに一瞬だったな」
「うん...いつ見てもツルギ委員長はすごいわ。気迫も戦い方も...私にはあんな風になるのは無理だけど、それでも委員長みたいに強くて、皆の上に立てる存在になれたならなって思う」
合宿所に向けて歩き出しながらヒフミがポツリと思い返す様に呟き、アズサとコハルが頷く。
―――"正義実現委員会"現委員長『剣先ツルギ』。ヘリから奇声をあげながら飛び降りてからの動きは凄まじいものだった。
その背後で
続けざまに
その間に肩に担いでいた
―――たった十秒程度で"美食研究会"の四人を制圧してしまった。その様を目の当たりにして、ホシノやヒナ、ネルと同様二つ名を戴く程の高い実力の持ち主だと実感した。そして―――
「"確かにツルギもすごかったけど、アズサもすごい才能の持ち主だった。君の土地勘のおかげで自治区外に逃がさず制圧することができたからね。君が居なかったら私達も、"正義実現委員会"も苦戦していただろう"」
「そんなに褒められるような才能なんかじゃない。...ただ、損はないだろうと思って覚えていただけだから。私の指示に合わせて動けた"正義実現委員会"や"先生"達の方がよっぽど優秀だと思う。アヤの空の目も本当にありがたい存在だったし」
「謙遜することはありませんよ、アズサちゃん♡確かに"先生"やアヤさんの活躍、貢献も素晴らしいものでした。ですが――そもそも、"美食研究会"捕縛の為に追い込む方法を提案したのはアズサちゃんじゃないですか。あの場面で自治区外に逃がさない方法を、その道のプロであるメグムさんに献策が受け入れられる程の作戦をすぐに思い付けることが才能でなければなんでしょう?そうですね...例えば――」
私の言葉にアズサが謙遜を返すけど、ハナコが微笑みながらそう指摘する様に言い返し―――
「――
―――若葉色の瞳が開かれて射抜く様に光り、アズサをじっと見つめる。
ということで美食研究会制圧。そして、遂にハナコとキクリがアズサの素性に踏み込みました。さて次回―――遂に色々動き出します。