Blue"Fantasy"Archive~透き通るような"幻想"世界~   作:八坂 義景

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長い夜はまだ続くよ


File102.ET-13~トリニティの長い夜②~

~『ゲヘナ学園』自治区 検問所~

side-サクヤ

 

「――あのワゴン車ね。外観、型式、ナンバープレート...全て()()からの情報通り...」

 

―――大型トラックの確認が終わってゲートを通り抜けていく様子を見届け、検問エリアに進入したワゴン車を確認して詰所から出る。時間も()()から伝えられた予測時間より少し早い位だ。

 

―――『サクヤ。さっき"正義実現委員会"の"参謀"――飯綱丸メグムから連絡が来たの。用件は依頼が二件。一つはトリニティから車が一台入ってくるからそれを迎えて、ゲヘナ第三自然公園まで案内してほしいらしい。二件目が、その公園内にあるらしい書類の類の捜索...様式は試験用紙らしいわ』

―――『命令であれば否やはありませんが...繋がりが見えない依頼ですね』

―――『そうね。私も依頼を聞いた時は首を傾げたけど...飯綱丸メグム曰く、トリニティ(あちら)ではどうやら――――』

 

―――ヒナ委員長を手伝って本部で書類仕事の残業を進めていた時、委員長が『トリニティ』からの、飯綱丸メグム"参謀"からの連絡と依頼を受け、私が『トリニティ』からやって来る『シャーレ』と"補習授業部"なる部活動の面々を乗せた車両の出迎えと案内を、夜間当直のイオリが『ゲヘナ第三自然』に隠されているという試験用紙の捜索を受け持って対応に当たっている。

 どうやら"補習授業部"が課されている三回目の試験に部員全員が合格出来なければ全員退学になるものの、"ティーパーティー"が()()()()()()()()()()()()()()()を仕掛けたという。その妨害が合格基準の引き上げと、ここ『ゲヘナ』への、『ゲヘナ第三自然公園』への会場変更らしい。

 "補習授業部"顧問、サポーターとして『シャーレ』が付いていて、"補習授業部"が試験を受けられる様に支援を行っている為、私達は"補習授業部"と併せてその支援を手伝うようにと委員長から命ぜられた。

 

「――お疲れ様っす。...お出迎えはサクヤさんっすか」

「お疲れ様。――えぇ、その通りよ。"補習授業部"なる部活動の娘達は全員連れて来ているわね?」

「"補習授業部"部員五名、それから『シャーレ』の"先生"、アヤさん、ミヤコさん。以上が乗ってるっすよ」

 

―――後部車内の確認も始まった事を確認して運転席側の窓に近付くと窓が降り、"正義実現委員会"の黒い制服ではなく、何処かの運送業アルバイト用らしき服を来た"正義実現委員会"の中堅幹部の一人である『仲正イチカ』が顔を見せ、私を見て眉を上げ、彼女から掛けられた問にそう答えて確認すればワゴン車に乗っている人員が告げられる。

 

「"――こんばんは、サクヤ。こんな夜分遅くの来訪に対応させて申し訳ないね"」

「こんばんは、"先生"。――謝る必要はないわ。"補習授業部"が試験を受けられるように支援しろと委員長から命ぜられて行動しているから」

 

 助手席から"先生"が顔を覗かせて私にそう謝罪し、命令に従っているだけだと返す。"正義実現委員会"において作戦立案と共に()()()()()()()を受け持つメグム"参謀"からの依頼の理由が気になる所だけど、今は支援を―――『ゲヘナ第三自然公園』への案内を遂行しなければ。

 

「――それで、"補習授業部"は試験受験の為に『ゲヘナ第三自然公園』に行きたいのね?」

「その通りっす。自分も"先生"も『ゲヘナ』の地理は全然なので、案内をお願いするっす」

「勿論。その為にこうして検問まで来たのだから」

「"行政官補佐"!後部確認OKです!」>

「了解。――検問を抜けたらすぐ先のパーキングエリアに入って少し待機を。こちらも車輛に乗って来るから」

「了解っす!」

 

 ちょうど後部車内の確認も終わり、イチカにパーキングエリアへの移動を依頼してワゴン車から離れ、窓が上がると共に検問ゲートが上がってワゴン車が走り出す姿を見送る。

 

「さて...」

 

 ワゴン車がパーキングエリアの方に入って行く姿を遠目に確認し、案内の為に乗って来た車を――装甲車では不良や問題行動を起こす部活動を惹き付ける可能性が高い為だ――停めてある詰所要員用の駐車場に足を向ける―――

 


~『ゲヘナ学園』自治区内 幹線道路~

side-"先生"

 

『――こちらサクヤ。聞こえてるかしら?』

「――こちらイチカ、通信良好っすよ」

「"こちら"先生"。通信良好、よく聞こえるよ"」

 

―――インカムにサクヤの通信が入り、イチカと共に通信良好を伝える。

 

『結構。――件の公園は自治区でも奥の方にあるわ。時間がないでしょうから最短経路で飛ばすわ。しっかりついて来て』

「了解っす!」

 

パパパ...タタタ...!>

「――今のところは平和っすねぇ。...耳を澄ませば明らか銃撃戦っぽい音が聞こえるっすけど」

「"こんな夜でも銃撃戦...『ゲヘナ』の治安がキヴォトストップクラスに悪いのは本当なんだね"」

「...おや?意外っすね。『シャーレ』に舞い込む依頼であちこち出向く"先生"なら既に『ゲヘナ』を見たことがあるかと思ってたっすけど」

 

―――前を走る案内役のサクヤが操る車に続いてイチカがワゴン車を走らせながらぼやく様に言ちり、私の耳にも銃撃戦らしき音が遠くから響いて来るのが聞こえて来て苦笑して頷けば、イチカが意外そうに眉を上げて私をチラリと見る。

 

「"『ゲヘナ』からの依頼も多いけど、今までゲヘナ(現地)での依頼が殆どなかったからね。『ゲヘナ』入りは今回が初めてだよ"」

「そういうことっすか。...まぁ、さっきみたいに銃声が聞こえるような場所なんで、『ゲヘナ』で行動するなら必ず護衛は付けるっすよ。生徒(私達)と違って脆いんすから」

「"分かった。アドバイスありがとう、イチカ。君も『ゲヘナ』には結構詳しいみたいだね"」

「『エデン条約』の協議で偶にゲヘナ(ここ)に"ティーパーティー"や正義実現委員会(ウチ)の幹部が出向いたりしたっすから、その警護でついて来たおかげっすねぇ」

 

 そんな会話を交わしながら、前を走るサクヤの車を追ってワゴン車は走り続ける―――

 

 

side-サクヤ

 

「...しっかりついて来ているわね。今のところ経路上で事故や暴動はなし。このまま行けば試験時間には間に合いそうね。問題は――」

 

―――車を運転しながらバックミラーにチラリと目を向け、ワゴン車がしっかり追随している様子を確認し、備え付けのナビに映る地図の状況を見る。

 『ゲヘナ』製の車両で"風紀委員会"所有のナビを搭載している新しいモデルには『ミレニアム』の技術協力で開発された、事故や暴動の発生による道路封鎖をリアルタイムで提示する、或いは車両から事故や暴動の発生を通報機能が備えられている。ナビを動かしていると、経路を塞ぐ事故や暴動を検知するとアラートを発して迂回ルートを示す便利な機能もあり、今の所は経路上にアラートは出ていない。

 幹線道路とは言え夜間では交通量も少なく、"風紀委員会"の出動任務の体で法定速度を遥かに超過して飛ばしている為、このまま行けば―――

 

 

『――こちらイオリ。サクヤ、"補習授業部"とかいうトリニティから来た連中は案内できてる?』

「――こちらサクヤ。"補習授業部"の案内は順調よ。公園内の捜索はどうかしら?」

 

―――インカムにイオリからの通信が入り、案内は順調だと返して彼女に任せている公園内に隠されているらしい試験用紙捜索の状況を尋ねる。

 

『あちこち虱潰しに探してるけどまだ見付かってない。...本当に試験用紙なんてあるのか?そもそも...トリニティでやる試験をなんでゲヘナ(ここ)でやるのがおかしくないか?』

「確かに色々不可解な点は多いわね。政争、権謀術数渦巻く『トリニティ』だからこんな謀略を仕掛ける理由、狙いがあるのでしょうけど――その詮索よりも委員長からの命令を、"補習授業部"の支援を優先しなさい」

『分かって...ん?ちょっと待って...どうした?

 

 公園内の捜索に疑問を抱いているイオリをそう諭していると、イオリ麾下の娘が何か報告して来たのか、インカムに小さくやり取りの声が聞こえてくる。

 

......本当か?分かった、私も確認してみる。――こちらイオリ。試験用紙らしきものを見付けたらしい。私が直接確認してみる』

「――了解、しっかり確認して。"補習授業部"の娘達にぬか喜びはさせたくないから」

『了解』

 

―――どうやら見付かった様で、イオリに直接の確認を任せ、了解の後に通信を切らなかったのかイオリの足音が微かに聞こえてくる。

 

これか...こちらイオリ。試験用紙を確認した。公園内の東屋のテーブルの裏面に貼り付けられたファイルケースの中にあったみたいだ。何だってこんな隠し方を...ゲヘナ(ウチ)とは違う様式だし、トリニティの校章も確認した。用紙の表題にも"補習授業部"の名前gが入ってる』

「よくやったわ。――写真を撮れる?こっちも実物を確認したいから」

『そう言うと思って、今撮ってるよ。...よし...咲夜のモモトークに送る』

 

 イオリの確認報告を受けて労い、写真を求めるとインカムにイオリの返答と共に微かにスマホカメラのシャッター音が聞こえ、数秒して私のスマホから『モモトーク』の通知音が鳴り、左手で操作して画面を開く。

 

―――開かれたファイルケースの上に置かれた数枚の書類。最上面の書面は『第三回 補習授業部特別学力試験』と銘打たれた試験用紙となっていて、隅には『トリニティ』校章も記載されている。

 

「――確認したわ。確かに『トリニティ』の、"補習授業部"が受ける試験の用紙みたいね。補習授業部とシャーレ(先方)にも確認してみるわ。イオリはそのまま公園内を警戒。――"補習授業部"の()()()()になり得るものを見付けたら私に報告、その後に撃退、排除しなさい」

『了解』

 

 試験用紙を確認し、イオリには公園内の警戒を指示して通信を切り、"補習授業部"と『シャーレ』にも確認を取るべく通信を切り替える。

 

『"――こちら"先生"。サクヤ、何かあったかい?"』

「――こちらサクヤ。"補習授業部"用と思しき試験用紙を発見したわ。モモトークで画像を送るから確認して」

 

 "先生"が通信に出て、ちょうど交差点の赤信号で車が停まった事を確認し、スマホを手早く操作して"先生"の『モモトーク』に画像を送る。

 

『"――画像を確認。...うん、間違いなく"補習授業部"用の試験用紙の様式だ。ありがとう、サクヤ。おかげで試験の受験はできそうだ"』

「お礼なら隠された用紙を見付けたイオリに言ってちょうだいな。――後五分程で公園に着く。"補習授業部"の娘達にも伝えて身構えさせておいて」

『"了解"』

 

 "先生"のお礼にそう返し、"補習授業部"の娘達にもうすぐ会場に着く事を共有する様に伝えて通信を切る。ちょうど信号も青になり、車を走らせる。

 

「さて..."補習授業部"が普通に受験できればいいけれど」

 

―――『トリニティ』から『ゲヘナ』への会場の変更。隠された試験用紙。もしかしたらまだ他にも策謀が仕掛けられている可能性はゼロではない。『トリニティ』、"ティーパーティー"がこうも狙いが―――()()()()()()()()()()()()()()が露骨な策謀を巡らせる理由は分からないけど、まだ油断は出来ない。

 

 


~『ゲヘナ第三自然公園』 屋外休憩所~

side-ハナコ

 

「...ふむ...(難易度は上がっている気がしますが、勉強していれば充分合格できますね。これで試験範囲の変更まで仕掛けられていたら不味かったでしょう...)」

 

―――試験開始から制限時間の半分程が経った。試験問題を順調に解き進めながら心の中で言ちる。問題の難易度も上がっている様に見えるけど、補習授業の範囲内だ。しっかり勉強していれば引き上げられた合格基準でも合格点まで届くだろう。

 小休止もかねて少し手を止め、顔を上げて四人の様子を見回す。私のテーブルはちょうど右下隅であり、私の視界では試験に臨む四人の背中や横顔が見える。私の左隣のコハルちゃんは背筋をピッシリと伸ばしていて、明らかに緊張しているものの―――シャーペンを走らせる手は最初の頃と比べると止まる頻度はかなり少なくなっている。

 

―――試験会場である『ゲヘナ第三自然公園』。その敷地内の中央辺りに構えられた大きな屋根の下に四人掛けのテーブルがズラリと並んだ屋外休憩所らしき施設。周りには"風紀委員会"の方々が警備として付いていて、私達の試験が無事に終わる様に守ってくれている。

 四人掛けを一人一人で利用しているおかげで机上スペースには困る事は無く、テーブル間の距離も少し離れている事で隣席の覗き見も出来ない。屋外の開放感は水着での深夜徘徊に似た快感を覚える。そして―――

 

「...("ティーパーティー"...いえ、ナギサさんが()()()()()()()策謀を巡らせるとは。どうしても、"補習授業部"内に居るという裏切り者を排除したいんですね。結局ヒフミちゃんと"先生"が()()()()()()()みたいなので特定できなかったというのに。だからこそ疑わしい者を纏めて...なのでしょうけど)」

 

―――()()()()()()()()()()自身の頭脳。でも、今の状況ではこの頭脳が必要になる事に不思議と嬉しさを感じられている。

 

―――ヒフミちゃんが"先生"にコッソリと会いに行った所を見かけて尾行し、ドア越しに聞き耳を立てて知った、私達"補習授業部"に仕組まれた策謀―――()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 もし"補習授業部"が純粋にその目的を果たすものであったら、()()()()()()()()()退()()()()つもりで居た。―――"正義実現委員会"の留置所で"補習授業部"異動の命令書を()()()()()()()は。

 

―――『浦和ハナコさん。貴女のその才覚、是非とも"ティーパーティー"で発揮してみませんか?その頭脳を無所属(在野)のままにしておくのは勿体ないですわ。貴女ならば首長(ホスト)も勿論、"ホストリーダー"すら狙えるでしょう』

―――『ハナコさん。是非とも"シスターフッド"に。その才覚は私達の活動をより良いものとするでしょう。その才覚は無所属(在野)のままにすべきではありません』

 

―――周りの勧めもあって『トリニティ』へ進学し、当時は『トリニティ』の校風の()()()を理解しておらず、その才覚を思うがまま振るった結果、私の周りには"ティーパーティー"や"シスターフッド"の方々が寄り集まる様になった。それは純粋に私の才覚を褒めたり、友達になりたいなんてものではなく―――()()()()()()()()()()()()()為に()()()()()()()()()()という()()()()()()を狙ってのもの。

 "ティーパーティー"、"シスターフッド"。『トリニティ』の()湿()()校風を体現する組織の方々が日々私を取り巻くおかげで一般的な生徒は私に近付こうとせず、事ある毎にぶつけられる()()()()()()()()()()、薄っぺらい賞賛の言葉や振る舞い、表情に辟易した私は―――()()()()()とお話したことで吹っ切れ、性的言動や水着徘徊...一年生の時とは真逆の奇行を取るようになった。

 奇行のおかげで"ティーパーティー"、"シスターフッド"の取り巻きは遠ざけられた。しかし、奇行は同時に一般生徒からも距離を取られる事になり、孤独になった私はより奇行を重ねる裏で退学を考える様になった。―――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。苦痛に苛まれながら過ごすよりは、退学して不良にでもなる方がマシ。そう考えてしまう程に『トリニティ』の校風は苦痛で、何より私自身の才覚そのものが苦痛だった。しかし奇行を重ねても、それで本当のバカになれはしない。相手の思考、反応が予想出来てしまうせいで自分で自分を憎む悪循環に陥っていた。

 

―――『すごいです!こんな考え方ができるなんて...!』

―――『ハナコはすごいな。私じゃこの答えの導き方は考え付かなかった』

―――『ハナコのアドバイスには助かってるわ。...ほ、本当は私だってちゃんと分かってるけど!確認には役立つから...その、ハナコが居てよかったわ。でも!いかがわしいことは許さないから!』

―――『...こうして二人きりの場なので言えることですが。やはりハナコさんはトリニティでもトップクラスの才覚をお持ちのようですね。きっとその才覚の利用を図る者が多く寄り集まったことでしょう。

――人ではなく能力だけを見るような者が少なくないことは嘆かわしいことですが、この"補習授業部"ではきっとそのような方は居ないでしょう。私も、貴女のことは稀有な才能を持った素晴らしい方だと思っています。その頭脳で、この"補習授業部"に()()()()()()()にも気付けたのですから』

 

―――そんな時に入れられた"補習授業部"で、私は何時振りかの()()()()()()()()()()()に出会った。才覚を褒めながらも、それだけを見ていない。()()()私を凄いと褒めてくれるその姿は眩しくて―――ずっと一緒に居たいと思う様になった。二回の試験で不合格を取ったのはその願望も理由の一つだ。もし全員合格で"補習授業部"が解散となれば、私はまた一人になってしまう。権謀術数渦巻く『トリニティ』の社会での孤独に戻ってしまう―――それが怖かった。

 

―――『"補習授業部"が終わったら、ですか?...ペロロ様のグッズ集めを再開したいですね。補習授業の間にも新商品が出ていますし。あ、そうです!せっかくですから、"補習授業部"の皆さんと一緒に買い物に行きたいですね!"補習授業部"が解散になっても、私達の出会いは――友情は消えませんから!』

 

―――しかし、ある時聞いてみた問にヒフミちゃんがそう答えた事で私は思い直した。そう―――"補習授業部"の解散が、私達が築いた繋がりの解消に繋がる訳が無い。寧ろ―――退学になってしまえば()()()()()()()()()()()()()

 

―――だからこそ、意図を露骨にしてまで私達を退学に追い込もうとするナギサさんは許せない。

 今までのテスト、試験での成績不振はわざとであり、本来なら補習授業の範囲は()()()()()()()内容ばかりだから、やろうと思えば満点を連続して出す事も出来た。この三回目の試験で全員合格出来なければ全員退学―――私は余裕で、キクリちゃん、ヒフミちゃん、アズサちゃんもきっと大丈夫。唯一コハルちゃんが心配だけど、授業やアドバイスを通して成績は向上している。焦らず、落ち着いて解けば合格基準九〇点であろうとも合格出来る筈だ。

 

「...ふふ...(試験が無事に終わったら、是非ともナギサさんと()()したいところですね♡)」

 

―――全員合格は可能。そう判断して試験が終わった後の事を考える。何者かに襲われた本来の"ホストリーダー"であるセイアちゃんに代わって『トリニティ』を治め、その傍ら『エデン条約』締結に向けて協議や折衝を行って来た事で締結は間近に迫っている。そこに()()()()()()()()()()から横槍を入れられるのはナギサさんでなくとも避けたいだろう。

 だからと言って、容疑を掛けるのは兎も角として()()()()()()()()()()の正体を確定させず、曖昧な容疑のまま()()()()()()()する事が肯定される理由にはならない。

 私の中では"補習授業部"内の()()()()()()()()()()()娘について目星が付いているけど、この推測も確定では無い。この推測の真偽を確定させる為にも今は―――

 

 

ブロロ...ガガガ...>

「...!」

 

―――微かに耳に聞こえて来た()()()()()()()()()。それは少しづつ近付きつつあり、明らかに()()()()()()()()()()()と分かる。

 

「――こちらイオリ。......は?どうして連中が...分かった。兎に角公園に、特に"補習授業部"の試験会場には近付けさせるな」

 

―――会場の周りを巡回している"風紀委員会"幹部の『銀鏡イオリ』さんが、インカムに触れて何か指示を出し、足早に"先生"の下に向かう。

 

「――"先生"、ちょっといい?サクヤから緊急の報告があって......」

「"...!――分かった。君達の支援にアヤとミヤコを付けるかい?"」

「その必要はない。――連中相手なら、私達だけでもどうにかできる。"先生"達は"補習授業部"の試験に集中して」

 

 イオリさんは"先生"に耳打ちで何か報告し、"先生"が何か提案するけど彼女は拒否する様に首を横に振り、"先生"が頷いた事を確認してその場から離れ、会場警備役としてか四人程残して他の委員を率いて会場を離れる。

 

「"――皆、手は止めないで話を聞いて。現在、この公園に"温泉開発部"が接近している。噂で知っているだろうけど、彼女達は『ゲヘナ』内外で温泉開発を試みる問題のある部活動だ。イオリ達"風紀委員会"が対処に当たるけど、その対処で()()()()()()()が聞こえてくる可能性がある。――集中を乱されるかもしれないけど、試験時間は()()()()。この三回目が()()だ。君達なら集中力を保って試験を合格できると信じているよ"」

 

 イオリさんを見送った"先生"が情報を共有し、対処は"風紀委員会"の方々に任せて私達は試験に集中する様に促す。―――"温泉開発部"。『ゲヘナ』では勿論、キヴォトス中で活動していて、温泉が湧く可能性がある場所があればそこが他校自治区であろうと、建物があろうとお構いなしに掘削を行い大きな被害を齎すという部活動。"温泉開発部"が保有する掘削、建設技能は高水準で彼女達のおかげで助かった功績もあるものの、不法侵入や掘削による破壊行為による被害の方が圧倒的に多い為、『SRT』もマークしている問題児集団だと聞いている。

 

「...(この公園に近付いているということは、ここが温泉が湧く可能性がある土地として"温泉開発部"は見ているということ。問題行動を肯定するつもりはありませんが...気になるのは、何故()この公園で活動を図っているのか、ですね)」

 

―――解答の見直しを再開しながら考える。会場変更は唐突なものであり、『シャーレ』の力を借りてこうして試験に臨めている。『ゲヘナ』側から見ても私達の行動は唐突なもので、公園を試験会場にするなんて行動は計画すらしていないだろう。

 そして、"温泉開発部"は恐らく彼女達なりの調査でこの公園で温泉が湧く可能性を見出したから、掘削するべく公園への侵入を図っている。

―――"補習授業部"の試験会場変更と"温泉開発部"の活動のブッキング。これ自体には何ら矛盾も違和感も無い。その筈なのに―――私の頭脳は何か()()()を感じている。

 

「...(ナギサさんが"補習授業部"に仕組んだ妨害。私達に試験を受けさせたくないなら、そもそも試験用紙を用意しないだけで済む。でも...実際には会場変更に加えて、こうして()()()試験用紙まで隠していた。...少し情報が足りないですね。せめて"温泉開発部"の活動動機が分かれば推理できるのですが...)」

 

 違和感を感じながら、しかし情報が少し足りない為一旦推理を諦め、試験問題を全て解き終えた後の見直しを始める。見直しなんてしなくても充分合格点に届いていると確信出来ているけど、今まで成績不振を演じて来た身だ。試験を真面目に受けている風を見せなければ不審がられるだろうし、コハルちゃんにツッコまれてしまうだろうから―――

 

 


~『トリニティ』自治区 礼拝堂~

side-ミカ

 

コンコン...コンコンコン...コンコン...>

「――Vanitas vanitatum, et omnia vanitas.」

「――Plenitudo plenitudinum, et omnia plena.」>

 

―――礼拝堂裏手の勝手口の扉が特有のパターンでノックされ、見張りに付いていた『アリウス』の娘が覗き窓を開けて合言葉を確認して勝手口を開ける。

 月明かりが廊下に差し込み、"ティーパーティー"に扮した『アリウス』の娘達五人が入って来て、最後にルイズちゃんが顔を覗かせる。―――私の指示通り、あちこち分散して潜伏していた『アリウス』の娘達を無事に送り届けてくれた。

 

「――この子達で最後よ」

「――これで三十人...うん、全員だね。ありがとう、ルイズちゃん」

「貴女の指示に従っただけよ、ミカ。"ティーパーティー"の巡回はあったけど、"正義実現委員会"と比べれば人手が明らかに足りていないから警備が穴だらけで助かったわ」

 

 お礼を言うとルイズちゃんは表情を変えずに警備が緩かったからだと理由を挙げる。―――"ティーパーティー警務室"は"ティーパーティー"が抱えている治安維持組織だけど、その管轄は『ティーパーティー会館』や各地の支部とかの"ティーパーティー"が保有する施設に限られている。故に人員は『トリニティ』自治区全体の治安維持を担う"正義実現委員会"と比べれば圧倒的に少ない。自治区全体の警備、巡回を行えばどうしても穴、死角が出てしまうだろう。今はそのおかげで助かったけど。

―――閑話休題。

 

「――それで、私は次にどう動いたらいいかしら?」

「――この礼拝堂、ナギちゃんが居るセーフハウスの近くに丘とお茶会用の展望テラスがあって、そこから二ヵ所を見下ろせるの。ルイズちゃんはSR(狙撃銃)持ちだよね?そこから状況を監視して欲しいんだ」

 

 スマホで地図を開いて場所を示しながらルイズちゃんに次の行動を指示する。―――殆ど"ティーパーティー"メンバーしか使わないけど利用自体は自由なテラス。丘の上だから、状況を俯瞰して監視するなら最適な場所だ。

 

「...確かに、道中で見かけたわね。確かにあそこからなら状況を俯瞰できそうね。了解よ、早速――」

 

 

「――あ、ちょっと待って。これを貴女に渡しておくね」

「これは...」

 

 早速テラスに向かおうとしていたルイズちゃんを呼び止め、懐から一枚の小さな封筒を取り出して差し出し、受け取ったルイズちゃんは怪訝そうに首を傾げる。

 

「私のクーデターが万が一()()()()()()()()だと見えたら、封筒を開けて中を見て。()()()()()()()()()が書いてあるから」

「なるほど...失敗した時のことも考えているのね。――()()()()()()()()の判断は私が勝手にしていいのかしら?」

「うん、ルイズちゃんの判断に任せるよ。実際にクーデターが始まったら、私から貴女に指示を出す暇がないと思うから」

「...分かったわ」

 

 封筒の目的について教えるとルイズちゃんは頷いて封鎖を懐にしまう。

 

「他に預ける物、指示はないかしら?」

「後はないよ。――それじゃあテラスからの状況監視よろしくね、ルイズちゃん」

「えぇ、任されたわ。――クーデター成功を祈っているわ、ミカ」

 

 お互いに労い、ルイズちゃんがドアを閉めて歩き出す足音を確認する。

 

「――それじゃあ、礼拝堂の方に行こっか」

 

 『アリウス』の娘達を連れて礼拝堂へと歩き出す―――

 

 

「――皆お待たせー☆これで全員揃ったね」

 

―――礼拝堂では先に着いていた娘達が各々銃や装備の点検を行っていて、私の姿と声に気付いて手を止めて顔を上げて私に注目する。

 

「さて...決行前にちょっとした作戦会議をするよ」

 

 ショルダーバッグから折りたたんだ地図―――ナギちゃんが居るセーフハウスを中心にした大きな地図を取り出して床に広げ、『アリウス』の娘達が私を囲う様に集まる。

 

「――この真ん中の平屋の小さい屋敷がナギちゃんが今引き籠ってるセーフハウス。ナギちゃん以外に居るのは、護衛に付いてる"フィリウス分派"の娘が一人だけ。

 だから作戦は単純。退路を塞いで逃げられないようにして中に侵入して脅しながら私の要求を呑ませる。正面玄関、裏口で待ち構えて退路を塞ぐグループとして十人、窓とかから逃げないように敷地内を見張るグループとして十五人、私と一緒にについて来て中に侵入、護衛を排除してナギちゃんと相対するグループとして五人に分ける。正面玄関はここ。裏口がここに一つだけ。配置は――――」

 

 地図を指し示しながら作戦と人員配置を説明して、『アリウス』の娘達を練度や技能に合わせてグループを振り分けていく。―――ナギちゃんがたった一人の護衛、それも"ソーサーナイツ"ではなくフィリウス分派(身内)で信用出来る娘を配置しているのは僥倖だ。退路を塞いだ上で『アリウス』の娘達と一緒に脅せばナギちゃんは私の要求を―――"ホストリーダー"代行の地位、権限の譲渡を呑む筈だ。

 

「――――よし...配置はこんな所かな。質問はある?」

 

―――説明と人員振り分けを終え、質問を促せば沈黙が返って来る。こういう作戦を考えるのは苦手だけど、私より()()()()()()を沢山熟してきたであろう『アリウス』の娘が疑義を示す必要がない作戦を組めたみたいだ。

 

「――なさそうだね。それじゃあ早速...と行きたいけど、装備の点検は今の内だよ」

 

 『アリウス』の娘達は頷き、各々改めて装備の点検を始めて礼拝堂内に動作音や金属音がカチャカチャと響く。

 

―――ナギちゃんはきっとショックを受けるだろう。"補習授業部"を利用して探していた()()()()()()()()()()()()()が、"補習授業部"と何ら関係ない、その裏切り者から守ろうとしている幼馴染の親友(大切な人)なのだから。

 厳密に言えば、"補習授業部"内にはアズサちゃんが―――目の前で装備点検を行っている娘達と、ルイズちゃんと同じ―――『アリウス』出身の娘が居る。あの娘はシンキ先生から『ついでにアリウスの外で様々なことを学ばせてほしい』と託された、私のクーデターの()()()を行う為に来た娘だ。私の裏切りを幇助していたから、ナギちゃんの見立ては決して的外れではない。

 

「――全員、装備の点検が終わった。聖園ミカ、貴女は大丈夫?」

「私はもう準備万端、バッチリだよ☆...それじゃあ――」

 

 

 

 

ギィィ...

 

『『『『――ッ?!』』』』

「――?!」

 

―――突然、礼拝堂の正面出入口の扉が開く音が聞こえる。『アリウス』の娘達と一緒に驚きながら[Quis ut Deus(愛銃)]を出入口に向けて構える。サイトを覗き込んだ先に居たのは―――

 

 

 

 

 

 

 

 

「――こんばんは、ミカ。...随分と大所帯ね。こんな時間に集まって、"パテル分派"の密会かしら?」

 

―――開かれた出入口から差し込む月明かり。それを背にして、桃を飾った黒い帽子を被り、"ソーサーナイツ"の紅茶の様な赤い裏地の白いケープを背中で青く長い髪と共に揺らしたテンちゃんが微笑みながら―――()()()()()()真紅の瞳で私達を見つめていた。

 

 

―――to be continued―――

 

 




ということで試験開始、そしてミカの下に現れたテンシ。トリニティの長い夜はまだ明けない...

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